今まで脳汁出しまくりハイテンションで書いていたせいか、普通の文章が書けなくなってしまった……
とりあえずリハビリとスレの活性化希望を兼ねて、前々スレの鬱翠の続きを投下します。

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脆弱な彼女の心を例えるなら、それは海岸に作った砂の城だ。
見せかけだけの城壁は押し寄せる波で簡単に崩れ去り、深い海へと引きずり込まれていく。
波がひいた後に残るのは、原型を留めていない城だったもの。
伸ばされた白い手が、そっと海水に濡れた砂をすくう。
再び作り直されていく砂の城は一寸の狂いもなく元の形に戻る。
そしてまた、波によって城は削られ壊されていく。
何度も壊されては直し、壊されては直しを機械のように繰り返す。
その裏で見え隠れするのは、この日常の変化に対する恐怖からでもあり、自分に注がれる歪んだ愛情への不安でもあった。
翠星石は昨夜もついに眠れず、それらを抱いて鞄の中で小さく震えていた。
毎晩頭の中を廻り続ける自問自答と自己嫌悪。
全て出し切ったはずなのに、相変わらず頬を濡らす涙。
彼女は願う。
できることならば、あの輝かしい日々の思い出だけを胸に、朽ちて塵となり―――

――安らかな滅びを。

「似合ってるぞ、その格好」
 耳元で優しく囁かれるジュンの言葉。
それは決して自分に語りかけられているわけではないことは分かっている。
故に翠星石は何ともいえない感情に顔を曇らせた。
「最初はうまくできるか不安だったけど、案外簡単に作れるもんなんだな」
 照れくさそうに笑うジュンの顔が鏡越しに見えた。
相変わらず彼の手は翠星石の肩に添えられている。その手から伝わる体温に反して彼女の体は酷く冷たい。
「ほら、せっかく僕がお前のために作ってやったんだから、もっとよく見てみろよ」
 抵抗する間もなく伸ばされたジュンの手は顔を伏せる彼女の顎を持ち上げる。
気弱なオッドアイの瞳に飛び込んできたのは他の誰でもない、鏡に映る自分の姿であった。
身に纏っているものは赤を基調とするドレス。
頭に被ったヘッドドレスは彼女が肩を小さく上下させる度に微かに揺れる。
「なっ? 綺麗に縫えてるだろ」
 確かにこのドレスは一流の職人が仕立てたかのように素晴らしい出来だ。
しかし、それでも翠星石の表情は一向に晴れる気配を見せなかった。
ここで満面の笑みを浮かべて礼を言えるほど彼女は能天気ではないのだ。
彼女は知っていた。この赤いドレスは自分のために縫われたのではないことを。
彼の目に映っているのが、自分ではないことを。
唐突に背中から二本の腕に軽く抱きしめられる。翠星石は別段驚きもせず、流れに身を任せるようにその腕に体を預けた。
まるで海の中を漂うような浮遊感。自分の輪郭を撫でる彼の繊細な指は、言うならば心地よい気泡だろうか。いっそのことこのまま溺死してしまえば、どんなに幸せだろう。
だが彼女の儚い願いを引き裂くように、ジュンの次の一言は翠星石を現実へと無理矢理引き戻す。

「真紅」

翠星石の目が大きく見開かれた。
後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が全身を駆け抜ける。
「あ……う……」
 翠星石は、その場にへたり込んだ。怪訝な顔をするジュンを視界の隅に捉えても、彼女は立ち上がろうとしなかった。いや、立ち上がることができなかった。
何を今更、こんなにも動揺しているのだ。
これまでだって何度も真紅の名で呼ばれてきたのに。
痛みに鈍感になったはずの心に、まだ感じることのできる部分があることに翠星石は驚きを隠せずにいた。
「わ、わたし…は……」
 かすれた声からたどたどしく紡ぎだされる言葉。
翠星石の頭の中で警鈴が鳴り響く。
それ以上言ってはならない。
それ以上口にしては、この日常が崩れてしまう。
しかし、全ての感情を吐き出したいという欲求の方が理性を上回ってしまった。
「わたしは……!」
 私は真紅じゃない。
ちゃんと私の本当の名前を呼んで。
彼女じゃなく、私を見て。
私を、私を、私を―――
「どうしたんだ、真紅?」
 ジュンが翠星石の言葉を遮った。
翠星石が静かに視線を上げてジュンの顔を見た。心配そうに眉を顰める彼から湧いてくる感情はただ一つ。不安だけだった。
それには一片の作為もなく、ジュンが本気で自分のことを想ってくれていることに、翠星石は言葉を詰まらせた。

あれほど暴れていた心が不思議と落ち着きを取り戻し始める。
――そうだ。
よろめきながらも、翠星石はゆっくりと立ち上がった。
負の感情を奥底に押し込める。そうでもしなければ、体の震えは止まらなかった。
――失うわけにはいかないのだ。
すぐに彼女の中から感情は消えうせ、ただ空虚だけが浮かび上がる。
彼女はただの人形になった。彼の欲求を満たすためだけの玩具の人形に。
――せっかく手に入れた、この幸せな日常を。
 作った笑みを貼り付けて、翠星石はジュンに振り返った。
普段と変わらない口調で、彼に何も悟られぬように。
――たとえそれが、自分を偽る結果になろうとも。
 はっきりと、一言。
「なんでもないのだわ、ジュン」
 

そして今日も、自分を誤魔化して翠星石は真紅を演じ続ける。

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展開的に何の進展もないのはリハビリということでご勘弁を。
一応、鬱翠は続きます。あと未完の作品も書いていこうと思います。
にしてもカオス・メイデンを書いていた頃が懐かしい……
まぁ、計画もなしにどんどん新作を書いていった自分が悪いんですがね……ふふふ…

薔薇水晶は俺の嫁。

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