12月11日
とりあえず昼食。今日は炒飯だ。とても美味そうに食べている。しかしカチャカチャと食器の音がうるさい。
「それでね、マスター、僕には翠星石っていう双子のお姉さんがいて・・・。」
ついには楽しそうに自分の姉妹の話をはじめやがった。
こっちは奴の無礼さを我慢してやっていたというのに奴は楽しそうにつばを飛ばしながら
話してきやがる。もう我慢の限界だ。
「ガシャーン!」
ちゃぶ台をひっくり返してやった。蒼星石がびっくりした目でこちらを見ている。
「お前、食事のマナーが悪い上につばを飛ばしてつまらない話を聞かせやがって!」
「え・・・あ・・・ご、ごめんなさい、マスター。」
涙ぐんだ目で俺の方を見ている。しかしそれがまた異様にむかつく。
「ビシッビシッ!」
平手で二回頬を叩く。
「もうしません。許してください、マスター!」
もう完全に泣きじゃくっている。、しかし俺が許すはずがない。押入に放り込んで閉じこめてやった。
「暗いよ!怖いよ!助けて、マスター!ごめんなさい、もうしませんから!」
ドンドンと襖を叩く。これがまたうるさい。
「静かにしろ!反省の色が見えないぞ!!」
急に静かになった。押入の中からは蒼星石のすすり泣く声が聞こえる。
12月11日
「ワンワン!!グルルルル・・・」
どうやら犬の散歩の時間のようだ。しかし一人だと色々面倒だ。
「おい、蒼星石。」
俺は蒼星石を出してやり、散歩の手伝いをさせることにした。
押入をあけてみると俺の枕を抱きしめて眠っていた。
ひゅーひゅー寝息を立てていやがる。
しかもあろうことか、涙やら鼻水やらで濡れているではないか。
「おい!起きろ!糞人形!」
「う・・・う〜ん・・・あ、マスター!出してくれるの?」
「俺の顔を見るなりそれか!しかも枕を汚しやがって、反省の色が見えないぞ!」
「ビシッ」
平手で一回蒼星石の頬を叩いてやった。
「う・・・・ごめんなさい・・・。」
また泣き出しそうだ。
「まぁいい。これから犬の散歩がある。つきあえ。」
「え?犬?」
急に蒼星石の顔がほころんだ。どうやら犬が好きらしい。
12月11日
「ねえ、マスター、この犬の名前はなんていうの?」
やけに楽しそうだ。異様にむかつく。
「名前はまだ付けていない。」
この犬は保健所で処分されそうだったのをなんとなく連れて帰った奴だ。
全然人になつかなず凶暴だ。だから名前を付ける気もなかった。
しかし一応散歩には連れて行っている。危険なので人通りの少ないコースを選んでいる。
「じゃあこのわんちゃんは翠星石って名前でいい?」
馬鹿みたいにはしゃいでいる。しかも自分の姉の名前を犬に付けるなんてとんでもない馬鹿だ。
「翠星石・・・。」
にやにやした顔で犬に手を出した。そのとき、
「痛い!放して!やめてよ翠星石!」
やはり犬は蒼星石の腕にかみついた。俺はつい吹き出しそうになった。
「やめて翠星石!助けて、マスター!」
飼い犬に手をかまれるとはまさにこのことか。
蒼星石は痛そうな、絶望に満ちた、悲しそうな顔をした。
このままでも良かったのだが散歩に行かなければならないので犬を押さえつけて
なんとか蒼星石を助けてやった。
12月11日
「翠星石・・・。」
悲しそうにそうな顔で犬を見ている。そのときはっとした様子で、
「マスター、翠星石を叱らないで!この子は怯えているだけなんだ。」
自分にかみついた犬を必死にかばっている。別に犬を叱ろうという気は全然無かった。
むしろ良いモノを見せて貰って感謝している。しかし俺はピーンと来た。
「この犬は駄目な奴だな。保健所で処分してもらおうか・・・。」
そのとき蒼星石は急に驚いた様子で、
「だめ!マスター!!この子は全然悪くないんだ!お願い!」
「まぁお前が何から何まで面倒を見るなら処分してやらなくてもよいが。」」
「うん!僕が面倒を見るよ!だから殺さないで!」
「そこまでいうなら大目に見てやろう。」
「ありがとう、マスター。」
単純な奴だ。どうやら退屈だった散歩も楽しくなりそうだ。
12月11日
そのまま散歩に出かけた。元々人通りは少ないのでなんとか蒼星石は見つからずに済みそうだ。
蒼星石はずっと犬の方を見てにやにやしていやがる。
しかも時々小声で「翠星石」とだけ呟いた。まったくキモイ奴だ。
急に犬が立ち止まったかと思うと、ウンコをした。
「あ〜こんな所でうんこしやがって。この犬はもう駄目だな。」
「まって!マスター!僕がなんとかするから・・・。」
「じゃあ食え。」
「え!?・・・」
流石に驚いている様子だ。
「まさか家にこんな汚いモノを持ち帰るつもりか?ふざけるなよ。
あと、手を使うなよ。手がウンコまみれの奴と歩きたくないからな。」
「え?じゃあどうすれば・・・。」
「顔を地面に付けて食え。」
「そんな・・・。」
「じゃあこの犬ともおさらばだな。俺にはもうこの犬は手に負えない。」
「まって!わかったよマスター。」
必死な声で訴えてくる。馬鹿丸出しだな。
蒼星石はまた涙ぐんでいる。泣き虫な奴だ。うざったい。
12月11日
蒼星石は四つんばいになった。糞犬っころのようだ。
ウンコをじっと見つめている。そして俺の方をちらっと見る。
まるで俺の口からこれは冗談だったと出てくるのを待っているようだ。
「ほら、さっさと食え。もう暗くなるぞ。」
俺は顎をしゃくった。蒼星石はまた俺の方を向き、またウンコを見た。
そして口を徐々にウンコの方に近づけていく。顔がしかめっ面になっていく。
そのまま口からちょこんと舌を出すと、ウンコをペロペロと舐め始めた。
「うっ・・・。苦い・・・。」
涙も止まり、しゃべらずに、黙々と必死にウンコを舐め続けている。
よくもまぁこんな糞犬のために必死になれるモノだ。
舐める速度は徐々に速くなってきた。しかしそれでも遅い。
「ブシャッ」
俺は蒼星石の頭を踏みつけてやった。
「ほら、さっさと食え。日が暮れるだろうが。」
「う・・・。」
蒼星石はウンコにかじりついた。ウンコが蒼星石の口の中にずるずると入っていく。
ウンコを食べ終わったときはもう日は暮れていた。
散歩中、もう一度ウンコするときがあったが、そのときは蒼星石はためらわずにウンコを食べた。
そして家に着いた。
12月11日
家に帰ったときはもう遅くなっていた。俺はコンビニ弁当で夕飯を済ませた。
蒼星石はウンコを喰ったので今夜はいらないだろう。そしてもう寝る時間だ。
「マスター、僕の鞄は?僕たちローゼンメイデンは鞄の中で寝なきゃならないんだ。」
「鞄?ああ、あれはスーツケースとして使うから駄目だ。」
