322 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2006/01/24(火) 04:29:31 ID:AStpWsSb
 733 名前: 風の谷の名無しさん@実況は実況板で [sage] 投稿日: 2006/01/19(木) 02:04:21 ID:GxsiUGeq
 翠星石「蒼星石。何の冗談ですか?早くこの縄を解くですよ!」
 蒼星石「・・・・・・・」
 翠星石「・・そ、蒼星石?ちょ!やめるです、痛いッ!」
 蒼星石「ふふっ、いい格好だね翠星石。縄に縛られて身動きが取れない君を見下ろすのがこんなにも楽しいなんて・・・」
 翠星石「お願いですぅ、ね蒼星石」
 蒼星石「・・・・・・・」
 すっ
 翠星石「え、足?これはどういう意味ですか?」
 蒼星石「察しが悪いね。僕が足を差し出したら舐めろってことだよ。」
 翠星石「・・・でも、いっ痛い!蹴らないでぇ蒼星石ぃ!!や、分かったから、分かったからぁ」

 蒼星石「分かりました、蒼星石様・・だよね?」
 翠星石「・・・・・・・わ、分かりました、蒼星石様」
 ぴちゃ、ぬちゃ
 蒼星石「ふふ、いい子だね翠星石」
 翠星石「うぅ」


 (´・ω・)そろそろ寝よ



 誰か、この続きを(;´Д`)・・・・・。
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SMな関係

 双子の姉妹には秘密があった。それは、決して誰にも知られてはいけない秘密。
 皆が寝静まった頃、その宴は始まる。姉妹の夢の中で狂宴は始まる。
「翠星石、君はイケナイ子だ」
「アウゥッ……い、言わないでぇ」
 鞭を振るった蒼星石が、姉を見下すように吐き捨てる。眼前には手足を鎖で縛られた翠星石の姿。彼女の服は所々裂け、肌が露出しているのが見える。
 しかし、これは虐待ではない。彼女は喜んでこの仕打ちを受けているのだ。その証拠に、彼女の左右色違いの美しい瞳は快感と期待で潤んでいる。彼女はマゾヒストなのだ。
 そして、鞭を持つ妹も普通ではなかった。姉が苦痛に喘ぐたび、彼女の背中がゾクゾクし、例えようの無い高揚感に満たされる。彼女はサディストだった。
「僕は君が大嫌いなんだ」
「嫌いなら、もっとぶつですぅ」
「そうするよッ」
「イィッウ……!!」
 鞭に打たれる乾いた音が、この閉鎖された空間に響き渡る。この異常な光景は、毎夜のように繰り広げられていた。

 今日も蒼星石は桜田家へと遊びに来ていた。薔薇乙女が三体も揃っているこの家は、彼女達の憩いの場となっている。蒼星石の他に、金糸雀もここの常連だ。
 朝からおじゃまする蒼星石が、リビングの姉妹達に声を掛ける。
「みんな、おはよう」
「おはようですぅ」
 翠星石が自然な笑顔で挨拶を返す。蒼星石もそれを自然に受け取る。彼女達に昨夜の卑猥な面影は少しも見られない。夢の中の出来事なので、服の破れや体の傷も自由に消せる。
 これは昔から繰り返されている事であり、双子にはこれが当然なのだ。昼と夜の区別はつける。それが暗黙のルールだった。

「ジュン君、おはよう」
「ああ、おはよー」
 皆に遅れてジュンが起きて来た。眠たげに適当な挨拶を返す。彼は勉強やインターネットで夜が遅い。それで、起きるのが昼過ぎになることもたまにある。今日はぎりぎり午前中といったところだ。
「ちぃとも早くないですぅっ。太陽はとっくに出てたですよ!」
 彼が起きてくるなり、翠星石が不機嫌になって叱り付けた。彼女も真紅や雛苺に合わせて午後九時には寝る。もう正午近くだから、あと九時間で寝ないといけない。
 そうなると、ジュンと九時間しか顔を合わせていられない。彼女の不機嫌の理由はこうだった。彼女はジュンが好きなのだ。
「勉強してたんだからいいだろぉ」
「勉強もへったくれもないです! だらけてたら身につく物もつかないですよ。少しは私達を見習えですぅ」
「お前達は早すぎだっての」
「キィ――ッ、つべこべ言うなです!」
 今日もジュンと翠星石の夫婦喧嘩が始まった。いつものことだから、周りは気にもしない。
 いや、一人だけ優れない顔で喧嘩を見ている者がいた。それは蒼星石だ。嬉しそうに怒っている姉を見るたび、胸がズキリと痛む。この痛みの原因に、彼女は気付いていた。

 深夜、勉強に区切りをつけたジュンはデスクスタンドの灯りを消した。疲れた目と頭を休めるため、そのままベッドへと身を投げ出す。すぐに寝息を立てる彼に、これから起こる事を知る由も無かった。

