ある日、ノリが人形たちを呼び集めます。
「パパとママからの仕送りがなくなったので、みんなでお金を稼がないと食べていけないのよ〜」
いきなりの知らせに人形たちも言葉が出ません。
「この家を改装して喫茶店を開業しま〜す、お人形さんたちも手伝ってね〜」
喫茶店開業当日
「じゃあ、ヒナちゃんはウェイトレスしてね」
「わかったなの〜」
「翠星石ちゃんはレジをお願いね」
「仕方ねぇ〜です〜、手伝ってやるから感謝するですぅ」
「真紅ちゃんはね・・・一番大事なお仕事があるのよ」
「ノリ、なんでも手伝うのだわ。言ってちょうだい」
ノリは真紅を厨房に連れて行きます。
「うちの喫茶店は高級紅茶を売りにしようと思うの」
「わかったわ、私が紅茶の茶葉を調合するのね。適任だわ」
ノリはニッコリ笑うといきなり真紅をラーメン屋にあるような巨大な寸胴ナベに放り込みます。
「違うのよ、真紅ちゃんが紅茶になるの」
ナベの上からお湯をドバドバと注ぎこむと真紅は必死で逃げ回る。
「アッ、熱いのだわ!!止めるのだわ〜〜!」
お湯をたっぷり注ぎ、蓋をして煮ること30分。ガタガタとうるさかったナベも静かになった。
「あら〜やっぱり良い色が出るわ〜、香りもいいわね〜」
ノリが蓋を開けると紅茶の中で茹で上がってヘロヘロになった真紅と茶色になった液体が目に飛び込む。
何十年、何百年と紅茶ばかり飲んでいた真紅は体そのものが凝縮された紅茶葉となっていたのだ。
熟成された紅茶は最高級の味わいとなり、ノリの喫茶店は大繁盛した。
「もう、もう・・・ダメなのだわ・・・ジュン、紅茶を淹れてちょうだい」
あれから3ヶ月、喫茶店用の紅茶パックとして使われた真紅はくたびれ果てていた。
名前の通りに真紅だった服は色あせてエビ茶色になり、髪も白髪となっていた。
「喫茶店に改装するために借金したんだから、もう少しがんばれよ」
ジュンはカップに山盛りの紅茶葉をスプーンで食べさせる。
「・・・こんな茶葉ではなく普通の紅茶が飲みたいのだわ」
「真紅の紅茶の出が悪くなってるから仕方ないだろ、がんばって食べろよ」
「つらいわ・・・悲しいのだわ・・・」
「う〜〜ん、困ったわ〜。真紅ちゃんがんばって!」
散々に酷使された真紅は紅茶の出が悪くなり、今日は1時間以上も茹でられていた。
「熱いのだわ!!出して!!」
「仕方ないわ〜。ジュン君、これを使ってね」
ノリは巨大なシャモジをジュンに手渡す。
ジュンはシャモジで強引にナベに押し付け紅茶を搾り出す。
「もう・・・限界なのだわ」
真紅の涙の塩味のせいだろうか、喫茶店の紅茶は評判が悪くなってしまった。
「う〜ん、真紅ちゃん紅茶は限界かしら?」
真紅の服は白く色が抜け、茹でられ続けた皮膚はボロボロと剥がれだしていた。
「・・・なのだわ」
「じゃあ、真紅ちゃんはウェイトレスやってね」
「え〜と、紅茶の味が落ちてきたので新メニューを出したいと思います!」
ノリがみんなを集めて発表する。
「新メニューは・・・苺ジャムケーキです!」
「おいしそうなの〜〜!!」