「え!?そんな!僕たちはあの鞄で寝ないと・・・。」
「うるさい!ウンコまみれの汚らわしい奴をスーツケースに入れられるわけ無いだろうが!」
蒼星石は怯えた目でこちらを見る。
「あの犬と外で寝ろ!」
外はだいぶ寒かったがそんなの俺の気にすることではない、
「まったく、自分の姉の名前を付けるなんて馬鹿じゃないのか?」
そうすると蒼星石は寂しそうに下を向いて、
「翠星石は・・お姉さんはもうローザミスティカを・・・。」
俺にはよく分からなかったが、要するにもう動かないただの人形になってしまったらしい。
蒼星石はしょんぼりと家を出て、犬小屋の方へと向かっていった。
しかしかみつかれそうになり、結局犬小屋のすぐ外で寝ることにした。
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12月12日
蒼星石と今日も昼食を取る。
蒼星石はどうやら芋の煮っ転がしが好きなようだ。前のマスターがよく作ってくれたらしい。
しかし前のマスターは急病で逝ってしまい、ここに来たというわけだ。
一晩中外で寝ていたせいか、少し具合が悪そうだ。ときどき咳のようなモノをし、顔色が少し悪い。
風邪をひいているのだろうか。人形のくせに生意気である。
「レンピカ、僕、どうやら風邪をひいたようだ。ちょっと治してくれないか?」
ローゼンメイデンには人工精霊とかいう光る小さい物体があり、それが身の回りの世話をするらしい。
どうりで昨日犬にかまれた腕が治っているわけだ。
レンピカと呼ばれた人工精霊は光だし、熱を発し始めた。
蒼星石はでっかく馬鹿みたいに口を開た。どうやら口の中に入れて治療するらしい。
そのときだった。
「熱い!なにしやがるんだ!うわっ!!」
レンピカが俺の腕に当たり、しかもあろうことか芋の煮っ転がしを服にこぼしてしまった。
「あ、ごめん、マスター。ぼ・・・僕のをあげるから。」
少しためらった様子だったのがよけいに頭にきた。
「ふざけるな!この出来損ない人形が!」
蒼星石は驚いて俺を見上げ、怯えている様子だ。
12月12日
俺はカッとなり、もうかなり熱くなったレンピカを掴み、
蒼星石をうつ伏せに突き倒し、ズボンを無理矢理おろし、
尻の穴にレンピカをつっこんでやった。
「熱い!熱いよマスター!」
蒼星石は苦しそうに訴えてくる。俺は蒼星石の背中を押さえつけてやった。
しかし俺は今日は何故か機嫌がよかったのでもう出してやることにした。
しかしレンピカは暴走を始め、尻の穴の奥に入り、取り出せなくなっていた。
「熱い!どんどん熱くなっていく!ごめんなさい!助けてマスター!」
蒼星石は尻を上に突き出し、両手は地面を掴み、目をぎゅっとつぶり、喘ぎ苦しんでいる。
「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・。」
あまりの苦しさに、もう声も出ない様子だ。蒼星石の息がどんどん荒くなっていく。
「あ!あぁぁ〜・・・。」
急に気持ちよさそうな馬鹿みたいな顔で気の抜けた声を発した。
足が徐々にまっすぐになっていき、尻がへっこんでいく。
どうやらレンピカが落ち着いて楽になったようだ。
レンピカが口から出てきた。しかもどうやらそのまま風邪を治してしまったらしい。
蒼星石は芋の煮っ転がしをくれると言ったが、いらないと断った。
12月12日
今日も散歩に出かける。相変わらず蒼星石はにやにやしていやがる。
「あ、翠星石。うんちしたいの?ちょっとまってね。」
蒼星石は翠星石と名付けた犬の尻に、ためらわずに口を付けた。
「さぁ翠星石、うんちしていいよ。」
犬の尻からウンコが出ると同時にウンコが蒼星石の口の中にずるずると入っていく。
蒼星石の口が、もごもごとウンコを食べている。そのときだった。
「あ!蒼星・・・・。」
そこには中学生くらいの女の子と、赤いドレスを着た小さい少女、
そして桃色のドレスを着て、女子中学生に背負われた小さい少女がいた。
声を出したのは桃色の少女だった。そして三人は嫌な物を見てしまったかのように
すぐに蒼星石から視線をそらし、何も見ていなかったかのようにすぐに通り過ぎていった。
蒼星石はその三人が見えなくなるまで、どこか寂しそうに見つめていた。
そしてウンコを食べ続けた。最後には犬の尻をぺろぺろと舐めてやった。
その後、散歩中は蒼星石はいっさい口をきかなかった。にやにやもせず、どこか寂しそうにしていた。
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12月13日
今朝、蒼星石に洗濯をさせた。タダ飯を食わすわけにもいかない。
俺の服は着せたくないので下着のままでいさせた。寒そうに体を揺すっているが気にしない。
洗濯中は踏み台に乗っかって不思議そうに洗濯機を見つめている。馬鹿みたいだ。
洗濯が終わり、干させた。しかしチビだし力がないため時間がかなりかかる。
踏み台に乗り必死に手や体を伸ばして洗濯物を干そうとしている。
洗濯物干し程度のことで凄く一生懸命なその姿は見ているだけでいらいらする。
「終わったよ、マスター。」
蒼星石は下着のまま二階へとかけ上がっていった。
しかしよく見ると蒼星石の服の青い色が俺の大事な白いスーツに移っているではないか。
「あの出来損ない人形が・・・。」
俺はカッとなり、蒼星石の服を取り、家の脇にある生ゴミ入れに突っ込んでやった。いい気味だ。
12月13日
夕方になった。蒼星石は寒い体を揺すりながら洗濯物の取り入れを始めた。
相変わらず時間がかかる。だが朝よりは手慣れた様子だ。そして取り入れが終わった直後だった。
「え?あれ・・・?ええ・・・・・・・??」
蒼星石は必死に洗濯物をかき分けて、何かを探しているようだ。
「ねえ、マスター。僕の服、知らない?」
蒼星石は心配そうな目で俺を見つめた。
「なんで俺がお前の服を知らなきゃならないんだ。洗濯したのはお前だろう?」
「う・・・うん・・・。」
蒼星石はそう言うと、また洗濯物の方へと一気にかけていった。
そしてまた洗濯物の中を詮索し始めた。
「おい、なにやってるんだ。さっさとたたんでタンスにしまえよ。」
「え・・・でも・・・僕の服が・・・。」
蒼星石は今にも泣き出しそうに声を震わせた。
「それはお前の責任だろうが!さっさとたため!」
蒼星石は急いでたたみ始めた。そしてその中から自分の服を見つけることはなかった。
12月13日