 ここはジュンの夢の中。彼は机に向かってノートと教科書を広げている。彼は夢の世界でも勉強に追われていた。学校の遅れを取り戻そうと、それだけ必死なのだろう。
「ジュン君、こんばんわ」
 勉強中、不意に後ろから声を掛けられた。振り向くと、蒼星石がちょこんと立っていた。にんまりとした顔は、何やら楽しそうだ。ジュンはまず尋ねる。
「蒼星石か……。お前は僕の中の蒼星石か? それとも、本物の蒼星石か?」
 双子の姉妹は夢の扉を自由に開けられる。ジュンはそれを知っている。自分の夢の中で出てきたといっても、彼女が妄想の産物だとは限らない。
「僕は僕だよ。だから、君の自由にはならない」
「で、なんの用なんだ」
 異物と判ったジュンは、素っ気ない態度で用件を聞く。眠りの時間まで人形達に邪魔をされては堪らない。
「ジュン君にいい物を見せてあげようと思って」
「いい物? 何だ、それは」
「それは見てのお楽しみ。いいから、僕について来てよ」
 珍しくはしゃぐ所を見せる彼女に、ジュンは邪険にするのも悪く思えた。椅子から立った彼は、言われるままに彼女の後を追う。先を行く蒼星石は「してやった」という顔で笑った。

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 人の夢は世界樹という大木によって繋がっている。ジュンはその枝をよじ登って蒼星石を追う。枝が次第に細くなり、無重力感に襲われたら、もう誰かの夢の中に入っている。
 周囲はのどかな山村の風景。レンガ造りの建物ばかりなので、外国のどこかが元になった世界だろう。ジュンは見慣れない誰かの景色の中を飛んでいた。夢の中なので空も飛べる。
「おい、まだなのか」
「もうすぐだよ」
 蒼星石が向かったのは、緑色の屋根の邸宅。その敷地の庭には薔薇をはじめ、色とりどりの花が咲き誇っていた。庭園と言っても差し支えないほど見事な庭だ。
 地上に降りた二人は門を抜け、緑のトンネルを歩く。玄関に到着した蒼星石は、呼び鈴を鳴らさずに白いドアを開けた。屋敷内をしばらく歩き、一つのドアの前で蒼星石が立ち止まる。
「ここだよ。大声を出すと逃げちゃうかもしれないから、中に入る時は静かにね」
 そう注意をしてからドアノブに手を掛ける。ゆっくりと扉が開き、ジュンは中の様子を興味津々に覗き込む。そして、その信じられない光景に絶句した。
「ただいま、翠星石」
「遅いですぅ〜。放置プレイは私の趣味じゃないと言ったはずですよっ」
 部屋の真ん中には、縄で奇妙な縛られ方をされて身悶える翠星石。身動きが一切取れない上に、ご丁寧に目隠しまでされている。故に、彼女にジュンの姿は見えていない。
 蒼星石はジュンを見る。驚いて呆然としているのを楽しんでから、床に転がる姉に歩み寄る。
「好き嫌いはいけないよ。そういう悪い子にはお仕置きが必要だな」
「そうですぅ。翠星石は悪い子ですぅ。お仕置きが必要ですぅ」
「何をして欲しい? 鞭、ロウソク、それとも踏んで欲しい?」 
「鞭でいいですぅ」
「翠星石は鞭が大好きなんだね」
 壁には何種類もの鞭が掛けて飾ってある。その中から長くて太い、いかにも痛そうなのを選んだ蒼星石は、楽しそうに唇を歪める。
「今日はとっておきの道具を用意したんだ。翠星石も喜んでくれると思うよ」
「な、何ですぅ?」
 目隠しをされている彼女は何も見えない。新しい道具に興味はあるが、不安がそれを上回る。そして、その不安は的中する。蒼星石は鞭を持って部屋の入り口へと向かう。
「はい、ジュン君。今日は君が可愛がってあげてよ」

