意識が生まれ、混濁する。 
混濁した意識はやがて輪郭を取り、 
曖昧に揺らぐ輪郭は徐々に形を持ち始める。 

―――からたちの花が咲いたよ  白い白い花が咲いたよ 

そんな意識が美しい歌声を認識する。 
歌声に導かれより形をはっきりさせてゆく意識はしかし、一定に達した途端、やはりその歌声により曖昧という安息へと戻りゆく。 

ぶしっ 

「うぼあっっっっっっっっっ!!!!!!????」 

―――からたちのとげはいたいよ  青い青い針のとげだよ くすくす♪ 

眼球に激痛。 
意識は覚醒への過程をすっ飛ばし、定着した肉体と共にじたばたごろごろ悶え出す。 
どうやらダイレクトに突付かれたらしい。しかも愉しげな笑い声。なんて歌姫だ。セイレーンの類だろうか。 

「あは、起きた?」 
「起きた? じゃな……あれ?」 

清楚さを醸し出す上機嫌な声に文句の一つでもぶつけてやろうと身を起こし―――桜田ジュンはきょとんとなる。 
歌姫の後ろに広がる景色に見覚えはない。見覚えはないが、どこであるかくらいは知っている。 
白い壁、白い天井、白いベッドに簡素な窓、ついでに花瓶。そして何よりこの独特の匂い―――病院だ。もっと言うなら病室だ。 
そして目の前の歌姫にも見覚えがあった。 

「ええと……柿崎、さん?」 
「あ、覚えててくれたんだ」 

柿崎めぐ。 
心臓を患っていたが、とある一件で完治した少女である。 
白い病室を背景に、淡い服に包み込まれた線の細い彼女の長い黒髪がさらりと零れる様というのは絵になっている。 

「えーと……?」 

それはさておき、何故自分がこんなところで寝ていたのかと、ジュンは記憶を手繰ってみた。 

「ひぇくしっ!!」 

遡り、時は朝。まだ春というには早い季節故、朝の気温は肌寒い。 
そんな中、ジュンはリビングのソファーからのっそりと身体を起こした。 

「ゔー…………」 

節々が痛い。そして何よりやはり寒い。 
毛布の中の温もりを逃さぬよう、背中を丸めて身を包む。 
さて、何故また彼はリビングで寝ているのだろうか? 
単純なことである。 

――『空いている部屋がない』 

ドールズの人間化により、彼女たちは当然ながら人形サイズの鞄には入らなくなった。 
というわけで、人間が使う寝床で寝るしかないのである。 
桜田家に住むドールズは4人―――彼女達のために部屋をあてがうことになったのだが、部屋が一つ足りなかった。 
ならばどうすればいいか? 
今まで通りジュンの部屋で寝ればいい。 
……などという結論に思春期のジュンが納得するはずもなく、されど仮にも女の子に寒い思いはさせられず。 

「ここ……僕の家だよな?」 

陰鬱な顔で朝陽の昇る青空を見やる。 
5人のママ先生に囲まれた目つきの悪い高校生の幻が『がんばれよー』と涙を流しながら手を振っていた。……挫けそうです、先輩。 

「あ、あや?」 

そんなところに第3ドールこと翠星石がやってきた。 
右が赤、左が緑のオッドアイ。 
自称『ローゼンメイデン一の才色兼備を誇る』だそうだが、ジュンに言わせればただの性悪人形である。もう人形ではないが。 

「……チ、チビ人間にしてはちゃんと起きてるですね」 
「おかげさまで満足に寝つけないからな」 
「お、おほほほほほ〜、だったらチビ人間にはいい薬ですぅ」 
「なんだとこらこの……」 

「よぉするにぃ、ジュンを起こしてあげられなくてがっかりしてるんでしょこのコは……ふわ〜ぁ」 
「うひゃっ!? な、なんですか!?」 

まったく気配を感じさせずに現れ翠星石に後ろから覆いかぶさる銀の影。 

「おはよぉ、ジュン」 
「ん、ああおはよう水銀燈」 

そのままさりげなく朝の挨拶を交わす二人に、翠星石からピシリという音がした。 
その様子に寝ぼけ眼のまま――低血圧なのだろうか――ニタニタ笑い、第1ドール水銀燈は黒い翼でばさばさ舞って冷蔵庫へと移動する。 

