「・・・・・・・はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・・・・・」 
 激しい息使いとともに、ジュンは巴の胸に突っ伏した。 
 もう何も考えられない。 
 何も考えたくない。 
 数時間の間に五回の放出を強いられた肉体は、いや、そのペースを連日強制されている肉体は、もうとっくの昔に悲鳴を上げている。その悲鳴が口をついて出ないのが彼自身には不思議で堪らない。 

「桜田君、大丈夫?」 
 フルマラソンを走り切ったランナーのように、全身で疲労を訴えるジュンに、巴が物静かな、それでいて優しそうな、心配そうな声で尋ねる。 
「・・・・・・はぁっ、はぁっ・・・・・・うん・・・・・・・」 
「大丈夫よ巴ちゃん、ジュン君はこう見えても強い子なんだから」 
「ああああああああ!!!!」 
 可愛らしい丸眼鏡を付けた彼の姉が、ジュンの背中越しに巴に答える。同時に彼の菊門深く侵入した指の動きを再開させながら、だ。 
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!もうやめて!もうやめ・・・・・・・・ああああああああ!!!!」 
「だらしない子ねえ・・・・・・・」 
 のりは後ろ手に縛られた弟の脇腹に手を伸ばし、充血した乳首に爪を立てる。 
 へとへとになっているはずのジュンの身体に、再び電流のような刺激が迸る。濃厚な快感さえ含んだ高圧電流が。 
「ひぃぃぃぃぃ!!」 
「そんなだらしないジュン君、お姉ちゃんは嫌いよ」 
 思わずのけぞる弟を、姉は乳首と肛門を支点に、巴から引き剥がした。 
「あっ、桜田君!」 
「今度はお姉ちゃんにも頂戴。ジュン君の熱くて硬いもの・・・・ 
「ひゃああ・・・・・・もう、もうゆるし・・・・・・・・ひぎゃぁぁぁ・・・・!!」 
 半萎えだった彼のペニスは、姉の巧みな前立腺への刺激で、みるみる硬度を取り戻してゆく。 

 ジュンは泣いていた。肉体も精神もボロボロになるまで犯し抜かれ、彼はただ泣く事でしか自分の意思を表現できなかった。 
 のりも巴も、その涙をとてもとても美しいと思った。 
 そして、その涙を踏みにじる行為に、ただならぬ興奮とカタルシスを覚えずにはいられなかった。 
「巴ちゃん、手伝ってくれる?」 
「はい・・・・・・・・」 

 二匹の雌蛇は、再び彼の身体に取り付いた。 
  

 不登校を決め込んでいるとはいえ、桜田ジュンは14歳の健康な、どこにでもいる少年に過ぎない。 
 女性への興味も人並み程度にはあったし、人形どもの目を盗んでトイレでオナニーをするくらいは平気でしていた。 
 しかし・・・・・・・・。 
 エクスタシーが、人間の精神と肉体にこれほどの苦痛を与えるとは、全く想像も出来なかった。  

 何でだ? 
 何でこんな事になったんだ? 
 以前には、想像もしていなかった現実。 
 発端は、一週間前にあれを見た時、だったかなぁ・・・・・・・・。 

「はぁぁぁぁぁんん!! ジュン君!そうよ!そうそう!!」 
 今、彼の身体の上には、実の姉が嬌声を上げながら乗っかり、彼の股間を軸にしがみつくと、まるでロデオのように暴れ回っている。 
 桜田ジュンは、ペニスを中心に絶え間なく続く快感という名の苦痛に、ほぼ心神喪失状態に陥っていた。 
 不意に訪れる、優しいキスの感触。 
 薄目をあけると、柏葉巴が聖母のような微笑を浮かべながら、己の股間に双頭のペニスバンドを挿入している。 
「柏葉・・・・・・」 
「なに?」 
「それで・・・・・・・・ボクを、犯すの・・・・・・・?」 
「そうよ。・・・・・・・・今から桜田君は女の子になるの」 
「でもボク・・・・・・もう、壊れちゃう、よ・・・・・・・・?」 
「大丈夫よ・・・・・・」 
「な、んで・・・・・・・?」 
「だって、壊れないように気をつけるもの。明日も、明後日も、これからもずーっと壊れないように気をつけるもの」 
「柏葉ぁ・・・・・・・・」 

 もうジュンには、涙で巴が見えなくなっていた。 

 ジュンが解放されたのはさらにそれから一時間後、のりと巴に強烈なサンドイッチ・ファックを敢行され、文字通り失神した後だった。 
 ほぼ腎虚になるまで発射し尽くした彼の精嚢は、もはや一滴のスペルマを出す事も無く、前立腺とペニスを同時に襲うその刺激は、ただ絶え間ない射精感のみを伝え、発狂せんばかりの快感の渦の中で、彼の意識のヒューズは弾けて落ちた。 
 巴の言った通り、彼はあたかも強姦魔にレイプされた少女のような泣き声を上げ、その涙も声も、全て彼女たちのための供物となった。 
 瞼に焼きついたのは、姉と幼なじみの魔女のような微笑。 
 恐らく、ジュンが失神しなければ、この拷問は、さらに数時間続いたに違いない。 

「・・・・・・・・ジュン君、ジュン君、晩御飯の時間だよ。そろそろ起きて」 
 毛布を剥ぎ取られ、肩を揺すられる感覚。 
 重い瞼を必死になってこじ開ける。眼前に蒼星石が心配そうに覗き込んでいるのがジュンには見えた。 
「・・・・・・・・・もう、こんな時間か・・・・・・・・」 
 時計を見ると、もう午後八時。 
 起きようとすると身体が痛い。 
「ちょっ・・・・・・・・・ジュン君!!?」 
 その時初めて、ジュンは自分が全裸のままであるという事実を知った。 
「あわっ!!! ちょっ・・・・・見るなっ!!」 
 慌てて毛布を身体に巻きつけるジュン。 
「ごっ、ごめんっ!!僕、先に行くから、早く下りてきてねっ!」 
 顔を真っ赤にした蒼星石が、あわてて部屋から飛び出して行く。 
「あっ、待って、蒼星石!」 
「えっ・・・・・・・・?」 
「先にシャワー浴びて行くって、お茶漬けノリに言っといてくれよ。寝汗でベタベタで気持ち悪いんだよ」 
 その一言に他意はなかっただろう。だが、そのジュンの言い草は、いかにも言い訳がましいものに蒼星石には聞こえたのも事実だった。 

「・・・・・・・・べとつくのは寝汗だけかい?」 
「え・・・・・・?」 
「こんな事はあまり言いたくないけど・・・・・・ジュン君、もういい加減にした方がいいんじゃないか?」 
「蒼星石・・・・・・・」 
「・・・・・・もう、みんなが気付くのも、時間の問題だよ・・・・・・・!」 
「・・・・・・・・・・・・・」 

 そういい捨てると、彼女は部屋を出て行った。 
 その後姿に、ジュンは自分が、この世で最も不潔で惨めな存在に成り果ててしまった気がした。 

----
 ジュンがシャワーを浴びてる音がダイニングまで聞こえて来る。 

「あらジュン君、先にお風呂入っちゃったの?・・・・・・・いけない子ね。折角のシチューが冷めちゃうじゃない」 
 のりが人形たちの分のシチューを器に注ぎながら、やれやれといった顔をする。 
「まあ、いいじゃねーですか。薄汚いまま隣に来られても、迷惑なだけですぅ」 
「あら翠星石、その心配には及ばないわ。ジュンが座るのは貴女じゃなくて私の隣だもの」 
「へっ!なぁにを言ってやがる、このトウヘンボクですぅ。最近あのチビ人間が、妙に私に優しいのに気付いてないのですかぁ?」 
「知らないわ」 
「さすがの真紅も知らぬが仏ですぅ。あのチビ人間、絶対この私に気がアリアリですぅ」 
「安心なさい翠星石、それは錯覚よ」 
「ムッキィー!!そんな事ないですぅ!!」 

 最近、ジュンをめぐっての姉妹たちの諍いが、徐々に表面化しつつある。 
 蒼星石がチラリとのりを見上げると、いかにも幸せそうな笑みを浮かべた彼女がそこにいた。たった一人の弟が、他者にモテているという事実が嬉しくて仕方ない、という微笑。 
(・・・・・・・・・いや、違う) 
 これは優越感の笑顔だ。人が勝利を確信した時に浮かべる、そして敗北に未だ気付いていない敗者に送る、満面の嘲笑いだ。 
 なんとなれば彼女と柏葉巴の二人は、桜田ジュンという少年を、己が望むままに犯し、嬲り、弄び、蹂躙し尽くしているからだ。 
 気があるどころの話ではない。 
 錯覚どころの話でもない。 

 今のところ、その事実を知っているのは蒼星石だけだ 
 何故なら、彼ら三人の逢瀬は、常に三人のいずれかの夢の世界で行われ、その扉を開くのが蒼星石の役目だったからだ。 
 蒼星石とて、喜んで頼まれている訳ではない。 
 ジュンに直接頼まれていなければ、その場で拒絶しただろう。彼女は姉妹たちの中でも、群を抜いた道徳的潔癖感の持ち主なのだから。 
 それでも断り切れなかったのは、やはり蒼星石なりに、ジュンを愛していたからなのかも知れない。 

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 シャワーを浴びて、湯船に飛び込んだジュンは、一週間前の事を思い出していた。彼が実の姉と幼馴染みの二人とただならぬ関係に陥った発端を。 

「違うの桜田君!これは、その・・・・・・・・・待って!!」 
「ジュン君!待って!待って頂戴!!」 
「何故なの桜田君・・・・・・何故そんな怯えた目で私たちを見るの・・・・・?」 
「・・・・・・・・許さないわ!いくらジュン君でも、お姉ちゃんをそんな目で見るなんて、絶対に許さないんだからね!」 

 駅前の本屋で参考書を買って返って来たジュンは、見てしまったのだ。 
 姉の部屋でともに抱き合い、口付けを交し合う二人の少女を。 
 カーテンから洩れる光を背に互いの身体を愛撫しあう彼女たちは、淫靡どころか、この世ならぬ神々しさに満ちていた。 
 彼の視線に気付いてからの狼狽振りとの落差が、さらに凄まじかっただけに、状況を把握し切れなかった思春期の少年の目に恐怖の光が宿っても、これは止むを得ないといえるだろう。 
 そして・・・・・・・・逃げようとしたジュンは二人に捕らえられ、巴の竹刀で鳩尾に一撃を喰らい、縛り上げられたところを・・・・・・・・・・・犯された。 
 繰り返し何度も何度も。 
 あたかも、最初から桜田ジュン本人が標的であったかのように、執拗に、貪欲に。泣いても喚いても、のりも巴も彼を放さなかった。 
 人形たちは全員、蒼清石姉妹のマスターである老夫婦に連れられてピクニックに行っていたという事もあり、数時間もの間、何の邪魔も入らずに、ジュンは二人に嬲り尽された。 
 それが一週間前の出来事だった。 

 それからは・・・・・・・・・もう、なし崩しだった。 
 ジュンは、姉たちに呼び出されるままに、人形たちの目を盗み、巴の家に出向き、その都度自由を奪われ、犯された。 
 健康的な14歳の少年に性欲が無いわけが無い。受身の立場とはいえ、楽しもうと思わなかったと言えば嘘になる。 
 だが、この二人の貪欲さは、少年の体力の限界を遥かに凌駕していた。 
 行為に伴う快楽は、たちまちのうちに快感という名の苦痛となり、肌の温もりも体液の感触も、耐えがたい嫌悪を催す存在となった。 
 にもかかわらず、彼は二人に逆らえないのは、ひとえに恐怖のためだった。 

 特に、桜田のり。 
 この少女に対する恐怖心は、もはや抜き差し難いものになりつつあった。 
 彼女は姉なのだ。 
 仮りでも義理でもない。桜田のりは正真正銘、ジュンの実の姉なのだ。 
 にもかかわらず、のりには、ジュンとの行為に対する躊躇はまるで無い。 
 無いどころか、非近親者であるはずの巴の数倍に及ぶ執拗さで、ジュンとの行為に執着する。まるで実の弟の子種を孕む義務でも有しているかのように。 
 どんな時でも消える事無い、あの母性の象徴のような笑顔を浮かべ、ともすれば腰が引けがちになる巴を励まし、ともに手を携え、実の弟を辱め、その性感を開発してゆく。 

