みっちゃんの家の電話が鳴った。
いつもの様に金糸雀を溺愛して喜んでいたみっちゃんの表情が、その電話に出るなりみるみる曇っていった。
それは学生時代に仲の良かった友達の死を告げる電話だった。
「どうしたの?みっちゃん、何かあったのかしら〜?」
金糸雀の無邪気な問いに、彼女はいつもの調子で返事を返す。
「カナ〜ごっめーん!!ちょっと急用で家を空けるね〜、お土産何がいい?」
「えーとね、えーとね、シュークリームが食べたいかしら〜」
金糸雀の屈託の無い笑顔に微笑を返し、みっちゃんは夜の街に出かけていった。

暫くして、みっちゃんが帰ってきた。顔の血の気は失せて、目は深い悲しみを湛えていた。
「おかえりーみっちゃん…どうしたの?なんだか元気ないみたい…」
「ちょっと疲れただけよカナ、何でもないわ。それよりお土産、ここのシューは味が最高って評判なのよ、ささ、食べて食べて」
みっちゃんは金糸雀に心配をかけまいとして、無理に笑顔を作って一緒にシュークリームをほおばった。
そしていつもの通りカナと一通り遊んだあと、一人になったみっちゃんはベッドの中で無言で泣いていた。
そんな姿を、陰で心配そうにこっそり見ている金糸雀。
自分が悲しんでいる風など少しも見せないで、明るく振舞うみっちゃんの姿に金糸雀の胸が痛んだ。
「みっちゃん…無理してるかしら」

翌日、みっちゃんが外に出かけた後、金糸雀は彼女が元気を取り戻す方法を考えてみた。
「ねぇピチカート、みっちゃんの為にカナに出来ることって何があるかしら?」
人の悩みはそれぞれである。時に解決方法は見つからない事だってある。ピチカートは金糸雀の周りをくるくると明滅しながら回っている。
「そうよね、最善の事をするまでかしら!」
そういって金糸雀は自分に出来る精一杯のことをしようと考えた。

夜、葬儀から戻ったみっちゃんは、金糸雀に心配をかけまいとして、笑顔で家に帰ってきた。
「ただいまーカナ!」
そういってドアを開けたみっちゃんは、室内の装飾をみて言葉を失った。
そこには室内一杯に飾られた野辺の花々が、綺麗な色のハーモニーを醸しだしていた。
それは金糸雀が昼間一生懸命摘んできた花々だった。
「おかえりーみっちゃん、いつもがんばってくれてるみっちゃんに、カナからの感謝を贈るかしら〜」
金糸雀は少々照れながら、自分で作った小さなブーケをみっちゃんに差し出した。
みっちゃんは理解していた、そこに金糸雀の優しさも花開いていた事が。
金糸雀からブーケを受け取りながら、花々に見とれるみっちゃんに、金糸雀は彼女の重荷を少しでも軽減しようと言葉をつなぐ。
「みっちゃん、カナに気を使って無理しなくてもいいからね…」
金糸雀の言葉に湧き上がる悲しみを堪え切れず、みっちゃんはその場でうずくまる。
「カナ…私の友達が…大好きだった友達が…死んじゃったのよ…」
金糸雀はようやく彼女の悲しみの訳を知る事ができた。が、それはどうする事も出来ない問題だった。
「泣かないでみっちゃん…」
そう言葉をかけるのが、金糸雀にできる精一杯の事だった。
涙に赤く腫れた目を伏せながら、みっちゃんは金糸雀を抱き寄せる。

金糸雀はみっちゃんの為にバイオリンを取り出して音を奏でる。
「聴いてくれるかしら、みっちゃん」
「ん…」
みっちゃんはソファーにもたれて目を閉じて静かに聴き入っている。
静寂の中よりすべり出すバイオリンの調べ。
演奏者ひとり観客ひとり、二人だけの小さな演奏会が催された。
金糸雀は心を込めて、Salut d’amor エルガーの『愛の挨拶』を奏でている。
フランス語の題を持つやさしいバイオリンの小品。
それはエルガーがアリスに贈った愛の贈りもの。
「ねぇ、みっちゃん…」
バイオリンを奏でながら金糸雀はみっちゃんに自分の想いを伝える。
「ん?…」
音楽に聴き入りながらみっちゃんも耳を傾ける。
「カナはみっちゃんと一緒に悩みたい。何の力にもなれないかも知れないけど、
でもカナはみっちゃんが大好きだから…」
「カナ…」
―-―曲が静かに終わる。
たった2分半の演奏だけど、2人にはそれで充分だった。
みっちゃんは、演奏の終わった金糸雀をそっと両手で抱きしめる。
「すてきな曲をありがとう…いつか、私もカナと一緒に演奏ができたらな…って思った」

それから2人は夜が更けるまで色々な話をした。
古いアルバムにはちょっとだけ小さなみっちゃんが、金糸雀の知らない女の子と笑顔で微笑んでいた。
大好きだった友達、学校の思い出、先輩への憧れ、未来に描いていた夢、喜びや悲しみ…胸の思いを彼女は金糸雀に伝えた。
初めて知るみっちゃんの思い出のアルバム。それはみっちゃんの歩んできた人生の断章。金糸雀は頷きながらそれを聞いている。
悩みを相談してくれるという事が、金糸雀はとっても嬉かった。
人は色々な思いを経験し、成長して行く。
決して一人では歩まない長い道のり。永く続くようで続かない一瞬の灯火。
人に与えられた時間の外に生きる金糸雀には、いつか必ずみっちゃんとも別れの時はやってくる。その時金糸雀は何を思うのだろうか。
でも、今の金糸雀は夢の終わりを信じない。
限りなく澄んだ星空が2人の想いを包み込んで、時は静かに流れて行く。
これから2人で歩む未来の扉の先には、きっと素敵な明日が待っている。
金糸雀はそう信じている。

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