 笑顔で鞭を差し出す蒼星石。未だに驚きで固まっているジュンは、指の一本も動かない。
「ジュンが居るですかッ!?」
 蒼星石の背後から、叫びに近い声が上がった。好意を寄せる人に、この醜態は晒せない。一瞬、翠星石はパニックに陥りかけた。
 しかし、彼女はどうにか我を忘れずに済んだ。ジュンが一言も声を出せなかったのだ。彼女の中では、ジュンの存在が確定されなかった。
「冗談はやめるです。いくら蒼星石でも、やっていい事と悪い事があるですよ」
 恥辱プレイにしては度が過ぎている。想い人でありマスターでもあるジュンに、こんなはしたない姿は見せられない。従順だった翠星石もさすがに怒りを覚えた。
「僕は冗談があまり好きじゃないんだ。だから、ちゃんとジュン君は居るよ」
 蒼星石はそう言い、ジュンの顔を見上げ「ほら、何か言ってあげてよ」と言葉を促す。そうしてやっと初めて声が出せた。
「翠星石……」
 名前を呼ぶ戸惑う小さな声。翠星石の全身の血が引き、体が凍て付く。この声を聞き間違えるはずが無い。大好きな人の声なのだから。
「本当に翠星石なのか……?」
「ここは翠星石の夢の中だよ。彼女以外にありえない」
 信じ難い彼女の姿に疑問を抱くジュンに、蒼星石が得意顔で本人の証明をしてあげる。ここは翠星石の夢の中だったのだ。蒼星石でも他人の夢は操れない。
 翠星石は絶望の淵に追いやられていた。最も見られたくない姿を、最も見られたくない人物に見られてしまった。ここが断崖絶壁の上なら、すぐにでも飛び降りたい気分だった。追い詰められた者が取る行動は少ない。そして、今は幸いにも目を塞がれている。
「わ、悪い冗談はやめるですぅ。本当はチビ人間なんて居ないですよね? ねえ、蒼星石」
 この期に及んで現実逃避に走る翠星石。そこまでしても受け入れられない事実だった。蒼星石は「やれやれ」と肩を竦め、芋虫状態の彼女に近寄る。
「冗談は嫌いだって言ってるのに……。そんなに信じられないなら、自分で見てみる?」
 皮製の目隠しに手をやり、ベルトを外して一気に取り除く。急に開けた視界が眩しくて真っ白になる。徐々に明るさに慣れ、ぼやけていた人影がはっきりしてくる。眩しさで細めていた目が、はっと見開かれた。
 目の前には大切な人が立っていた。こちらに怯えたような目を向けて立っていた。翠星石は猛烈な感情の渦に呑まれ、悲鳴を上げるのも一呼吸置いてからだった。
「……い、嫌ぁあああッ。見ないでっ。ジュン、見ないでぇええ……!!」
 動かせない体で必死にあがき、ジュンの視界から逃げようとする。縄が体に食い込み、痛みと廉恥と後悔から涙が溢れる。蒼星石はそれに構わず、再び鞭を渡そうとする。
「ジュン君、翠星石を苛めてあげてよ。喜ぶから」
 受け取ろうとしないジュンにしつこく渡そうとする蒼星石。しかし、本当は彼に受け取って欲しくなかった。このまま怖がって逃げてくれれば、確実に翠星石を独占できる。彼女の狙いはこれだった。彼女は姉をジュンに取られるのが嫌だったのだ。
 泣き叫んでいた翠星石はある事に気付いた。このままジュンを帰してはいけない。このまま帰したら、二人の間に修復できない溝を残したままになってしまう。
「ジュン、私をそれでぶつですぅっ」
 開き直った翠星石が涙の残った瞳で懇願する。その瞳は妙に力強かった。
「翠星石もああ言ってるし、やってあげてよ」
 そう言って蒼星石も後押しする。表面上は余裕を見せているが、かなり焦っていた。ジュンがその気になったら困るのだ。
「ジュンになら鞭で打たれてもいいですぅ。翠星石をメチャクチャにするつもりでぶつですぅッ!」
 双子の期待する視線がジュンを追い詰める。いきなりの状況で、更にハードSMプレイを強要されて困惑を隠せない。
「そ……そんなのできるわけないだろっ」
 とうとうジュンは逃げ出した。背を向けて一目散に部屋を出る。残された蒼星石は会心の笑みを浮かべ、翠星石は主人に捨てられたショックで放心した。

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「ジュン君、行っちゃったね」
 見送った蒼星石が、後ろで項垂れている翠星石に言い聞かせるように呟く。その軽快な声は、晴れ晴れしたように聞こえた。
「蒼星石……」
 愛する姉が呼ぶ声が聞こえる。その声は低くくぐもり、まるで地の底から聞こえてくるようだった。
 振り向いた蒼星石は、はっと息を呑んだ。姉が睨んでいる。憎悪すら感じる目で睨んでいる。初めて向けられる敵意の視線に胸が痛むのを感じた。
 だが、もう後戻りはできない。手に持つ鞭を握り締め、高圧的な態度を貫く。
「僕にそんな目を向けていいのかな」
 空気を切る音が鳴り、次に破裂する音が響く。
「キヒィィイッ」
 鞭で打たれた翠星石が甘い声で鳴く。憤慨していたばかりなのにこれだ。彼女のMの部分は、すでに調教され切っていた。
 翠星石はこんな時でも快楽を感じてしまう身体が情けなくて仕方がなかった。頭は怒りでどうにかなりそうなのに、体は確実に快楽を探り当てる。自分は正真正銘の変態なのだと思い知らされる。それでも、彼女は必死に怒りの表情を作って見せる。
「どうしてですか。どうして、こんな事を……!!」
「君が悪いんだよ」
「翠星石が何をしたと言うですかっ!?」
 まだ反抗する姉に妹は鞭を振るう。姉を制するのに躍起になっていた蒼星石は、力の加減を忘れていた。今、彼女が握っている鞭は、相手を痛めつけるための武器と等しい代物だった。人間の肌なら容易く張り裂ける勢いで、幾度となく打ち据える。
「翠星石がっ、ジュン君に惹かれるからッ!!」
「ウギィッッ!!」
「君を満足させることができるのはッ」
「アガ……ァ……」
「僕だけだッ!」
 打ちつけても反応が無くなった。知らずに頭に血が上っていた蒼星石は、室内が静かになって正気に戻る。そして、姉の惨状に青ざめた。翠星石は涎をたらし、白目を剥いて気絶していた。生きているようだったが、これではまるで拷問だ。
 恐ろしくなった蒼星石は鞭を投げ捨てた。制御できなかった己の感情が恐ろしかった。翠星石が死にそうな声で呻くのが気持ちよくて堪らなかった。今も、醜い姿で眠る姉に興奮を覚える自分が居る。蒼星石のSの部分は極限まで成長しようとしていた。

