嘘。 

「ジュン君、僕は実は、男の子なんだよ」 
 四月一日──エイプリル・フールのまさにその日、蒼星石がジュンに会うなり──起きるなり、口にした嘘はジュンにとって稚 
拙で幼稚であった。 
 何故、稚拙で幼稚か? ジュンにとって蒼星石(真紅なら別かもしれない)が男でも女でもどちらでもいいし、服を──何か 
しらの理由をつけて──ひん剥けば分かるような嘘からだ。相手が興味を抱かない嘘など無意味だ。そうせめて、「昔、イタリア 
にいたころ、当時の主に跳ね馬の絵がついた車を運転させてもらったんだよ。でも、あまりにも跳ね馬の絵がダサいからペンチでは 
がした事があったな」とでも言えばいいのに。そうすれば、激昂のあまり殴りかかるくらい興味を持つものを。 
「真紅たちは?」 
「下にいるよ」 
 肩透かしを喰らった蒼星石はお預けをされた犬のような何とも言えない、姉のいたずらを見たときの様な複雑な表情を顔に表していた。 
 蒼星石は自分は少女らしくないと思っている妙なコンプレックスの持ち主だった。だから、信じられると傷つくし、かと言って、信じら 
れないのも考え物だ。エイプリル・フールと言うだけで一体につき一つジュンを騙せるような嘘を言うようにと、真紅と翠星石の連名通 
達がなければこんな、自分の少女らしくないという妙なコンプレックスを引き合いに出してまで嘘はつきたくなかった。そう言った複雑な 
事情による複雑な表情であった。 
 しかし、ジュンはその表情を別のものと捉えていた。眼鏡をまだつけてないから。 
(これはガキの頃、おもちゃ屋で駄々こねてる僕を見る海苔巻きの目とおなじだ!) 
 途端、心の中を暗い何かが覆った。忌々しい過去の記憶が甦る。 
「そうなんだ! よかった。この家に男は僕しかいないから。語りたいことがあったんだ、男同士で、ね」 
 暗いものを顔にださずに、にこやかな笑顔を前面に押し出して告げた。 
「エロ話をね」 
猥談宣言を。 

「蒼星石はAカップからHカップならどれ選ぶ?」 
「え、えっと、僕はA?」 
「卑屈すぎるぞ。もっと自分に自身を持て。おっぱいは怖くない」 
 まずはショートジャブ。 
「貧乳もいいが、巨乳もいいぞ! ほら」 
「ジュン君! 男の人の棒が!棒が! 胸に!」 
 右ストレート。 
「でも、写真より動画だよな」 
「! ジュン君、黒い大きいのが、刺さって! 女の人が! ああ!」 
 ワン・ツウー。 
「所でお前のちんこ、剥けてる? 長さは? 僕は剥けてて16センチ」 
「ひいいいっ! ジュン君、そんなの見せないで!」 
 3R目で蒼星石はマットに沈む事となった。 

----
 最初はたんなる(一方的な勘違いによる)復讐だったが、引きこもっていて、年相応の色事に関する話をしたことがない 
反動か、はたまたいつもクールな蒼星石が激しく取り乱しているのに、興奮したのか。いつになく饒舌に語った。 
「ごめん、ジュン君。僕が男の子と言うのは嘘なんだよ」 
 少女としての何かを失い、これ以上失いたくないと言う決意に満ちた顔で真実を告げた。 
「またまた、今日は四月バカの日だろ。蒼星石が女の子だなんて僕を騙すつもりだろ?」 
 男としての何かを失い、手にいれた玩具を失いたくないと言う邪心に満ちた笑顔でスルー。ジュンとしては、ここいらで 
桜田家に置ける自身のヒエラルキーの向上を果たしたい。要するに、それなりに話が分かり、真紅たちの横暴から助けてく 
れる人材が欲しいのであった。 
 そう軽い気持ちだったのだが。 