(まるで堕天使だな・・・・・・・・) 

 何よりジュンが恐れているのは、自分の身も心も、その堕天使のごとき姉の虜となってしまうことだった。 
 いや、もう、兆しは在る・・・・・・・・・。 
 ボクは、姉ちゃんにムチャクチャにされるのを待っている・・・・・・・。 
 どんなに騙そうとしても騙し切れない自意識。 

 ジュンが、蒼星石に夢の扉を開いてもらったのは、せめてもの彼の抵抗だった。 
 自分たち三人の背徳の宴が、せめて現実ならぬ精神世界ならば、「これは夢なんだ」と自分に言い聞かせる事が出来るかもしれない。 
 何より、姉や巴に万一の過ちがあってもならない。 
 そう思ったからだ。 

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 PM9:00 
 一触即発状態のダイニングで、ジュンは真紅でも翠星石の隣でもなく、雛苺の隣で食事を終え、自室に入ると、そのまま泥のような眠りについた。 
 彼は疲れ果てていた。 
 いくら休んでも癒される事の無い疲労だった。 
 その寝顔を見つめる人形たちの表情はまちまちだったが、やはり彼女たちは9時になると、それぞれの鞄に入り、それぞれ眠りについた。 

 AM0:05 
 一つの鞄の蓋が開いた。 
 翠星石。 
 夢の庭師の名を持ち、人が誰しも持つ「自我の樹」に養分を与える事の出来るドール。 
  
 ジュンの寝顔は苦悶に満ち、息は荒く、何かから逃げようとするかのように身体をくねらせ、誰が見ても悪夢の真っ只中のようだった。 
 今日に限った事ではない。ここ数日、彼は眠りの度にずっと悪夢に苛まれている。 
 もっとも翠星石は、彼の夢世界で連日繰り広げられている、三人の魔宴の事までは知らない。 
 しかし、ここ最近、ジュンの様子がおかしい事は、いずれの人形たちも気付いていた。 
 事態は静かに、蒼星石の危惧した通りになりつつある。 

 翠星石は人工精霊を召還し、ジュンの夢へと続く扉を開けると、おもむろに飛び込んだ。 
 彼の変調は、その精神的なものに由来するのではないかと、夢の庭師としての勘が判断した行動だった。 

「んむぅーー、あのチビチビ人間め、一体どこにいやがる、さっさと出て来やがれですぅ」 
 独り毒づく翠星石は、その瞬間気付いた。 

(・・・・・・・・くさい。何ですか、この臭いは?以前ここに来た時は、こんな厭な臭いはしなかったですぅ) 

 翠星石は、懸命に嗅覚を殺しながら、徐々に悪臭の強くなる方へと進んだ。 
 この、ただならぬ臭いの根源にこそ、ジュンの本体がいるという確信が彼女にはあった。  
 そして翠星石は、ついに彼、桜田ジュンを発見した。 

 彼はいた。 
 あるいは地平線、あるいは水平線、あるいは雲海の彼方から伸びる鎖に四肢をつながれ、その全身に8人の裸女がまとわりついていた。 
 唇に巴が取り付き、 
 右乳首にのりが取り付き、 
 左乳首に巴が取り付き、 
 首筋に巴が取り付き、 
 背中にのりが取り付き、 
 菊門に巴が取り付き、 
 最後にペニスの両側から、巴とのりが二人同時に取り付いている。 

 翠星石は不意に気付いた。 
 この臭いは、汗の臭いであり、涎の臭いであり、精液の臭いであり、愛液の臭いであり、それらの臭いの混合臭を数十倍、数百倍に濃縮したものであると。 

「ん・・・・・・・っひぃ・・・・ふひゃあ・・・・・・ぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!」 
 ジュンはもう声も出ないようだった。 
 巴とのりは、普段の様子とはうって変わった乱れ様で、ジュンの身体を貪り、舐めすすっていた。 
 それだけではない、さっき顔を伏せたのりが、顔を上げると巴になり、その巴が振り返るとのりになり、8人全員が巴になったかと思えば、8人全員が一体誰なのか分からない、巴とのりの中間の人格になる瞬間もあった。 
 彼女たちが舐めまわす少年の身体は、少しずつだが、徐々に溶け始め、二人の少女はさらに歓喜の表情を見せ、その白い液体を夢中になって、一滴残らず飲み干そうとしている。 

 翠星石は、その悪臭すら忘れて、呆然と立ち竦むしかなかった。 
   

「スッ、スッ、スッ、・・・・・・スイドリームッ!!!」 
 その瞬間、翠星石の人工精霊が唸りを上げてジュンたちに襲い掛かった。 
 普段はホタル程度の発光物質にしか見えない精霊が、まるで主の想いがそのまま乗り移ったかのように、まさに紅蓮の炎となって牙をむく。 
 8人の妖女たちは、悲鳴すら上げる暇も無く、たちまちのうちに消し炭と化した。 
 翠星石が嫉妬に任せて、それほどの高温で精霊を操りながら、ジュンが火傷一つ負わなかったのは、まさに奇跡としか言いようがない。 
「ジュン!ジュン!!しっかりするですっ!!いま助けてやるですぅっ!!」 
 返す刀で、両手両足を縛る鎖を焼き切ると、白濁液にまみれた彼の身体を翠星石は抱きとめ、ジュンに負担を掛けないようにゆっくりと地上に降下し始めた。 

「・・・・・・・お・・・・・ね・・・え・・・ちゃ・・・・ん・・・・・・ど・・・こ・・・・?」 
「ジュン!!チビチビ人間!!もう、もう大丈夫ですぅ!」 
「・・・・・・・な・・・・・ん・・・・・で・・・・・も・・・う・・・お・・・・・・・わ・・・・・り・・・・?」 
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」 
「・・・・・ま・・・だ・・・・・・・・し・・・・・て・・・・よ・・・・・・も・・・・っと・・・・・も・・・・っと・・・・・・」 
「・・・・・・・・・・・ジュン・・・・・・・・・・・・?」 
「・・・・・か・・・・・・し・・・・・わ・・・・・ば・・・・・・も・・・・・・」 
「・・・・・・ジュン・・・ジュン!・・・ジュン!!」 

----
 ジュンの身体を静かに地上に横たえると、翠星石は混乱する自分の頭の中を、必死になって整理し始めた。 

 あの、たまらなく淫靡な巴とのりは、確かにジュンの精神が生み出したイメージだった。 
 そして、そのいやらしさも彼の思春期独特の性欲の表れだとすれば、全然納得は出来る。 
 しかし、それでは、この鼻を突くような異臭は? 
 たかだか14歳の童貞坊やの想像力だけで、あれほどまでの悪臭が、世界を覆い尽くす事が可能だろうか? 
・・・・・・・しかし、しかし、今の翠星石には、夢の庭師として当然浮かぶはずの数々の疑問が、全くどうでもいい、取るに足らないものに思えた。 

 ジュンが、自分以外の女性と行為に及んでいた。 
 しかも、相手は実の姉と、かつての幼馴染み。 

 確かに、現在進行形のニートであるジュンからすれば、性欲の対象とするには打って付けの存在かもしれない。何故なら彼女たちは、いま彼が社会的に接触を持てる唯一の女性たちなのだから。 
 でも・・・・・でも・・・・・・・翠星石からすれば、やはり納得できる事ではない。 
 しかし・・・・・・・・・・・・。 
  
 翠星石はむりやり考え方を捻じ曲げてみる。 
 ジュンが最後に言った一言。 
 自らへの責めを乞う、あのマゾヒスティックなあの発言。 
 もし彼が、何らかの想いを以って、のりと巴を選んだのではなく、単なるマゾ的な性的欲求のイメージとして二人のイメージを使っただけなのだとしたら・・・・・そこには愛は存在しない。 
 ならば、まだ余地があるのではないか? 
 のりでも巴でもなく、真紅でも雛苺でも蒼星石でもなく、自分こそを、この翠星石こそをジュンに選ばせる余地が。 
 そう思った瞬間、彼女はジュンの頬を思い切りビンタしていた。 
  

----
「とっとと起きやがれですっ!!このニート野郎のチビチビ人間っ!!」 
 一発、二発、三発、まだ意識がハッキリしているようには見えない。 
「スイドリームッ!!」 
 翠星石は如雨露を水で満たすと、その冷水をジュンの頭からぶちまけた。 
「・・・・っっ!!!! っべたぁぁぁ!!!!」 
「やっと気が付きやがったか、このスットコドッコイですぅ」 
「なっっ・・・・・何するんだよイキナリッ!?」 
「何するもクソも無いのですぅ!この変態野郎のチビチビ人間っ!!」 
「へっ、変態っ!?寝てる人間をわざわざ叩き起こして、なに訳の分からない事言ってんだよっ!!」 
「お前の周りをよく見るですっ!」 
「なっ!? 周り?」 
 ジュンは周囲をキョロキョロ見回し、ようやくここが現実ならぬ世界である事に気付いた。 
「ここは・・・・・・・・・・・・・?」 
「お前の夢の中ですぅ」 
「夢の中・・・・・・・・・?」 
「そうですぅ。正確に言えばお前はまだ眠ったままですぅ」 
「・・・・・・・・・ちょっ、ちょっと待てっ!!それじゃあ、お前まさか!!?」 
 この時、ようやくジュンの意識活動が正常に作動したようだ。いまこの瞬間、この翠星石がここにいるということは・・・・・・・? 

「はいです。しっかり見せてもらったです。あの、お前のいやらしい、口に出すのも憚るような、変態な夢を」 
「うわあああああああああ!!!!!!!!!まてまてまてまてぇっ!!!!!お前、プライバシーの侵害だぞぉっっ!!!」 
「そんなの知らないですぅ。とにかく私は現実世界に帰ったら、お前の人間関係全部に、ただひたすら言いふらしてやるだけですぅ」 
「ふっ、ふざけんな、この性悪人形っ!!」 
 ひたすら慌てるジュンを前に、翠星石はニタリと笑う。 
「性悪人形ぅ?そんな口の利き方がまだ許されると、本気で思っているのですかぁ?」 
「うっ・・・・・・・・・!」 
「翠星石さま、何でも言う事聞きますから、この哀れなチビ人間をお許し下さいって言いやがれですぅ」 
「ふっ、ふざけんなっ!!この性悪人形っっっ!!!!」 
「ふざけてなんかないですぅっっ!!!」 
 翠星石の予期せぬ逆ギレは、瞬間ジュンの毒気を抜いた。 
「私は本気ですぅ。もう誰が何と言おうと、お前が生きている限り、生き恥をかかせ続けてやるですぅ。これはもう決定事項なのですぅ」 
「・・・・・・・・・・・・ホントに本気なのか・・・・・・・?」 
 翠星石は、わざとらしく大きな溜め息をつくと、眼前の少年に最後のカードを切った。 
「・・・・・これ以上疑うんなら、もう交渉は決裂ですぅ。明日という日をせいぜい楽しみに生きやがれですぅ」 
 夢の扉に向かって飛び立とうとする翠星石。 
 その瞬間、ジュンの心が音を立てて折れた。 
「分かったぁ!!分かったから・・・・・・・待って!待ってくれよ!翠星石!!」 

「すいせいせきぃ・・・・・・・・・?」 
「え・・・・?」 
「呼び捨てにしていいと誰が言ったですか?」 
「うっ・・・・・」 
「だ・れ・が・言ったですか?」 

 ジュンは俯いた。もう、自分自身気付いていた。己の心がすでにして折れてしまっている事を。そして、自身の中のマゾ的な素養が、その屈辱を必死に正当化しようしているという事も。 
(いまコイツには逆らえない) 
 それはもう、自分自身への至上命令だった。 

「・・・・・・・・・・・・さま」 
「は?」 
「・・・・・・・・・石さま」 
「聞こえないです。もっとハッキリ言いやがれですぅ」 
「・・・・・・・・星石さま」 
「聞こえないですっ!!全っ然聞こえないですぅっ!!」 
 予期せぬ怒号に、ジュンはさらに慌てた。その狼狽が彼に最後のプライドのひとかけらを捨てさせた。 
「翠星石さまっ!!」 
「はいです」 
「えっ?」 
 先ほどの一喝とうって変わって、普通に返事を返された事で、思わずジュンは伏せていた自分の視線をあげる。 
 そこには、勝ち誇った笑顔で、言葉の続きを催促する翠星石がいた。 
「呼ばれたから仕方なく答えてやったです。とっとと、その続きを言いやがれですぅ」 
「・・・・・・・・・・・・翠星石さま、何でも言う事聞きますから、この哀れな・・・・・・・・チビ人間をお許しください・・・・・!」 