 蒼星石は縄を解き、姉が目覚めるのを待った。しばらくして、床で寝ていた翠星石が瞼を開けた。その視界には、心配そうに上から覗き込む妹の顔があった。
「翠星石、ごめんよ……」
 最初に出たのは謝罪の言葉だった。これには蒼星石もやりすぎたと反省していた。相手を労わらなければSMプレイは成立しない。
 それでも、翠星石は不思議と怒りの感情が湧かなかった。意識を手放すまでの苛烈な虐待の中、彼女は妹の気持ちを知ることができたからだ。翠星石は優しく微笑んで見せる。
「翠星石はどこにも行かないですよ。だから、安心するです」
 思いもよらない言葉に、蒼星石の涙腺が緩む。わっと泣き出した彼女は「ごめんなさい」と繰り返す。翠星石は腕を伸ばし、泣き止まない妹の顔を胸に埋めた。翠星石には敵わない、と心の底から思う蒼星石だった。

 悪夢から明けて翌日。ジュンの様子は普段と大して変わらないようだった。翠星石が声を掛ければ、それなりに相手をしてくれた。
 やや違和感があるには違いないのだが、彼女に比べれば些細なものだ。翠星石は妙にジュンを意識し、いつもの覇気がない。恐る恐るといった感じでジュンに話しかけていた。昨晩の事があったら、それが当然だが。

 人形達が寝静まった夜。この時間の部屋にはジュンしかいない。天井の灯りも消され、勉強机のスタンドだけが彼の手元を照らしている。
 その時、頃合を見計らって、寝ていた鞄から一体の人形が起きた。翠星石だ。彼女には言わなければならない事があった。彼女は机に向かい、ノートを睨んでいるジュンの隣にびくびくしながら立った。
「ジュン、そのぉ……」
 小さな声だったが、ジュンは気付いていた。だが、彼は机の上を見たまま考え込んでいた。考えているのは勉強の事ではない。今、隣で小さくなっている彼女の事だ。
 夢の中の彼女は随分と変態チックだった。体を縄で縛り、鞭で叩いてくれと頼んできた。いわゆる、SMプレイというやつだ。あの衝撃的な映像は、今でも鮮明に思い浮かぶ。
 それでも、あれは全部、自分の妄想だとジュンは思っていた。夢の中の出来事だったので、現実味が乏しかったのだ。しかも、あんなとんでもない展開だったので、そう思えてしまう。
 しかし、今日の翠星石は明らかにおかしかった。ジュンを見る時は、必ず機嫌を伺うような目をし、普段の口の悪さも鳴りを潜めていた。ジュンは朝から一度も「チビ」と言われてない。こんな日は初めてだ。
 そして現在、彼の横にはしおらしくしている翠星石の姿。こう言うのも変だが、ジュンは夢の中の出来事が現実だったのだと思い始めていた。

 無視されたと思った翠星石は、次の言葉を出せずにまごまごとしていた。考えが纏まったジュンは、おもむろに彼女を見下ろす。あれが現実なら、面白い事になるかもしれない。そう思いながら。
「どうした、翠星石」
 声を掛けられた翠星石は、素早く顔を上げる。安堵したのか、その顔はやや明るい。そして、もじもじと指を絡めながら、伏目がちになる。
「えっと……ジュンにお願いがあるですぅ」
「何だよ」
 ジュンが珍しく聞く態度を見せる。普段なら、人形のお願いなんかまともに聞こうとしない。乗せられているとも知らず、翠星石はその態度に感謝して先を話す。
「昨日の夜の事、見なかった事にして欲しいですぅ」
 来た! とジュンは胸の内でほくそえんだ。あれが夢ではない確証が持てた。夢の中で情けない思いをさせてくれた仕返しができるというものだ。蒼星石に利用されたジュンの心は、穏やかという訳にはいかなかった。
「嫌だね」
 即座に拒否するジュン。瞬く間に翠星石の顔色が変わる。ジュンは怒っている。嫌われてしまった。最悪な考えが頭をぐるぐる回る。それでも、彼女は青くなった顔で重ねてお願いする。
「お願いですぅ。翠星石を嫌わないで欲しいですぅ」
 彼女の瞳に涙が浮かび始める。その捨てられた子犬のような姿が、ジュンの邪な感情を昂ぶらせる。彼は彼女を脇の下を持って抱き上げ、鼻先が触れそうな距離で目と目を合わせる。
 突然のことに驚いていた翠星石だが、今の立場では反抗できない。彼女はおとなしくジュンの黒い瞳を見る。
「僕に忘れて欲しいか?」
「はい、です……」
 翠星石が素直に返事をするのを見て、ジュンの唇が歪む。そして、とんでもない事を要求しだす。
「だったら、条件がある」
「何です?」
「僕の下僕になれ。僕の言うことは何でも聞いて、僕の身の回りの世話をするんだ」
「そ、そんなのッ!!」
 到底、聞き入れられるような条件ではなかった。これでは、奴隷になれと言っているのと同じだ。いや、それ以下だ。
 しかし、翠星石の心は全てを拒否してはいなかった。心のどこかに、ジュンの下僕になりたい自分が居た。彼女のMの部分が疼く。何より、この条件を呑めば下僕とはいえ、ジュンとの関係が断たれずに済む。そして、ジュンの甘い囁きは続く。
「みんなにも黙っといてやるからさ。蒼星石も困るんじゃないかなぁ。双子であんな遊びをしていたなんて知れたら」
 翠星石が負けを認めて目を逸らす。大事な妹を引き合いに出されたら、彼女は白旗を揚げるしかない。
「ジュンの下僕になるですぅ……」
「いい子だ」
 ジュンの唇が一層大きく歪む。翠星石を胸に抱き、子供をあやすように頭を撫でる。彼がこんなに優しくするのは雛苺だけだ。翠星石は後悔しながらも、暖かい手に幸せを感じずにはいられなかった。