「僕は──僕は! 女の子だ!」 
 ジュンが蒼星石をからかうように発したなにげない言葉は、少女らしくないというコンプレックスを持つ蒼星石の心のダ 
ムを一撃で決壊させた、前触れもなく。心に流れる濁流はそのまま涙となり、興奮により赤く染まった頬を伝う。 
 それを見て混乱したのはジュンであった。初めて、心底、蒼星石が女の子だ、人形だけど女の子なんだと実感した。なんでこんな 
ことに関わったのか。真紅たちが下から上がってくるかも。どうしょうどうしょうああごめんと言って逃げようか。色恋沙汰に 
関わったことの無いジュンにとって、未知との遭遇である。蒼星石が泣く前触れもなかったし。 

 そうしたジュンの混乱をよそに、蒼星石は服を脱いだ。 
 そして、突然の事態に硬直するジュンの手を取り、自らの胸に押し当てた。 
「胸だって、さっきの人より小さいけどあるよ!」 
 涙を流しながら、ベットに座るジュンの足のあいだに座る。全裸でこの体勢はおよそ御父様が望む完全なる少女には程遠い気が 
するが、構わない。御父様も分かってくださるはず。なにせこれは薔薇乙女、乙な女として認めさせるための女として尊厳をかけ 
た聖戦なのだから。何が何でも僕が女の子だと分かってもらうよ、ジュン君。 
「ほらもっと触りなよ!」 
「あ、ああ」 
 頭の中が空っぽになったジュンは、言われるままに胸をさわり始めた。 

五分? 十分? ともかく最初は機械的に触り始めたジュンだったが、やがて心に余裕がでてきた頃には、ネットでみたAV男優 
の手の動きを真似しはじめた。小さい胸を解す様に優しく、緩やかに。 
 一方、蒼星石は時間とともに余裕を失くしていた。乙な女として認めさせるための女として尊厳をかけた聖戦? はぁ?  
僕はなにを口走った? 興奮して、ここぞと言う時に失言をするのは姉である翠星石の専売特許だが、双子だからか、蒼星石も同じ 
ようだ。 
 蒼星石はともかく冷静に事態を収めようと図ったが。 
「……あ、んくっ…」 
 感じ始めた体は冷静な思考を許さなかった。 

「あっ……くっ! ああっ!」 
 蒼星石の体に蛇のようにジュンの手が動き回る。それを快楽に潤んだ瞳で蒼星石はただ見ていた。 
 上に下に、右に左に。右手は敏感な臍から、膨らみ始めた蕾のような胸の谷間を啄ばむ様に通り、左手は逆に 
臍から右足の太もも這うように撫でていく。 

(あつい、あついよぉ) 
 背中に当たるジュンの胸板のせいか、それとも人形の身すら侵食する細菌かウィルスの仕業か。とにもかくにも蒼星石のまと 
まらない思考は、あつい、を示していた。 
「ジュン君…やめ……んっ、ああっ、やめて」 
 熱にやられたせいなのか、ジュンのゆるやかな拘束を解くことができない。できることはただ熱に喘ぐのみ。 
「可愛いよ、蒼星石」 
 その言葉は、自分があまり女の子──少女っぽくないと思っていた蒼星石にとって麻薬のように心に染み渡ってきた。 
(かわいい? ぼくが? ジュン君にとってかわいい) 
「ああっ!」 
 意識した途端、体中の熱が全て快感に変わった。 ジュンの吐息がかかる髪が気持ちよい。撫でられ太ももが、腕が、胸がと 
もかく全身気持ちいい。 
 これでもしこの体に女性器がついてあったら、いったいどうなっていただろう。 