「んっふっふっふっふっふーーー」 
 翠星石は心底楽しそうな笑顔を見せると、ジュンに手を差し出した。 
「仕方ね〜な、許してやるですぅ。・・・・・・・・ただし」 
 その時、翠星石の笑顔はたまらなく淫靡なものに変わった。まるで姉や幼馴染みのような、あの表現しがたい笑みに。 
「約束は守ってもらうですぅ・・・・・・・・!」 

----
 それから翠星石は、ジュンを伴い、彼の夢世界から脱出すると、今度は自分の夢世界へとジュンを誘った。 

 彼女がジュンに何を望んでいるか見当もつかなかった、と言えば、それは嘘に近い。  
 翠星石が、あの淫らな笑顔を浮かべた瞬間に、大体のところ察しはついていた。 
 ジュンの胸の内に吹いていた風は、ただ一種類。新たなる責め苦へのかすかな期待と、そんな期待を浮かべる自分への絶対的な恐怖感。 
 道徳的タブーと言う意味では、考えようによっては、幼馴染みや実の姉どころの比ではない。 
 なにしろ相手は、人間ですらないのだから。 

「何をグズグズしているです!とっととこっちに来やがれですぅ!!」 
「いたいいたい!!そんなに引っ張るなよ!」 
「そんな事言ってていいのですか?」 
「え?何が?」 
「ノロノロしてると、その分お仕置きがひどくなるですぅ。それとも変態のジュンには、そっちの方がいいのですかぁ?」 
「・・・・・・・・・・・」 

 やがて翠星石は、千畳敷はあろうかとも思える、雲の大絨毯へと降り立った。どうやらそこが彼女の目指す場所のようだった。 

----
「それで!? ボクは一体あなたさまに何をすれば宜しいんですかい?翠星石先生さま?」 
 半分ふてくされた表情で雲に座り込み、いかにも皮肉っぽい口調でジュンが喚く。 
「こっ、この・・・・おバカァっ!!」 
 その瞬間、ジュンの身体に落雷のような衝撃が走る。 
「ひぃぃぃいいいいいい!!!!!!!!!」 
 数秒間、気を失ったようだった。 
 そして再び意識が覚醒した時、ジュンは自分の姿に呆然とした。 

「いいですかチビチビ人間、今度そんなクソ生意気な口を利いたら、お前のここにある薄汚いものをちょん切って、口に詰め込んで縫い閉じてやるですぅ!」 
「・・・・・・すいせいせき・・・・・・・・・?」 
「分かったですかぁ!!分かったら『はい』と言うですぅ!!」 
「はっ、はい!」 
 そうなのだ。ジュンは忘れていた事があった。ここは彼女の、翠星石の夢の中なのだ。彼女の望んだ事は何でも叶う、文字通り「神」として君臨出来る空間なのだ。 
 その証拠に、ジュンは自分が人形サイズ・・・・・・身長1mくらいしかないはずの翠星石と、ほぼ同じ程度のタッパしかない自分に唖然としていた。驚きのあまり、いつの間にか自分が全裸である事すら気が回らなかったほどだ。 
「ふふふふ、やっと気付きやがったですか、この鈍感チビ人間め」 
「もっ・・・戻してよ・・・・・・・・ボクを元に戻してよ・・・・・・・!」 
「んふふふ、それはお前次第ですぅ。いい子にしてたら、ちゃ〜んと戻してやるですぅ」 
 翠星石はジュンの両頬に手を添えると、潤んだ目で言った。 
「だから・・・・・・もう、絶対に私に逆らっちゃダメなのですぅ・・・・・!」 
  
 翠星石はもう、感動のあまり腰が砕けそうだった。 
 この少年と、全身全霊で愛してやまないこの少年と、ようやく愛し合う機会を得たのだ。 
 初対面の第一印象は最悪だった。しかし、しかし・・・・・・いつからこんなに好きになってしまったのか、もう彼女自身にも分からない。 
 彼を、自分の夢世界に連行してきたのは、ここならばジュンの逃亡や、他のドールズたちの妨害に遭う事はまずあり得ない。仮にも夢の庭師である自分が、自分の夢で不覚を取るなど億に一つも考えられない、そう思ったからだ。 
 それと・・・・・・・・。 
 彼女は自分を、愛らしいドールではなく、あくまでも一人の女性として見て欲しかった。そのためには、この少年に釣り合う体格を以って、彼と愛し合いたかったのだ。あるいは人間のように。 

 そして、そのための計算は・・・・・・・多少成り行き任せではあったが・・・・・・・全て上手くいった。 
 後は、この少年を虜にするだけだ。 
 翠星石は、もう感動のあまり腰が砕けそうだった。 

----
 蔦がシュルリシュルリとジュンの腕や足に絡みつく。ともすれば、彼の自由を奪おうとするかのようだった。 
「ちょっ・・・・・・・何なんだよ、コレ?」 
 この蔦こそは、ジュンを逃がすまいとする翠星石の無意識の表れであり、独占欲そのものだった。 
 精霊を使えば、それこそ大木のような樹さえ自由に現出させる翠星石だったが、過度の興奮が、彼女の力のコントロールを不完全なものにしているのだろう。 
「もう・・・・・・いちいち喋るから・・・・・ムードが台無しなのですぅ」 
 彼女はそのまま、少年の唇を奪った。 

 最初は優しく。 
 そして、徐々に、徐々に、その口付けは激しさを増していった。 
 舌を伸ばし、絡め、唾液を送り込み、そして、ジュンの唾液をすすった。 
 呼吸を求め、ともすれば逃げがちになる少年の頭を捕まえ、さらに激しく、その舌で彼の口内を愛撫する。 
 そして、翠星石が彼の乳首をひねった瞬間、ジュンに限界が訪れた。 
「ひゃぁぁああああ!!!!!!」 
 なおも口付けをせがむ翠星石から、唇をもぎ離すようにして叫ぶ。 
 そのまま雲のベッドに突っ伏して、ぜえぜえと息を荒げるジュンの身体は、もう全身真っ赤だった。 
(すごい・・・・・・・これがジュンの身体なのですね?ちょっとつまんだだけで、こんなに感じてくれるなんて・・・・・・) 
 もう、心臓が破裂しそうだ。翠星石の眼の光が、ますます異様な輝きを帯びる。 

「ここが感じるのですかぁ?」 
 翠星石は両乳首をつまみ上げ、さらに舌を這わせた。 
「ひぃぃいいいいいい!!!!!」 
 思わず逃げ腰になるジュンの身体に蔦が絡みつく。右足首と左手首。右手首と右大腿部。そして、頸部と股間。 
「大丈夫ですジュン。もっともっと、もっともっともっともっと感じさせてあげるですぅ」 
「ひっ・・・・・・らめぇ・・・・・こっ・・・・・・・これ以上は・・・・・・ふひゃあああああ!!!!」 

----
 ちゅばっ!ちゅばっ!れろっ!れろっ!ちゅばっ! 
 翠星石がジュンの乳首に舌を使う音が、彼の脳髄に響き渡る。 
「・・・・・・っ・・・・・ぁぁぁ・・・・・・・すいせい・・・・・・ぎぃっ!!」 
「んふふふ・・・・・・ひたかったれすかぁ・・・・・・・?」 
「・・・・はぁぁぁ・・・・・・・ぁぁぁ・・・・・」 
「どうしたれすかぁ?さっきから涎が止まらないみたいれすよぉ?」 
「・・・・ふぎぃぃっ!!・・・・・・もっ、もう・・・・噛まないれぇぇ・・・・・・」 
「んふふふふ・・・・・・・・い・や・で・しゅ!」 
「はあああああ、らめらぁぁぁぁ!!!!!!!」 
 ドクンドクンドクンドクンっ!!! 

 翠星石がジュンの眼鏡を、そっと手に取る。 
 素顔になったジュンは、どことなく姉の面影がある。やはり実の姉弟なのだろう。 
(・・・・・・・・可愛い) 
 翠星石は、素直にそう思う。もっともっと、もっともっと可愛がってあげたい。辱めてあげたい。そう思う。 
  
「まさか、本当に乳首だけでイクなんて・・・・・・・・お前は男として恥かしくないのですかぁ?」 
「・・・・・・・・・・・・・」 
「仕方ないですぅ。今日からお前を、この翠星石の乳首奴隷にしてやるですぅ。感謝感激しやがれこの野郎ですぅ」 
「・・・・ちくび・・・・どれい・・・・・?」 
「いつでもどこでも、私がいじりたい時にその乳首をいじってやるですぅ。そしてお前は、自分から乳首を差し出すようになるですぅ」 
「・・・・・・いやだ・・・・・・そんなの、いやだ。いやだ!いやだ!!」 
「わがままは許さないのですぅ!!これはもう決定事項なのですぅ!!」 
「いやだぁぁぁああああ!!!!」 

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 PM6:30 
 真紅は姉妹たちを起こさないように気を付けながら鞄から這い出た。 
 階下では、そろそろのりが起き出し、朝食の準備を始める時間だ。しかし、他の姉妹たちの起床時間には、まだもう少し間がある。 
 その僅かな時間、真紅はジュンの寝顔を見守る。じっくりと。堪能するまで。 
 彼女の一日の始まりを彩る、大切な朝の儀式。 
 しかし今朝はいささか、いつも通りの朝とは様子が違っていた。 
 ジュンの姿が、そのベッドに無いのだ。 

 最初はトイレにでも行っているのかと思っていた。 
 しかし五分たち、十分待っているうちに、真紅は自分の胸の内に湧き上がる厭な予感を拭いきれなくなっていた。 
 つかつかとベッドに歩み寄ると、布団を剥ぎ取り、マットレスのシーツに手を伸ばす。 
(冷たい・・・・・・・・・!!) 
 その瞬間、真紅は部屋を飛び出し、ダイニングののりに聞こえるように叫んでいた。 
「のり!!ジュンは!?ジュンは今そこにいるの!?」 

 桜田ジュンが、その姿を消してから三日が経った。 
 かつてドールズたちの賑やかな嬌声に溢れていた桜田家は、火が消えたようになっていた。 
 弟がいなくなったと聞いて、文字通り半狂乱になったのりは、学校にも行かず食事すら取らず、ひたすら電話器の前で、何時かかってくるか知れないジュンからの連絡を待ちつづけた。 
 ドールズたちは、交代制のシフトを決め、鞄に乗って上空からの捜索を続けた。 
 しかし、杳としてジュンの行方は掴めなかった。 

 のりは気が狂いそうだった。 
 最初は、真っ先に警察に届けようとした。 
 でも、それは出来なかった。僅かに残った理性がブレーキをかけた。 
 なんとなれば、彼女には、弟が家出をする充分な心当たりがあったからだ。 
 すなわち、自分と柏葉巴が強制していた、性的虐待にも等しい肉体関係。 
 もし、警察等の公的機関に捜索を依頼して、何かの弾みでこの醜聞が表沙汰になったりしたら・・・・・・・。 
 弟の今後の人生は、永久に、社会的に葬り去られてしまう。 
 自分のためではない。弟のためにも、それだけは避けねばならない。 
 そう思ったからだ。  
「大丈夫よぉ。ジュン君だって、もう子供じゃないんだから、余計な心配は要らないわよぉ」 
 無理やり作った笑顔で、人形たちの食事を作り、明るく振舞おうとするのりの姿は、もはや正視できないほどに痛々しいものだった。 

 午後九時前の、人形たちによる一日最後の上空捜索のシフトを終えて蒼星石は帰ってきた。 
 結果はやはり、空しいものだった。 
 本来ならネジが切れる寸前まで探し回りたいところだが、のりが彼女たちにこう言ったのだ。 
「あなたたちにとって、眠りの時間を削る事は命にかかわるものなんでしょう?だったら、そこまでしてジュン君を捜す事は、この私が許しません」 
 真紅や雛苺は、当然何かを言い返そうとしたが、のりの気迫はそれを許さなかった。 
「もしジュン君が帰って来た時に、全員揃っておかえりって言えないような事になれば、ジュン君は・・・・・・悲しむわ」 

