(・・・・だめよ、ううん、でも・・・)
のりのこころの中でいろいろなものが混ざり合って戦いを
繰り広げていました。
でも、もうこれしかないのです。そうこれしか。
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『のり苦渋の決断(ポロリもあるよ)』
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蝉も熱中症で死ぬほどの、酷暑。
この桜田家もその爆撃を受けていないはずがありません。
クーラーは節約の為にずいぶん前から止めています、
じつは桜田家って家計が火の車なのです。
「ジュン、アイスティーを入れて頂戴」
「かきごおりの白熊が食べたいのーー!」
この暑さのせいなのか、真紅と雛苺の好みも変わりました。
みんなが熱さで、少しづつ壊れていっているのです。
そこに目をつけたのは、のりです。
何か考えついたように、めがねをクイッと持ち上げると、
大声で言います。
「はいはーい、みんな、お外でプールするから、
水着に着替えてねぇ」
その言葉に真っ先に反応したのは、翠星石と、金糸雀でした!
あんまり知られていないことですが、この二人ってば、
ローゼンメイデンで1位と2位を争うぐらいの暑さ嫌いなんです!
それは、あつあつのおでんに氷を入れて食べるほどの暑さ嫌いなんです。
「はい、じゃあこっちの部屋で着替えてね。ゆっくりでいいからね」
のりはにっこりと笑顔を見せて、一人一人に水着を渡します。
「さくらだ のり」と名前が書いてあるところから、きっと
のりが小さい頃に使っていた、水着でしょう。
更衣室となったダイニングに黄色い声が響きます。
「真紅の水着かわいいのっ!」
実際、ドール達に水着はよく似合いました。
真紅は赤いリボンタイプのまきまき水着、金糸雀は胸のところに
向日葵の形をしたビキニタイプ。雛苺は、ピンク色のワンピースタイプに、
おしゃれな薄桃色のパレオをつけています。
そんな中、翠星石はスクール水着、蒼星石は競泳水着を
きることになりました。
彼女達に雛苺や金糸雀が着ているような幼い女の子がきる水着は
入らないのです。
「ハァハァハァ」
水銀燈さんはいませんから、計5体のドールが、あーでもないのだわ、
こうかしらー、とキャッキャ、ウフフしているのです。
まさに、乙女の園のパラダイス。
2階にいるジュン君は生殺しもいいところ。悶々がつもりにつもって
今にも爆発しそうです。でも、それはまた別のお話し、
じつはこの更衣室にはのりしか知らない。
よこしまな秘密が隠されているのです。
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#2
「お水なの!海なの!川なの!プールなの!」
おきがえが済んで、更衣室兼ダイニングを最初に飛び出して言ったのは雛苺でした。
空中で2回転半ひねりを加えて頭からビニールプールに飛び込んでいきます。
プールの深さがないので、ごつんと頭をぶつけてしまったのは皆には秘密です。
でも、水の冷たさは本物、雛苺はおおよろこびです!
皆が外で夢中になって楽しんでいるのを確認すると、のりは更衣室だった部屋をあっちでごそごそ
こっちでごそごそ、そしてテーブルの上に3台ものビデオカメラを置きました。
録画ボタンを止め、巻き戻し、再生をします。
そこに移っているのは、先ほどのキャッキャウフフのお着替えシーン・・・。
そう盗撮です、盗撮以外の何物でもないのです。
世の中には稀有な人がいて、こんなちっちゃな女の子の盗撮ビデオをおどろくような
値段で買ってくれる人がいるのです。
のりの心がずきんずきんと痛みます、でも背に腹はかえられません。
こうでもしなければ皆にご飯を食べさせてあげることもできないのです。
「ごめんね・・・しんくちゃん、ひなちゃん、みんな・・・」
ちなみに、あと庭に3台同様に盗撮カメラをセットしてあります。
しかし、ただプールに入っているところを取るのでは、まったく売り上げには通じません。
もちろんサプライズなハプニングは用意してあるのです。
「翠星石の水着・・・ちょっと変じゃない」
蒼星石が翠星石の水着を軽くなでます。たしかにちょっとぶよぶよとしてきて、何かが変なのです。
「気にしすぎですぅ、水着なんて水をすえばこんなにふうになるですよ?」
そう言うと翠星石は頭までぼっちゃんと水につかり、そしてぷはっと水から顔を出します。
「翠星石の水着穴だらけなの!」
雛苺の声が響きます。
翠星石は頭の上にエクスクラメーションマークを出現させ、自分の姿を見ます。
たったあれだけの一連の動作で、まさか水着が破れるはずが・・・。
ですが、本当に破れているのです。
いえ、破れたというにはあまりにもあっけありません、どちらかかというと溶けたという
言葉の方がしっくりくる穴のあきかたです。
溶ける水着・・・何故そんなものを翠星石は着ているのでしょうか。
「きっと、あのチビ人間の仕業ですぅ!通販でこんな怪しいものを買ってきて、きっとどこからか盗撮してるです!
まったくあのハレンチエロチビ!」
みんなの疑惑の矛先はジュンに向かいました。だけどのりにとってはあまり嬉しくありません。皆が警戒し始めたのです。
一人一人とプールからあがり初めてしまったのです。
(そんな・・・こんな映像だけじゃ商売になんかならないわ・・・)
でももうどうにもなりません。もうプールは終わりなのです。
(神様・・・)
そんなのりの願いがどこかに届いたのか、軌跡がおこったのです。
だれもいなくなったビニールプールが光り、そこから何かが現れたのです。
「さ、あ、アリス、ゲームを、はじめ、ましょう・・・」
のりは初対面ですけど、皆は知っています。
彼女は薔薇水晶!
何故かホタテをつけたちっちゃいビキニを着ています!
(ああ、なんだかしらないけどビデオの質が格段にあがったわ!)
(つづく)