「蒼星石、乳首なめるよ」 
「乳く、ひゃ、ああっ! …やあぁっ!」 
 一際大きな声をだす。のりお手製の花丸ハンバーグを食べたときより、翠星石が淹れたおいしいほうじ茶を飲んだ時より、 
マスターが頭を撫でてくれた時よりも、ずっとずっと心地よく切なく甘い。この快感の前なら自分の体に乳首があった事への驚き 
など些細なもの。 
 きもちいいかいかんたのしいいうれしいここちいいうれしすきすきじゅんもっともっと。錯乱した意識が訳の分からない思考 
を紡ぎ、紡ぎきれない思考の糸はついには── 
「やあぁぁぁぁぁ!!!!」 
 意識を停止させた。 

----
 これまで感じたことの無い鋭い痛みと、内臓をえぐるような快楽。 
 耳元できこえるのは、蒼星石、蒼星石と自分を呼ぶジュンの声。 
 ぼんやりと、心地よい痛みを感じながら視線を巡らすと、少し前に見せられた男女の映像のように、ジュンの股間から生えている 
黒ピンクの長い棒が、自分の股間を──あるはずのない女性器を貫いていた。 
「え、どうして!」 
 一気に意識が覚醒される。一気に快楽が全身を回る。そしてそれを上回る悲しみが訪れる。 
 僕は…僕は、アリスに──御父様の完璧な少女になれない。無いはずの女性器を貫かれ処女を失った人形など、どれだけローザミスティカ 
を集めても完璧な少女にはなれない。ジャンク。そうジャンクだ。 
「なんで、泣くんだよ」 
 男の都合のいいように展開される漫画やAVしか見たことの無いジュンにとって、この展開は想定外だった。 
「ジュン君、僕、ジャンクに、アリスになれなくなった」 
 泣き笑いの表情を浮かべ潤んだ瞳から涙が伝う。ジュンに抱かれたことが嫌なのではない。アリスになれないことが悲しいのだ。 
 いやだ。蒼星石、泣かないでくれ──蒼星石の事が恋愛感情としての好きか嫌いか、それは解からなかったが、でも目の前の 
女の子が泣くのは我慢できない。ジュンはそう思った。 
「御父様の望んだアリスに……」 
 今にも舌を噛んで死にます、と言った風情に思わずジュンは叫んだ。 
「お前はジャンクなんかじゃない! 親父さんの望んだアリスになれないなら、僕の望んだアリスになってくれ!」 
 まるで恋愛の告白のようだ。いや告白だ。 
「僕は、もう、処女じゃ、ない」 
「バカ、奪ったのは僕だ」 
「女の子っぽくない」 
「お前は女の子だ」 
「僕で、いいのかい?」 
「お前がいい」 
 そっと蒼星石の頬に口付けをする。 
 すると彼女は、彼女の双子の姉が世話する花のように、咲き誇らんばかりの満面の笑顔を浮かべた。  
  

それと同時に蒼星石の睦がぞわぞわと蠢き、ジュンの分身に刺激を与える。 
「ひゃ」 
 ジュンは思わず声を上げてしまう。 
「ジュン君、気持ちいい?」 
 満面の笑顔のまま、再び、睦をぞわぞわと蠢めかす。女性器がなぜ突然ついたのかの疑問はさておき、今大切なのは 
ジュンの望んだ完璧なる少女──アリスになること。差し当たってすることは、ローザミスティカを集める事ではなく 
ジュンに快楽を与えること。 
「く、こぉのおおぉぉぉ!」 
 だが経験こそ無いものの、ネットで見て知った性の知識に関してはジュンに断然有利であった。 
 ぎゅと蒼星石の体を掴んで、腰を動かし始めた。 
「きゃ! ひゃあ!そんな、ああぁ! 奥に! 奥にあたっててる!」 
 腰を使い、浅く早く深く緩やかに。 
「だめ!ジュン君、だめ! わからなくなるぅ!」 
 たまに、「の」の字を書くように。 
「ジュン君、気持ちいいのが怖い!怖い!ひゃあ! あああぁ!」 
 不意に、これまで以上に蒼星石の睦が締まった。それに童貞であったジュンに耐えられる訳がない。 
「出る! 出るぞ!」 
 性知識がない蒼星石にとって何が出るのかは分からなかったが、何か温かい物が──ジュンが体の中を満たしてくれ 
るのだけは理解した。 
 心地よい疲労感と高揚感に、気だるい快感が体を包む。 
 蒼星石は幸せであった。体の快感はもとより、これからはジュンの望むアリスになればいい、姉妹たちのローザミスティカ 
を集める理由もない(ジュンが望むなら別だが)。 
 心身ともに幸せに包まれた蒼星石は、ジュンに抱かれたまま疲労感に身を委ね、眠ろうとした。 
 そんな蒼星石にジュンは口付けをした。 
 そうだね、おやすみのキスを忘れていたね。明日から、眠りに就く前に必ずキスをするよ。おやすみ、大好きだよジュン君。 
意識をゆっくりと手放していく蒼星石の耳元にジュンは囁いた。 

