初めて投稿します。
ローゼンSSを書くのは初めてなので雰囲気をちゃんと掴めているか不安です…。
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カチ……カチ……カチ。

パラ……パラ……パラ。

ジュンの部屋。
特に目的もなくインターネットをだらだらと続けているジュンと、ベッドの上で本を読み耽る真紅。
二人ともまったく会話を交わさないまま、互いの時間を楽しんでいた。
下の階から翠星石と雛苺が喧嘩して騒ぐ声が微かに聞こえるだけで、静かな昼下がりだ。

「平和だな……」

ジュンはポツリと呟いた。

「そうね」

それに対して真紅は簡単に相槌を打った。
ジュンはモニタから目を離して、椅子に深く腰を埋めながらちらっと真紅の方を盗み見た。
ただ本を読んでいるだけの真紅が、何故か少し口元に笑みを浮かべているように見える。

―――随分と表情が柔らかくなったもんだな、僕のとこに来た頃と比べて。

これまでずっと続いてきて。
そしてこれからもずっと続いていくであろう平和な日々を象徴するかのような穏やかな笑顔。
でも実際は。
いつ始まるかわからない、いつ"ただの"人形になってしまうかわからないアリスゲームが待っているというのに。
どうしてそんな穏やかな顔ができるのだろう。

「真紅、聞きたいことがあるんだけど」

「あら、何かしら?」

真紅は本から顔を離さずに答えた。

「どうしてそんなに平和そうな顔してんだ?
 いつ水銀燈とかが襲ってくるかもわからないってのに」

そう尋ねると真紅は少し笑ったように思えた。

「今の私が平和そうに見えるのは当然でしょう、実際平和なのだから。
 ジュンにはそういう実感が無いのかしら、あまりそういう顔には見えないけれど」

穏やかな日常と、一変した激しい戦い。
その両端を経験してきたからこそ生まれるのがその穏和な笑みだ、ということらしい。
それに対して、ジュンは。

「………僕にはよくわからないな、いつ自分に危険が迫ってくるかもしれないってのに」

そこでようやく真紅は顔を上げた。

「じゃあ、いつ来るか知れない危機に常に備えなさい、とでも言う気?
 常に緊張を張り巡らせることなんて出来ないし、それが有効な手段だとはとても思えないわ。
 それよりも、今という時間をどう楽しむかということの方がよっぽど大事よ」

ジュンは横を向いて真紅と目を合わし、確認するように聞いた。

「たとえば、雛苺や翠星石と同じ時間を過ごしたり?」

「もちろんそれも素晴らしい時間のひとつだわ」

人形のくせに、人間よりも人間らしいことを言ってる気がするな、とジュンは素直に受け止めた。
僕はここに閉じこもりすぎたせいで、人間性が欠けてしまったのではないか―――とさえ思えた。

「僕は―――心配なんだよ」

今度は視線を落として独り言のようにそう呟き、俯いたまま椅子から立ち上がった。
真紅は首を傾げながらそれを見ている。
ベッドに乗っかり、そして真紅のちょうど真後ろに、互いにもたれかかるようにしてベッドに座った。

「アリスゲームって、相手のローザミスティカを奪っていくんだろ?
 奪われたローゼンメイデンはただの人形へと還る。
 でも真紅はそうしないで、自分のやり方でやっていく……」

「ええ、そう。
 あくまで私は私のやり方を貫き通すつもりだわ」

真紅はその後に続くジュンの言葉を読んだのか、その答えには余裕すら見せて何の迷いも無かった。
一方ジュンは、どう言っていいのかわからずひとつひとつ言葉を選んだ。

「本当に大丈夫なんだろうな。
 これから先、どうなるかわからないだろ?
 あいつらにも何が起こるかなんてわからないし……でも……僕は……。
 おまえと、雛苺と、翠星石が争う姿なんて絶対に見たくないからな」

「ジュン、この世の中にはどうしても抗いきれない運命というものが存在していることを認識しなくてはいけないわ。
 でも運命のせいにしてしまっていいのは、本当に最後の最後。
 それまでは決して諦めてはいけないし、私は諦めるつもりはないから、安心しなさい。
 ジュンにそんな辛い思いをさせないためにも、私は最大限の努力を決して怠らないわ」

真紅は人形だっていうのに…その言葉の厳しさと優しさ、背中越しに伝わってくる温かさがジュンに直に伝わってきた。

―――僕が、守っていかなきゃいけないってのに。

なんとなくか弱そうだし、放っておけないし、僕のこと心配してくれてるし。
ただ、それだけだからな―――ジュンは心の中にそう理由付けていた。

―――でも、これじゃあまるっきり。

なんだか自分の方が真紅に守られている気がした。

「ジュン、今度は私から聞きたいことがあるわ」

「え…なんだよ?」

「もし」

真紅はそこで一旦言葉を切った。
そして、そんなことは絶対にありえないといった口調で、とんでもない言葉を軽々しく口にする。

「もし私が動かなくなったら、あなたはどうするの、ジュン?」

あまりに突飛な言葉に、ジュンは身体をびくっと震わせた。
そして腰を半回転させて真紅の方へ振り返って声を荒げる。

「なっ……どうしてそんなことを軽々しく言えるんだよ!
 僕がふざけてこんなこと聞いたんじゃないってことぐらい、わかってるだろ!?」

ジュンという背もたれを無くした真紅は、そのままコテンとベッドにひっくり返った。
両手に携えた本はそのままに、上目遣いでジュンを眺める。

「もちろん私だって本気で聞いているのだわ。
 今私が動かなくなったら、この部屋にはジュン独りぼっち……そしたらどうするのかしら?」

本気だと言うわりに、真紅はちょっといたずらっぽい目でジュンを見上げた。

「僕は……僕は、そんなこと考えたくない。
 おまえがいなくなるなんてことは……考えたくない」

「さっき言ったでしょう?
 この世には抗いきれない運命もある、と」

「だったら―――僕も、努力する。
 最大限の努力をするし絶対に諦めない。
 真紅がもう一度動いてくれるように、何だってやるさ」

真顔でそう話すジュンに、真紅は少しだけ頬を赤らめた。
そして相変わらずの柔らかな笑みで、こう言う。

「そう―――いい子ね、ジュン」

―――この笑顔のためなら。

何をしたって、自分の命をかけたって―――

絶対に、守り抜いてみせる。
ジュンは心に固くそう誓った。

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終わりです。
まったりとした話でした。

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