「ねえ、マスター、本当に僕の服、知らない?」
「しつこいぞ!何度聞いても同じだ!俺が知るわけ無いだろう!!」
蒼星石は下着姿のまま家中を詮索した。
「無い・・・無いよ・・・。どこ・・・?どこ・・・?ねえ・・?」
蒼星石は独り言をぶつぶつ言いながら泣き出しそうに探していた。
洗濯機の中、洗濯かごの中、鞄の中、冷蔵庫の中、寝室、・・・・・・・・。しかし見つからなかった。
もう日も暮れ、暗くなった。蒼星石は外を探し始めた。俺はこっそり中から覗いた。
そしてついに生ゴミ入れの中から見つけた。
蒼星石は自分の服を持ち上げ、目は涙ぐみ、唇は震え、少し下を向いてそこにしばらく立っていた。
そして自分の服を抱えて家に入ってきた。
「マスター、僕の服、もう一度洗濯機で・・・・・。」
「まさか生ゴミまみれのこの小汚い服を洗濯機で洗おうと?洗濯機が汚れるじゃないか!!」
「だって・・・・僕の服・・・・。」
声が震えている。
「外の水道で自分で手洗いしろ!」
俺は蒼星石の前に洗濯板と石けんを投げた。
もう外は大分暗かったが蒼星石は下着のまま、しゃがんで手洗いを始めた。
「ぐす・・・・ひっく・・・・・ぐす・・・。」
蒼星石がすすり泣いているのが聞こえる。時々手で涙をぬぐっていた。
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12月14日
朝起きてみると俺のスーツケースから服が飛び出して、ばらばらに散らばっていた。
「おい!馬鹿人形!この鞄はどうなっているんだ!」
どうやらこの鞄は空を飛ぶ力を持っているらしい。ローゼンメイデンはこれで移動するとか。
なぜか時々寝ぼけて暴走するらしい。鞄のくせに生意気極まりない。
「こんな鞄使えるか!お前に返してやる!」
俺は鞄を蹴飛ばした。
「え?じゃあ僕、これからはここで寝て良いの?マスター。」
こっちはイライラしているというのに奴ときたら喜びだしやがった。
目を見開いてこっちを見つめている。声が弾んでいる。かなり嬉しそうだ。
「痛い!痛いよマスター!やめて!やめてよ!」
俺は頭に来て、蒼星石を掴み、手足をはずしてやった。蒼星石は仰向けに倒れた。
「その代わりこれからはこれで過ごせ。」
「え?マスター。これじゃ歩けないよ。翠星石(犬の名前)とお散歩に行けないよ!」
蒼星石は俺の目をじっと見て、これは冗談だと言って欲しいと目で訴えた。
「ねえ、どうやってご飯食べるの?どうやってお花のお世話をするの?」
だんだん蒼星石の顔は青ずんでいき、声は小さくなっていった。まだ状況が上手くつかめない様子だ。
ついには黙り込んでしまった。上を向いたまま真っ青な顔で、凍り付いてしまったようだ。
「さて、朝食にするぞ。」
俺は階段を下りた。蒼星石はついてくる気配はない。上を向いたままぐったりとしている。
それにあの体では階段を下りられないだろう。蒼星石の腹の音がかすかに聞こえた。
12月14日
朝食をとって30分ほどたったときだ。
「ガタン!ゴトゴトゴト・・・・。」
階段の方をちょっと覗いてみると蒼星石が倒れている。無理矢理降りようとして転げ落ちたらしい。
「いたたた・・・・・。んっ、うんしょ、うんしょ、・・・・。」
なんと蒼星石は首を動かし、顔で地面をはってきている。しかし、やはりとろい。
俺はわざとドアを閉めた。蒼星石はドアのすぐ前まで来て、
「ねえ、マスター、朝食を食べに来たよ。ドアを開けて。」
「バタン!」
「うわっ!痛い!」
勢いよくドアを開けると案の定、蒼星石に直撃した。
「いたたた・・・・。ん、うんっ、うんっ、・・・。」
蒼星石は後ろに吹き飛んだが体勢を立て直し、また芋虫みたいに地面をはい、
ドアの中に入っていった。ドアの下の出っ張りに苦戦しているようだ。
俺は朝食を床に置いてやった。ご飯とみそ汁と芋の煮っ転がしだ。
蒼星石はうつ伏せになり、顔を必死に持ち上げ、食べようとした。
「「う・・・もぐもぐ・・・うっ・・・・うわっ!!」
やはりこぼした。しかも全部だ。蒼星石はこぼれたご飯に顔を押しつけ、
床を食べるかのように口をもごもごさせている。顔はご飯粒だらけだ。
芋の煮っ転がしにはさほど苦戦しなかった。みそ汁はぺろぺろと床を舐めながら飲んだ。
服が汚れたので洗濯させようかと思ったが、あれで洗濯できるはずがない。
仕方がないので俺が洗濯してやった。その間は下着でいさせることにした。
12月14日
蒼星石に何か仕事をやらせようかと思ったが、何をやらせたらいいか分からない。
とりあえず、蒼星石がこぼした朝食の後かたづけをさせることにした。
俺は汚れたぞうきんを蒼星石に投げつた。
「俺は犬と散歩に行ってくるからそれまでこれで掃除していろ。」
「え!?僕も行きたいよ!翠星石と遊びたいよ!それにこのぞうきん、凄く臭いよ!」
「だまれ!お前が散歩に行けるわけ無いだろう!」
「だってそれはマスターが・・・・・。」
蒼星石はかなりショックを受けたようだ。
「じゃ、じゃあ、お掃除を早く終わらせたら良い?」
蒼星石は臭いぞうきんに顔を押しつけ、それを地面にこすりつけ始めた。
しかし汚れはかなり広い範囲に広がっている。
蒼星石は顔をぞうきんに埋めてはいずりまわった。しかし、やはりとろい。
「あ、待ってよマスター!もうちょっとで終わるから!ねえ、一緒に行かせて!」
しかしもうちょっとで終わる様子はちっとも無い。俺はそのまま散歩に出かけた。
家に帰るとまだ蒼星石は掃除を続けていた。しかしご飯粒やら豆腐やらがよけいに散らばり、
前より汚くなっていた。蒼星石の顔も汚いぞうきんにまみれて汚く臭くなっていた。
12月14日
掃除し終わるのに大分かかった。まったく、疲れた。
蒼星石はこれでは役に立たない。家も汚れ、よけいに世話がやける。
仕方がないので手足を返してやった。
「あの、マスター・・・僕の鞄は・・・。」
手足の戻った蒼星石は心配そうに俺の顔を見た。
「ああ、返してやるよ。そこで寝るなり好きにしろ。あんな鞄、いるかっての。」
そうすると蒼星石はにこりと笑って、
「ありがとう、マスター。」
とだけ言った。礼を言われる筋合いはないのに。頭のねじが緩んでいるのだろう。
そしてもう寝る時間だ。鞄は俺の寝室に置くことになった。
「おやすみ、マスター。」
蒼星石はそう言うと、鞄の中に入っていった。
不思議な夢を見た。俺はツタの中にいる。ツタに視界を遮られている。じゃまで動けない。
外からかろうじて蒼星石の声が聞こえる。