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 下僕を手に入れたジュンは、早速使ってみたくなってきた。抱いていた翠星石を床に下ろし、白々しく呟く。
「喉が渇いたなぁ〜」
 翠星石の耳がピクンと動く。役目を悟った彼女は、駆け足で部屋を出て行く。うんうんと頷くジュンは、それを満足して見送った。

「ジュン、水を持って来たですよ」
 一分も経過しないうちに翠星石が戻ってきた。出されたトレーの上のコップには透明の液体が満たされている。ジュンはそれを指して尋ねる。
「何だ、これは」
「だから、水です」
 中身は先ほど彼女が言ったとおりの水だった。ジュンはコップを手に取り、翠星石の頭の上でひっくり返す。
「きゃっ、何するですかっ!」
 頭に落ちた水が滝を作って床を濡らす。彼女の濡れた前髪が頬に張り付く。ジュンは空になったコップをその濡れた頭に置いた。
「馬鹿か、お前は。僕はミネラルウォーター愛好家でもないっての。水なんか持ってくるなよ」
「でも、急いだ方がいいと思ったです……」
「運動後でもないのに、急ぐ必要ないだろ。少しは考えろ」
「はいです。ごめんなさいですぅ……」
「コーヒーでいいよ。あと、ちゃんと絨毯は拭いとけよ」
「わかったですぅ」
 翠星石は頭のコップを持つと、文句一つ言わないでタオルを取りに行った。
 一人になったジュンは大きく息を吐いた。彼も緊張していたのだ。人を使うことに慣れてない彼は、水をかける前からかなり心臓の音を早めていた。無論、罪悪感もあったが、今は言い知れない達成感に満たされていた。

 翠星石は絨毯の水気を取ってからコーヒーを淹れに向かった。その間、ジュンは勉強の続きでもして待つ。
 経過すること三十分。やっと翠星石がコーヒーを持って戻ってきた。しかも、何故か満面の笑みで。
「お待たせですぅ」
「本当に待たされました。いくらなんでも遅すぎだろ」
 嫌味たっぷりの返事を返すジュン。これには翠星石の顔も曇る。
「コーヒーの粉の場所が分からなかったです……」
 この家では紅茶ばかりでコーヒーはあまり飲まれない。それで、翠星石はインスタントコーヒーを淹れるのにも時間が掛かってしまったのだ。
 香ばしい香りに鼻を刺激され、ジュンはカップに手を伸ばす。一口啜るとブラックだった。ジュンはブラックが好きではない。また絨毯に飲ませようかという考えが頭を過ぎる。
「どうですぅ……?」
 不安げな彼女の瞳がジュンを見上げる。不覚にも、ジュンはその瞳に吸い込まれそうになってしまった。彼は慌てて視線を外す。
「悪くないかも」
「よかったですぅ」
 翠星石の表情が花が咲いたように明るくなる。お手伝いさんよりも酷い扱いを受けて、どうして笑っていられるのか。見ていられなくなったジュンは、机に向き直って鉛筆を握る。
 ジュンの勉強が終わる夜中まで、翠星石は机の隣で彼の横顔を眺めていた。

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「あれ、翠星石は?」
 遊びに来た蒼星石が姉の姿を探す。リビングに真紅と雛苺と金糸雀は居るのに、翠星石の姿だけ無い。ソファーでテレビを見ていた真紅が、やや不機嫌そうに答える。
「まだ寝ているわ」
「今日もなの?」
「まったく、ジュンの病気がうつってしまったのかしら……」
 現在の時刻は午前十時を回った所。もう朝とは言い難い時間だ。規則正しい生活を重んじる真紅にしたら寝坊もいい所だ。蒼星石が言ったように、この朝寝坊は今日だけではない。もうかれこれ一週間は連日で続いていた。
 しかし、彼女が怒っているのは、このためだけではない。丁度、その原因がリビングに現れる。
「蒼星石、来てたですかぁ。おはよーですぅ……」
 眩しさに目を細めて翠星石が起きて来た。彼女だけなら、真紅も別に気にはしない。問題は、彼女が一人で起きて来たのではない事だ。雛苺がそれを見つけて元気よく挨拶をする。
「ジュン、おはようなのっ」
「ん、おはよー」
 ジュンと翠星石が揃って起きて来た。眠そうな顔もお揃いで。しかも、こんな日が連続で一週間は続いていた。真紅の心中は察して余りある。
 ジュンの下僕になった翠星石は、主人と同じ生活リズムになるしかなかった。主人よりも早く寝る召使いなんて聞いたことがない。彼女は主人が眠ってから寝床に入り、主人を起こすために先に起きる。そんな毎日を過ごしていた。
 だから、ジュンと翠星石が一緒に起きてくるのは必然であるのだが、二人の新たな関係を知らない真紅は気が気でない。
 もっとも、真紅の懸念が現実になりつつあるのも確かだった。上下関係がはっきりしたおかげで、翠星石はジュンに無用な反発を起こさなくなった。それに、人前でも自然体でジュンと話せるようになった。
 二人の距離は確実に縮まっていた。たとえ、その方法が間違っているとしても……。

