「おお、来たかギンコ。何か面白い物が手に入ったらしいな」
化野先生はもう外に出て待ち構えていた。
「ああ、これは面白い品だ」
挨拶もそこそこに二人は家の中へと入った。
「で、なんだ?」
「まあまあ、慌てなさんな」
ギンコはタバコを取り出し、火を点けた。
「先生、水銀燈ってのを知ってるかい?」
「水銀燈?確か、舶来の呪い人形の…」
ニヤリと笑うと、ギンコは箱から白い陶器のような塊を取り出した。
「なんだ?瀬戸物…とも違うな」
化野先生は不思議そうにそれを眺めた。
「こいつは水銀燈の腹だよ、先生」
「腹?確かあの人形には腹は無いと聞いた事があるが…」
タバコを深く一服した後、もったいぶるようにギンコは話し出した。
「西洋の人形師ローゼンが作った呪い人形の一つ、水銀燈。そいつはローザミスティカというもので人形に魂を入れ、まるで生きているかのように動き、言葉も話したそうだ」
「なんだか式神とかそういう類の話だな」
軽くうなずき、ギンコは話を続けた。
「そのローザミスティカだが、どうやら蟲を使って作り上げるものだったらしい」
「ほう、蟲に作らせるのか。面白いな。どうやって?」
化野先生は身を乗り出し、話に乗ってきた。ギンコはわずかにうつむき、思わずにやけた口元を噛み殺した。
タバコを一つ吹かして、ギンコは続けた。
「人の魂を少しずつ喰らい結晶化させる蟲を使って作った魂の結晶…」
「魂の結晶か。凄いな。そんな蟲がいるのか」
「ああ、ここにいる」
そう言ってギンコは水銀燈の腹を指差した。
「この腹に…いるのか?」
「住み着いちまったらしい」
「なんでこんなところに」
「練りこんだ土に蟲が混じってたんだろう。その事に気が付かなかったローゼンはそのまま腹を作った」
「そして他の蟲を寄せたわけだな」
「まあ、そんなところだろう」
はっと気が付いて化野先生は腹から顔を離した。
「この蟲、危なくないのか?」
「魂を喰らうといっても、ほんのわずかだ。普通の人間なら磨り減りもしないさ」
「そ、そうか」
再び顔を近づけて、マジマジと眺めた。
「で、どうして腹に組み込まなかったんだ?」
「この蟲は結晶を体の内部に溜め込むんだが、蟲の中では結晶の力を発揮できないらしいんだ」
「なるほど、結晶を入れても蟲が取り込んでしまって力を封じてしまうわけか」
「使いたくても使えなかった。水銀燈が腹無しなのは作るのを途中で止めた訳じゃなかったのさ」
唸る化野先生のメガネがキラリと光った。
「幾らだ?」
「安くはないですよ、化野先生」
ギンコはニヤリと笑った。
おしまい