「もう一回するぞ」 
「あああ!」 
 ジュンはまだ固くそそり立つ己の分身を蒼星石の不意をつく形で動かし始めた。 

----
  衝動 

「ジュン君、もうだめ! だめぇぇぇ!!」 
 あれから幾度となく果て、それでも尚動き続けるジュンに、最初に根を上げたのは蒼星石であった。 
 大きく絶頂を迎えた後、そのまま動かなくなった。 
「おい、蒼星石!」 
 慌てて蒼星石の頬を叩くが返事もなく、ただ緩やかに呼吸に合わせて控えめな自己主張する胸が動くのみ。 
「人形でも呼吸するのか?」 
 だが、ひとまず安心した。壊れた訳でもゼンマイが切れた訳でも無さそうだ。 
 ジュンは蒼星石をどこに寝かせようか迷った挙句、彼女の鞄ではなく自分の、先ほどまで蒼星石を抱いていたベットに寝かせ 
軽く愛液と精液が混じる股間をウェットティシュでぬぐい、布団をかけてやった。そして、蒼星石が脱ぎ散らかした服を片付けよう 
として、ドアの隙間が僅かに開いていることにきずく。 
 そのドアの隙間から室内を覗く、青い瞳と目があった。 
「真紅?」 
 慌ててドアを開けると、そこには、いつもの憎たらしいぐらい澄ました顔の真紅ではなく、ドレス裾をめくり股間に手を置いて廊 
下に己が愛液を滴らせる、可愛そうなぐらい怯え、頬を上気させた真紅であった──どうも、覗いていたらしい。 

「あっあっん!手が、手が、止まらないの!」 
 理性は止めろと言っているが、それを上回る本能が体を支配する。生まれてから、活動時間だけでも何十年と動いている真紅だが 
セックスを見たのが、どうもこれが始めてらしい。ジュンのあまりにも男を感じさせる行動(セックス)に当てられた真紅は、ここ 
で初めてオナニーし、そしてやめれなくなていた。 
「ジュン! ジュン!助けて!」 
 大粒の涙をぼろぼろこぼし、いつもの威厳をかなぐり捨てて裸のジュンにすがりつく。 
「あなたと蒼星石を見ていたら、悲しくて、胸が痛くて! 助けて ジュン!」 

 ありえない。おかしい。変だ──先ほどまでの蒼星石の行為を棚に上げ、ジュンの思考がこの光景を非現実的だと告げている。 
 そんなジュンに切羽詰った真紅は気づく余裕はなかった。あるのは、腕を失った時のような喪失感と、身をこがすような高揚感。真紅は 
続けた。 
「リビングで紅茶を飲んでいたら突然、うう! くぅ 頭に声が響いてきて。気が付いたら──」 
「声?」 
「わからないけど 
    薔薇乙女(ローゼンメイデン)のエロ小説 第6話 
             んっ! ……あっ!    
 526 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/03/04(土) 21:09:18 ID:JSUiwYHw 
  でも惜しいな・・・女性器ついてないのか(´・ω・`) 

         いゃ……      
 527 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/03/04(土) 21:22:33 ID:H46a07bm 
  GJ!女性器も付けちゃおうぜ!なぁ! 