 翠星石はジュンをキッチンのテーブルに着かせ、冷蔵庫を開ける。
「牛乳でいいです?」
「ああ」
 小さな体でリッタ−入りの牛乳をテーブルまで運び、ジュンの前でコップに注いで出す。ジュンが牛乳を飲んでいる間に食パンをトースターにセットし、ジャムとマーガリンを用意する。彼女の下僕生活は板に付きつつある。
 それを見ていた真紅の眉が不快感でピクリと動く。あれではまるで主人と使用人の間柄ではないか。同じ薔薇乙女として見過ごす訳にはいかない。真紅は嫉妬の感情を押し込めるように胸の内で文句を並べる。
 そして、仲が良く見える二人に心を痛めていたのは真紅だけではなかった。
「うゅ、蒼星石、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
 複雑な顔でキッチンを見つめていた蒼星石は、周りが見えなくたっていた事に気付いて取り繕った笑みを見せる。
 平気な顔で姉を顎で使うジュンが憎い。姉の弱味を握って、あんなにさせていると想像するに難くない。だが、新妻のように幸せいっぱいでいる姉を見ては敗北感を拭えない。彼女は不本意ながらも姉の想いを認めつつあった。

 ついに真紅は我慢の限界を超えた。翠星石は朝起きてから夜寝るまで、ジュンの傍に付きっ切り。ジュンの使ったちり紙まで喜んで捨てる始末だ。彼女を鏡の部屋に呼び出し、並ならぬ剣幕で睨みつける。
「最近の貴女は少し――いえ、かなり変よ。ジュンにいいように使われて。一体、どうしたっていうの?」
「別に使われてるわけじゃないですぅ……」
 翠星石は困って尻窄まりな声になる。彼女はジュンとの秘密の契約で困っている訳ではない。それよりも、今は余計な詮索をする真紅の方が迷惑だった。
 下僕になったと言っても、主人は割と良心的な中学生。翠星石が従順な事もあり、酷い待遇ではなかった。彼女はその辺の召使いと同様の毎日を送っているだけだ。
 むしろ、その生活に彼女はどっぷり嵌まっていた。理由がなくても堂々と好きな人の傍に居られるのだ。それも、四六時中。ジュンの世話なら苦にもならない。
「では、貴女が望んでしているとでも?」
「そうです。それのどこが悪いですか」
「貴女は誇り高いローゼンメイデンなのよッ。人に媚び諂うような真似はおよしなさい」
「私はローゼンメイデンの前に一体の人形ですぅ。人形は持ち主のためにその身を尽くすものですよッ」
 翠星石が開き直ったのをきっかけに、二人は大論争を繰り広げ始めた。真紅は薔薇乙女の在り方を説き、翠星石は人形の在り方を説く。どちらも一歩も譲る気配はない。

「真紅ぅ、翠星石ぃ、のりがごはんができたって〜」
「あら、もうそんな時間?」
「つづきはまた今度ですぅ」
「そうね」
 二人の論争が終わったのは、夕飯が出来上がった時だった。のりに頼まれて呼びに来た雛苺は、二人の争いを決死の思いで止めたのだ。散々言い争って少しは気が晴れたのか、真紅に笑顔も見えていた。

 ジュンには翠星石の考えが解らなかった。弱味を握られて使いっ走りをさせられているのに、いつもニコニコと彼の隣に陣取っているのだ。拍子抜けするのと同時に、何か負けたような気がしてならない。
 彼は思いついたようにマウスを動かし、通販のページを開く。
「これでも買ってやるか」
 薄気味悪い笑みを浮かべ「買い物かごに入れる」のボタンをクリックした。