「・・・・・だな。・・・・、大分時間がかかるかな・・・・・・・・・。・・・・だし・・・頑張ろう・・・。」
ツタのせいだろう、よく聞き取れなかった。
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12月15日
今日も犬の散歩に出かける。どこか犬も蒼星石に心を許してきた気がしないこともない。
犬の散歩は蒼星石の一日での一番の楽しみになっていた。
蒼星石は急に、ある、立派な和風の家の前で立ち止まった。表札には「柏葉」と書いてある。
「おい、どうした?蒼星石。」
蒼星石はじっとその家を見つめた。何かためらっているようであり、周りをきょろきょろしている。
そして何かを決心したかのようにドアの前まで行き、傘立てに上ってチャイムを押した。
「お、おい!なにやってるんだ!!」
そのとき、ドアが開くとその中には前に見た女子中学生が立っている。
女子中学生・・・柏葉さんは蒼星石を見るとすぐに俺の方に目線を移した。そして、
「あの・・・よかったら中でお茶でも・・・。」
とだけ言った。少しびっくりした。
柏葉さんはドアを閉めた。蒼星石はかろうじてドアに挟まれそうになった。
リビングに入るとそこには前に見た赤いドレスを着た小さな少女がこたつで静かに本を読んでいた。
柏葉さんの話によるとこの少女、そして桃色の少女もローゼンメイデンらしい。
赤い人形は俺の方を見ると、
「あら、こんにちは。」
とだけ言った。
12月15日
「わーい!おやつの時間なのー!」
雛苺という名の人形がバタバタと階段を降りてきた。柏葉さんはケーキと紅茶を4つずつ出してくれた。
「あの・・・僕のは・・・・。」
蒼星石は何か言いかけたが、見向きもされず、悲しそうな顔をした。
蒼星石は俺のケーキを、食べ終わるまで、食べたそうな目でじっと見ていた。
おやつが終わると蒼星石は真紅という名の人形の方へと行った。
「お久しぶり、真紅。あの人が僕のマスターでね・・・。」
真紅は静かに本を読んでいる。
「あとね、今は外にいるんだけど僕の家には犬がいてね・・・。」
真紅は静かに本を読んでいる。
蒼星石の顔がだんだん曇ってゆき、声も細くなっていく。
「ねーっ真紅ー!怪獣ごっこしよー!」
そのとき雛苺が真紅に飛びついた。
「怪獣ごっこ?まぁ暇だしそういうのも悪くないわね。」
真紅は本を置くと、居間の方へと雛苺と一緒に歩いていった。
「あの・・・僕も一緒に・・・。」
蒼星石はまた何か言いかけたが、振り向きもされなかった。
「ねえ・・・僕も一緒に遊びたいよ・・・。」
二人は振り向かない。
「昔のように仲良く遊びたいよ・・・。」
蒼星石は泣き出しそうに声を震わせたが結局振り向いてももらえなかった。
真紅と雛苺は結局二人で怪獣ごっこを始めた。蒼星石は下を向いてその場に立っていた。
12月15日
蒼星石がどこか別の部屋に行くと柏葉さんは色々話してくれた。
真紅や雛苺が柏葉家に来たいきさつ、アリスゲームの存在、蒼星石の姉の死、・・・・・・・・・・。
俺にはあまり理解できなかったが、それらはとても残酷な話だった。
帰った方が良い時間だ。柏葉さんは玄関まで見送りに来た。
そしてそこには真紅の姿もあった。蒼星石は真紅の方を見ると少し微笑んで、
「ねえ、時間があったらまた遊びに来・・・・。」
「もう来ないで。」
真紅はそう言うと居間の方へとかけていった。
蒼星石は酷く傷ついたような目で真紅の後ろ姿を見ていた。
玄関に蒼星石の靴が見あたらない。
ドアを開けてみると玄関の向こうに蒼星石の靴が投げ捨てられていた。
家に帰ると蒼星石は鞄の中に閉じこもって、夕食もとらずにずっと泣いていた。
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12月16日
「やった、今日も芋の煮っ転がしだ。いただきまーす!」
なにが「今日も」だ。作れ作れとしつこく言ってくるから仕方なく作ってやっているというのに、
この馬鹿丸出しの態度は非常に腹が立つ。毎日、特に好きでもないのに食わされる身にもなってみろ。
「あ〜美味しかった。ごちそうさま!」
蒼星石は昼食を食べ終わると食器を台所にさげ、踏み台に乗っかり皿洗いを始めた。
皿洗いももうすぐ終わろうとしていたときのことであった。
「ガチャン!」
皿が割れる音がした。蒼星石は踏み台の上でしゃがみ込み、腹を押さえ、苦しそうにしている。
やはりカビの生えていた芋の効果は絶大であった。
蒼星石は踏み台から降り、床の上にごろんと横向きに膝を抱えた体勢で寝そべり、
両手は腹を押さえ、息は荒く、目はどこか遠くの一点を見ているようだった。
「ハァ・・ハァ・・マスター・・・・お腹が・・・痛い・・・よ・・・・。」
青ずんだ顔で蒼星石は腹痛を訴えた。
俺は蒼星石の腕を掴んでリビングの方に投げて滑らせた。
蒼星石は滑っていき、壁に「ゴン!」と強くぶつかった。
「う・・・うぅ・・・ハァ・・・痛いよ・・・・。マスター、助けて・・・。」
しかし俺は放っておいて皿洗いの仕上げをし、一応レンピカを虫かごの中に閉じこめておいた。
12月16日
皿洗いも終わったので仕事に取りかかろう。俺はパソコンのある、仕事部屋へ向かおうとした。
しかし蒼星石が通り道に寝そべっている。相変わらず苦しそうにしている。
「おい、通行の邪魔だぞ。どけ。」
俺は蒼星石の頭を蹴飛ばし、道をあけた。
「ハァ・・・マスター・・・・レンピカを・・・呼んで・・・。」
しかしレンピカは虫かごの中だ。出てこられまい。
「通行の邪魔をしていたのに謝罪の言葉も無しか?ええ?」
俺は蒼星石の頭を踏みつけてやった。それでも蒼星石は相変わらず腹痛に苦しんでいる。
「マスター・・・・・待・・・待って・・・・。助け・・・・てよ・・・・。」
蒼星石は残った体力を振り絞って声を出したが俺は無視して仕事部屋へと向かった。
そして仕事も終わった。俺はテレビを見るためリビングに向かった。
ドアを開けてみると、蒼星石はさっきと位置を変えず、相変わらず腹痛に苦しんでいる。
痛さのあまり、目は涙でにじんでいるが、声を出して泣く体力はもう残っていそうにない。
俺は気にせずにテレビをつけた。
12月16日
ついに「探偵犬くんくん」が始まった。俺は毎週楽しみにしている。
「ハァ・・・・・・・ハァ・・・・・・・・。」
こっちはテレビを見ているのに蒼星石はうるさい。そんな中CMに入った。
「おい糞人形!うるさくてテレビが聞こえないだろうが!」
