…体が鉛のように重い。目を開けると見慣れた自室の天井。
「気がついたよ。」こちらを覗き込む蒼星石の顔。
隣には柏葉と翠星石、雛苺。遠くに本を読んでいる真紅がぼんやりと見える。
「その…力を使いすぎてごめんなさいですぅ」神妙な顔つきの翠星石。
そう、いつものようにリビングで翠星石と雛苺がドタバタ暴れて窓ガラス割ったり
散らかたりしてたので、怒鳴りつけたんだっけ。
そして珍しく翠星石が「私がこの家をピカピカにしてやるですぅ」と言って
力を使い出して、そしたら、急に目の前が真っ暗になったんだ。
「桜田君、突然倒れたから心配したわ。」
柏葉に抱き起こされる。柏葉の匂い、柔らかな感触になぜか安堵する。
「でも…。桜田君ったら、ずいぶんかわいくなったわね。」
…って、はじめて自分の異変に気づいた。えっ服が緑?スカート?
翠星石の服着てる?なんだこれ!!!
真紅の言うには、翠星石が力を使いすぎたために、
マスターである僕の姿が翠星石と同化してしまったらしい。
なんだ結局翠星石が悪いんじゃないか。
「だからチビ人間に力を返してやったですぅ」
「みんなでチューってしてあげたの!雛も、翠星石も、真紅も、」
真紅がまた本を読みはじめた。心なしか耳が赤い。
「トモエもなの!」
え?
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翌日、僕は鏡台の前で柏葉に髪を梳かされていた。
翠星石譲りの長い髪が、柏葉にはうらやましいらしい。
つまり僕は元の姿に戻れないでいた。人形が3体もぶらさがっているため回復が遅いらしい。
昨日はあのあとが大変だった。
帰ってきた姉ちゃんが、目をきらきらさせ、「まあ翠星石ちゃんのコスプレなの!」と言って頬すりすり、
胸にぎゅっ。柏葉より大きくて柔らかくて気持ちよかったのはヒミ…、いや見た目通りだから公然の秘密だ。
スカートは嫌だと言うと、着せかえ人形状態。人形たちに似合わないとか勝手なことを言われる。
髪が邪魔だというと鏡台の前でブラシ片手にツインテ、ポニテ、3つ編み。
「妹ができたみたい」の言葉にふざけるな!と怒鳴る気力もなくただ為されるがままだった。
でも、元気のでない僕を心配してくれる雛苺はかわいいかな。
今日は女どもの批判を無視して自分の普段着を着ている。
邪魔な髪を切ろうとしたが、翠星石が悲しそうな顔をしたのでやめた。
ということを考えている間にも、ブラシが僕の髪を梳かしていた。
ふと柏葉の匂いが強くなる。姉ちゃんとは異なる女の子の匂い。
肩に掛かる細い指の感触。耳元に接近する柏葉の唇。
「桜田君って…ふふっ…体も女の子になったのね。」
覚悟はしていたものの、恥ずかしさに頬が熱くなる。
「お姉さんみたいに…胸大きいのね。」
僕の胸が柔らかな手に包まれる。
そしてその手の平が大きく、指先が何かを探すかのように細やかに、動きはじめた。