 今夜もジュンは机に向かって勉強に精を出していた。ベッドでは翠星石が仕事を待って座っている。
 真紅と雛苺が鞄に入って一時間は過ぎた頃、ジュンが机の上にそれほど大きくない段ボール箱を置いた。それを見ていた翠星石が気になって尋ねる。
「何ですぅ?」
「何だろうなぁ。翠星石、ちょっとこっちに来い」
 鼻歌交じりで箱の中に手を突っ込むジュン。翠星石も少しは訝しがりながらもベッドからピョンと飛び降り、言われるままに傍に行く。
「お前にピッタリの服をプレゼントしてやろう」
 ジュンはニンマリと趣味の悪い笑みを見せて、箱からソレを取り出した。翠星石の眼前でソレをひらひらと両手で掲げる。
 ソレはフリルの付いたエプロンに似て非なる物。そう、一部のマニアに絶大な人気を誇るあの服――メイド服だ!
 翠星石は唖然として固まっている。それはそうだろう。下僕にされた上に、その制服まで着ろと言うのだ。屈辱的な事この上ない。彼女の驚く様子に満足したジュンは、次は屈辱に歪む顔を期待した。だが、そうは事は運ばない。
「大事にするですぅ……」
 翠星石は自ら服を受け取り、胸元でぎゅっと抱き締める。彼女は嬉しさのあまり驚いていたのだ。ジュンからプレゼントされたのは、全員に配ったオルゴールを除けば、これが初めてだった。メイド服でも服は服。女の子には嬉しいプレゼントだった。
 嫌がらせのつもりが感謝され、今度は逆にジュンが唖然とする番だった。次第に罪悪感を自覚し始め、それと共に、うまくいかなかった事で気分が悪くなってくる。
「やっぱ、お前馬鹿だろ」
「え?」
 ジュンは感情に任せて思わず口走ってしまった。翠星石は信じられないという顔で見上げる。だが、もう止まらない。止められない。
「その服が何か知ってるか」
「メイドさんの服です。それくらい知ってるですぅ」
「恥ずかしくないのか? そんなの貰って嬉しいのか?」
「ジュンがくれた物ですぅ。嬉しいに決まってるですぅ」
 普通なら誰もが聞いて喜ぶ彼女の言葉なのだが、今はジュンを追い詰める言葉にしかならない。暴走したジュンは、段ボール箱に手を突っ込んで新たな道具を出そうとする。コレは直前まで使おうか迷っていた、メイド服以上に危ない代物だ。
 だが、今のジュンは躊躇わない。その代物をがっちり掴んだ彼は、翠星石の鼻っ面に当たりそうな勢いで突き出す。
「じゃあ、コレも喜んで受け取れるよな」
 最初、翠星石は何が出されたのか分からなかった。だから、よく見てみる。それは棒状で、太さが微妙なラインで変化している。そして、こけしに似ている。
 もう説明するまでもないだろう。出されたのは、男の象徴を模した物だ。しかも、電池で動くヤツ。いわゆる、バイブだ。
 翠星石はこの物体を知っていた。電動とまでは知らないが、男の性器の形くらいは知っている。彼女は物が判明したとたん、耳まで真っ赤にして立ち尽くす。
「どうした、欲しくないのか」
 ジュンは駄目押しとばかりに、親指をスライドさせて電源スイッチをオンにする。モーター音と怪しい動きに「ヒッ」と小さな悲鳴を上げる翠星石。その怖がる様子を見て、ジュンはやや余裕を取り戻した。下衆な笑みを作って言葉で嬲る。
「こんなのは欲しくないよな。ああ、要らないのか。人形のお前じゃ使えないもんな」
 ジュンは自分でも酷い事を言ったと思った。彼女は人形でも、人間と変わらない苦しみを持って生きているのを彼は知っている。姉妹と戦うために作られた悲しい人形なのだ。
 しかし、翠星石は今の言葉をそれほど深刻に受け止めなかった。自分が人形で人間でないのは解りきっている事であり、お父様に頂いた体に誇りこそあれ、不満は無かった。だから、彼女はジュンの言葉にこう答える。
「夢の中なら、使えるですよ……」

 瞬間、ジュンの中で何かが切れた。どうして、この人形は拒まないのか。絶対服従の約束を交わしておいて随分と勝手な物言いだが、ジュンは翠星石に拒否して欲しかった。善人の彼では悪を演じ続けられなかったのだ。
「そんなにコレが欲しいのか。なんなら、僕の自前のでもくれてやろうか」
「ジュンがしたいなら、それでも――」
 言い終わらないうちに、ジュンが力任せに手の玩具を投げつける。それは硬い音を立てて翠星石の額に当たり、ゴトリと絨毯に落ちた。額を押さえた彼女が、痛みで顰めた顔で見上げる。
「い、痛いですぅ……!! 何するですかっ」
「もうやめだッ!! お前を今から自由にしてやる。もう僕の言うことなんか聞かなくてもいいぞ」
 突然の下僕解雇通告だった。ジュンは怒りで声を震わせてそれだけ言うと、机の段ボール箱を片付けてノートと教科書を開く。
 驚いて呆然としていた翠星石だが、その意味を理解して必死に抗議する。これでは、ジュンとの距離が離れてしまう。
「ちょ、ちょっと待つですっ。そんなの駄目ですよっ」
「安心しろ。あの事は忘れるから」
「そんなんじゃねーですぅ。翠星石が悪いですか? 何かジュンの気に障ることをしたですか?」
「もういいって」
 恋人の別れ話の時のように食い下がる翠星石。おかしな話だが、彼女は今の主従関係をかなり気に入っていた。だが、ジュンは机の上を見たまま相手にしようとしない。彼女のそんな姿は見ても辛くなるだけだ。
 諦められずに喚いていた翠星石だが、彼女はすっかり忘れていた。今は夜中なのだ。この部屋には他の住人も居る。
「……静かになさい。眠れないじゃないの」
 鞄が開き、紅いドレスの少女が目を覚ます。ピタリと翠星石の声が止み、代わりに低い振動音が聞こえ始める。放り投げられたバイブが、まだ床の上でくねっていたのだ。真紅が気になって音のする方を見た瞬間、翠星石が目にも留まらないスピードでそれを回収する。
「おほほほ、ごめんなさいですぅ。静かにするですから、さっさと寝るですぅ」
 いかにもという作り笑いをする翠星石の後ろから、まだ振動音は聞こえてくる。彼女はスイッチの切り方を知らなかった。真紅は何かを隠しているのを気付いていたが、隠そうとする物を無闇に追求するのも無粋だと思い、そのまま寝てあげることにした。
「そう……では、おやすみなさい」
 気持ち悪いほどの笑顔で「おやすみですぅ」と返す翠星石。そして、鞄が閉じたのを確認してすぐ、今も唸りを上げているバイブを止めようと悪戦苦闘する。
「このっ……どうやって止めるですか……っ!」
 ブルブルと動く部分を両手で握り締めて押さえようとする翠星石。見かねたジュンが上からひょいと取り、スイッチを切って彼女の手に戻す。
「ありがとですぅ」
 自然に礼を言う翠星石は、真紅が起きる前の出来事をすっかり忘れていた。この後すぐにそれを思い出すのだが、また真紅を起こしてしまいそうで何も言えなかった。