「あの・・・・・・・蒼星石・・・・・・・」 
「ん・・・・・なんだい翠星石?」 
「あっ、あの・・・・・・・・・・・その・・・・・・・」 
「・・・・?どうかしたのかい?」 
「なっ、何でもないですぅ。キッチンにカレーがあるから、チンして食べろってのりが言ってたですぅ」 
「・・・・・・・・・・・・・・・翠星石?」 
「じゃっ、じゃあ、おやすみなのですぅ」 

 そのまま翠星石はパタパタと走り去った。 
 その後姿を、いぶかしげな眼で双子の妹は、いつまでも見ていた。 

 PM0:30分。 
 蒼星石は、むくりと鞄から姿を起こすと、柴崎家の姿見からnのフィールドに入った。 
「レンピカ」 
 そこから夢の扉を開くと、夢の世界に飛び込んだ。 
 誰の? 
 勿論、自分の、である。 
 蒼星石には、ある確信があった。 

 夢の世界というものは、必ずその一番近しい者の夢に繋がっている。 
 自分の、蒼星石の場合で言えば、双子の姉の翠星石である。 
 蒼星石は自分の夢の中を進む。 
 枝道を曲がり、折れ、獣道のような細道を下りて行く。  
 そして、ついに蒼星石は辿り着いた。姉の、翠星石の夢へと至る小さな入り口を。 

----
「ふっひぃぃぃいいいいっ!!!!・・・・・・・・・はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・ひゃ、ふぎいぃぃ・・・・・・!!!」 
 ジュンの悲鳴が雲の絨毯の上に響き渡る。 
 巨大な樹の幹に、両腕と両足を埋め込まれ、まるで十字架のイエスのような格好をした彼に、四人の翠星石が、とんでもなく淫らな表情をして取り付いている。 
 一人は唇に。 
 一人は股間に。 
 残りの二人は、両の乳首に。 

「まぁったく、もう出そうなのですかぁ?ホントにだらしない乳首奴隷なのですぅ」 
「くすくす・・・・・・仕方ないですぅ。コイツをそういう身体にしたのは、あたしたちなのですぅ」 
「だから、もっともっといやらしい身体にしてやるですぅ」 
「・・・・・・・・・・・・・・・れふぅ」 

 一心不乱にペニスにむしゃぶりついていた翠星石が、最後に言葉責めを締めくくるように、ペニスに歯を立てる。 
「ひぎゃあああああっ・・・・・!!!!!」 
 その瞬間、ジュンの精液は排出され、それと同時に両乳首からも夥しい白濁液が発射された。 
「あああああっ、もったいないっ!!」 
「ちょいと乳首奴隷、誰が出していいって言いましたかっ!?」 
「勝手にイッたら許さないって言っておいたはずですぅ!」 
「これは、またもや、お仕置きなのですぅ・・・・・・・・!」 
「ひぃっ!ひぃぃぃ!!もう、もう許してぇぇぇ!!!」 

 蒼星石は、眼前で、延々繰り広げられるその拷問を、呆然として見ていた。 
 その姿は、あたかもジュンの夢の中で、初めて責められる彼を見た翠星石のようだった。 

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「何をしているんだい?翠星石」 
 その声を聞き、思わず振り向いた瞬間の翠星石の顔は、こわばり、ひきつり、まるで殺人現場を警察官に見られた犯罪者のようだった。 
「そっ、蒼星石・・・・・・・!?」 
「まさかとは思ったけど・・・・・・・やっぱりこういう事だったんだね」 
「あ・・・あの・・・・これは・・・・」 
「どこを捜してもジュン君が見つからなかったわけだね。まさか翠星石、君が夢の世界に閉じ込めていたなんてね・・・・・」 
 そう言いながら蒼星石は、精霊を召還すると、大鋏をぶんとふりまわした。 
「いっ、一体・・・・・・いつの間に・・・・私の、夢の扉を・・・・・・?」 
 翠星石が眼を白黒させるのも、或いは無理は無い。蒼星石は、全く気配すら感じさせずに彼女の夢の中に侵入してきたからだ。 
 夢の庭師たるこの自分に気付かせずに扉を開き、さらに、夢の庭師たるこの自分の夢に入り込むなど、出来る事ではない。例えそれが、もう一人の夢の庭師の仕業であってもだ。 

「一度nのフィールドに跳んで、そこから僕自身の扉を開いたのさ」 
「自分の夢から私の夢まで、直接移動してきた・・・・・・・そういうことですか・・・・・・?」 
「さすがだね姉さん。その通りだよ」 

 驚くべし、その一撃は、樹の幹に身体の半ばまで埋め込まれたジュンの身体には傷一つつけずに、樹の幹のみを真っ二つに唐竹割りに切り裂いた。 
「なっ・・・!!」 
 思わず身を逸らした翠星石の眼前で、ほぼ意識を失っているジュンの身体が、ドロリとした黄色い樹液にまみれて、巨木から解放される。 
「翠星石、君はジュン君を・・・・・・・殺すつもりだったのかい?」 
「いっ、いきなり何を言いやがるですかぁ!?」 
「君は、ジュン君が死ぬまで、ここで彼を閉じ込め続けるつもりだったんだろう?」 
「そんな事は! ・・・・・・・そんな事は・・・・・・そんな、事は・・・・・」 
「 ない。・・・・・かい?」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・」 
「だったら!!だったら、どういうつもりだったんだい!!?」 
 その双子の妹の叫びは、さらに翠星石を追い詰める。 
「答えるんだ翠星石、ここにジュン君を閉じ込めて、一体どうするつもりだったんだい? ・・・・・・・返答次第では、君といえどもただじゃ済まさないよ・・・・・・・!」 

この時、翠星石はようやく気付いたのだ。 
蒼星石の怒りの根源は、姉の暴走に対する倫理的正義感ではなく、夢の庭師としての職業的矜持からでもなく、さらには、ローゼンメイデンシリーズとしてのプライドですらない、ということを。 
・・・・・・蒼星石の女としての、愛する男を物理的に寝取られた女としての嫉妬こそが、彼女を突き動かしているのだ、ということを。 

「そう・・・・せい・・・・・・・せき・・・・・」 
「ジュン!」 
「ジュン君!!」 
「・・・・・・すいせい、せきを・・・・・」 
「無理に喋っちゃダメだジュン君。大丈夫、すぐに君はうちに帰れるよ」 
「・・・・・あいつを・・・・・・・せめ、ないで・・・・・・」 
「なっ・・・・・・!?」 
 その一言は、静かな怒りに燃える蒼星石に冷や水をぶっ掛けるには充分だった。 

「・・・・・・・・・・・・・・どういう、ことだい、ジュン君?」 
「ジュン・・・・・・・・!」 
「・・・・・・ぼくが・・・・・・・のぞんだ・・・・・ことなんだ・・・・・。こうやって・・・・・・だれかに・・・・・・むちゃくちゃに・・・・・・されるのが・・・・」 
 そう言うと、ジュンは再び静かに、その疲れきった瞼を閉じた。 
「・・・・・・・待ってよ、待ってよジュン君!!」 
 泥のように横たわるジュンに走りよった蒼星石は、その身体を掴んで必死に問い掛ける。あたかも肉親の死体に泣きついて加害者を問い詰めんとする幼子のように。 
「やめなさい蒼星石!落ち着きなさい!!」 
「うるさいっ!!君はすっこんでいろ翠星石っ!!」 
 翠星石は、蒼星石のその形相に、思わず何もいえなくなった。 
 この、常に冷静沈着な妹が、ここまで我を忘れて取り乱すのを、彼女は見た事が無かったからだ。 

「君が望んだ事なのかい?ここまでムチャクチャにされる事を、本当に君が望んだっていうのかい!?そんなに、そこまでして誰かにムチャクチャにされたかったのかい!?」 
「・・・・・・・蒼星石・・・・・・・」 
「だったら!だったら!!」 
「ボクにも苛めさせてよ、ですか・・・?」 

 その翠星石の一言に、蒼星石は鬼の形相で振り返った。 
 しかし、今度は翠星石も目を逸らさなかった。妹の想いは、痛いほど彼女に理解出来たからだ。 
 そして・・・・蒼星石の表情に取り付いた鬼は、やがて姿を消し、泣き顔のような苦しげな、哀しげな変化をしたかと思うと、次に顔を上げた彼女の貌には、翠星石すら見た事の無いような開き直った、淫らな、歪んだ笑みが張り付いていた。 
「・・・・・・そうとも、苛めてやるさ。今日からジュン君は、僕たちだけのものだ」 
「蒼星石・・・・・・」 
「何が悪い!? 彼自身が認めているんだ!誰かに苛められたかったって! 僕たちは、彼の希望を忠実に満たしてあげるだけなんだ!!そうだろ!?」 
「・・・・・・・・・・・・・・」 
 まるで自分自身に必死に言い訳をするかのように、彼女は叫び続ける。 
 その蒼星石の姿は、いまの翠星石には、とても醜いものに見えた。 

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 その日の昼、桜田家に報告があった。「ジュンが見つかった」と。 
 定期巡回に出た翠星石と蒼星石が、ふらふら歩いているジュンを発見したのだという。 
 真紅・雛苺・のり・巴の四人は、大いに喜び彼を迎えたが、やがて、彼に失踪中の記憶がほとんど無いと聞いて、真紅などは怒りすらあらわにしていた。 

「まったく・・・・・・・世話の焼ける下僕だわ」 
「そんなに怒っちゃだめなのよう、真紅ちゃん」 
「そうだよ真紅。どういう形にせよ、ジュン君が無事だったんだから良かったじゃないか」 
「そうですぅ。チビチビ人間の言う事なんて、所詮思春期特有の錯乱に決まってますぅ」 
「ねえ翠星石、ししゅんきのさくらんって何なの?」 
「え、あの・・・・・・・・・・・そんな事は当事者に聞けですぅ!!」 
「とうじしゃって何なの?」 
「ジュンですぅ!だから、ジュンの事は全部ジュンに聞けって言ってるですっ、このおバカ苺!!」 
「ねえジュン〜、ジュン〜、・・・・・・・・えっと、何をきくんだったっけなの?」 
「だぁぁぁぁ!!うるさいんだよ、おまえらぁぁ!!!!」 
 周囲のあまりの喧騒に、泥のように眠っていたはずの本人さえ、思わず身体を起こして怒鳴り返す。 

「・・・・・・でも、桜田君、本当に分からないの?自分がどこで何をしていたのか?」 
「え、あ、・・・・・・・・うん」 
「そう・・・・・・」 
「・・・・・・・・・・・・・ごめんな」 
「え?」 
「その・・・・・・・・心配かけてさ」 
「桜田君・・・・・・・・」 

 結局ドールズたちと巴とのりは、あまりに疲労の色を隠せないジュンの顔色に遠慮して、彼の部屋を出た。 
 その場にいた全員が、さっきの巴とジュンの会話に少なからず衝撃を受けていたのだ。 

「・・・・・・・どうしたのかしらジュン君・・・あんな素直なジュン君、お姉ちゃん初めて見るわ」 
「こうなると、いよいよ家出中に何があったのか聞き質す必要があるわね」 
「真紅、ダメだよ、乱暴な真似しちゃ」 
「それはジュン次第なのだわ」 
「真紅、真紅、ジュンに拷問するなら、私も手伝うですぅ」 
「ねえ翠星石、ごーもんって何なの?」 
「とぉっても楽しい事なのですぅ」 
「だったら雛もごーもんするぅ」 
「・・・・・・・・・・・・・・・」 

 ドールズたちの、あまりに逸脱した会話を聞きながら、巴は先程のジュンの様子に思いを巡らしていた。 
 記憶が無いなんてとんでもない。あれは、彼のあの目は、全てを認識して把握している目だ。その確信が巴にはあった。 
 しかし、確信はもう一つあった。 
 この件は、あまり追求すると薮蛇になる。そういう確信である。 
 だが、その思いは、結果的には、あまりにあっけなく破綻する事となった。 

