「雛苺……」
「ヒナね、JUMがだ――い好きなのよ」
 雛苺の目に、涙がじんわりと浮き出る。
「でも、JUMはヒナのことそっちのけで翠星石や蒼星石とばかり寝てるの」
 涙は瞼から溢れ、頬を伝い、雫が次々と床に落ちた。
 雛苺は何度かしゃくり上げた後、震える声で言葉を紡ぎ始める。
「昨日もJUMは『夜になると涼しいから』って二人とベランダでしてたのよ……」
「……やめて頂戴、雛苺」
「JUMの心は遠いところへ行ってしまう気がするの」
「やめなさい……!」
 真紅は雛苺の言葉など聞きたくはなかった。
 JUMとのことで傷付いているのは解る……しかし、泣き言を聴いてやる心の余裕は無い。
 今も自分は蚊帳の外、あまつさえ金糸雀に先を越されている。
「お父様と同じ……ヒナは捨てられてしまうの?」
 搾り出すような声でそう言うと、胸に手を当てて雛苺は声を殺して泣き始めた。
 真紅は掛ける言葉も見付からずに、ただ俯いてしまう。

「……ヒナは、ヒナは捨てられた人形な、の……はれ?」

 突然、螺子が切れたようにぎこちない動きで、雛苺は床に尻餅を付く。
「雛苺!? ……まさか」
 真紅は雛苺の手を掴むと、部屋から引っ張り出した。

『うっ! もう駄目だ……あおぉ――ッ!』
『イクッ! イクゥ! イッちゃうかしらァ!!!』

 そして、nのフィールドの出口を目指す。
 あられもない叫び声を背に受けて――。
 一時間後。
 すっかり明るくなった部屋で、雛苺はJUMのベッドに寝かされていた。
 傍には真紅が青褪めた顔で、雛苺の様子を窺っている。
(始まってしまった……)
 真紅には何が起こったのかが解っていた。
 もうすぐ、雛苺は『薔薇乙女としての資格』を失ってしまう。
 それは、雛苺としての自我を失い、ただの人形になること。
 心が離れて行ってしまう……。
 今起きていることは、その予兆に過ぎない。
(他のドールとの情事がこんな事態を引き起こすなんて)
 真紅は溜息を吐く。
 度重なる情事はJUMの力を削り、指輪から注がれる力さえも減退させていた。
 それ故に、力は真紅と翠星石への供給に止まり、雛苺に回す余剰分が消えかけていたのだ。
 おまけに心が離れてしまった今では、きっともう……。

「うゆ……真紅」
「もう、仕方が無いわね……無理に早起きするから立ったまま寝てしまったのよ」
「ありがとうなの真紅……でも、もういいのよ」
 勤めて冷静に誤魔化そうとする真紅に、雛苺は微笑みかける。

「ヒナの目を見て、真紅」

 穏やかに語り掛ける雛苺の目には、強い決意の色が現れていた。
「ヒナもう大人なの。自分がどうなるかも解っているの」
 その言葉にハッとなる真紅。
 雛苺は、もう自分の運命を理解していたのだ。
「怖いよ。……でも、仕方無いの。だけど……」
 曇ってゆく表情、震え出す言葉。
 だが、雛苺は最後まで思いを伝えようとする。
「憶えていて……ヒナの言葉を、ヒナの行動を、真紅がヒナから感じ取ったものを」
 震えていても言葉は強く、真紅の心に届いていた。
 真紅は瞬きもせず、雛苺の言葉を一字一句逃すまいと聴いている。
「それはヒナという自我、ヒナという知性が生み出したもの……ヒナという存在の証し」
 そう言ってドレスの袖で涙を拭うと、雛苺はまた笑う。
 胸が痛くなりそうなほどに、優しい笑みだ。

「ヒナはもうただの人形になるけれど、JUMは捨てないでいてくれるかしら?」

 幽かに呟くと、雛苺はそっと目を閉じる。
 一瞬の間隙の後、小さな身体が宙に浮かび上がった。
 光る体……その胸元から、美しい輝きを放つ輝石が舞い上がる。
 それは薔薇乙女の命の源――。