「ハァ・・・・・・・ハァ・・・・・・・。助け・・・・・て・・・・・・。」
蒼星石はずっと同じ位置で、同じ体勢で苦しんでいる。
「お前、そんなに腹が痛いならこうしてやるよ。」
俺は蒼星石の腹に二発蹴りを入れた。
「う!!!・・・・・・ゲロゲロ・・・・・・・・・。」
蒼星石は一瞬凄い顔で苦しみ、床に嘔吐した。蒼星石は自分の嘔吐物に顔を突っ込んだ。
ドールには消化器官が無いからだろうか、食べたものを混ぜてそのまま出したような物だった。
しかしそれでもやはり、かなり臭い。
「ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
蒼星石は嘔吐物に顔を浸けたまま呼吸を整えている。
呼吸が落ち着いてきた。吐いたおかげで腹痛が治まったのだろう。
CMも終わり、蒼星石は自分の嘔吐物の後始末をした。
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12月17日
「うわーっ!マスター、何これ!?」
蒼星石はケージを見ると驚き、壁に寄り添ってこちらを警戒している。
「近くのペットショップで買ったんだ。珍しいだろう?肌色の蛇。」
どうやら蒼星石は蛇が苦手なようだ。蛇と目が合うたびに「ひっ!」と、ビクついている。
この臆病さが俺をイライラさせる。
「ケージに入っているんだ。噛みつかねえよ。こっちに来い。」
蒼星石はケージを警戒しながらゆっくり近づいてくる。あまりのとろさにイライラする。
「まったく、この臆病人形が。男のくせにナヨナヨしやがって。」
そう言うと蒼星石は傷ついたようなしょんぼりした目でこちらを見て、そしていきなり甘えるような声で、
「マスター、僕・・・女の子だよ・・・。」
と言った。そう言えば忘れていた。こいつはどう見たって男である。
「お前には色気がないからな。ローゼンの失敗作じゃなかったのか?それとも姉の引き立て役か?」
流石にこの一言はかなり効いたようだ。蒼星石は下を向いて黙り込んでしまった。
そんなこんなでもう犬の散歩の時間だ。しかし蒼星石は行きたくないらしい。
犬の散歩はあいつの一日の一番の楽しみのはずなのに・・・。
結局蒼星石は留守番することになった。
散歩中、道の向こうに柏葉さんを見つけた。真紅と雛苺もいる。こちらには気づいていないようだ。
柏葉さん達もこの時間帯になると毎日散歩をするらしい。
蒼星石は普段は彼女たちを見つけると身を隠す。今日来なかったのはこれが原因ではないはずだ。
とろい奴がいないこともあり、散歩は普段より大分早く終わった。
12月17日
家に帰ると居間の方でがさごそ音がする。俺は気になって行ってみた。
見てみると蒼星石がタンスの中から取りだした、俺の娘の物だった青いスカートをはいている。
蒼星石は俺を見ると恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、あわててズボンに履き替えた。
「あ・・・う・・・・ごめんなさい、マスター。僕、女の子っぽくなりたくて・・・。」
俺は、勝手に俺の娘の物だったスカートを履かれて頭に来た。
「ふざけるな!このオカマ人形が!!勝手なことしやがって!!!」
「ご、ごめんなさい・・・。でも僕・・・オカマじゃないよ!」
蒼星石は涙ぐんでいる。
「男が女の格好をするのをオカマっていうんだよ!この変態が!気持ち悪いんだよ!!」
「僕は女の子だよ・・・・。」
蒼星石は俺の目を見て立ち上がると、ズボンを膝のあたりまで下ろした。
「ほら・・・おちんちん付いていないでしょう?」
蒼星石の股には縦に割れ目が一本はいっている。毛は生えていない。
俺は指で蒼星石の割れ目をなぞった。蒼星石は恥ずかしそうに目をつぶった。やはり穴が開いている。
俺はケージに手を突っ込み肌色の蛇を取り出すと、蒼星石の割れ目に頭から突っ込んだ。
「う・・・うわああああ!!」
蒼星石は仰向けに倒れた。
12月17日
「ああっ!マスター、取って!」
蒼星石は仰向けのままこっちに蛇の入った股を突き出している。蛇はビタビタと動いている。
顔は恐怖のあまりひきつって、目をつぶっている。蒼星石の顔がだんだん赤くなっていく。
「ハァ・・ハァ・・、マスター・・、もうしないから助けて!」
蒼星石は助けを請うたが俺はもうちょっと我慢させることにした。蛇は相変わらずビタビタ動いている。
まるで本当に蒼星石にチンコが生えたようである。
「あ・・・あぁ・・・・痛い!!」
どうやら蛇が蒼星石の中に噛みついたらしい。
蒼星石は股に力を入れると股が引き締まり、蛇は締め付けられ、真っ直ぐ伸びた形で気絶した。
まるで勃起したみたいだ。俺はこの、蒼星石の屈辱的な姿を携帯で写真に撮っておいた。
蒼星石は落ち着いてきた。俺も飽きたので抜いてやった。
頭が穴から抜けるとき、蒼星石は
「あっ。」
とだけ喘いだ。抜けたあとも蒼星石はしばらくズボンを下ろしたまま仰向けで天井を見ていた。
奇妙な夢を見た。俺はツタと葉っぱに囲まれている。急にツタと葉っぱが燃え始めた。
いや、ツタではない。家が燃えている。葉っぱではない。小さい少女とその母親が燃えている。
俺は恐怖で縮こまっている。そんな夢を見た。
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12月18日
蒼星石はどうやら帽子が宝物らしい。とても大事そうにしている。
昼食が終わると蒼星石は二階に行き、帽子をタオルで軽く磨いたあと、抱きしめてニヤニヤする。
俺はそのときの顔が嫌いだ。蒼星石は見たいテレビがあると、帽子を置いて慌てて一階へ下りていった。
昨日のことがまだ許しきれない俺は、引き出しからカッターを取り出して帽子をボロボロに刻んでやった。
テレビが終わり、蒼星石は二階に上っていった。
俺は仕事部屋で仕事をしていると、勢いよく蒼星石が入ってきた。ボロボロの帽子を抱きかかえている。
「マスター!僕の帽子ボロボロにしたの、マスターでしょ!!」
蒼星石は大声を出した。今まで見たことがないほど怒っている。そして涙ぐんでいる。
「ん?知らね〜な〜。勝手なことほざいてんじゃねーぞ。」
俺はわざとらしく振る舞った。
「うそつき!!大好きな帽子だったのに!!直してよ!!僕の帽子直してよ!!」
蒼星石は泣きながら俺の膝をポカポカ叩いている。
「う・・・僕の帽子ぃ・・・ひいん・・・・・ひっく・・・。」
ついにはボロボロになった帽子を両手でぎゅっと抱きしめて泣き出してしまった。