「ジュン君、巴さん、君たちに予め言っておくことがあるんだ」 
 あれから数日たち、しばらくぶりに柏葉家に呼び出されたジュン。そして巴の前に現れた蒼星石。彼女は、のりを待っていた二人に言い放った。  
「今日からジュン君は、君たちの勝手にはさせない。僕たちも所有権を主張する」 

 何を言われてるのかとっさに分からず、ぽかんとする巴。 
「ジュン君、君はあの時、こう言ったはずだよね。ただ誰かにムチャクチャにされたかっただけなんだって。そうだろ?」 
「そんな事、そんな事言ってないぞ!いきなり何を言い出すんだよ!?」 
「覚えてないのかい?・・・・・・・・まあ、あの時の状況が状況だから、意識が朦朧としてたって言っても無理は無いけど・・・・・・・・」 
「桜田君・・・・・・この子は一体何を言ってるの?」 
「巴さん。彼は、ジュン君は、誰かに苛めてもらえればそれでいいんだ。君である必要も、のりさんである必要も無いんだ。そうだろ?」 
「なっ、何を言い出すんだ、お前はっ!!?」 
「もう照れる事は無いんだよジュン君。君の事は、何もかも分かっているんだから」 
 そう言いながらも、もはや蒼星石はジュンを見ていない。その射るような視線を、柏葉巴ただ一人に送りつけ、今まで見せた事の無い、歪んだ殺気を放射し続けている。 
「誰でもいいって事は、それが僕でも構わない。そういう事だよね・・・・・・・!」 

「レンピカ」 
 オッドアイに異様な光を輝かせながら、大鋏を取り出す蒼星石。その、刃渡り1mに及ぶ巨大な刃から放出される、禍々しい剣気。 
 あまりに支離滅裂な発言を続ける蒼星石に対し、何かを言い返そうとするジュンと巴。しかし、その剣気は、二人の少年少女から言葉を奪った。 
「もう、これからは我慢しない。ジュン君・・・・・・僕が君をどれだけ愛しているか、じっくり教えてあげるよ。その身体にね・・・・・・・・!」 
 そう言いながら蒼星石は、ゆっくりとジュンに向かって歩を進め出した。 

----

 歩み寄る蒼星石に対し、思わず竹刀を取り出し身構える巴。 
 しかし、その瞬間、ボロリという音すら出そうな空気とともに、鍔元10cmあまりのところで彼女の竹刀が落ちた。 
 足元に軽く響くガシャンという音。 
 その光景を見た瞬間、初めて巴は、自分の竹刀が軽くなっている事実、つまり無造作に横薙ぎに振るわれた蒼星石の大鋏に、己の竹刀を斬り落とされたのだという事を知った。  
 竹を斬る音すら聞こえさせず、自分の得物を斬り折られた手応えさえ感じさせず、この人形はそれをやってのけたのだ。 

「巴さん、そんなオモチャで、この僕にまともに刃向かえると本当に思っていたのかい?」 
 巴の眉間に、大鋏をずいっと突きつけながら、蒼星石が嘲笑する。 
「ひぃぃっ・・・・!!」 
 巴は思わずへたり込む。眼前の蒼星石が放つ異様なオーラに気圧されたかのように。 
「ばかだなぁ。たかだか十四・五歳の小娘が、本気を出した僕たちに敵うわけ無いじゃないか。ジュン君だってそう思うだろう?」 
「蒼星・・・・・・石・・・・・」 

 そうなのだ。姿こそ人形といえど、こいつらローゼンメイデンはただの人形じゃない。 
 彼女たちは、この世に生まれて数百年間,人の精を糧とし,姉妹たちの間で戦い続けてきた、ある意味ヒトを超越した存在なのだ。忘れていたわけじゃない。でも・・・・。 

「やめろっ!!」 
 そう叫ぶと、今度はジュンが巴を庇って前に出た。 

「柏葉に触るな蒼星石。僕に従えというなら何でも従ってやる。だから・・・・だから、柏葉にだけは手を出すな」 
 そう言って、自ら凶刃の前に身をさらすジュン。その眼には逆上も無ければ、躊躇も無い。ただ冷静に、自分の後ろにいる存在を守ろうとする決意だけが溢れていた。 

「桜田君・・・・・・・・」 
「ジュン君・・・・・・・・・・・」 
 巴も蒼星石も、このジュンの変貌ぶりには、眼を見張らざるを得ない。以前の彼なら、自分の身体を張って他者を護ろうとするなど,考えられなかったからだ。 
(・・・・・・・・・彼は,成長しているんだ。人として。男として。そうでなければ、姉妹たちが皆これほど夢中になって,彼を求めるわけが無い) 

 蒼星石は、むしろうっとりして彼の姿を見つめる。これから、この少年を自分のものにできる。その思いが背骨を貫くほどの興奮を、彼女に与えている。 
「服を脱ぐんだジュン君。今から君は僕のものになる。その様子を巴さんと,これからやって来るのりさんに見てもらうんだ。いいね?」 
「・・・・・・・・・・・・柏葉には何もしないな?」 
「うん。君はあくまでも、巴さんの安全を守るために犠牲になるんだ。・・・・・・そういう言い方をした方が燃えるんだよね?」 
 その言葉に、思わずジュンはムッとしたが、蒼星石の半ば陶酔した瞳を見た瞬間、彼は何も言えなくなった。 
 蒼星石の狂気に気圧されたから、というだけではない。何より、蒼星石の言うシチュエーションに興味がないと言い切れない自分が、彼の胸の内にいたからだ。 
 ジュンは、無言で服を脱ぎ始めた・・・・・・・・・。 

「・・・・・はっ・・・・・くううっ・・・・・あああっ・・・・・・!!」 
 蒼星石の小さい口が、ジュンの乳首をひたすら転がす。そして、噛む。 
「ひいいいっ!!」 
「・・・・・・いい感度だね。ダテに四日間も翠星石の乳首奴隷をしてたわけじゃないね」 
(四日間? 乳首奴隷?) 
 蒼星石は、部屋の隅でうずくまって動けなくなっている巴に、いかにも聞こえよがしな言葉責めをしている。 

「巴さん、今からもっと面白いものを見せてあげるよ」 
 そう言うと、蒼星石は物凄い勢いでジュンの乳首を吸い始めた。 
「やっ・・・・・やめっ・・・・・わっ・・・・・・わぁぁぁああああ!!!!」 
(レンピカ)  
 心のうちで呟くと、蒼星石は大鋏を文房具サイズに縮め、ジュンのもう一方の乳首を軽くつついた。 
「っっっ!!!!」 
 その瞬間、ジュンの両乳首から薄い白濁液が吹き出した。 
「なっ!!?」 
 ごくん、ごくん、ごくん、ごくん・・・・・・・ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ・・・・・。  
 夢中になって蒼星石は、その液体を吸い続ける。 
 巴には信じられなかった。あれは母乳か?でも何故?ジュンは男だ。女ならホルモン異常などで、非妊娠中の女性が母乳を出す事も、稀にあるという。しかし今のは・・・・・・?! 

「見間違いなんかじゃないよ。これは君が見た通りのものさ。とっても甘くてとっても美味しいんだ」 
 蒼星石が、淫らな笑みを浮かべながら巴に語りかける。 
「でも・・・・・・君には絶対あげないけどね・・・・・・・」 

「・・・・・・かしわば・・・・・・みっ・・・・ないで・・・くれ・・・・・・」 
 もはやジュンの表情は、嫌がる言葉とは裏腹な快感にとろけきり、その快感とは裏腹な、哀しさに満ちた眼を隠していなかった。 
 そして、そういうジュンの姿からは、名状しがたい雰囲気が発散され、蒼星石のみならず巴さえも、官能の渦の中に巻き込まれてしまいそうになる。 
 現に巴は、自分さえ気付かぬままに己の股間に手を伸ばし、少しでもジュンと快楽を共有しようとしていた。 
「そう・・・・・・・そうやって絶対に目を逸らしちゃダメだよ、巴さん」 
 そう言うと、蒼星石はジュンの身体を引っくり返し、その口を乳首から背中へと移した。 

「蒼星・・・・・・・・ああああっ・・・・・・もう!もう!!」 
 背骨に沿って、その小さな舌を這わしながら、鋏で皮膚を軽く引っ掻く。 
「くううう・・・・・・・!!」 
 赤い血・・・・・・・・・・薄く引っ掻くだけで傷口はパックリ開き、たらたらと流れる血を、蒼星石は夢中になって舐め清める。 
「美味しいよ・・・・・・・。本当にすっごく美味しいよ、ジュン君の血・・・・!」 
 蒼星石が再びジュンの身体を鋏でなぞる。その傷はたちまち赤い線と化し、その小さい顔を朱に染めながら血をすする蒼星石は、まさしく吸血鬼のようだった。 

「レンピカ」 
 蒼星石は、その手の鋏を再び人工精霊に戻すと、背中一杯に赤いラインを描かれた少年に、今度は四つん這いの姿勢をとらせた。 
「さあ、いくよジュン君・・・・・・・・・・レンピカ!」 
 その瞬間、精霊はジュンの菊門に一目散に飛び込んでいた。 
「うわぁぁああああああああああ!!!!!!!」 

----

「・・・・・・・・あ・・・・・・・あああ・・・・・・・・・!!!」 
「どうしたんだいジュン君?まさか今さら、お尻は初めてだなんて言うんじゃないだろうね?」 
 その問いかけに、ただうめくだけで、答える事すらジュンには出来ない。 
 菊座から侵入した精霊は、人間の指やバイヴレーターなど及びもつかない奔放な動きで、彼の前立腺周辺を刺激しまくっていたからだ。 
 無論、蒼星石が嘲笑うように、ジュンにとって、アナル責めは初めてではない。それどころか、彼の『処女』を散らしたのは、実の姉と、ここにいる巴なのだ。 
「・・・かっ・・・・はっぁぁ・・・・・・・!!!」 
 今ジュンの脳を襲っている感覚は、それが快感なのか激痛なのか、見ているだけでは窺い知れない。彼は白目すら剥きながら、のた打ち回り、痙攣を続けている。 

 その時、階下から、巴の母親から声が届いた。 
「ともちゃ〜ん、のりさんがいらっしゃたわよ〜」 
 巴は、思わず蒼星石を振り返る。そこには悪戯っぽい眼でこちらを見返すオッドアイがあった。 
「いいよ。部屋に来てもらって」 

 そう言われたからといって、はいそうですか、と答えるわけにはいかない。いまや巴には、この蒼星石が、自分たちにとって如何に危険な存在か、充分理解していたからだ。 
 とん、とん、とん、のりが階段を上ってくる音がする。だめだ、もう、間に合わない・・・・・。 

「こんにちは〜、巴ちゃん・・・・あらあら、もう始めちゃってるのぅ?」 
 部屋に入ってきたのりは、何の疑問も違和感も抱かずに、部屋の中央で、全裸でもがき苦しむ少年を微笑みながら見下ろす。 
「のりさん・・・・・・・・!!」 
「やあ、こんにちは、のりさん」 
「こんにちは蒼星石ちゃん。いつもながら済まないわねぇ」 
 のりにとって、眼前のメンツに蒼星石がいる事に対する疑問は無い。ジュン、巴、そしてのりの性宴は、彼女に開いてもらう夢の世界で行われるのが常だったからだ。 
「で、今日はこのまま、お部屋でしちゃうの?まぁ、たまにはそれもいいわねぇ。・・・・あれ、じゃあ、蒼星石ちゃんは今日どうして・・・・・?」 
「いい眺めだと思わないかい、のりさん?」 
 半ば挑戦的な態度でのりに問い掛ける蒼星石を、巴は思わず睨みつける。 

 しかし、蒼星石としては、どうしてもここで彼女に、桜田のりという女性に対して、主導権を握らねばならなかった。 
 だが、このジュンの実の姉には、先程の巴のように、大鋏を振り回して脅しを掛ける、という事は出来そうも無かった。 
 彼女の、あの他人に対して全く疑いを持たない性格が相手では、そんな暴力的な脅迫は通じないだろう、という確信が蒼星石にはある。 
 何よりこの少女の無垢な笑顔を前に、そんな非道な真似が自分に出来るとは、とうてい思えない。 
 彼女の笑顔には、嫉妬や憎悪、ありとあらゆる負の情念を、たちまちにしてかき消すだけの、まさに太陽のような明るさがあったからだ。 