「ローザミスティカ!!」

 真紅は茫然と輝きを見詰める。
 雛苺は逝ってしまった……命の輝きたるミスティカを残して。
「……雛苺」
 悲嘆に暮れる真紅。
 そこへ、何も知らないJUMがやって来る。
「あれ、どうして雛苺が僕のベッドに?」
「…………」
「真紅?」
 何も答えない真紅を訝りながらも、JUMは学生服をハンガーに掛け、箪笥を開けた。
 取り出した下着を小脇に抱え、ひょいと雛苺の顔を覗き込む。
 その目に映るのはいつもと違う、生気の無い人形の貌。
「こーらー、そこは僕のベッドだぞ」
 しかし雛苺の異変に気付かず、JUMはひょいと抱き上げてしまう。
「あー、それとお前ちょっと埃っぽいな。風呂入るか?」
「JUM……駄目よ、何をしても起きることは無いわ」
「何でだよ? おーいチビ苺〜これから朝風呂に入るけど一緒にどうだ?」
 真紅の言葉の意味が解らないJUMは、雛苺を揺すったり突付いたりした。
 己の放蕩が結果的に、この小さなドールに永き眠りを齎したことも知らずに。
「あれ……? 螺子でも切れたのかな? それと何だこの光る石?」
「JUM……雛苺は……!」
 まだ何も気付かないJUMの態度に、真紅は痛ましい悲鳴を上げる。
 だがJUMは雛苺がただ眠っているばかりと思いつつ、耳元で囁いた。 
(……眠かったか。ごめん……最近お前に構ってなかったから、お風呂で……って思ってさ)
 すると――。

「は――――――い、なのぉ!」

「ゑ?」

 真紅は何が何だか良く分からん状態に陥った。

「あ、起きた」
「JU――――M! ヒナもお風呂入るの――!」
「よし、じゃあ髪を洗ってやるよ」
「や〜ん、それだけじゃやーなのー」
「分かってるって。今まで御無沙汰だった分、今日はちゃんとさ」
「わぁ――い! JUMだ――い好きぃ!!!」

 取り敢えず雛苺は動いて、喋っている。
 これから、JUMと風呂場で髪を洗ってもらう名目でセクロスだそうだ。
 ローザミスティカ無しで……?

「じゃ、僕は風呂に入ってくるから」
「JUMとっ♪ おっフロっ♪ れっつごーなの〜〜」
 混乱する真紅に一声かけて部屋を出る二人。
「ちょ…待……ミスティカ忘れてる!」
 走る真紅。

 30秒後、真紅は辛うじて脱衣所でローザミスティカを渡すことが出来た。
 これで一応の一安心。

 しかし、ホッとしたところに風呂場からの嬌声が聞こえ、
 滾り出した地獄の業火の如き嫉妬心に悶え苦しむのであった。

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今日は此処まで
エロがどんどん薄くなってますが、そこはご堪忍を

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 助平生活一週間経過。
 今は夜。
 日夜享楽に明け暮れるJUMにとっては安らぎの時間。
 決して、乙女達の寝ている隙に自慰に耽ったりはしない。
 何故なら、今は毎日欠かさず朝昼晩セクロスに勤しんでいるからだ。
 起き抜けに一発。昼下がりに一発。九時前に一発。
 引き篭もり野郎の体力でよくもまあ是ほど励めるものではある。
 しかし、そこは中学生のLibido。
 成長期のエナジーと思春期のスパークが尽きるまで邁進するのみ。
 薔薇乙女を誘い、誘われれば突き進み、純潔を貫き、その後も身体を重ねるのみ。

 今や、五体のドールと関係を持ち、
 置いてけぼりな真紅は心に鬼を宿しているのだ……。

「もう11時……やっぱりJUMは居ない」

 そして、真紅は直感に目を覚まし、

「こんな夜中に、誰と愛し合っているのかしらね」

 と、怒りを滲ませた呟きとともに最中の場へと向かう。
 わざわざ行かなければ良いのに、とかは考えないで頂きたい。

「……さて、今日の相手はもう見当がついているわ」

 真紅は拳をきつく握り締め、ギリリと歯を鳴らす。
 果たして相手は誰だろうか?
 雛苺か……それとも金糸雀か……それとも双子と3Pか。
「決まってるのだわ……あの黒くて年増の忌まわしい宿無しジャンク!」
 どうやら、真紅の予想では水銀燈らしい。
「ローザミスティカを残したのは失敗! 今度こそ完全破壊あるのみね」
 歩きながらシャドーを始める。
 絆……もとい情念の篭った一撃を見舞うのだろう。
「三角の構えから……掌打、熟瓜打、浴びせ蹴り、そして素早く首捻顔固……」
 立ち回りをイメージしてか、避けの動作や歩法も意識している。
「最後は徹しでフィニッシュなのだわ……!」
 息巻く真紅。
 しかし、物置部屋の前でその足が一旦止まる。