「な、なに勝手に漁ってるですか!」 
「だって私もここに住んでるんだもの」 
「部屋が足りないんだから自分のミーディアムの所へ帰れです!」 

翠星石の言う通り、水銀燈はジュンと契約しているわけではない。 
が、彼女の契約者である柿崎めぐは現在入院生活中である。 
人形であった頃ならともかく、人間の身体になった今ではそんなところに寝泊り出来ようはずもない。 
そんなわけで、彼女もまた桜田家の住人になったのである。 

「あらぁ? さっきはジュンにはいい薬だとか言ってたじゃないの」 
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 

圧勝である。 
クスクス笑いながら牛乳に口をつける水銀燈と、それを睨みつける翠星石。 
互いに毒舌家なれど、翠星石が直情であるのに対して水銀燈は絡め取るタイプ。そうそう敵うはずもない。 

「ジュ〜ン、おはよーなの〜」 
「おはよう。さて……」 

騒ぎの中リビングに入ってきて自分の頭上に乗っかりじゃれる雛苺を適当に撫で、そろそろ『あいつ』が来るなと考えるジュン。 
そのタイミングを狙っていたかのように、再びリビングのドアが開く。 

――さて。ここで思い出して欲しい。 

人間化したドールズの身体についてだが、 
まず翠星石は身長150cmほどである。付け加えるならその双子の妹である蒼星石も、双子だけあってほぼ同じ。 
次に水銀燈。彼女はジュンよりも背が高め。 
雛苺は先ほど『頭に乗る』と述べたことでわかると思うが、人間化したとは言え小さな子どもサイズである。 

――さて。ここで考えてみて欲しい。 

彼女たちを身長の高い順から並べると、『水銀燈>翠星石=蒼星石>雛苺』という式になる。 
これはどういう理由によるものだろうか? 
上記の式の順番に、彼女たちがつくられた順番を記してみよう。 
水銀燈は第1ドール、翠星石は第3ドール、蒼星石は第4ドール、雛苺は第6ドール。 

「……おはよう」 

おわかりだろうか? そしてたった今リビングのドアを開けて入ってきたのは第5ドールである。 

「……ぷっ」 

ぴし。 
噴出す水銀燈に、『あいつ』の端整な顔立ちがひび割れる。 

「ぷ、ぷあはははははははは!!! おっ、おなっ、おなか、おなかいたっ、おなか……ぷっ、ぷふふ…… 
 ちょっと真紅あなた、や、やっぱりかわい、かわいすぎ……ぷっ、あっはははははははははははははははははは!!!」 
「な〜〜〜ん〜〜〜で〜〜〜す〜〜〜ってぇええええええええええええ…………!!!!!」 

雛苺よりは大きく、翠星石よりは小さい……即ち、幼女。 
だがその姿に違和感がないのがまた哀れである。 
元々の姿も小さかったので大差ないと言えば大差ないのだが、大きくなった翠星石や水銀燈はそれぞれ似合っているため、 
それらを羨ましがりかつそれらと比べて幼女姿が似合う『あいつ』こと真紅はやはり哀れと言えるだろう。 

「ぷ、ぷふ、ふっ……お、怒っちゃ駄目よ、血圧上がっちゃうから。乳酸菌取ってる? これ飲む? ぷぷ……」 

幼女の背中に紅蓮大輪咲き誇る。 
アリスゲームの第二舞台が幕を上げようとしていた。 

「結局あいつらどうなってもいがみ合うんだな……」 
「まあ真紅と水銀燈ですし」 
「でも前よりずっと仲良しになったのー」 

吹き荒れる轟音を背に、それぞれが感想を述べつつリビングを去る。 
騒がしくも平和。いつも通りと言えばいつも通りである。 

「ボランティアに協力しろぉ?」 

壊滅状態に陥ったリビングも、人間化しても人形時の能力を秘めたままのローゼンメイデンたちにあっと言う間に修復され、 
都合6人が食卓に集まり朝食を摂っていた。 
そんな中、厨房長こと桜田のりが放った一言に、ジュンは露骨に嫌な顔をしてみせる。 

「そうなの。実はね、近所の幼稚園でお芝居することになったんだけど……」 
「どこかで聞いたような話ね。それで?」 

自分の紅茶をヤクルトティーに変えようとさっきから執拗に機会を窺っている水銀燈を牽制しつつ、真紅が先を促す。 
が、端から関わりたくないジュンはそれを一瞥に伏した。 

