吾輩は人形である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所でおとうさまーおとうさまー泣いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。
しかもあとで聞くとそれは引き篭もりという人間中で一番どうしようもないな種族であったそうだ。
この引き篭もりというのは時々我々を捕えて着せ替えて辱めるという話である。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかベタベタした感じがあったばかりである。
掌の上で少し落ちついて引き篭もりの顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。