12月18日
俺は頭に来て蒼星石の手から帽子をぶんどった。
「返して!僕の帽子!」
蒼星石は俺に攻め寄ってきたが、蹴飛ばしてやった。蒼星石は後ろに吹っ飛んで壁にぶつかった。
俺はでかい皿に帽子を乗っけると近くにあった酒をぶっかけ、火を付けた。
「やめて!!僕の帽子!!」
蒼星石はまた飛び付いてきたので片足で強く踏みつけてうつ伏せに押さえつけた。
「いやだ!僕の帽子!やめて!!やめてよ!!!」
蒼星石は暴れ出したが俺はなんとか足で押さえつけた。
結局帽子は燃えて丸焦げになってしまった。原形はとどめているが、もう使えないだろう。
俺は足をどけてやった。蒼星石は帽子のもとへかけつけ、帽子を抱きしめて、声を上げて泣き出した。
しばらくして蒼星石は泣きやむと、帽子を大事にトランクにしまった。そしてそれをかぶることはもう無かった。
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12月19日
「ねえ、マスター、今日の夕飯は僕が作って良い?」
蒼星石は「簡単だれでもクッキング」という本を片手に俺に言い寄ってきた。
「ほら、これが作りたいんだ。美味しそうでしょ?」
蒼星石はほんの、あるページを指さして言った。そこにはハンバーグがあった。
目玉焼きが花の形にくりぬかれて乗っかっている。
その本には「簡単だれでも」と書いてあったので馬鹿でも作れるだろう。
それに今日は仕事が忙しかったので作らせてやることにした。
蒼星石はエプロン姿になり、ハンバーグを作り始めた。鼻歌を歌って、気分が良いようだ。
しばらくして完成し、ちゃぶ台に並べた。顔がニヤニヤしていてむかつく。
「いただきます。」
俺が夕食を食べ始めると蒼星石はじっと俺の顔を緊張したような面持ちで見てくる。
「なに見てるんだよ。」
俺は牽制したが蒼星石はそれでも見てくる。俺は頭に来た。
「ねえ、マスター、美味しくできたかなぁ?」
蒼星石はしつこく聞いてくる。いい加減にしてほしい。
味はそこそこだった。美味いとは言えないが悪くはない。しかし蒼星石が非常にむかつく。
12月19日
「ブーッ!!!」
俺は蒼星石の顔にハンバーグを吹きかけてやった。
「ガチャーン!!」
そして俺はちゃぶ台をひっくり返した。蒼星石は驚いた顔で俺を見ている。
夕飯が全部床にこぼれ、食器はいくつか割れている。
「なんだこれは?不味いんだよ!こんなもの食えるか!!」
「でも、マスター・・・せっかく作ったのに・・・・。マスターに喜んで貰おうと思って・・・。」
蒼星石は泣き出しそうだ。
「は!?こんな不味い料理で俺が喜ぶわけ無いだろうが、クズが!!」
蒼星石は床にこぼれた食べかけのハンバーグをじっと見て、ついに声を上げて泣き出してしまった。
「マスター・・うっ・・ごめんなさい。・・・今度は・・・美味しいのを作るから。・・・・ヒック。」
「もう作らなくていいよ!お前の糞不味い料理なんて食えるか!」
俺はぞうきんを蒼星石の顔に投げつけた。
「ちゃんと掃除しろよ。」
蒼星石はすすり泣きながら床の掃除を始めた。黙って掃除してほしいものだ。
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12月20日
今日は雪だ。やけに寒い。俺は仕事をしているといつのまにか日も暮れた。寒さが厳しくなっていく。
雪は一向に止まない。ストーブは故障中。手がかじかんでまともに仕事が出来ない。
俺のイライラは頂点に達そうとしていた。
「コンコン」
ドアを叩く音がすると、蒼星石が紅茶を二杯持って入ってきた。
「マスター、冷えると思うから紅茶を持ってきたよ。お仕事お疲れ様。」
蒼星石はニコリと馬鹿みたいな笑みをこぼすと、カップを一杯仕事机に置いた。
しかし良く見るとこの紅茶は大事なときにしか飲まない高価な紅茶だった。
俺はカッとなり、カップを持ち上げると、蒼星石の顔面にぶっかけた。
「熱い!熱いよ!!」
蒼星石は両手で顔面を押さえた。そして両手を放した機会を見計らってもう一杯ぶっかけた。
「熱い!やめてよ!!」
流石に二発もかけると効果は倍増する。蒼星石はあまりの熱さに両手で顔を押さえて悶えている。
人形だから火傷はしなかったが、すこし赤くただれているようにも見えた。
「そうか、あついか。ならばすぐに冷やしてやる。」
俺は蒼星石の服をはぎ取り、裸にした。蒼星石は床に倒れ込んだ。
「う・・・寒いよ・・・。」
蒼星石は体を丸めて震えている。
12月20日
俺は蒼星石を持ち上げて運び、玄関の外に放り出した。雪はまだ降っている。それにもう暗い。
「今日一日裸で外寝ろ。」
俺はそう言うと玄関を閉めた。
「入れて!マスター!寒いよ!」
玄関をドンドン叩く音が聞こえる。俺は隙間からこっそり観察することにした。
すぐに玄関を叩く音は止んだ。蒼星石は体を丸め、目は今にも死にそうで、ガタガタ震えている。
震え方が尋常ではない。今にも死にそうに激しく震えている。
蒼星石は必死に手に息を吹きかけている。しかし全然暖まる様子もなく、ばててしまった。
夕食も終わり、しばらくして蒼星石をこっそり覗いてみたら、まだ同じ場所でずっと震えている。
しかし体力も大分消費して、震えも弱々しくなってきている。顔が真っ青だ。
蒼星石は急に立ち上がると雪の積もった庭を歩き、犬小屋の方に向かった。
「やぁ、翠星石(犬の名前)。一緒に寝ていいかな?」
蒼星石は弱々しい声で聞いた。
「ワン!ワン!グルルルル・・・・。」
犬は蒼星石に牙をむいて威嚇した。最近人に慣れてきたとはいえ、まだまだ完全ではないのだ。
「お願い、翠星石・・・。寒いんだ・・・・。」
しばらくすると犬は急に犬小屋の奥に引っ込み、蒼星石が入れるようになった。
「ありがとう、翠星石・・・。」
そう呟くと蒼星石は犬を抱いて、犬と一緒に眠ってしまった。
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12月21日
最近毎日同じ、奇妙な夢を見ている。
また俺はツタに囲まれている。身動きがとれない。息苦しい。
どうせまたそれらが燃え出すんだろうと思っていた矢先であった。
蒼星石の声が聞こえてきて、だんだん大きくなっていく。
ツタの間から覗いてみると巨大な鋏を持った蒼星石がツタを切り倒しながら俺の方に向かってくる。
そういえば蒼星石は人の夢の中に入り込むことが出来ると聞いたことがある。
まさか彼奴は俺に復讐をしに来たのか!?