「知るか。そんなこと僕には関係ないだろ」 
「そんなこと言わないでお願いよぉ〜……」 

涙目になって訴えてくる姉。 
生まれてから今まで付き合っているジュンだが、この女は人を使うのが上手いのか下手なのか判別出来ない。何しろ天然だから。 
しかし。 
さっき真紅が言ったように、こんな話は以前もあった(第一期10話参照)。 

「わかったよ……やればいいんだろ、やれば」 

結局のところ女の涙は強力なのである。 
とは言えどうせまた人形劇のナレーションの練習に付き合えばいいだけだろう。 
前回のような要求が来ても前もって心の準備をしておけばそこだけ冷静に断固拒否すればいいだけの話だ。 

「本当!? 良かったぁ……何しろ今日のお昼過ぎからだったのよぅ」 

…………。今日? 
それまで他人事のように話を聞いていた少女たちも含め、のり以外の全員が呆気に取られた表情を見せる。 

「ちょっと待つですのり。今から練習して間に合うですか?」 
「ああ、大丈夫よ翠星石ちゃん。セリフは一切いらないの。 
 ナレーションに従って動けばいいだけだから、おおまかな流れだけ覚えておいてくれればなんとかなるわよ」 

なんだか話が噛み合っていない。 
まさか、これは、もしかして…………。 
雛苺以外の全員がそれの意味するところを察し、正に『あいた口が塞がらない』状態に陥った。 
ちなみに、一番最初に我に返った水銀燈により、真紅のモーニングティーはヤクルトティーにされたことを書き加えておく。 

で。 
もはや言うまでもないことだが、今回ののりの要求は練習の手伝いではなく本番への参加である。 
そして今、第二次桜田家リビングアリスゲームが勃発していた。 
何故か? 簡単なことである。 
以下掲載するのは今回の演劇での役なのだが、構成はこのようになっている。 

・主人公 
・お姫様 
・騎士 
・吸血鬼 
・吸血鬼の下僕 
・妖精 
・村人 

さて、勘のいい人なら既にお察しかも知れない。 

「お姫様とゆーのは花を愛でるおしとやかなタイプ、つまり翠星石こそ映えるです! 高飛車なお前らじゃ務まらんです!」 
「聞き捨てならないわね。この間の白雪姫だってこの私が白雪姫を演じたのだから今度も私がやるべきなのだわ」 
「なぁに言ってるのおばかさぁん。あなたみたいなロリっ子プリンセスなんて大きなお友達向けでしかないわぁ」 

それぞれが姫の座を争っているのである。 
第一次のような物理的な狂嵐は見えずとも、彼女たちを取り巻くオーラはそれぞれのシンボルカラーが混ざり合い、どろどろしていた。 
止めに入りたかったが流石にあの三人を敵に回すことの恐ろしさは考えるまでもなく、やはり溜息をつくしかない。 

「……で、なんで柏葉までここにいるんだ?」 

そんな朝からでろでろしたリビングに、何故か柏葉巴の姿があったりする。 

「いえ、その……半分は私の責任だから……」 

ちなみに、本来役を演じるはずのうち一人が実はカツアゲ常習犯であり、しかし昨日、獲物に返り討ちにされ出演不可能になったと言う。 
なお、そのカツアゲ犯は棒状のもので滅多打ちにされた痕が確認されている。 

to be continued... 

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ところでその頃、とあるビルの4階のローン会社事務所にて。 

「あの剣道女、暗い顔して意外と大胆だったな。案外利用価値があるかも知れん」 
「せっかく時給のいい仕事だったのに……いーかげんそのカツアゲ高利貸し行為やめましょうよ……」 
「うっせーぞパシリ」 

大真面目な顔で巴を評価する触覚男、溜息混じりに肩を落とす眼鏡少女、 
そして竹刀の強打によりうっかり千切れた右手首をぶらぶら弄ぶ全身包帯男の姿があったそうな。 

あとがき。 
こんばんは。アントラクト絶版のいきさつにびっくりするほど納得いかない双剣です。 
同人やることが確定したのにこっち書いてることバレたら頃されるかもな。ネタネェンダヨ。オリジナル・・・シカモショウセツッテドウジンデヨンデモラエルノカ? 
さて、ちょっくら質問がある。 
……めぐの年齢っていくつだ…………? あとスリーサイズ大体どのくらいだろう? 
…………こんな質問する時点でこの先の展開バレバレだな orz 

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