 そういう矛盾を承知しながら、なおも蒼星石は、のりに対して絶対的なペースメーカーにならねば、恐らくジュンを独占する事は出来ない。そう思っていた。 

「レンピカ!!」 
 蒼星石が、今までに無い激しい振動を精霊に命じる。 
 その、バイブレ-ターなど及びもつかない繊細な動きは、ジュンの肉体にかつて無い刺激を与えた。 
「・・・・・・かはあああぁぁぁ・・・・・・・・・ぎぃっ!!」 
 ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!・・・・・・・ドクンッ! 
 ジュンの身体が、今までに無い激しさで大きく上下に痙攣し、まるで噴水のように精液が天に舞いつづける。宙に放たれたそれは濃厚にして大量な白い雨と化し、周辺の畳や彼自身の身体に降り注ぐ。 
 彼の目は大きく見開かれ、神経どころか脳髄ごと焼き尽くされそうな快感は、明らかな物質的苦痛を伴い、彼の意識を彼岸へと刎ね飛ばした。 
 早い話が、ジュンは失神した。 
 白目を剥いて、絶頂の瞬間に舌でも噛んだのだろうか?だらしなく開かれた口元から、薄い血混じりの涎を大量に分泌しながら、彼のネジは切れた。 

「ジュッ、ジュン君ッ!?」 
「どうだい、のりさん、ジュン君をこんなに感じさせる事が貴女に出来る?」 
「蒼星石ちゃん・・・・・・・?」 
「つまり、ジュン君に一番相応しいのは・・・・・」 
「スッゴイ!!スッゴイ!!スッゴイ!! ねえ、今の一体どうやったの!?ねえ、教えてよ蒼星石ちゃん!!教えてったら!!」 
「・・・・・・・・いや、あの、ですから、つまり・・・・・・」 
「ねえ、巴ちゃんも見たっ!?いまの技!ジュン君ったら、たっぷり一分間は射精してたわよぉ!!あんな気持ちよさそうなジュン君見るの、あたし初めてよぅ!!」 

 優位に立とうとする蒼星石の言葉を、全く無視して、のりは一人で感動しまくっている。 
 こうなっては主導権を取るどころでは無い。ひたすら彼女が黙るのを待つしかない。 
「・・・・・・のりさん、そろそろボクの話を聞いてよ・・・・・・・」 

 ちょうど、その同じ時刻。 
 桜田家では翠星石が、ハラハラしながら、鏡の前で事の成り行きを窺っていた。 

 桜田家の鏡と巴の部屋の姿見を、nのフィールドを介して接続し、あえて一人で出かけた蒼星石の様子を覗く。 
 無論、一人でなんて行かせたくは無かった。 
 しかし昔から、あの双子の妹は、一度言い出したら聞かないところがあり、今回も、たびたび自分をてこずらせた強情さが、その姉そっくりの容貌に浮かんでいた。 
(これはもう、仕方ないですぅ) 
・・・・・・・で、一人で行かせたわけだが、案の定、のりにペースを乱され、折角イカせたジュンも、決定的なとどめを刺せないでいる。 

「ん〜〜〜何やってるですか蒼星石のおバカぽんち!もう、のりなんか相手にせずに、とっとと犯っちまえですぅ!!」 
「何をやるのかしら?」 
「決まってるですぅ!とっとと、ジュンの奴にロータリーかまして、アヘアへ言わせてやるですぅ!!」 
「もっと分かりやすく言って頂戴、翠星石」 
「だからぁ、もっとジュンの奴をグチョングチョンに犯しまくって、のりの奴に見せ付けてやるですぅ!そうしたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 
「そうしたら、一体何がどうなるの?翠星石」 
「し・・・・・・・・・しんく・・・・・・!!!」 

 そこに真紅はいた。 
 その顔貌容色には毛ほどの乱れも感じさせない。 
 しかしその両手は、くんくん人形を引き千切らんばかりに握り締め、声も懸命に震えを押し殺しているように見えた。 
「どうしたの翠星石、何がどうなるのか早く説明して頂戴・・・・・・・!!」 

----
「・・・・もうっ!もうっ!いい加減にしてよぉっ!!僕の話を聞いてよぉっ!!」 
 蒼星石の絶叫で、ようやく、この少女の言葉は途切れた。 
 驚くべき事に、彼女はたった今まで、蒼星石の様子がいつもと違う事に気付いていなかったのだ。 
「ねえ、蒼星石ちゃん、今日はどうしたの?」 
 今さらながらに、そんな問いを巴に投げかけるのりを、巴はむしろ、尊敬の眼差しで見返す。 

「のりさんっ!!」 
「はっ、はいっ!!」 
「僕は・・・・・僕は・・・・・僕は決めたんだっ!!もう我慢しないって!!もう見ているだけなんて・・・・・僕には、もう耐えられないんだっ!!!」 
「蒼星石ちゃん・・・・・・・・・?」 
 今日初めて、のりを正面から睨み据える蒼星石。だがその瞳は、涙で潤んでいた・・・。 

「・・・・・・・僕が、貴方たちのために夢の扉を、どんな気持ちで開いていたか・・・・君に分かるかい・・・・・? どんな気持ちで貴方たちの淫らな振る舞いを見ていたか、君に・・・・・!!」 
「・・・・・・・・・・・・・」 
「君たちが羨ましかった・・・・・・・・。 
 君たちが憎かった・・・・・・・・・・。 
 君たちが妬ましかった・・・・・・・・。 
 そして何より自分が・・・・・ただ見ているだけしか出来ない自分が・・・・・・殺したいくらい・・・・・・・くそっ!くそっ!くそぉっ!!」 

 蒼星石は崩れて落ちた。 
 そして、泣いた。 
 まるで、赦しを乞うように俯き、跪いて、泣き顔も見せず、声も立てず、ただ身体を細かく細かく震わせて。 

 その様子を、巴は呆然と見ていた。 
 彼女には分からない。この男装のドールが何故泣いているのかを。 
 さっきまで嫉妬に狂って凶刃を振るい、殺気どころか妖気そのもののようなオーラを発し、自分とのりの眼前で、この少年を凌辱すると宣言した、この蒼星石が。 

 その時、のりが蒼星石のシルクハットを、すっ、と手に取った。 
 そして、思わず泣き顔を上げる蒼星石を抱きしめると、囁いた。 
「・・・・・・・辛かったんでしょう、蒼星石ちゃん。でも、もういいの。気が済むまでお泣きなさい」 
「・・・・・・のり・・・・・・・さん・・・・・・?」 
「そんなに苦しかったの?自分が人間じゃないという現実が。自分が人形だという現実が。・・・・・・ばかねえ。ホントに・・・・・ばかねえ・・・・」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・」 
「自分にジュン君を愛する資格なんて無い・・・・・・・・・ホントにそう思ってるんだとしたら・・・・・・・・・そんなの、そんなの・・・・・哀し過ぎるわよぅ・・・・」 

 蒼星石の頬に、のりの熱い涙が落ちる。一滴、二滴。 
「・・・・・・ぁぁぁああああああああ!!!!!!」 
 蒼星石の忍び泣きは、やがて全身を振るわせる号泣へと変化し、女子高生とアンティークドールは、まるでお互い競い合うかのように泣きじゃくった。 

 それは、とてもとても不思議な眺めに、巴には見えた。 

 思い返せば確かに、即座に納得がいく。 

 僅かの期間とはいえ、雛苺とともに暮らした巴には、彼女たちドールズに対する偏見は、さほど持っていない。 
 しかし、それはあくまでも、彼女がこの世界の平均的な住人『人間』であり、自らに疑いを持たない、『持てる側』の存在であるからに過ぎない。 

 しかし、このローゼンメイデンたちは違う。 
 活動開始とともに否応無く戦闘を強いられ、その理由を問うたところで帰ってくる答えはただ一つ、『宿命』の一言のみ。 
 自らにとって一番近しい存在であるはずの契約者ですら、厳密に言えば、己に精力を強制的に供給させるエネルギー媒介、早い話がエサに過ぎない。 
 彼女たちが契約者たる人間を『下僕』と見下すのは、全く当然の事なのだ。人は豚に敬意を払わない。 
 つまり、ローゼンメイデンと人間とは相容れない存在なのだ。 

 にもかかわらず、ドールたちは人と心を通じ合わすだけの知性と価値観を持ち、その魂には、喜怒哀楽はおろか、それ以上の感情すら持ち合わせている。 
 だからこそ彼女たちは、心を通じた契約者をこう呼ぶのだ。『マスター』と。  

 そしてドールたちの知性は、この世界の成り立ちを充分理解している。自分たちは所詮、人間と相容れない『持たざる側』の超越者、異形なる者であると。 
 もし、今回のドールたちの狂気の行動が、彼女たちの『異形なる者』としての劣等感に根付くものならば、蒼星石の思考をたどるのは簡単だ。 

 人ならざる自分が、人たるジュンを愛する資格があるか? 
『無い』と答えるならば、男と女として彼と愛し合うことは諦めねばならない。ならばどうするか?奪うしかない。一方的に、徹底的に。 

「でもね、蒼星石ちゃん・・・・・・あなたは一つだけ間違っているわ・・・・」 

 どのくらい、二人は泣き続けたのだろう。一分だったようにも感じるし、十分だったようにも思う。それ以上かもしれない。 
 やがて、のりはポツリと口を開いた。 

「ジュン君の心はジュン君のもの・・・・・誰が勝手にしていいものでもないの・・・」 
 その一言を聞いた瞬間に、蒼星石はピクリと体を震わせた。 
「あたしたちに出来るのは、ジュン君に選ばれるための最大限の努力をする事。・・・・・・それだけなのよ。だから・・・・」 
「そんなの! そんなの!!」 
 蒼星石が顔をしゃくり上げる。涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を。 
「そんなの!!僕らが選ばれるわけ無いじゃないか!!僕たちは彼とは違う!全く違う存在なんだ!そんな僕たちをジュン君が・・・・」 
「それは違うわ」 
「違わないよ!!」 
「ジュン君は、そんな理由で相手を選んだりしないわ。あの子が選ぶのはただ一つ、相手の魂の色、それだけ・・・・・・・。そんなジュン君だからこそ、あなたたちは愛してくれたのでしょう?」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 
「蒼星石ちゃんにも、本当は分かってたんでしょう?この子は、あなたたちが大好きなんだって。真紅ちゃんも、雛ちゃんも、翠星石ちゃんも、そして、あなたも。・・・・・そうでなければ、女の子みたいに身を任せたりしないわ」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・」 

 かなわない。僕は少なくとも、この女性の足元にも及ばない。 
 蒼星石は、心の底からそう思った。 
 恐らく、お父様の言う最高の淑女『アリス』とは、彼女のような女性を指すのではないか、とすらも。 

----

 一方、桜田家の物置でも、その言葉を聞き続ける者たちがいた。 
 真紅と翠星石。 
 最初は、怒りに震えて鏡を凝視していた真紅も、また、その真紅に怯えて、鏡を見続けるしかなかった翠星石も、今は鏡の中の柏葉家の様子に眼を奪われている。 
 いま、鏡の中の三人は、再び活動を開始しようとしていた。 

「ごほっ、ごほっ・・・・!!!」 
 巴に活を入れられて、再度蘇生したジュンが見たものは、眼前で土下座する蒼星石の姿だった。 
「あの、これ、どういう・・・・・・・・?」 
 状況が把握できずに、自分の背後にいる巴に聞こうとするジュンは、にっこり微笑みながら、こちらを見ている姉の姿を視界の端で捉える。 
「お姉ちゃ、あ、いや、味付けのり・・・・・・・?」 
「蒼星石ちゃんはお詫びがしたいんですって。ジュン君と巴ちゃんに」 
「お詫び?」 
「あの・・・・・・・」 
 なおも、姉に何かを訊こうとするジュンに、おずおずと蒼星石は口を開いた。 
「さっきは、その・・・・・・・本当にごめんなさい。特に、巴さんにはスゴク失礼な口を聞いてしまって・・・・・・・本当に、本当に、スミマセンでしたっ!!」 
 ジュンはあんぐりと口を開いて、巴は半ば複雑な表情で、蒼星石を見つめる。 