「ジリリリリリリ!!」
俺はなんとか目覚ましに助けられたようだ。のどかな朝だったが、俺の心は煮えたぎっていた。
布団のすぐ隣に蒼星石が倒れている。目を覚ますとびっくりして俺の方を見た。
「お、おはよう、マスター・・・。」
俺は引き出しから30cmはあるプラスチックの定規を取り出した。
蒼星石は俺を見て怯えだした。俺は蒼星石を持ち上げ、ズボンを下ろし、尻を出した。
蒼星石は持ち上げられながら手足をばたつかせている。
「ピシッ!ピシッ!」
俺は蒼星石の尻を定規で叩き始めた。蒼星石は叩かれるたびに手足を動かした。
「痛い!痛いよマスター!!」
俺は尻を叩き続けた。蒼星石の尻がだんだん赤くなっていく。
「俺を殺そうとしたな!てめぇをぶっ殺してやる!」
「ああ!やめて!ああん!痛い!」
蒼星石は泣き出した。俺は我を見失った。
12月21日
腕が疲れた。俺は一階からポットを持ってきた。蒼星石はまた怯えだした。
俺は蒼星石の服と下着をはぎ取って裸にした。
「寒いよ、マスター・・。」
蒼星石は震えだした。
「熱い!!あちちち!熱い!!やめて!ああ!」
俺はポットの、十分に沸騰したお湯をボタボタと蒼星石の体中にかけた。
俺は蒼星石を仰向けに押さえつけた。蒼星石は手足をばたつかせて抵抗しているが、無駄であった。
「ああ!熱い!!ああ!あぁ・・・・。」
しばらくすると蒼星石の顔はだんだん落ち着いてきた。ハァハァと、呼吸音は大きく聞こえた。
やられすぎてマゾに目覚めたのだろうか。
そんなところでお湯がきれた。蒼星石は天井を見て涙目でハァハァ言っている。
蒼星石の体中は真っ赤にただれているように見えた。
「今度は命は無いと思え。」
そう言うと俺は朝食を食べに一階に下りていった。蒼星石はまだ仰向けに倒れている。
30分くらいたったのだろうか、朝食を食べ終わった。しかし蒼星石は降りてくる気配はない。
疲れていたのだろうか、俺はふと眠くなり、こたつの中で眠ってしまった。
12月21日
また奇妙な夢を見た。周りはツタで囲まれている。俺はこの夢が嫌いだ。気分が悪くなってくる。
俺はツタの間からなんとか外を覗いてみた。そしたらまた蒼星石がいた。
ツタを巨大な鋏で切りたおしながらこちらに向かってくる。
俺は逃げようと思ったがツタに締め付けられて動けない。
なんとかして夢から覚めようかと思った瞬間、ツタが燃え始めた。ツタは家に、葉っぱは人影となった。
炎の中から声が聞こえる。助けを求める声、悲鳴、人々の噂、何かののサイレン・・・・・。
急に蒼星石が目の前に来た。殺される・・・!そのとき、周りのツタが蒼星石の方に伸びていった。
「殺せ!この糞人形を殺してくれええええ!!!!」
しかしそれらも全て蒼星石に切り倒されてしまった。俺はその場に倒れ込んでしまい、気を失った。
目が覚めた。俺は生きているようだ。夕方になってしまっている。空が真っ赤だ。
俺は引き出しからナイフとハンマーを取り出した。しかしそれらをじっと見たあとまた引き出しにしまった。
なぜだろうか、周りの物がやけに新鮮に感じられた。それに気分が良い。
ちょっと前まで大嫌いだった真っ赤な空をしばらくじっと眺めていた。
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12月22日
俺はこたつで静かに本を読んでいた。外は酷く寒い。それに今日はかなり疲れている。
しかし犬の散歩には行かなければならない。毎日行かないとストレスがたまるのだ。
かつて保健所から引き取ったとき、俺は再三そのことを注意された。
ただでさえ人に慣れていない犬なのだからちゃんと面倒を見ろとのことだった。
しかし外は酷く寒い。それに今日はかなり疲れている。俺はそのことを考えるとよけいに疲れた。
「ねえ、マスター、遊ぼう?」
蒼星石が急に居間に入ってきた。俺は不意をつかれて少し驚いた。
「いやだね。こたつから出たくないし寒い。それにあとで犬の散歩にも行かなきゃならん。」
俺はしっしと手払いをした。
「ねえ、退屈なんだよ。遊ぼう?マスター。」
蒼星石は俺の右手を掴んで、甘えた声を出して言い寄ってきた。
そもそも今までこんな事一度もなかった。俺は驚きに包まれた。
蒼星石はあまりにもしつこいので、ぶん殴ってやろうかとも思ったが、それは気の毒だと思った。
ここで俺はある意地悪を思いついた。
「仕方ないな。じゃあ遊ぶぞ。」
「わあい、やった!」
蒼星石は微笑んで俺を見た。とても喜んでいるようだ。
そういえば柏葉さんから聞いた話だが、ある事件が起きてから、蒼星石は真紅や雛苺に見捨てられたらしい。
そしてその後、間もなく姉は死んだらしい。その後しばらくしてから俺の家にやってきたのだ。
きっと蒼星石はこうやって遊ぶのはかなり久しぶりなのだろう。
「しかし遊ぶ内容は俺が決める。隠れん坊だ。文句ないな?」
「うん!僕、隠れん坊大好き!」
蒼星石ははしゃぎだした。
「お前がオニだぞ。目をつぶって100数えろよ。」
「うん!1,2,3,4,・・・」
蒼星石は壁に顔を向けて数を数え始めた。
12月22日
俺は犬の散歩に出かけた。やはり外は酷く寒い。疲れがどっと来る。さっさと済ませたい。
俺の考えた意地悪とは、蒼星石が俺を捜している間に家を脱出して犬の散歩に出かけようという事だ。
蒼星石にとって犬の散歩は一日で一番の楽しみだ。だからこのことを知ったらかなり悔しがるだろう。
今までの意地悪に比べたらかなりソフトになっているが、気にならなかった。
それにしても犬は大分俺にも心を許してきた様子だ。しかしやはり完璧とは言えない。
しばらく歩いていると、道の向こうに柏葉さんがいた。とはいっても毎日見かけることだ。
しかし今日はいつもと違い、なぜか真紅と雛苺がいない。独りぼっちで、どこか暗い雰囲気だった。
その雰囲気で、俺はどうも声をかける気にはなれなかった。
