5月某日 晴れ
賑やかなというより騒がしい夕食も終わり人形たちはTVに向かっていた。真紅がリモコンのスイッチを押しチャンネルを回す。
「これでいいわね、これを見ましょう」
「まーたですかぁ、たまには違うものも見やがれですぅ」
翠星石がまたかという表情であきれて言った。
「うるさいわね、わたしが見るのだからそれでいいのよ!」
真紅のその声に半ばあきれながらも人形たちはソファーに座り一緒に見始めるのだった。
「得点は2対1、千葉ロッテが1点のリードのまま9回表を迎えます」
TVからはアナウンサーがいつも通りの口調でしゃべっていた。
そう、今真紅たちがみているもの―それは野球だった。
そのとき自分の部屋からリビングにジュンが入ってきた。
「お前ら、何みてんだよ、って野球?、真紅お前野球なんかに興味あったのか」
「あら、野球は紳士の国が起源のスポーツよ。当たり前じゃない。愚かね」
「な、なにい〜、この呪い人形め〜」
「うるさいわよジュン、TVの音が聞こえないわ」
そう言われて渋々ジュンも黙ってTVの画面を見つめている。
今行われているのはプロ野球の交流戦、千葉ロッテVSヤクルトの試合で9回表
のヤクルトの最後の攻撃という状況だった。
「千葉ロッテマリーンズ、ピッチャー交代、ピッチャー小林雅英!」
1点リードの千葉ロッテが守護神の小林を送り出した。
「わーい、コバマサなの!コバマサがんばってなのー」
雛苺がコールと同時にはしゃぎだす。
「またですぅ、ワンパターンこの上ないですぅ、もう少しヒネリやがれですぅ」
お約束の出来事に苛立ちながら翠星石が言った。
「翠星石、あれがロッテの勝利の方程式なんだよ」
蒼星石が翠星石をなだめながらそう言った。

試合の方はコバマサが先頭バッターをいきなり四球で塁に出してしまい、続くバッターにもヒットを浴び、早くもノーアウトランナー1塁、2塁というピンチを迎えていた。
「あ〜もう何をやってるですぅ!みてらんねえですぅ!」
「落ち着いて翠星石、まだ1点もとられていないよ」
「コバマサがんばるのー!あいとー!あいとー!!」
「大丈夫よ雛苺、いつも通りの劇場だわ」
真紅は冷静にお茶を飲んでいる。
「?、何これは、nのフィールド」
そのnのフィールドから水銀燈が現れた。
「あぁら、お馬鹿さんの真紅ぅ、何を見ているのかしらぁ」
「貴女には縁のないものよ水銀燈」
真紅の言葉に苛立ちながらも水銀燈はTVの画面を覗き込んだ。
「あらぁ野球じゃない、な!ヤクルトが負けてる!そんな!」
急に取り乱す水銀燈。
「うぃー、水銀燈ヤクルトファンなの?」
「う、うるさいわね!でもノーアウト1塁、2塁チャンスだわ」
そうこうしているうちに次のバッターがヒットを放ちついに満塁となった。
「ウフフフ、やったわもうこれで勝負は決まりね!」
あきれるくらい浮かれてはしゃぐ水銀燈だった。
「今日の水銀燈、何か変だ・・・」
蒼星石は冷たい視線を水銀燈に送りながら呟いた。
次バッターは何とか三振に打ち取りとりあえずワンアウト、だが満塁の状況は変わらない。
ここで3塁側のダッグアウトから古田監督が出てきた。
「代打、俺」
画面からも伝わったその声とピンチヒッター古田のコールに水銀燈が高笑いしながら勝利を確信する。
「貰ったわ、貰っちゃったわこの試合、古田よ、古田が出てきたわ、真紅のお馬鹿さぁん、残念だったわねぇ」
どこから出したのか傘を持ち東京音頭まで歌っている。
「勝負の橋は渡ってみなければ分からないのよ!」
水銀燈とは対照的にヒステリックな声で真紅が叫んだ。
古田が右バッターボックスに立ち試合が再開される。
「がんばるですぅコバマサ、殺られる前に殺れ!ですぅ」
「ぶつけたら同点になっちゃうよ翠星石」
第1球は変化球でストライク、第2球はストレートが外れて1エンド1となった。
「コバマサ!がんばるのー!」
「余裕がないわねぇ、このピッチャー、ホントお馬鹿さぁん」
画面に食い入る3人に対し(蒼星石除く)ヤクルトを飲みながら悠々と観戦する水銀燈。
「古田はストレートを狙っている。シュートで勝負するんだ」
蒼星石が冷静に分析していた。
そして第3球、コバマサの投じたシュートに古田が手を出した。打球はサード今江への平凡なゴロ、今江が軽く捌きセカンドへ送球しツーアウト、セカンドの堀がファーストへ送り古田もアウト、あっさりとダブルプレーでゲームセットとなった。
「わーい、やったの!コバマサすごいのー!」

「あいかわらず、ヒヤヒヤさせやがるですぅ。もっとキッチリ終わらせろですぅ」
歓喜と安堵に包まれたリビングで怒りと悲哀を爆発させているのが1人いた。
「そ、そんな!ありえないわ!・・っく、真紅覚えてなさい!!」
戦う気力も奪われてしまうほどの落胆だったのだろう。水銀燈は帰っていった。
傘を真紅たちに投げつけながら・・・
「この傘、どこかで見たような・・・」
蒼星石が傘を手にとって見つめていた。
「あー、それ金糸雀の傘なのー」
「傘を買う金もない貧乏女ですぅ。どうせパクったにちげーねーですぅ」
「どうしようこの傘」
「どーせまた策士ヅラしてここに来るですぅ、そんときくれてやればいいですぅ」
話もまとまり4人はまた鞄の中へと入っていく。すでに9時を8分も回ってしまっていた。
「今日もいい劇場だったわ。やっぱりコバマサは名優ね」
そう呟き真紅も眠りについたのだった。

「うぅ、わたしの傘どこにいっちゃったのかしらー。どうしてヤクルトが10本もあるのかしらー」
傘を探す金糸雀の部屋には何故かヤクルトが10本置いてあった。傘借りるわよぉと書かれた置手紙といっしょに・・・

END

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