    ……くふっ!  ……ああ! 
 528 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/03/04(土) 21:24:33 ID:6tYvEsCR 
  イイヨイイヨー! 
  もう女性器も付いてるってことにしようじゃまいか! 
  

 ……っつ!                                        」 

 真紅は頭に響いた声の内容を言ったが、ジュンにすがりつつも股間に手をやり手淫をし、嬌声を上げながらなので良く聞こえな 
かった。ただ何か偉大な──もとい──エロい者の存在をぼんやりとだが悟った。 

「ねぇ!ジュン!助けて!助けて! 声が響いてから!体に変なのが!人間のみたいなのが付いて!心が寒くて!」 
 身を焦がさんばかりの劣情の嵐と、自分の大切な下僕であるジュンと一番ジュンから遠いと思った蒼星石の絡みを見て 
真紅の思考は狭められてしまった。いつもの毅然とした態度をかなぐりすてて、錯乱気味に叫びジュンにすがった。 

 その姿をみて、ジュンは可愛いと思った──が、待てよ、以前、いい雰囲気になった時についんてーるあたっくを喰らったな、 
そう言えば。今回も罠か?エイプリル・フールだし──いやいや、いくら真紅でもこんな格好で嘘は───いや、前あいつは 
真顔で、英語の本が読めると僕に嘘を───。 

  
 犬を可愛がり懐いた頃に、訳もなく叩いて叱り、怯えた頃にまた可愛がる。何度かすると犬は人を信用しない犬へとかわる。 
  
 犬は古来、人間の下僕であった。残り物をあげれば見張りのように家の周りをうろつき、食料のないときはその犬を食べる。この 
滅私奉公ぶりを下僕といわず、なんと呼ぶ! 

 そして、桜田ジュンは真紅の下僕であった。本人は否定するだろうが、何だかんだ言って真紅には逆らわない、おいしいかおいしく 
ないか別として紅茶もいれるし。 

 上記の理由を元に、桜田ジュン = 下僕 = 犬 の方程式が成り立つ。ジュンは真紅の犬なのだ。それも人形を───真紅を 
信用しきれない犬だったのだ。 

 そんなジュンの葛藤する時間に耐えられなくなった真紅は、強行手段にでた。 
 球体関節を巧みに操りジュンの左膝裏に右足を滑り込ませ、左足つま先を左脚でドンと踏み込み、右ストレートをジュンの下腹 
にねじ込む。さすが薔薇乙女の中で、唯一、殴り合いができる武闘派格闘家。伊達に窓を開けないという理由だけで無防備名ジュ 
ンのわき腹にストレートを打ち込んでない。 
 ジュンは突然の事にその場に尻餅をつく。そんなジュンの胸の上を雛苺の様に這いそして、ジュンの口を封印するかのように 
自分の二回り以上小さい唇を押し当てる。 
「ん! ん、ん!んんっ!」 
 甘い甘い! 人間がなんでキスをするのかわかった。この震えるような甘さと切ない快感を今迄逃していたなんて! 明日から 
十時と三時───いえ、五回全部のお茶の時間に味わいましょ。お茶はアッサムティーがいいかしら。 
 ジュンからもたらされた刺激で思考の一部が取り戻される──変に汚染はされているが。 

----
 真紅がジュンの唇の感触に酔いしれているのとは裏腹にジュンは苦しんでいた。理由は簡単、酸欠だ。腹を殴られ呼吸が乱れ 
た所への不意打ちのキス。酸素、酸素、酸素よこせ、酸素! ジュンの理性と本能が雄たけびを上げる。 
 ジュンは思考と体の欲求に従い、実力でこれを排除しようとするが──離れない。 