「ぐ……覚悟していたとは言え、これは耐えられないわね……!!!」

 真紅が見たものは正しくJUMと水銀燈の肉交。
 椅子に腰掛け、水銀燈を抱き締めるJUM。
 背後から弄ばれ、切なげな声で善がる水銀燈。
 粘膜が擦れ、粘液が泡立つ音。
 部屋の大鏡に映された二人の顔と、身体。

「どうして水銀燈なんかと!? どうしてッ!!!」

 今にも爆発・炎上せんばかりの真紅。
 だがッ! 声に出ぬ叫びなど、誰も気付いてはくれない。
 一方……。

「ねぇ……やっぱり止しましょう」
「? どうしてだ」
「だって、真紅に聞こえちゃう」
 耳まで真っ赤にして呟く水銀燈。
 真紅とは敵対しているが、それなりに罪悪感があるらしい。
 ミーディアムたるJUMにそれが感じられないのが皮肉ではあるが。
「そんなこと言ったってさ……もうこんなだし」
 ジッパーを開け、反り返ったDickを取り出す。
「びっしょりになったソコにコイツを入れなきゃ治まりがつかないよ」
「で、でもぉ……」
 尚も躊躇する水銀燈。
 JUMは指で更に愛撫を加え、耳朶を舐りながら囁く。
「だって指と舌だけじゃ不満足だろ?」
「本当にするのは、その…怖……きゃ!? 待ちなさぁい!」
 水銀燈の声が裏返る。
 それもその筈、片腕で抱き上げられたかと思うと、もう片方の指で秘唇を開かれたのだ。
 言うまでもなく、暴かれたラビアの下では雄々しくファルスが待ち構えている。
「厭ああぁぁぁぁぁッ!!! 痛いぃ! お願いッ、やめてぇ!!」
 泣き叫ぶ水銀燈……対照的にJUMは緩み切った表情。
「嫌あぁ!!! お父様ァ! めぐぅ……!!!」

「ぐぅッ!!? あのJunk! Bitch!」

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また晩にでも投稿できるよう善処します。
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 耳を塞いで床を転げ回る真紅。
 心に燃ゆるは憤怒と嫉妬の焔。
 貪欲にJUMを占有し、飽くまで貪りたい愛の渇望。
(私は高慢だった!? 怠惰だった!? だからJUMは――)
 それらは全て、薔薇乙女とミーディアムとの関係に安住していた結果。
 自分からJUMの胸に飛び込んで行かなかったことへの罰。
 図らずも、自分が招いてしまった愁い事だけに、後悔も一入。
(私は、意気地無しだわ……)
 目から涙が溢れてくる。
 心の中は惨めさで一杯だ。
 しかし、新たな来訪者には気付いていた。
 傲然と立ちはだかる影。
 薔薇水晶だ。

「真紅……」
 下らぬ物を見るような視線。
 実に冷やかな侮蔑が込められている。
「お父様はおろか、人一人の愛も得られない……そんなドールに何の意味があるでしょうか」
 そう言って、ニヤリと笑った。
 小馬鹿にしたような態度に、真紅はすっくと立ち上がる。
 動作こそ静かであるが、瞳の奥は燃えていた。
 真紅は、殺る気だ。

「薔薇水晶……あなたが来たからには、そのつもりでしょう」
「ローゼンメイデン同士、為すべきは一つ――」

 お互い、得物を構える。

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なんか変だな。
近いうち続き書きます
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 そのまま、斬り込まずにジリジリと間合いを狭めていく。
 戦いの場は狭い廊下、派手な立ち回りなど出来ない。
 ついでに、真紅はJUMと水銀燈に覗きがバレるので暴れたくはない。
 薔薇水晶とて、他のドール達を起こして不利な状況を作る気などない。
 故に勝負は一瞬。一刀一足の間合いからの一撃で全てを決める。
 距離を僅かずつ、だが確実に縮まっていた。
 間も無く制空圏が触れる、その時――。