 先程までとはあまりに違うこの豹変振りに、ジュンはただ驚くしかなかった。 

 その後ろの巴は、さらに微妙な心境だった。 
 しかし、その心理の矛先は蒼石ではなく、どちらかと言えば、のりに向けられている。 

 ドールたちが、どれほど鬱屈した感情を、その小さな身体に詰め込んでいたのかは、さっきの蒼星石の言葉で、改めて知るところとなった。 
 はっきり言って、哀れだとも思うし同情も出来る。 
 しかし、眼前のこの、桜田のりという少女は、そういう負の情念に支配され、追い詰められた蒼星石を、あっという間に慰め、説得し、元の理知的なドールに戻してしまった。 
 おそらく蒼星石が、ああいう凶刃を自分たち向ける事は、もはや二度とないだろう。 
 それはいい。だが・・・・・・・ここまで人としての器量の差を見せ付けられると、やはり巴としては、心中、複雑なものを抱えざるを得ない。 

「ジュン君、ぽかんとしてないで、何か言ってあげなさい」 
 そう言われたジュンは姉と蒼星石を見返し、そこでようやく肩の力が抜けたらしかった。 
「・・・・・・・やれやれ・・・・・」 
 そんな弟を見て、姉の笑顔はますます明るくなっていく。 
 ジュンがどういう顔をしているのか、彼の背後にいる巴には分からない。でも、彼ら姉弟の無言のコミュニケーションを見て、心中の複雑なものは更に大きくなっていく・・・。 

「あの、ジュン君・・・・・・・」 
 恐る恐る何か言おうとする蒼星石。その頭をぽんぽんと撫でると、彼は言った。 
「蒼星石・・・・・・・お前も・・・・・僕の事が好きなの・・・・・?」 
「・・・・・・うん」 
「・・・・・・仕方ないな、もう・・・・・・・・・・この背中の傷、何とかしてくれよ」 
 その声に、先程までの拒絶反応は無かった。 
 蒼星石が思わず歓喜の表情を上げる。 

「さ、それじゃあ、パーティの続きをしましょう。巴ちゃんもさっさと脱いじゃいなさい」 

 その日、ジュンとのりが桜田家への帰途に着いたのは、日も暮れてからだった。 
 いつものようにジュンは疲れた顔を隠さず、それに反してのりの笑顔は、ますますはちきれんばかりだった。 
 まるで弟と一緒にいるだけで嬉しくて堪らない、そんな風にすら見える。 

「ねえジュン君、今日のおかずは、W花丸ハンバーグにしましょうねぇ。きっと、みんな喜ぶわよぅ」 
「・・・・・・・・いきなりどうしたんだよ洗濯のり?」 
「んふふふふ・・・・・だってぇ、お姉ちゃん、すっごく嬉しいんだもん」 
「嬉しいって,何が?」 
「だぁって、んふふふ・・・・今日のジュン君、とっても素敵だったんだもの・・・・」 
「なっ、何言ってんだよっ!!いきなりっ!」 
 顔を真っ赤にしてうろたえる弟に,姉は悪戯っぽい目で囁く。 
「今までのジュン君だったら、巴ちゃんにあんな事を言った蒼星石ちゃんを,絶対に許したりしないでしょう?でも,今日のジュン君は、すっごく大人に見えたわ。お姉ちゃん,ああいうジュン君を見ると,もう堪らなくなるの!」 
「ちょっ・・・・声がでかいよ!!」 

 もう今にも踊りだしそうなのりを、ジュンは、近所の目を気にしながら家に引っ張り込む。 
「ああああああ、ジュン君の手って,とっても温かいわぁ!」 
「分かったから、とっとと家に入れ!このお茶漬けのり!!」 
 玄関に姉を放り込み,無理やり家のドアを閉めた二人を待っていたのは、二つの氷のような藍い瞳だった。 

「真紅・・・・・・・?」 
「おかえりなさい、ジュン。ちょっとあなたに話があるの・・・・・!」 

----

 いつもなら,自分たちを、飛び掛るようにして出迎えてくれる雛苺も、なんだかんだと、憎まれ口を叩きながらも甘えてくる翠星石も、ここにはいない。 
 二人ともおそらく、この真紅の無言の怒りに恐れをなして、リビングか,二階の部屋で縮こまっているのだろう。 
 とすれば、あとはコイツがここまで怒り狂う理由だが・・・・・・まあ、ばれたと考えるしかないだろうな。恐らくは,翠星石のバカの口から。 

 そこまで考える余裕は,なぜかジュンにはあった。隣にいるのりが、怯えまくっているにもかかわらず。 
 さて、となれば、どうする?どういう結果になるのが自分に、この桜田ジュンにとってベストの選択だろうか? 

「その話は,大事な話か?」 
「ええ、とても」 
「今すぐしなきゃならない,緊急の話か?」 
「今すぐというわけではないわ。でも、とてもとても重要な話だわ」 
「だったら後だ」 
「ジュン!!」 
「そこまで重要な話なら、なおさら、風呂入ってメシ食って、頭を落ち着かせてからするべきだ。そうだろ?」 
「冗談じゃないわ、ふざけないで!!」 
「ふざけちゃいないよ。ただ僕は,そこまで重要な話なら、すきっ腹の苛ついた頭で聞くべきじゃないって言ってるんだ。それは,お前に対しても失礼な事だろう?」 

「ジュン・・・・・・・あなた、この私をはぐらかしてるつもりなの・・・・・?」 
「おいおい、この僕相手に、はぐらかされるようなお前じゃないだろう?」 

 そこまで言うと,ジュンはさっさと真紅の横を通り抜け,風呂の脱衣場に入ってしまった。眼前で怒り狂う真紅など,まるで意に介していないかのように。 
「ジュン・・・・・・・・・!!」 

「あ、あの・・・・真紅ちゃん、今日のジュン君は,とても疲れてるのよ。だから・・・その・・・・・」 
「・・・・・・・・・・・・・」 
「そっ、それじゃあ、あたし、晩御飯の準備しなくちゃ・・・・そう!今日のおかずは、W花丸ハンバーグなのよう!だから・・・・・・・・その・・・・・・・機嫌直して、ね?」 
「・・・・・・・・・・・・・」 

 のりが逃げるようにキッチンに去った後も,真紅はまんじりともせずに、脱衣場の扉を睨みつけていた。 
 やがて、中からシャワーと、蛇口から大量に湯を出す音が聞こえてくる。 
「・・・・いいわ、そっちがその気なら,こっちもトコトン付き合ってあげる・・・・!」 
 真紅は脱衣場に入ると、自らの服を脱ぎ始めた。 

 ジュンはシャワーを浴びながら,空の湯船にお湯を張っていた。あと十分もすれば,いい湯加減の風呂が出来上がるだろう。 
 これで、夕食とあわせて一時間強は時間を稼げたと思うのだが,さて問題はそこからだ。 
「・・・・・・・やり過ぎた、かな・・・・?」 
 適当にあしらって、真紅の頭を冷やさせるどころか,逆に、怒りに油を注ぐ結果になってしまったような気がするが・・・・・・・まあ、いいだろう。あとは出たとこ勝負で、なんとかなるだろう。 
「・・・・・・・まさか、殺されやしないよな」 
「それはジュン,あなた次第なのだわ」 

「しっ・・・・・!!」 
「あら、どうしたの?私がここに入ってくるのは、計算にはなかった?」 
 そこにいたのは、裸形の真紅。滅多に見せない白い肌と,球体関節を惜しげも無く晒して、ジュンを下から睨みつける。 
「おっ,お前,何で・・・・・・ぎああっっ!!」 
 ジュンの口は封じられた。彼が何かを言おうとする前に,真紅が眼前の,彼の睾丸をわしづかみにしたのだ。 

「こんなものが、こんなものが、ここについているから・・・・・・・あなたは・・・・!」 
「いっ、いがい、いがい!」 
 あわてて股間の細腕を振り払おうとするジュン。しかし次の瞬間,身体に走った激痛に、思わずのけぞってしまう。真紅が握り締めたその手に,更に力を込めたのだ。 
「かぁはっ・・・・・!!」 

 そのまま風呂場のタイルにへたり込むジュンの頬を、真紅のビンタが襲う。 
「いっ・・・・・・・!!」 
 確かに痛かった。しかし、気絶しそうな股間の痛みの中、むしろ気付け薬のような効果をそのビンタは持っていた。 

「ジュン,今のは,ほんの手始めよ」 
 真紅は,自分より更に小さく身体を縮めるジュンの顎に手をさし伸ばし,むしろうっとりした視線を,この少年に向ける。 
「そう、お仕置きの本番は、むしろこれから・・・・・・!」 
 そう言って真紅はジュンの乳首をひねり上げた。 
「うっあああああああ!!!!」 
「まだよ。もっと・・・・もっといい声で鳴かせてあげる。さあ、鳴きなさい、鳴くのよ!!」 

「やっ、やめっ・・・・・!!」 
 乳首に伸びる真紅の指を振り払い,逃げようとするジュン。だが,その足を真紅が払った。 
「うわわっ!!」 
 横倒しに湯船に転がり落ちるジュン。予期せぬ沈没に、大量にお湯を飲んでしまう。 
「かはあっ」 
 湯船から顔を出し,心肺は本能的に排水を求める。が、その瞬間,後ろ髪をぐいっと掴まれ、引っ張られる感覚! 

 ごっ!! 

「ごほっ!!ごほおぉっ!!」 
 呼吸困難になりそうな感覚を味わいながら,懸命にむせ返して,肺の中の湯を吐き出そうとするジュン。 
 その時になって,彼は初めて自分の体勢に気が付いた。後ろ髪を真紅に掴まれ,のけぞる姿勢で、後頭部を湯船のへりに固定された自分を。 
 恐らく湯船から頭を出した瞬間に、無防備な背を、シャワー側にいた真紅に晒してしまったのだろう。 
 まずい!この体勢では,一切真紅に反撃できない! 

「・・・・・・さあて、どう可愛がってあげようかしら・・・・・!」 
 上下さかさまになった真紅が、舌なめずりしながら、ジュンを見下ろす。 
 その眼は,ジュンにとって,とても見覚えのあるものだった。 
 それは、だらしない子ねえ、と言って自分を犯したのりの眼であり, 
 それは、桜田君は女の子になるの,と言って自分を犯した巴の眼であり, 
 それは、乳首奴隷にしてやるです、と言って自分を犯した翠星石の眼であり、 
 それは、今から君は僕のものになる、と言って自分を犯した蒼星石の眼だった。 

「ジュン、お前が一体誰のものなのか、これからじっくり教えてあげる・・・・・!」 

----
 くちゃり。真紅の小さな舌が、ジュンの歯茎を舐め、舌を吸い上げる。その、ぞろりとした感覚に思わず声を上げてしまう。 
「ひはっ!!」 
「あら、こんなところも感じるのかしら?全く、いやらしい身体ね」 
「くうっ!」 

 後頭部を、風呂のへりに固定する真紅の手。それを何とかしようとジュンは苦し紛れの手を伸ばすが、真紅にはするり、するりと巧みにかわされてしまう。 
「離せ、離せ真紅っ!!」 
「そんなに離して欲しいの?仕方ないわね」 
 その瞬間、後ろ髪を掴んでいた小さい手が、ジュンの頭を湯船の中に叩き込む。 
 またも呼吸困難になり、懸命に水上に顔を出すジュン。 

 さすがに真紅の手は離れたようだが、不用意に吸い込んだ酸素が、さっき飲み込んだ大量の湯を、更に逆流させる。 
「ごほっ!ごほっ!ごほっ!!ごほっ!!ごほっ!!・・・・・」 

 数分間に渡る咳き込みが、彼の呼吸を正常に戻した時、もはやジュンには、真紅に逆らえる体力的余裕は無かった。 
「・・・・・・・・はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・」 

 ごぽっ、ごぼごぼ・・・・・・。 
 さっき暴れた弾みで、湯船の栓が外れたようだ。お湯がどんどん排水されていく。 

「ジュン」 
 ふと眼前を見ると、いつの間に入ってきたのか、真紅が湯船の中にいる。 
 もう、お湯は、彼女の胸元くらいまでしか無かった。 

「・・・・・・・真紅」 
「ジュン、今から私が訊く事に正直に答えなさい。いいわね?」 
「・・・・・・・うん」 
 真紅は、湯船の栓をきゅっ、とはめ込む。真紅の腰の高さで排水は止まった。 
「あなた、のりや巴とは、いつから関係を結んでいるの?」 
「こないだぐらい・・・・・・・・・かな・・・・・・」 