 何たる悲劇。引き篭もりで体力と筋力が同年代より劣ると言うのに、蒼星石を何度も何度も、しつこい位求めた反動による 
疲労によって真紅を引き剥がす事ができないのであった。一回で、百メートル全力疾走と同等の体力消費だから。 
(ああきっとこいつ、真紅は、人形と砂糖とスパイスに素敵なものをいっぱい混ぜて作られようとした時、間違ってケミカルX 
が入ったんだろうなぁ………馬鹿力だし、たまに空飛ぶし) 
 頭の中に二頭身の幼稚園児が三人駆け抜けていった。 

 混濁した意識が諦観がかった訳の分からない思考を生み、その思考が残り少ない酸素を消費する。ここが僕のデッドラインか 
──諦めかけたその時に、この危機的状況を回避する昔の逸話を思い出す。桜田ジュン──ピンチをチャンスに変える! 

     ───川で息が苦しくなった時は、逆に潜って、川底の石に溜まった空気を探すのだ─── 
        (真似する時は自己責任に置いてのみしてください。それが21禁のお約束) 
   

 閉じられた自分の口を舌でこじ開け、舌先を使い真紅の薄い唇に触れる。びくっと真紅が怯んだ隙に一気に舌をねじ込む。その 
際に真紅が吐き出した甘い吐息をジュンは吸った。一口分の新鮮ではないが、れっきとした酸素。その酸素で十分であった。 
 漲るbeat、燃え尽きるほどheat。今、一時間前に脱童貞を済ました男が放つオーバードライブ。 
 真紅の瞳が驚きか、はたまた快感でか大きく開くがそのことについて考えている余裕はない。一口分の酸素しかまだ手に入れて 
ないのだから。 

 舌をくちゅくちゅと音を立てて動かす。真紅の柔らかい舌を絡め、自分の舌を刷毛のように動かし、自らの唾液を真紅の歯茎に 
塗りたくる様に動かす。我武者羅に。 

 各々、心の中ではどうあれ真紅は主人であり、ジュンは真紅の下僕である。そしてこれは───この経験したことがない口付けは 
下僕の奉仕の一貫なのだ。下僕の奉仕行為を受け止めるのも、主人としての度量。だから決してこの行為は完全なる少女に 
相応しくない行為ではない───多少の冷静さは取り戻してはいるが、そこはそれ、変なものにまだ汚染されている思考は、歪な 
言い訳を正当化する。 

 ───もっと気持ちよくさせて頂戴、ジュン。 

 その瞬間、ガクっとジュンが後ろに沈み込んだ。 
 あら、ゼンマイがきれたのかしら───それは当りだった。ジュンは酸素と言うゼンマイが切れ、酸欠によるチアノーゼ症状を 
起こしたまま、ぴくぴくと痙攣を起こしてる。いわゆる死に体。 
「ジュン、起きてちょうだい。ジュン」 

 心地よい太陽風に吹かれゆらゆらとゆれるニューボディ。単なるマイナーチェンジではなく、完全に以前の体とは別のこの体。 
この体ならどこにだって行ける。その確信に従い、ジュンは自室から屋根をすり抜け、上にあがる。ああ、太陽がなんて心地良 
いんだろう。 
 ともかく、上昇しようとしたジュン。不意に日がかげる。意識を上に向けた瞬間見えたのは、黒い翼とどこかで見た顔。 
 ばち、と、実際には音はしてないがジュンにはそんな音が聞こえたような気がした。ニューボディをしばかれたのだ。 
 どんどん元の体に惹かれに牽かれるニューボディ。 

 元の体に戻って最初に見たのは、自身の睦でジュンの分身───桜田ジュン=下僕=犬だからこの場合は───ジュンの 
クンクンを腰を振りしごきたてる真紅の後姿であった。 