「ウゥ…ック…グスッ……ヒック…ウウッ……」
「ああゴメン、ゴメンってば。……泣かれるのは勘弁」
「…レイプ」
「レイプ!?」
「最低……」
「サイテー!?」
「初めてがレイプなんて……最低」

 その時――無情にも、JUMと水銀燈の会話が滑り込んだ。
「ぬあッ!!?」
 怒りが瞬時に沸点を超え、ステッキをバキリと折ってしまう。
「最低ですって!? して貰えるだけ……相手にして貰えるだけッ!!!」
 血の涙を流さん勢いで妬み嫉み憾みをスパークさせる真紅。
 今にも暴発寸前也。

「プッ…」
 それに吹き出す薔薇水晶。
 屈辱的な嘲弄だ。

「笑わないで!」
 真紅はキッと睨みつける。
 しかし、鋭い視線で射竦めるどころか
「笑わせないで」
 と返された。
「その薄ら笑いを止めろと言っているのだわ!!!」
「この薄ら笑いを止めてみろと言っているの」
 何とも柳に風である。
 けれど真紅はそうもいかない。
 爆発間近。
 そこへまたしても、部屋からの声が聞こえてくる。

「いや、悪かった……お前が可愛くて調子に乗りすぎた」
「なによそれ! バカみたい!」

 ポロポロ涙を零しながら、水銀燈はそっぽを向いていた。
 JUMは困り果てるが、水銀燈のそんな顔も可愛いので硬度30%UPしている。

「……ご免。したいと思った時、既に行動は終わっていたんだ――」
「うるさい……うるさい うるさい」
「セクロスするなんて言葉、僕は要らない! セクロスした、だけ使う!!!」
「うるさぁい!!! したんだったらもう放しなさいよぉ!!!」
「まだ二回戦がある! 僕はッ放さない!!」
「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

 正々堂々と第二戦開始。

「二、二回……二回二回」

 怒濤の二回戦突入に、真紅は爆発する。
 口元は半笑いで目は釣りあがり、さながら女鬼。
 突如薔薇水晶はその異貌と、滲み出る怒気に震えを感じた。
 それでも水晶の剣を握り、勇敢に挑む。
「真紅……従者に捨てられた弱く、惨めなドール」
 先程までの自分の精神的優位を思い出すように呟き、床を蹴る。
 飛び込むと同時に、真紅の足元から水晶柱を生やし撹乱。
 自らは跳躍し、大上段に構えた水晶の剣を振り下ろす。
 天狗飛び斬りの術である。
「のろいわ薔薇水晶」
 真紅は優雅な動作で下がり、致命の一撃に臨む。
 縦に閃く紫の光……だが決して真紅を捉えることはない。
 切っ先から滑り抜けた風が、幽かに前髪をかき分けたのみ。

「そんな動きでは……そうね、巴どころかJUMにも斬られてしまうのではなくて?」

 真紅は風圧で乱れた前髪をかき上げつつ、見下すような態度で言い放つ。
 薔薇水晶は何も言い返さない……いや、言い返せないのだ。
 先程までの威勢と余裕はどこへやら、彼女は真紅の一挙手一投足にさえ圧倒されていた。
「……馬鹿な」
「馬鹿は貴女よ薔薇水晶」
 真紅は半身に構え、腰を落とす。
「そして、私はお馬鹿さんが嫌い」
 拳を握り、後ろへ引く。

「だから、もう終りにしましょう」

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(昨日酒呑まされたせいで頭の働きがニブイ)
今週中に完結させたいと思ってます。
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 真紅が動いた。
 急激に沈む身体。
 踵から床を貫け、地球の中心に向かう重さ。
 瞬時に大地の抗力と化し、足裏から昇る。
 それを巻き込むように切られる腰。
 捻られる身体。
 協調連動する関節。
 螺旋を描き、力は加速する。
 目指すは只インパクトの中心。
 そして意念を、情念を乗せ、
 真紅の拳が放たれた。

「――――――!!?」
 その速さ。
 薔薇水晶は避けられず、咄嗟に剣で身を庇う。
 刹那、剣越しに凄まじき、重み。
 しかしそれは、間も無く消えてしまう。
 何かが砕け散る音とともに。
 頭に響く痛みとともに。
 消えてしまったのだ。