柏葉さんはどうしたんだろう?俺は考え事をすると早足になる癖がある。それに今日はとろい奴がいない。
今日はいつもより早く家に着いたようだ。寒さと疲れで、さっさと休みたいと思った。
家に入ると、蒼星石が見あたらない。それに、ところどころが散らかっている。俺は居間に向かった。
こたつに入るとそのまま寝っ転がった。二階の方からガサゴソと物音がする。
階段を下りる音がした。そして蒼星石が居間に入ってきた。
「あ!マスター見つけた!」
蒼星石は嬉しそうに俺を指さして言った。
俺はひどくあきれてしまった。この馬鹿は自分が騙されたことに全然気づいていないらしい。
「あ、マスター、そろそろ翠星石(犬の名前)の散歩の時間じゃないの?ねえ、行こうよ!」
蒼星石は俺の腕を掴んで引っ張った。目が輝いている。俺はあきれて言葉も出なかった。
外は酷く寒い。それに疲れている。しかし結局俺は、何故だろうか、二度目の散歩に出かけることにした。
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12月23日
俺は今日、用事があってちょっと遠くへ行っていた。家に着いたときはもう夜だった。
かなり疲れてしまった。それに明日は大事な用があって、朝六時には出発しなければならない。
今日はさっさと寝ようかと思いながら居間に行くと蒼星石がいない。二階にもいない。
仕事部屋を覗いてみると、いた。新聞のチラシが散らかっていた。
蒼星石はそのうちの一つをじっと見つめて、泣いていた。俺はちょっとびっくりした。
「あ、ごめんなさい、マスター。すぐ片づけるね。」
蒼星石は俺に気づくと涙を手で拭って俺の方をなんともないような顔で見た。
そしてガサガサとチラシをかき集め始めた。
俺は蒼星石は見ていたチラシを奪い取った。クリスマスのおもちゃ屋のチラシだった。涙でにじんでいる。
「あ、マスター、あのね、このお人形が翠星石に・・・お姉さんにそっくりだったから思い出しちゃって・・・。」
チラシには緑色のドレスを着て髪の長い少女のぬいぐるみがあった。
オッドアイで、片目はルビーのような赤、もう片方は翡翠のような緑だった。
「好きだったのか?お前の姉のこと。」
「うん。翠星石は・・・・最期まで僕のことを許してくれたんだ。僕は全然悪くないって・・・・。」
蒼星石は下を向いて、また泣き出しそうだ。
「悪い人なんて誰もいないって・・・ヒック・・許してくれたんだ・・・くすん・・・会いたいよ・・・・どうして・・・。」
蒼星石は少し感情的になった。
「翠星石はいつものように言っていたんだ・・・。本当の悪人なんて誰もいないって・・・。
誰だって元々は良い人なんだって・・・。そして誰にでも悪に負けちゃうときがあるんだって・・・・。
でもそれは仕方ない事なんだって・・・。だから僕はよい子だって・・・最期まで言ってくれたんだ・・・。」
俺はじっと黙って蒼星石の話を聞いていた。
「あ、ごめんね、マスター。すぐに片づけるから。」
蒼星石はまた涙を拭うと、チラシをまとめて居間へと運んでいった。
「蒼星石、夕飯はコンビニ弁当をテーブルに置いておいたぞ。あと、明日は早いし疲れたから俺はもう寝る。」
俺は居間に向かって、少し声を上げて言った。
「うん、わかった。おやすみ、マスター。」
「ああ・・・おやすみ、蒼星石。」
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12月24日
俺は用事を片づけ、家に向かっていた。日は沈みかけていて、雪が降っている。
商店街に入った。この商店街には大きいデパートがあり、クリスマスセールをしている。
デパートに入ると人がたくさんいて、大分盛り上がっているようだ。
俺は苺のショートケーキを二つ買った。砂糖のサンタが乗っかっている。
ふと、あるぬいぐるみが視界に入った。緑色のドレスを着ている、長い髪をした少女だ。
オッドアイで、片目はルビーのような赤、もう片方は翡翠のような緑だった。
俺は何かに取り憑かれたかのように、このぬいぐるみをそのままレジへと持っていった。
「お子様ですか?」
店員は話しかけてきたが俺は無視をした。
デパートを出ようとしたら俺ははっと気づき、帽子売り場の方へと向かった。
買ったのは黒くて小さなシルクハットだ。ピンクのリボンが巻いてあってとても可愛らしい。
俺はそれらを紙袋に詰め、デパートを出た。
雪は止んで、晴れていた。もう日は沈んでいて、月が出ている。雪は結構つもっている。
人は増え、あちこちにライトが輝き、クリスマスソングが流れている。とてもにぎやかだ。
俺は商店街をぬけた。人や音や光は遠くなっていった。
そのまましばらく歩くと俺は家に着いた。とても静かだ。
12月24日
家に入った。中はしーんとしていた。明かりがついていない。
電気をつけようとしたがつかない。どうやら停電のようだ。
「おーい、蒼星石、帰ったぞ。」
真っ暗闇の中を手探りで歩いた。居間を覗いたが蒼星石の気配はない。
仕事部屋の方を覗いた。窓からは雪明かりの、微かなぼんやりとした青白い光がさしている。
その光の中に蒼星石を見つけた。座布団の上で仰向けに、静かに寝っ転がっている。
「おい、起きろ、蒼星石。」
蒼星石の頬を軽く叩いた。しかし返事がない。
「おい、起きろってば。」
蒼星石の体を揺すってみた。しかしやはり返事がない。
だんだんと暗闇に目が慣れてきた。少しずつ周りの物がはっきりと見えてくる。
部屋を見渡すと、部屋中に黒い羽根が散らばっていた。
急に恐怖を覚えた。ゼンマイを巻いてみたが、動かない。どれだけきつく巻いても動くことはなかった。
ゼンマイ穴の中を見てみた。何かつまっているのだろうか?しかしそんなことはなかった。
俺は蒼星石をぎゅっと抱きしめた。冷たい。とても冷たい。俺はしばらくその体勢のままでいた。
そしてそっと立ち上がると、居間の方へと呑み込まれていった。
メリークリスマス。
「完」