「あ、ん、いけな……ん。でも、あっ!」 
 騎上位状態で一見リードしているかのように見える真紅だが、その実右手の親指を噛み、今来ている快感を処理するだけで 
精一杯であった。これなら蒼星石が、気絶す、る、のも分か、る──快楽でうまくまとまらない頭がさきほどのジュンと蒼星 
石の絡みを思いだす。こころなしか腰の動きが速くなった。 

 緩やかな腰の動きに従い、その小ぶりだが柔らかく可愛らしいお尻もふりふりと動く。ジュンのクンクンを使い、自分の睦 
を擦り上げ、快感を得るため上下する腰。それに伴い、ぺたっ…ぺたっと真紅の尾てい骨に当たる骨格とジュンの股関節の 
部分が当たり、粘つくジュンの汗と真紅の愛液がいやらしい水音をたてる。 
 そして、その水音が二人をさらなる情欲の虜とするのだった。 

 ぺたんぺたん。真紅の可愛いお尻が当たる。真紅のお尻の骨格が何故柔らかいと分かるかと言うと、ジュンが真紅のお尻 
を掴んだから、では何故掴んだかと言うと、体勢を──反撃の狼煙を上げるためだ! 
「きゃああっ!」 
 重ねていうがジュンは真紅の犬だ。犬が交尾しようとする時、それが騎上位などというのは悪い冗談でしかない。犬なら 
後背位! これ当たり前! 
「ジュン!!」 
 快楽ボケした真紅であったが、さすがにどう繕っても自身が納得できない四つんばいのワンワンスタイルに、それを 
もたらしたジュンに非難を浴びせるようとするが── 
「やめ──あっあっ! あっあっあああっ!」 
 口からでてきたのは喜悦の吐息。言葉で制止させようとするのが土台無理な話。交尾し始めた犬を止めるには古来より 
水をぶっかけると相場が決まっている。 

 さきほどまでの緩やかな動きと違い、ジュンの腰の動きは獣のそれであった。 
 もともと、蒼星石とのセックスは(ジュンにとっては)中途で終わり、妙にすっきりしない。そこにきてさきほどの 
臨死体験(?)により、ジュンの体は種の保存を叫び、精子を大量に作り始めたのだ──獣になるのも無理はない。いまなら 
烈海王にだって勝てる! 
 ジュンは腰を振る振るともかく振る。 
「あっあっ! ああああっ!! っ! あ!」 
 大きな声を無意識に上げながらジュンのクンクンから、多すぎる快楽から逃れようと少しづつ腰を前に動かすが、ジュン 
は獲物を逃すまいと大きく腰を突き上げる。 
「〜〜〜〜!!!」 
 言葉にならない叫び。 
 あまりの衝撃に両腕の力が抜けお尻だけを上に突き出した状態になる。だがジュンはそんな真紅に追い討ちをかけるかのよう 
に、真紅を自重で押しつぶさんとばかりに、のしかかり腰を振り始めた。蒼星石の時とは違い、そこにはテクニックを試そう 
とする考えなどなく、ただオスの本能を満たそうとする動きであった。 

 こんな、こんな事って。 
 自分の下僕に押し倒されることにより真紅は屈辱を受けていた。だがそれ以上に被虐心による快感も受けていた。 
 もしこれがジュン以外の者にされた事ならば、ただただ敵愾心が沸き、自分をジャンクにした相手を考えられる限り残酷で優雅 
な方法──例えば、密室を薔薇で満たし、その香りで相手を窒息死させる──で殺し、自分も、御父様に顔向けできないと、 
ひっそりと自殺でも考えるだろう。いや、相手を殺す前に自分の精神が崩壊するだろう。 