「あぁ――――――――――ッッ!!!!!!」

 顔を押さえ、叫び、薔薇水晶はよろめく。
 その足が下がると同時に、破片が――紫と白の破片が――零れ落ちた。
 身体を戦慄かせ、声にならない声で、呟き、喚く。
 此れまで見せた冷たさ、無機質さからは考えられない取り乱し様。
 それほどまでに、真紅の拳は強大であったのか。
「わ…わっ、わた…わたしか……か、か……おが……」
 薔薇水晶は無き咽びながら、覚束無い足取りで尚も後ろへ下がる。
「……薔薇水晶」
 只ならぬ雰囲気に、真紅は構えを解いて歩み寄る。
「こない、で……こないで」
 手を片方伸ばし、真紅の接近を制す。
 その時、手が離れた辺りから、何かが滑り落ちた。
 トパーズのように美しい、白い台座に埋まった金色の輝き。
 だがこれは決して、宝石などでは、ない。
「な、そんな……」
 落ちた物の正体に、青褪める真紅。
 いつも見慣れているというのに、堪らなく痛ましい。 
 正しくそれはドールアイの輝き。
 人形の瞳。

「暗い……! みえ……見えないぃ……おと…お父様……助け」

 顔面が砕け、尚も崩れ行くドールは呻き声を上げる。
 せめて、口のある内は。

----
 関節を軋ませながら、廊下の奥へと進む。
 せめて、足の動くうちに、この奥に行かねばならぬのだ。
 そこには元来たフィールドへの扉がある。
 最大の障害となるであろう真紅の追撃は……無い。
 薔薇水晶は命辛々辿り着き、倒れ込むように身を投じた。

「薔薇水晶……」
 消えた彼女の破片を手にとり、真紅は呟く。
 声が強張っていた。
「私は……また、同じ過ちを」
 以前の水銀燈との戦いの情景が蘇る。
 あの時、真紅は水銀燈を焼き壊してしまった。
 今しがた薔薇水晶にした仕打ちも、それと変わらない。
 しかも、水銀燈はすぐ傍にいるというのにだ。
「もう誰とも戦わないと誓ったのに……何て様かしらね」
 自嘲して、真紅は歩き出す。
 向かう先は物置部屋。
 騒音と叫びで、とうに行為など止めた二人がいる筈だ。
 ドールの、しかも命である顔を砕いた自分。
 二人はどんな顔で迎えるだろう。
 真紅は静かにドアを開ける。

 ベロチューしてた。

「ふっ……」
 歯を食いしばり、ドアの隙間から見える光景に耐える真紅。
 どうやら先程の一戦など、愛する二人の世界の外での出来事らしい。
「どうせ、読めていたオチよ」
 目尻に涙の珠が浮かぶものの、敢えて強気の姿勢。
「あの娘、嫌と言ってたクセにあんな……最低の淫乱ジャンクね」
 頬を赤らめ、とろんとした目でJUMと舌を絡ませ合う姿に毒づく。
 されど完全に負け犬の遠吠え。
 その負け犬を嘲るように、鏡に映った水銀燈の象が笑う。
 愛するJUMと唇を貪りつつ、勝ち誇った眼差しで、にたあり、と。
 次の瞬間、真紅はその場を走り去っていた。
 圧倒的な敗北感、屈辱、愁絶……とても居た堪れない。
 二階に駆け上がり、鞄の中に入って鍵を閉めた。

 一方、リビング――。

「まぁ〜ったく、さっきからチビとカナは何をドタバタやってるですか?」
「ああ、それなら真紅ちゃんみたいよ?」
「はぇ? 真紅ですか? ふ〜ん、珍しいこともあるもんですね」
「そうねぇ……あ、翠星石ちゃん少し火を弱くして」
「分〜かってるですぅ。明日の仕込みに抜かりはねぇでぇす!」
「うふふ……コレを食べたらJUM君もおっと元気になるわよー」
「当然です! 翠星石の、あ……愛情が、篭ってるんですから」
「JUM君きっとメロメロねぇ。明日は夢の中で夢精限デスマッチかしら」

