5巻でカナに嵌った。そんなわけで書いてみる。

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「カナ、やばい、やばすぎ、可愛すぎ、危険」
今日の服のテーマは『白鳥の湖に踊る一匹の子猫』でした。
乳白色のクラシックチュチュに、ミケ子猫のたれみみ、
ご丁寧にっぽまで付けられています。
「あーん、もうこのままかじりついてしまいたい」
「みっちゃん、かんでる!!言う前からかんでる!!」

みっちゃんは日に5回はカナに着替えをさせます。
これが生きがいというか人生そのものというか、汗水たらして働く意義というか。
今日もこれが三回目のお着替え、一回服を着替えるたびに、
カナリアは疲労困憊におおきくのびをします。
「さ、次はこれ着るわよ。ゴシック調のちょっとロリロリした服だけど
 きっと 似合うはずよ。だってカナが着るんだもの」
バッと広げたその洋服にカナリアは見覚えがありました。というか、
見覚えがないはずはありません。この赤い服に見覚えがないはずは。
「みっちゃん!これ真紅の服にそっくりよ、ここの部分なんか、ほら」
 緑色のリボンに黒薔薇をモチーフにしたボタン、
ヘッドドレスなんかこっそり交換したって絶対気づかれません。
細部で若干違いますが、ドール用の既成品でここまで似ているのは
そうそうないでしょう。まさに偶然の一致。
「あああーーん、真紅ちゃんってこんなぷりちーな服着てるのね、早く会いたいっ、もうがまんできないいいっ」
お洋服に鼻を押し付けぐううーーっと大きく匂いを吸い込むみっちゃん、じたんだを踏んで興奮しています。

 そんな興奮するみっちゃんの姿をしりめに、
カナリアは服を表を見、裏を見、そしてキュピーンとひらめきました。
子猫のたれみみがそれに反応するようにぴくっとたちます。
「これは天才的な考えかしら?」
カナリアはみっちゃんの耳を引っ張ってひそひそばなしをします、
だれも聞いていないのにね。
「ねえ、ゴニョゴニョゴニョで・・・ゴニョゴニョゴニョ・・・
 つまりゴニョゴニョゴニョするのはどうかしら」
「カナ、あなたってば天才!もう今世紀最大の英知、全世界の宝!
 それにとてつもなくかわいい!!」
みっちゃんははちきれんばかりにカナリアを抱きします。
あやうく酸欠。川の向こうでお父様がおいでおいでをしているのが見えました。

            *

「ふふふ、完璧かしら。おぐしだって、おべべだって、しぐさだって、
 どれをとっても本物と見分けなんかつかないんだから」
ここは真紅たちが住む桜田邸前、132回の失敗を物ともせず今日もカナリアはやってきました。
でも今日はいつものカナリアとは一味違うみたい。
『ジュン、ここをあけて頂戴、はやく』
威圧的な態度は真紅そっくり、それにあたまの上から足の先まで、どこをとっても真紅にそっくりです。
これが今日のカナリアの作戦でした。真紅に扮装して、まんまと家の中に入り込み、そんでもって
真紅のマスターであるジュンの力を根こそぎ奪いさる。
「あとはらくらくと真紅たちのローザミィスティカをげええっとう、
 なんて完璧な作戦かしら?かしら?」
はっ、としてカナリアは顔をふるふると振ります。素に戻ってはいけません、
今のカナリアは真紅そのものになりきらなくてはならないのです。
「はぁい、真紅ちゃん。あら?もうくんくんショー終わったの?」
真紅たち三人は、雛苺の元マスターに連れられてターミナル駅の駅デパにぬいぐるみショーに行っています。
カナリアはこの日を狙っていたのです。おとぼけのりと、ジュンだけがいるこの日を。
『ええ、あんな子供騙し、時間の無駄だわ、中に人も入っているのよ』
そんなカナリアを言葉に、ががががーんと擬音付きの驚きが飛び出しました。
ノリがショックを受けています。
(し、しまったかしら?)
「しんくちゃんもこうして少しづつ大人になってくのね、うんうん。
 みんなそうなのよ、お姉ちゃん少しだけ感激してウルッときちゃった」
どうやら何か勘違いしているだけのようです、カナリアはほっと息をなでおろします。
そして、カナリアの右足はついに桜田家に踏み入りました。歴史的快挙です。
顔はそのままで右手で小さくガッツポーズをとります
作戦の第一段階はまんまと成功。夢に向かって一歩前進です。
そして作戦は第二段階へと続きます。