  だがジュンなら、ジュンならば、この仕打ちを甘んじて受け止めれる。 

 ジュンの息遣い、ジュンの匂い、ジュンのクンクン。薄れいく意識の中、ジュンのすべてを感じながら、絶叫を耳にした。 
 はしたない。誰がそんな大声をあげるのだろうか。 
 自分が叫んだ事にきがつかず、真紅は絶頂の中で意識を止めた。 

 でもジュンは腰を振るのをやめない。 
  
  

 結局、ジュンは完全にすっきりしないまま、蒼星石と同じように後始末をして、蒼星石の横に真紅の裸身を横たえた。 
「やれやれ」 
 一言つぶやき、不意に底意地の悪い笑みを浮かべハンガーに、辺りに散らばった彼女たちの服を干し、適当な所に吊り下げた。 
 そこで、ドアの向こうからこちらを覗く赤い瞳と視線が交差した。 

                                             〜完〜 

----
さよなら 
----

 先日の一件以来、妙に── 
「紅茶を淹れてきなさい」 
「お茶を──適温で」 
 二人が冷たい。 
 やはりあれか、二人の手の届かない所に蒼星石と真紅の服を干したのが不味かったのか? それとも、その光景を見て 
笑ったのがだめだったか? いやそれは不可抗力だ! だって、リアルで、棒と箱を使いバナナを取るサルの真似事を見せら 
れたら、箸が転がっても笑う年頃の自分が我慢できる訳ないだろ。そうだろ。 
 その二人とは反対に── 
「ジュン、私の紅茶も入れてきやがれですぅ」 
 顔を赤くしたまま、ジュンと視線を合わせようとしない翠星石。その声はいつもより小さく、横で「雛も雛もぉ!」と騒ぐ雛苺 
の声にかき消されそうだ。後、呼び方がジュンに変わってるし──あんなの見たら意識するか。あの後、翠星石は鞄に乗って逃げ 
、翌日からこの態度──僕、何かしたか? したな。 
 そんな翠星石を見つめていると、横から鋭い視線がジュンに突き刺さる。ぞわっ背筋の毛穴が開くのを自覚しつつ、横を見ると 
──真紅と蒼星石が睨んでいた。怖っ。 

 夜中にいつも、おやすみのキスをしにジュンの部屋を訪問する蒼星石。一日五回、規則正しく人気のない所でキスを求める真 
紅。ジュンと二人っきりになるとそれなりに態度が柔らかくなるのだが、いつもの面子が揃うとこの有様。ジュンはため息が出 
そうになった。 
 誰かに相談したくとも、この問題に手を貸してくれそうな、友好的で、人形の、女心に共感できる人物と言えば──ノリ、 
柏葉巴、金糸雀のマスター、蒼星石のマスター。雛苺の元のマステーの孫。あと微妙なところで水銀灯。 
 ノリは却下。ジュンの頭の中ではその名が出た瞬間、自動的に却下される仕組みなのだ。柏葉巴は、「こんな獣の所に雛苺を置 
いておけない」とか何とかなりそうだ、同じ理由で金糸雀と蒼星石のマスターも駄目。雛苺の元のマステーの孫は友好的だが 
よく知らないし。水銀灯はパス、何だか命の恩人のような気がするがやはりビミョー。 
 結局、引き篭もりで子供の自分には、相談できる相手も、問題を解決する術もいないのだ。泣くもんか! ちくしょー! 
ぶつぶつ呟きながらも、蛇口から水を薬缶に入れ火にかける。ポットのお湯は微妙に温度が下がっているので、これで紅茶を作る 
と真紅がうるさい。 
「ジュン」 
「ん、降りてきたのか?」 
 いつの間にか、一人降りてきた真紅。 
「紅茶の前に、いつものをいただくわ」 
 涼やかな声で告げる。はいはいと言ってジュンはその場に両膝を付き、壊れ物を扱うようにその頬に手を沿える。いつもの口調 
とは裏腹に真紅の瞳は期待に潤んでいた。 
 ジュンは唇をそっと重ねた。 

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