「いくです――JUM! おのれ――JUM!!」

 平和だった――。

----
 他方、悲嘆に暮れる者達もいる――。

 此処はEnju Doll。
 店にはまだ火が燈り、中から声が聞こえる。
 声の主は一組の男女だ。
 男は青年。顔面蒼白のまま立ち尽くしている。
 女は人形。跪いて何かを訴えようとしている。
 人形師、槐とその娘、薔薇水晶だ。

「薔薇水晶……!」
 槐は、変わり果てた娘が帰ってきた時、まず叫び声を上げた。
 それから、真っ青になって娘の名を呼んだのである。
 そうするまでに、薔薇水晶の負傷は深刻であった。
 負った傷もさるもの、nのフィールドを通じての帰還が、崩壊を進めたのだ。
 今や手足の先は崩れ落ち、関節は緩み、あちこち剥げ、全身は罅割れつつある。
 最早塵芥と化し、心が何処かに迷うのも時間の問題。
 救いの手は、もう差し伸べられないのか。

「嗚呼……何と言う事だ! 私が師に劣ると言うのか!」
 槐が口惜しげに唸る。
「ローゼンメイデンを超えることは出来ないのか……」
 暗然と嘆息すると、頭を垂れた。
 いつに無い父の様子に薔薇水晶は驚き、傍に這い寄ろうとする。
 だが膝が砕け、うつ伏せに倒れてしまった。
 それでも、軋む腕を無理に突っ張り、身を起こして、叫ぶ。

「お父様……私は、まだ……戦えます!」

 ピキピキと音を立てて口の端が裂けてゆくも、止まることはない。
「直して下さ…れば……私は何度、でも…戦います」
 たとえ顎が砕け落ちても、声なき声で訴え続けるだろう。
 伝えるべき言葉があるのだ。
「そう、すれ…ば、次こ…そは……」

「……無理だ」

 が、返されたのは予期せぬ一言。
「ここまで壊れてしまったお前を……私は救えない」
「…………!」
「仮令修理しても、心は居なくなってしまう……」
 槐は目を閉じ、顔を背けた。
 薔薇水晶の残り少ない顔が驚愕に歪む。
「そ、んな……」
 嘘だ、と言いたくても、口が回らない。
 喉が掠れて声が出ない。
 無情にもそこへ、死の宣告が下された。

「お前は此処で消えるしか無い……」

 そう告げると、父親は娘に背を向けて歩き出す。
 追うことは叶わない。
 なれど一歩這い進もうとした薔薇水晶の、肘が折れた。
 支えを失って、反らしていた上体が床に叩きつけられる。
 身体のどこかがまた、砕け散る音がした。

『おやおや……酷いものですな』

 地虫の様に這う人形の元に、燕尾服が姿を現す。
 白崎……いや、ラプラスの魔だ。
 無残に砕け、半ば人の形を失いつつあるそれを眼下に見た。

「所詮、紛い物は紛い物……ゲームの主役は荷が重過ぎたようです」

 慇懃無礼な態度で呟くと、兎は奥のアトリエに視線を移す。
 有る筈の道具一式、居る筈の人形達と創造主は、既に消えていた。
 それどころか、店の陳列棚の人形達さえ居なくなっている。
 此処に居るのは、薔薇水晶と兎だけだ。

「お父様も行かれた御様子……ならば貴女にも御退場願いましょう」

 薔薇水晶に接する床に、ジィーッと音を立てて亀裂が走る。
 パックリそれが横に開いたかと思うと、彼女は飲み込まれてしまう。

(お父様……)

