翠星石はジュンにもっとかまって貰いたかった。
勉強の時間も読書の時間も、ジュンと真紅はいつも一緒の時間を過ごしていたので、
翠星石は割り込もうにも割り込めず、じっとドアの隙間から覗いているだけだのだった。
「きぃ―――、チビ人間ときたら翠星石のマスターでもあるですのに、
いっつも真紅とばっかりベタベタしやがってですぅ、ムカムカするですぅ―――!」
一人キッチンで紅茶を飲みながら、何とかジュンと一緒に過ごせる時間を作れないかと熟慮する翠星石。そして閃いた。変な方向に。
「そうですよ、真紅が寝ている夜の時間帯を翠星石とジュンの甘い時間にすればいいのです。昼間の時間は真紅にくれてやるです。
これからは大人の時間にジュンと翠星石の楽しい時間が始まるですぅ。ひひひひひ。」
そして夜、真紅が寝ているであろう時間帯を見計らって、翠星石はジュンの部屋にニコニコしながら入ってくる。
「チビ人間―、真紅が寝てしまって退屈してるんじゃないかと思って、
翠星石が来てやったですぅー。いっしょにお話でもするですぅー。」
そこまで言って、翠星石は重大な事実に気がついた。
そう、夜はジュンだって寝ている。
だけど、そんなことでは諦めきれない翠星石、ジュンをゆすって当初の目的を果そうとする。
「チビ人間、起きるです、はやく起きるです」
「んー何だよ、何かあったのか?」
「えへへへ、すこし翠星石とおしゃべりするです」
「えー、今何時だと思ってるんだよ、明日にしてくれよ」
「だって、明日になったらまた真紅とばっかりべったりで翠星石はつまらねぇです」
「勘弁してくれよ、あしたはちゃんと付き合うから、な?」
生返事しながら眠りこけるジュン。
「あーもう、起きやがれーですぅチビ人間!翠星石と一緒におしゃべりしたり、
紅茶を飲んだり、焼きリンゴを作ったりするですー!」
「わかったわかった、遊ぶから、遊びますから、遊んでください。で、何するの?」
観念したかのように上半身を起こして、翠星石に向き合うジュン。翠星石も嬉しそうにジュンのパジャマの袖を掴む。
「わっかればいいのですよ、えーと、えーと、とりあえず…ちょっと待つです!」
うきうきしながら階下に降りていく翠星石、しかし、トランプやらチェスやらボードゲームやら、
抱えきれない遊具を持って再びジュンの部屋に戻ると、ジュンは既に爆睡状態。
「ジューンー!!ほら、しっかりしやがるです!寝るんじゃねーです!もっと翠星石をかまうです―――!!」
何をしても反応無し。翠星石になされるがままにぐーぐー寝息を立てている。
翠星石もはや涙目。
「ううぅぅぅ…こうなったら実力で真紅から引き離してやるです。翠星石の恐ろしさを見せてやるです。覚悟しやがれです!」
そう言って翠星石はジョーロを取り出す。こうして翠星石の夜のおしゃべり計画は失敗した。
次の日の朝は、ジュンの叫びから始まった。
「何じゃこれぇぇぇぇ――――!」
「…うるさいわね…ジュン、一体何だって言う…」
その叫びに目覚めた真紅が見たものは、ジュンのベッドに描かれた見事なまでの世界地図。
しかもかなり洪水状態。
「ジュン…あなた、まさか?その年で…」
「わー――違う、断じて違う!」
タイミングを見計らってやってきた翠星石がここぞとばかりに駄目押しの一言。
「あぁーあ、チビ人間ってば、オネショしてやがりますです、これはかなり恥ずかしいです、けけけ」
「違うんだー絶対何かの間違いだぁー!」
ジュンから離れて距離をおく真紅、でも心の距離だと東京―ロサンゼルス位。
その仕草をみて、思わずガッツポーズをする翠星石。
それから一週間、真紅は生活の場をのりの部屋に、紅茶ものりに淹れて貰っている。
ジュンは魂が抜けたように「ちがう…僕じゃない…」とぶつぶつ言いながら放心状態。
そんなジュンの傍で楽しそうにおしゃべりする翠星石。
大切な何かをなくしたかの様なジュンではあったが、一緒にいられる時間が増えて幸せな翠星石にとって、
それはどうでも良いことだったのでした。
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なんか誘導されたので、こっちに書いてみますた。