           *

真紅のマスター、ジュンは自分の部屋でパソコンに向かっていました。
ジュンはちらりと横目でカナリア捕らえると、
「もう帰って来たのか」
といい、そしてぷいっと横を向いてしまいました。
どうやらばれてはいないようです。
(さあて、いよいよ第二の作戦よ)
第二の作戦はいたってシンプル。ジュンの持つ契約の指輪にちょちょっと細工するだけでいいのです。
すると、あら不思議、ジュンの力はみっちゃんの持つ契約の指輪を通してカナリアが使えるようになってしまうのです。
あとはもう、使いたいだけ使って、ジュンを干からびミイラにしてしまえばこっちのもの。
なんの力も使えない三人のドールなんておそるるに足らない存在です。
カナリアはジュンの横に立ちます。大丈夫、この位置に来てもぜんぜんばれません。
そして、勢いをつけてぴょんぴょんと飛び跳ねます。身長が少しだけ足らなくてあと一歩のところで指輪に届かないのです。
「・・・なにやってんだお前」
さすがのジュンもこのカナリアの奇行にきづいてしまったようです。
沈黙の中、一瞬目が合います、緊張の瞬間です。
こうなったら第二作戦パターンBを実行します。こんなこともあろうかと第二、第三の案だって用意してあるのです。
『ジュ、ジュン、おんぶをしてちょうだい』
真紅がいつも口癖のようにいっているとても自然な言葉、これです。
こうすれば手に付けられた指輪に直接触れることができます。そうなればこっちのもの。
「お、おんぶぅ?だっこじゃなくておんぶをするのか?」
(間違っちゃったーーーーかしらーーーー!!!)
言葉のあやというものでした。行為的には似ていますが、ある意味ぜんぜん違います。
それにジュンだってとても怪しむことでしょう。
「まあいいけどさ、ほらよ」
幸運はカナリアを味方しました。鈍感なのか、ジュンはまだカナリアの正体にに気付いていません。

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          *

おんぶはあまりにも無防備でした。ジュンはまんまとカナリアの策にはまってしまったのです。
シュウシュウと音を立てて、指輪からカナリアに力が流れ込みます。
「こうなってしまえば、もうこっちのものよ。むてき、すてき、の完全大勝利かしら?」
まもなく、カナリアの周りには三体のドールの抜け殻が転がります。
カナリアは3つものローザミスティカを手に入れてしまったのです。
「カナ、これご褒美だからっ」
どこから現れたのか、ホクホク笑顔のみっちゃんがおぼんいっぱいにたまご焼きをもってきました。
「あんまぁーい!ほーくほくほくーーー」
ほっぺたをぐにゅーと寄せるほど美味しいたまご焼きです。
食べても食べてもなくならないたまご焼き。
カナリアはこれ以上ないというほどの満面の笑みを浮かべていました。

          *

「・・・むにゃむにゃ、もうおなかいっぱいで、食べられないかしら・・・・」
カナリアはジュンの背中で細い寝息を立てていました。
よほど気持ちよかったのか、それとも昨日作戦決行のために夜更かししたのがいけなかったのか、
おんぶして数分もしないうちに、ジュンの背中はカナリアのゆりかごになってしまったのです。
「参ったな・・・」
降ろすに降ろせず、座るに座れず、ジュンはすっかり困ってしまいました。
しばらく、部屋の中をうろつくしかありません。
「たっだいまーなのっーーー!」
願ってもない助け舟です。
とてつもない元気な声に加えて、手と足を器用につかい、どたどたを階段を上がってくる音。
「くんくんショー最高だったの!サイン色紙ももらったし、いっしょに写真もとったのよ。ほら」
なんだか歩くくんくんグッズ販売所みたいな雛苺が現れました。
「子供騙しだったけど、まあいいわ。憧れのくんくんに抱きしめてもらったし、
 だっこだってしてもらったんだから」
雛苺から少し遅れて、同じくくんくんグッズに身を固めた真紅が現れました。
そう、カナリアふんする偽真紅ではなく、本物の真紅です。
「・・・ああああ、ちょ、お前!これは一体どういうことなんだ、説明しろよ!!」
ジュンの頭はたちまちパニックを起こしました。
今はやりのドッペルゲンガーか、はたまた、真紅も翠星石と蒼星石のように双子なのか、
考えるだけで頭が痛くなってしまいます。
真紅も、ジュンの背中にいる自分そっくりのドールの姿に驚きました。
眠っている姿は、真紅そのものなのです。
こんな騒ぎがあっても、カナリアはまだ起きません。よっぽどたまご焼きの
夢がここちいいのか、あちらの世界から戻ってくる気配が無いのです。
「どっちが本物の真紅なのぉ?こっちにせもの?」
雛苺はそういって、カナリアのほっぺをむちーとひっぱります。
お餅のようにほっぺは伸びますが、カナリアは起きません。
その代わり、ヘッドドレスに隠れていたピチカートが、驚いて飛び出してきたのです。
「人工精霊のピチカートじゃない。とするとこの子は・・・・」
「かなりあーなのねー」
真紅と、雛苺にはこの偽物がだれだかわかったようです。
「・・・そんなのどうでもいいから、こいつをどうにかしてくれ」
ひとり取り残されぎみのジュン、こんなわけの分からないことに巻き込まれて、
顔にはなんだか疲れが溜まっているようにみえました。

            *

「ふわぁぁぁ、幸運の女神様は、カナリアに輝いちゃったのね」

カナリアは、夢が夢だとはぜんぜん気付いていませんでした。
本当は、ピチカートの案内でジュンがみっちゃんちまで運んでくれたのです。
それなのに、夢と現実がうまい具合にシンクロしているようで、全く気付いていません。
「今日はなんだかいい一日になっちゃいそうかしら?」
3つのローザミィスティカを手に入れたという喜びで、カナリアはいっぱいだったのです。
「カナー、お着替えするからおいでー」
「あいー!」
この後、みっちゃんから衝撃の事実を知らされるカナリア。
嘆き苦しみ、あのにっくきジュン(ここまで運んできてくれたのにね)に
再戦を誓いますが、それはまた別のお話し。

カナリアが新しい作戦を思いついた頃に、もう一度お話ししましょう。

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