 亀裂の下、暗い闇に落ちる寸前、薔薇水晶は父を呼び求めた。
 しかしその呟きは虚空の闇に吸い込まれ、兎の耳にすら届かない。

「御心配無く……」

 バラバラと崩れ落ちて行く様を見やり、ラプラスの魔はニヤリと笑う。

「穴の底が、闇とは限らないのですから……」

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ストーリー展開とか文とか可也滅茶苦茶になってしまった。
----
 >>314と>>267から一夜明け、そして時刻は間も無く四時。
 JUMは柏葉宅で勉学に勤しんでいた。図書館が休館日なのだ。
 巴が横で指導してくれているお陰で、進み具合も良い。
「でね、思春期になると脳の視床下部が活動を始めて、下垂体から性腺刺激ホルモンが分泌されるの」
「その働きで精巣や卵巣からホルモンが分泌されるようになるのか……」
 保健体育も立派な勉強だッッッ!!!
 因みに読んでいるのは「思春期のためのラブ&ボディBOOK」
 独逸語っぽく言うと「思春期のためのリーベ&ケルパーBUCH」である。
「う〜ん、この冊子貸してくれないか?」
「良いわよ。教科書の方も貸してあげようか?」
「Di molto Grazie!! 性悪人形に読んで聴かせるよ」
 この用法は間違いらしい……が、JUMの狂喜具合には丁度良い言葉だ。
 巴はそんなJUMを見てクスクスと笑う。
「ああご免なさい……桜田君、すごくエッチになったから」
「え……あ、いや、でもそうかも」
「フフ……でも、雛苺は小さいから手を出さないでね」
「一番先に食ったのが雛苺です、ありがとうございました」
「ゐ!? じゃ、じゃあ翠星石ちゃんとは……」
「完全無欠に浮気です。ありがとうございました」

 等と、自分の駄目っぷりをカミングアウトしていると、突然部屋に、
 ガラーン!
 と言う乾いた音が響いた。 

「何の音だ?」
 不意に鳴った音が気になり、辺りを見回すJUM。
 部屋にあるのは箪笥や机、簡単な棚くらいで、音を立てそうな物は無い。
 巴も立って箪笥の上を見たり、衣装棚を開けてみる。
 やはり音の主と断定できるものは無い。
 そうして部屋を一周し、鏡の前に来たところで、巴の動きが止まった。
「見て……鏡の中に」
 鏡を指差し、一歩二歩後退りながら、呟く。
 JUMは立ち上がり、言われた通り鏡を覗き込んだ時、我が目を疑った。
 鏡に、バラバラになった人形が映っているのだ。
 無論実際の部屋にそんな物は何一つ転がっていない。
 と言うことは、人形は鏡の中にのみ存在することになる。
 つまりはnのフィールドが開いているということ。
 しかも、倒れている人形は見覚えがある。
 一度nのフィールドで会った、第七ドールを名乗る薔薇水晶だ。
 それが全身を砕かれた状態で横たわっている。
 JUMは自然と鏡の前に進み、中に手を突っ込んでいた。
「桜田君!?」
「あいつを助けに行く」
「危険よ! 真紅ちゃん達も居ないのに!」

「だからって……こんなの見て放っておけるワケないだろッ!!!」

 JUMはそう言うと、鏡の中に潜っていく。
 真紅を付け狙う敵とは言え、傷付き倒れているのを見捨てるなど出来なかった。

「……待って、わたしも!」

 続いて巴も、鏡の中に入り込む。

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薔薇水晶編、無駄な文章ばかり多くて申し訳ない
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 一瞬の間隙の後、向こう側の世界に降り立つ二人。
 間髪入れずに、眼前の薔薇水晶に駆け寄る。
 痛ましくも散々に破砕された陶器の肉体。
 そっと手で触れた刹那、JUMはハッと息を呑む。

 すでに、事切れていた……。

 美しかった顔を微塵に砕かれ、
 愛する父に置き去りにされ、
 間も無く、土埃に返ってしまうであろう少女は、
 欠け落ちた頬に涙の跡を残したまま、目覚めることは無いのだ。
 JUMは人形の目に残った雫を、優しく拭ってやった。
 巴はJUMに寄り添い、悲しげに見詰めている。
 この間、互いに終始無言の二人。
 心の中には、やり切れない想いが込み上げていた。
 愛される為に生まれ、戦った少女の末路が、
 あまりに惨めで、
 哀れだったからだ。
 だが所詮は朽ちてゆく運命。
 心ごと肉体も消え去るしかない。

 か細い四肢も、腰も、胸も、頭も忽ち潰え、
 欠片もまた毀れ、更に塵芥と化し、うっすら畳に積もる。

 そして、ドレスだけが残った。

 それは、人の形を失った土塊の上に、紫色のドレスが打ち捨ててある、というだけの光景。
 薔薇水晶は、完全に居なくなってしまった。
 ……それでも、尚JUMはその残滓に手を伸ばす。
 砕片から、指が何かを絡め取った。
 薔薇水晶のアイパッチだ。
 瑠璃色をした薔薇の飾りが無くなっていた。
 何処へ行ったのだろうと、畳の上を探る。
 だが、そこには塵が積もっているだけ。
 JUMは指を止める。
「……そっか」
 探す必要など無くなっていた。
 JUMの口元が綻ぶ。
 巴もその隣で、優しく微笑んでいた。
 薔薇はそこにあったのだ。
 過去……ドレスと呼ばれていたそれは、揺らぎ、舞い、翻り、
 布地を幾重にも重ね、窄まっていた。
 紫の、薔薇の蕾だ。