 もう、ジュンは真紅に逆らおうとは思わなかった。体力と一緒に、気力まで、根こそぎ奪われてしまったようだ。玄関口で、真紅をあしらった彼が、まるで別人のように、素直に『自白』を始めていた。 
 いや、もはや彼自身、その告白に違和感すら抱いていない。もともと、紅茶の準備やら、移動の際のだっこやら、文句は言っても、真紅に従う事に、彼はさほど抵抗を持っていなかったからだ。 

「それは、向こうから?それともあなたから、そう仕組んだの?」 
「それは・・・・・・・・!!」 

 その瞬間に、彼の脳裡に、両腕を縛られ泣き叫ぶ自分に、嘲笑いながら絡みつく姉と巴の姿が、フラッシュバックのように映し出された。 
 屈辱に耳まで顔を真っ赤にして、俯くジュン。 
「・・・・・・・・そう、やっぱりそうなのね。いくらあなたが愚かでも、実の姉に手を出すほどムチャクチャな人間のはずが無いものね」 
「・・・・・・・・・・・・・・・」 
「では、翠星石と蒼星石はどうなの?」 
「・・・・・夢の中で・・・・・姉ちゃんと柏葉に・・・・されてるところを見られて・・・」 
「やっぱり・・・・・・・そんな事だと思ったわ」 

「・・・・・・思った?あいつから直に聞いたんじゃないのか?」 
「大体予想はついてたわ、それで充分よ。あの四日間の失踪も、多分あの子の仕業なんでしょう?」 
「・・・・・・・・・怒るなよ、真紅」 

 その一言を聞いた瞬間、真紅の顔が、更に怒りで歪んだ。 
「何故!?もともと、あなたと最初に契約を結んだのも、それに、あの子の面倒を見てきたのも、全部全部この私!この真紅なのよ!!飼い犬に手を噛まれるっていうのは、まさにこのことなのだわ!!」 
「あいつは犬じゃない」 
「ジュン!何で翠星石をかばうの!?」 
「嬉しかったんだ」 
「・・・・・・・・・・・・何ですって?」 
「・・・・・・・こんな僕でも、好きだって言ってくれる奴がいる・・・・それが、それが、すごく嬉しかったんだよ・・・・・。姉ちゃんも、柏葉も、翠星石も蒼星石も、みんなみんな、僕の事を好きだって言ってくれる。だから・・・・・」 

 真紅は絶句した。 
 確かに、この、自分の契約者は、自身の中に鬱屈したものを持っているのは承知していた。そういう感情を持った者は、自分に向けられた感情を無視出来ない。 
 だが、その発露が、ああいう、一般的常識から見ても充分変態的な行為を伴うものであっても、彼はそれを単純に嬉しいと言うのだろうか? 

 彼女は、鏡を通してリアルタイムで、今日の柏葉家の出来事を見ている。だから、蒼星石の涙も葛藤も充分理解できる。 
 しかし、あの時の蒼星石や、のりの言葉を信用しているわけではなかった。 

・・・・・・・違うの?そうじゃないと言うの? 

「だったら・・・・・ジュン・・・・・本当だと言うの・・・・・・?あなたは、苛められて喜ぶような・・・・・・本当に、そんな性癖の持ち主だと言うの!?」 
「・・・・・・・・・・・・・軽蔑しても、いいんだぜ」 
「・・・・・・・・・・・・・・・」 

 もうジュンは目を逸らしてはいなかった。多少の恥じらいはあっても、真正面から真紅を見ていた。 
 やぶれかぶれに開き直った眼ではない。 
 ためらいも、後ろめたさも無い、他者に対する思いやりさえ含んだ、その眼。 

 かつての彼であれば、そんな眼はしなかった。出来なかった、と言ってもいい。いつの間にそんな眼が出来るようになったのだろう? 
 この少年の事は、誰よりも自分が見ていたはずなのに、自分以外の何者かによって、確実に、彼は変わってしまった。 
 そう思った瞬間に、真紅の中に、言い様の無い悲しみが溢れ出した。 

「あなたは!あなたは!あなたは私の下僕なのよ!!なのに、なのにどうして!?」 
「真紅・・・・・・・・・・」 
「私だけじゃ足りないの!?私だけの下僕じゃ、物足りないって言うの!?私が!」 
「・・・・・・・・・・・・・・・」 
「私が・・・・・・・・こんなに、あなたを愛していても・・・・・・それだけじゃ・・・・・不足だって・・・・・・・・・そう言うの・・・・・!?」 

 ぽろぽろ涙を流しながら、真紅は崩れ落ちる。思わずその肩を抱こうとするジュン。 
「いや!いやよ!触らないで!不潔よ!不潔なのだわ!!」 
「真紅!!」 
 その瞬間、ジュンは逃げようとする真紅を捕まえ、無理やり唇を奪っていた。 

----

「やめなさ・・・・・・・・ああああっ・・・・・!!!」 
(真紅・・・・・・!) 

 最初は、ついばむようなキスのつもりだった。 
 だが、真紅の喘ぐような息遣い、潤んだ瞳を見た瞬間に、ジュンの理性は蒸発した。 
 その小さな口の中に舌を捻じ込み、唇の裏側、歯の裏側、頬の裏側、舌の裏側、ありとあらゆるところを舌で刺激し、唾液を送り込み、その唾液を、真紅の唾液ごと吸い取った。 
 姉や巴相手に、彼が半ば強制的に習得させられた技術の一つ。 
 無論、キスだけで終わらせる気は、毛頭ない。 

 手のひらで、大きく真紅の乳房を揉みしだきながら、その指で苺色の小さな乳首を摘み上げる。 
「ひうっっ!!」 
 耳に息を送り込み、更に、うなじ、頬、顎、顔面のいたるところにキスを繰り返す。そして、ふたたび耳だ。軽く歯を立ててみる。 
「はあぁぁっ・・・・・・・・・ジュ・・・・・・・ン・・・・・!!」 
「・・・・・何だよ、いやらしい身体はお互い様じゃないか?」 
 耳に直接そう語りかける、甘い毒のようなささやき。真紅はもう、神経がバラバラになりそうだった。 
 それでも、黙って他者のなすがままになることは、ドールの誇りが許さない。 
「・・・・・ちが・・・・・私は・・・・・・・くうぅぅっ!」 

 真紅は、自分の身体の中心に、これまで感じた事のない、強烈な違和感を感じた。 
 しかし、決してそれは苦痛ではなく、むしろ何か温かい、とても心地いいものがボディの中枢に、直に入り込んでくるような、そんな感覚だった。 
「恥かしがる事はないよ。お前の身体は、とても温かく僕を迎えてくれてるじゃないか」 

「ジュン・・・・・・・・・!!」 
「真紅。とっても、綺麗だ」 
 その言葉に嘘はなかった。 

 彼女は美しかった。 
 その黄金の髪は乱れ、その藍い瞳は潤み、その薔薇の花びらのような唇は、中途半端に開かれていても、その姿は、真紅本来が持つ美しさを、まるで損なうものではなかった。 

 ジュンは、真紅の股間に侵入させた指を、そっと動かしてみる。 
「・・・・・・・・・はああっ!!!」 
 まるで、麻酔無しの激痛を堪えているかのような真紅のしぐさ。しかし、少年はもう知っている。彼女が耐えているのは痛みではない、という事を。 
「・・・・・ジュン、ジュン・・・・・・もう、もう・・・・・やめ・・・・」 
「やめない」 
 そう宣告しながら、さらに指を動かす。ゆっくりと、優しく。 
「はっ!ふっ!あっ!あっ!!あっ!!!」 

 真紅は何も言えずに、ただ、悲鳴と痙攣にも似た反応を繰り返す。その眼と口からは、とめどなく涙と涎がこぼれ落ち、理性の仮面は剥ぎ取られていく。 
 そして、それでもなお、真紅は美しかった。 

 もう、我慢出来なかった。 
 ジュンは、指を抜き取ると、彼女を湯船の壁に押し付け、その濡れた、温かな空間に、己のものを挿入する。 
「ジュン!ジュン!ジュン!ジュン!!」 
 真紅が何か叫んでいるようだったが、もう、気にもならなかった。彼はその狭い、小さなエリアに、それこそ脳が蕩けるほどのエクスタシーを感じていたからだ。 

「のり!!のり!!早く!早く来て!!」 
 風呂場から、真紅のただならぬ絶叫がする。 
「なに!?どうしたの真紅ちゃん!!?」 
「いいから早く!!ジュンが、ジュンが大変なの!!」 

 翠星石と二人で、ハンバーグの生地をこねていたのりは、思わず風呂場に駆けつける。 
 のりだけではない。ジュンの名を聞いた瞬間に、のりより早く翠星石は、キッチンから飛び出していた。 
 その後を、半泣きになった雛苺が、とてとてと追いかける。 
 そこで三人が見たものは、鼻血で湯舟を真っ赤に染め、その赤い湯に負けないほどに、赤くのぼせ上がったジュンが、目を回して倒れている姿だった。 

「・・・・・・・・・何ですか真紅、チビ人間のこのざまは?」 
「・・・・・・・・・真紅ちゃん?」 
 のりと翠星石の眼が光る。その殺気は当然、全裸でずぶぬれの真紅に向けられている。 
「あの・・・・・違うのよ・・・・・・突然その・・・・ジュンが倒れて・・・・・」 

「ジュン、どうして寝てるの?お風呂場で?」 
 雛苺が、空気を読めない発言をする。思わず顔を見合わせる、のりと翠星石。 

「それはちょっと・・・・・・違うのよ。・・・・・あ、そうだ、ちょっと雛ちゃんは、冷蔵庫で卵の数を数えてきてくれないかなあ」 
「えっ?でもジュンが・・・・・・・」 
「大丈夫、ジュン君はお姉ちゃんたちに任せて。ね?これは、雛ちゃんにしか頼めない、大事な仕事なの。お願いよう」 
「・・・・・・・・でも・・・・・ジュンが・・・・・・・・」 
「W花丸ハンバーグ、食べたいでしょう?雛ちゃん・・・・・・!!」 
「はっ、はいなのっ!!」 

 常ならぬのりの殺気に怯えた雛苺は、そのまま風呂場を飛び出した。 

「真紅・・・・・・・・ジュンに一体何をしたですか・・・・・・・!?」 
「翠星石・・・・・・・」 

 何をしたもクソも、風呂場の中の絵を見た瞬間に、一目瞭然なのだが、それでも訊かずにはおれない翠星石だった。 
 彼女のオッドアイは怒りと嫉妬に燃え、真紅がその眼に、思わずたじろいでいる。 
 先程までと、少なくともジュンが帰ってくるまでと、全く逆の姿だが、お互い、そのような事にユーモアを感じる余裕などない。 

「翠星石ちゃん、待ちなさい」 
 そう言って前に出てきたのは、のりだった。 

「真紅ちゃん、ジュン君と、したのね・・・・・・?」 
「のっ、のりっ!!」 
「翠星石ちゃん落ち着いて。ここは私に任せなさい」 
 思わず何かを叫ぼうとする翠星石を抑え、のりは、いつもと変わらぬニコニコとした笑顔を浮かべ続ける。その笑みには、一部の曇りも見えない。 
 しかし、真紅は知っている。 
 地味で、天然で、居るだけで人の気持ちを和ませるこの少女が、眼前の弟に対しては、どれほど凄まじい情熱と独占欲の所有者であるか、ということを。 

「別に怒ったりしないから、正直に言っちゃいなさい。ね?真紅ちゃん」 
 にもかかわらず彼女は笑う。何故?何故、この子は笑っていられるの? 

・・・・・・・・負けられない。この、のりにだけは、私は負けられない。 

 そういう思いが、、逆に、真紅にいつもの冷静さを取り戻させる足がかりとなった。 
「そうよ、したわ。そして、その途中にジュンが突然のぼせて倒れたの。だから、のり、あなたを呼んだのよ。・・・・・・さ、早く、ジュンを何とかしましょう。このままでは風邪を引くわ」 

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