「ジュンぅ、あっさでっすよぉ〜」
 ベッドによじ登った翠星石が、寝ているジュンの顔を覗き込んで起こす。これが彼女の一日の仕事の始まりだ。だが、仕事だったのは昨日まで。彼女はクビにされたのだ。
 甘い声で覚醒を迎えたジュンは、シーツを頭まで被って抵抗する。昨日までの彼なら素直に起きていたのだが、今日は様子が違った。
「もう十時過ぎですよぉ」
 それでも、翠星石は彼の肩を揺すって起こそうと頑張る。無視していたジュンだが、いつまでも肩は揺すられた。仕方なく、シーツの下から不機嫌な声を上げる。
「もう起こさなくてもいいって。秘密は誰にも言わないから」
 揺する手が止まる。昨晩と同じことを言われ、翠星石の胸は淋しさでいっぱいになる。どんな形であれ、ジュンに必要とされた日々は楽しかった。まだ終わらせたくない。考えた彼女は、とんでもない屁理屈をこねる。
「そんなの信じられねーです」
 ジュンは耳を疑った。信じられないのは彼女の言葉の方だ。本人が許すと言ってるのに、自ら束縛されようとしている。彼女の詭弁に頭に来た彼も詭弁で返す。
「信じてくれないなら、みんなにばらすぞ」
「そ、それは困るです」
 そう返されるとは思ってなかった翠星石は、焦って尻込みする。そこをジュンがすかさず畳み掛ける。
「だから、もういいんだって」
「よかねーですっ。なにがなんでもジュンに起きてもらうですよっ」
 言い負かされた翠星石は、開き直ってシーツを掴み、引っぺがそうとする。もう言ってる事も滅茶苦茶だ。負けじとジュンもシーツを掴み、寝起きからやりたくない綱引きをさせられる。
「ほっとけよ……!!」
「ほっとかねーですっ」
「なんでそんなに僕に構うんだよッ」
「そ、それはですね……」
 言い合いするうちに、ジュンのある言葉が翠星石を直撃した。彼女はシーツを手放して口篭る。
 その隙にジュンはシーツに包まってがっちり確保し、彼女に背中を向けた。勝ちを確信した彼は目を閉じたが、すぐに開ける羽目になる。彼女のこの言葉で。
「ジュンと離れたくないからですよ。よーするに「好き」ってことですぅ。ええい、女に言わせるなですぅっ……!」

 廉恥心と恐怖心を振り払おうと最後は捲くし立てる翠星石。
 ジュンには思いもよらない言葉だった。強請って下僕扱いした彼女が、好意を寄せてくれているなど。
 思い返せば、そんな節が随所に見られた。最初からその可能性を否定していたジュンは、彼女の気持ちに気付けなかった。真面目な彼は、そんな都合のいい展開は端から投げ捨てていた。
 だが、ジュンは彼女の気持ちを知ってしまった。その想いを踏みにじるような行為もした。彼は申し訳ない思いに駆られる。
「ジュン……?」
 黙って寝ているジュンに、おずおずと声を掛ける。本心を伝えてしまった彼女は、不安で胸が潰れそうだった。この場合は言うしかなかった。それでも、後悔の念が燻る。
 しばらくして、ジュンが上半身を起こした。
「起きるよ」
 返事はこの一言だけだった。だが、彼女にはそれで充分だった。ありったけの笑顔を見せてから、ベッドを飛び降りる。
「さっさと起きるですぅ。朝食はパンでいいですぅ?」
「ああ」
 今日も翠星石の下僕な生活が始まった。朝食を確認してから、二人は揃って一階に下りる。そこで真紅や蒼星石に睨まれ、キッチンでジュンの食事の世話をする。
 もっとも、ジュンはもう彼女を下僕だなんて思ってはいない。何しろ彼女は、彼の大切な人――いや、お人形なのだから。

おわり
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書き上がったので一気に投下
思いつきで始めたけど、どうにかまとめられて一安心
これ書いて痛感したこと

ケットシーに虐待は無理でした

そっちを期待した方はごめんね
感想くれた方、読んでくれた方、ありがとー
では、またネタが浮かんだらカキコするっす

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