「見つけた……」
 JUMは蕾に指を伸ばす。
 指には淡い輝きと、仄かな熱。
 そっと触れた。

 膨らみを見せ、勢い良く開く花弁。
 紫の薔薇は美しく、瑞々しく咲き誇る。
 そして、柔らかな花弁に抱かれ眠っていた、

 穢れ無き乙女が、目を覚ます――。

----
何とか前振りも終りなんで
次からエロに
----
俺はあなた方の中に住む薔薇水晶のイメージをきっと汚してしまうだろう。
だから今謝る。
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 JUMは、その小さな身体を取り上げ、
 いとけない嬰児を慈しむように、胸に抱いた。
 薔薇水晶は自らを包み込む温もりに、その身を預ける。
 

 それから数十秒後。

「……っと、別に傷とかは無いみたいだな」

 JUMは薔薇水晶の体の隅々を、舐めるように見回していた。
 薔薇水晶はというと、一糸纏わぬ姿で、頬を赤らめながら立っている。
 花から再び生まれた際に、ドレスまで再生なんぞする訳無い。
 そんな訳で、産まれたままの姿は余す処無くJUMの視線に曝されている。

「で、関節とかにも異常は無さそう」

 JUMは肩肘や手首、膝や足首は言うに及ばす、腰や、更に股関節にまで触れる。
 嫌がってもいい筈だが、薔薇水晶はちょっと身動ぎするだけで、大人しく立っていた。
 愛する者に棄てられ、朽ち果てたところを救われたとしても、行き成りこれでは仕様も無い。
 一応、恩でも感じてるのか、それとも少なからぬ好意でも芽生えたのか。
 ただ解るのは、JUMがとうとう柔肌に手を出し始めたことだ。
 関節から離れた指が、胸元やヒップの柔らかい膨らみに触れて、滑る。

「はぅ……ぅぁ……ッ!」
「うん、柔らかいや……ふムぅぐ!」

 薔薇水晶が切なそうに声を上げた途端、何かがJUMの頭に被さった。

 巴のお古のシャツだった。

「もう、いつまでそんな格好させておくの」
 少し呆れた……というか、些か苛ついた口調で巴が言う。
「プハッ! ああいや、キズとか汚れとか無いかなって」
「どうせ汚してキズモノにするくせに……」
「あいやそれはなんといいますかべつに」
「否定はしないんだ……」
 笑わずに言う巴に、JUMは何とも歯切れが悪い。
 この男、やはり犯る気であった。
 薔薇乙女四体喰い(レイプ、3P、コスHあり)は伊達ではないのだ。
 身の危険を感じた薔薇水晶は、ひょいとお古を手に取り、前を隠した。
(でも逃げたり後ろに下がったりしないから夜はOKってことだよね!)
 ……とも思ったが、名誉回復が優先の為、JUMは何か言ってみる。
「幾ら何でも……知り合ったその日にしたりは、しない」
「だから明日します、っていうのはナシでしょう?」
 JUMは後の言葉がつかえてしまう。
 効果は絶無、寧ろ逆効果だった。
 すぐに否定しないということは、明日にはセクロスに漕ぎ着ける積もりだったのか。
 だとすれば凄まじく浅ましい助平根性。エロリビドーの権化だ。
 ケロッグコンボのゴリラほどの我慢も出来ないエロガキめッッ!!!
「はあ……」
 巴はJUMの発情っ振りに溜息を吐く。
「いいわ桜田君。私の体を触らせてあげる」
 そう言うなり、巴は上着とブラをたくし上げた。
 二つの丸い、膨らみかけがお目見えする。 

「その代わり……この娘に変なことしないでね」
「おぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉぉぉ……!!!」

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クソ短い、すいません。
…明日仕事なのに寝る時間が無い (´・ω・`)
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