まきますか?まきませんか? 

とだけ書かれた紙切れが机の書類の山の上にぽつんとあった。 
普段はこんな遊びに付き合う気はさらさら無いのだが、何故だろう「まきます」に丸を付けてみた。 

少し口の端から笑みが漏れる。 

何かのゲームの始まりを意味するのだろうか? 
私のつまらない生活を潤すには物足りないであろうが、それでもこの小さな小さな遊びは私に少しの興奮を与える。 

「あっ………」 

何処から吹いたのか分からない強い風にその遊びは流されていった。 
追いかけたいのは山々だが私は足が悪く、それは叶わない。 

かくして小さなゲームは幕を閉じたように思えた。 

書類にサインをするだけのつまらないデスクワークから目を離した瞬間私は自分の目を疑った。 
とうとう心と足だけでなく、目までおかしくなってきたのだろうか? 

そこには茶色い古ぼけた鞄が二つあった。 

興味本位で自分に近いほうの鞄を開けてみる。 
そこには青い衣装に身を包んだ少年人形が納められていた。もう片方にも同じような物が入っているのだろうか? 

「何だ……これは…?」 

その箱をよく見渡してみるとゼンマイのような物がある。どこかに穴があるのだろうか? 
腫れ物に触れるかの如くの手つきでその人形を抱き上げ、ネジ穴を探して身体中をまさぐる。 
そしてこの少年のように見えた人形は少女であったという事を知る。だがそれよりも驚くべきことには、 

その肌には人間に勝るとも劣らない柔らかさがあるという事である。 

このような不思議な人形の話を聞いた事がある。さすが生き長らえていたというだけはあるか。 
しかし名前は思い出すことは出来ない。 

「ここか……?」 

背中に穴のような物を発見し、恐る恐る穴にゼンマイを差し込み、 

キ リ キ リキリ キリ 

キリキリキリキリキリキリキリキリキリ 

途中まで巻くとそのゼンマイが勝手に動き出し私は思わずゼンマイから、人形からその手を離す。 
ゼンマイが落ちる音は確かに聞こえたのだが、人形が落ちる音はしない。 

そう、人形は浮いているのだ。 

私は自らの目を、頭を疑いその様を見続けるしかなかった。 

私は自らの目を、頭を疑いその様を見続けるしかなかった。 

そしてその人形は、目を開く。 
鋭く煌めくオッドアイ。私はその色に輝きに魅せられる。だがこの次にそれ以上驚かされる出来事があった。 

「まさか僕から巻かれるなんて……思ってもみなかったよ…長い間巡り続けていると、奇特な人間にも会えるものだね……ふふ… 
 人間、名は?」 

口を開くのだ。しかもきちんと表情もある。私はあまりの驚きに、長い間隠し通していた私の素顔をさらけ出してしまう。 

「一葉、結菱一葉……」 

「一葉、一葉……一葉……変わった名前だね。今は何年?ここは何処だい?」 

その強い光を帯びた瞳に酔ったのか、あまりの出来事にも冷静に対処してしまう。人間極限に追い詰められるとこうなってしまうのだろうか? 
「今は2002年……日本…」 

「そうか…ありがとう……あぁ、そうだ。僕としたことが、久々の目覚めで礼儀を欠いていたみたいだ…自らの名前を晒さずに人間の名を尋ねるなんて…」 
その人形は被っていた帽子手に取り、頭を垂れる。だがしっかりと視線はこちらを射抜いてくる。 

「僕の名は蒼星石。ローゼンメイデンの第四ドールだ」 

「ローゼン…メイデン……?」 
聞いた事がある。生きているように見える人形の事を。彼女がそうだと言うのだろうか? 
しかしこれは生きているように見える、では無く、生きているの……間違いではなかろうか? 

「ローゼンメイデンの事を知っているの?じゃ…話が早いね」 
蒼星石は僕を無視してつらつらと話をし続ける。 

「僕らローゼンメイデンは契約者、マスターの精気を吸う事によって力を出すことが出来る。 
 一葉………僕のマスターになってはくれないか?巻いた貴方にはその資格がある」 

いきなり何を訳の分からない事を……マスター?この私が? 
「いや…私は生きているように精巧な人形の話を聞いた事があるだけだが…面白そうな話ではあるな…」 
「そう言ってくれるなら、嬉しい。」 
「ところで…蒼星石は、私がマスターになったら何をしてくれるつもりだ?まさか主人と言うのだから一方的な搾取の筈が無いだろう?」 

「そうだね…僕は一通り人間のする事ができるから…身の回りの世話……と…それとあなたの為に出来うる限りの事をするよ」 

人形らしからぬ強い目が気に入った。 
「そうか…良いだろう。君のマスターに、私はなろう。……ところでもう一つの鞄は…?」 

「僕の姉が巻かれるのを待っている。だけど…今は少し待っていて欲しい。精気を吸われるのは、慣れるまでに時間がかかるし、 
 それに貴方も見たところ、そう丈夫そうでは無さそうだ。一気に二体は止めておいた方がいい。 
 それに何より……少し思う所があって…」 
顔色が曇る。他意は無さそうだ。 

「そうか、分かった。ではどうすれば良い?」 
「この指輪を付けて…誓いの口付けをするんだ…さぁ……」 
蒼星石は自らが付けていた指輪を外し、僕の手の中にそれを押し込む。その無理やりさが気に食わなかったのか、 
「どの指に付ければ良い?」と言ってわざとじらしてやる。人形相手にこんな事を言っても仕方ないが… 

「誓いだから…決まっているだろう?」 
「いや、あえて聞いただけだ…」 
「一葉はいじわるだね……」 
「少しは困る事が無いと楽しめないだろう?」 

「その通りだ……君とは馬が合いそうだよ…楽しみだ…」 
「それは何より…」指輪を指に嵌め、唇を近づける。 

ちゅっ……とわざと音を立ててやる。 

その瞬間何処から現れたか分からない、強い白みを帯びた青い光があふれ出し、その場を照らす。 
強い光にさえぎられた視界から私はわずかに蒼星石を見る。 

彼女は今まで見たような自嘲的な笑みではなく、恍惚とも呼べるような幸せそうな笑みを浮かべて笑っていた。 
だが不気味さは感じない。 
光が納まってから蒼星石は口を開く。 

「ありがとう、マスター。僕と貴方の絆は今結ばれた」 

彼女は私の壊れた世界に何らかの変化を与えるだろう。 

それが楽園の扉か、それとも地獄への門かは今はまだ分からない。 

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投下宣言していた一葉×蒼ものの冒頭です。 
何かもう色々とむしゃくしゃして書いたので次の投下は分かりませんが… 

ほぼ脳内保管物語の上にエロも多分微妙なんで…SS総合の方が良いかと思いましたが、 
こちらで投下すると言ってしまったのでこちらに投下させてもらいます。 
スレ汚しすんません。 
アニメ派の方もすんません。何て需要の少ないものを… 

ところで一葉は童貞だと思いますか?それとも童貞で無いと思いますか? 
迷っているのでちょっと意見を聞きたい… 

あと、一葉の家のお世話係のおっさんの苗字も募集してみたり。 

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