「……ヒナ悪くないもん。だからすとらいきよ。」
「すと……」
通販のダンボールで築いたバリケードに陣取った、雛苺のいきなりの宣言にJUMは言葉を失った。
そんな事を言われても、言う相手が違う……いやそれ以前に手順が違う。
良くは知らないが、ストライキと言うのは誰々に対して何々を要求するとかの声明を出さなきゃ為らないのでは?
「ジュン。」
取り留めの無い思考を雛苺の声が遮った。
「ジュンはどっちの味方なのよ。」
「……はぁ?」
どっちとは、こっちが雛苺であっちがこの場合は先ほど雛苺と一戦交えた(?)翠星石を指す。
事の起こりはおやつのショートケーキだった。
雛苺がテレビに気を取られた隙に、翠星石に上の苺をかすめ盗られたのだ。
泣き出した雛苺が皆に説明しようとすると、其処へ当の翠星石が割って入った。
良く回る弁舌でたちどころに雛苺は極悪人に仕立て上げられ、泣きながらリビングを飛び出した雛苺はそのままJUMの部屋へ逃げ込んだのだ。
そして様子を見に来たJUMは、完全に"ぶすくれた"雛苺と対峙する羽目となる――
「どっちよ!」
雛苺の語気が荒くなる。
もう完全に敵味方で区別を付けるつもりのようだ。
とは言ってもJUMは、同じリビングに居ながらテレビの人形劇に夢中になっていた為に、事の顛末すら把握してはいなかったりする。
「現場を見てないからなんともなぁ…でもアイツの陰の悪事を考えるとみんなダマされてるし……」
あの性悪人形が窓を突き破って訪れた日から今日までの光景がJUMの脳裏をよぎった。
拒絶にちょっかいに罵詈雑言の嵐……
翠星石ピラミッドの頂点に立つ真紅を除いては、あまねくその被害に晒されている。ろくなもんじゃねえ。
愚痴愚痴と罵るJUMに、バリケードからひょいと顔を出した雛苺が呼びかける。
「……ジュンはいっぽだけじんちに入っていーよ。」
ご親切に箱をずらして招いてくれる。
「あ…そ…」
お言葉に甘えて"いっぽだけ"雛苺の所有する陣地に踏み込んだJUMはそこで腰を下ろした。
何の事はない、雛苺のすぐ隣だ。
翠星石と言う共通の敵を前に意気投合した二人は、今後の対策に就いての良からぬ協議を重ねる。
意味の無くなったバリケードから出て、ベッドに寝そべった雛苺にJUMは尋ねる。
「…で、ちび苺はどうしたいんだ?」
「んーんとね、翠星石といっしょに居たくないの!」
そりゃ至極最もだとJUMも思った。
出来るものなら真紅も願い下げだ。
雛苺は…この際置いとこう。
「にかいをね、ヒナたちのじんちにするのー!ジュンは味方なのよ。だからいてもいーよ。」
おいおい僕の部屋だぞ!
機嫌を損ねないように口には出さないが、雛苺をダシにあの二人を二階から締め出せたらJUMも万々歳だ。
乗り気になって雛苺に答える。
「よーし、作戦開始だ!二階を占拠してあいつらと戦うぞ。」
一瞬キョトンとしてから雛苺は「たたかうの?じゃあんとね、んーんとね……そーだ、けーやくするのよ!」
「はあ?」
JUMは素っ頓狂な声を出したが、雛苺は至って真面目なようだ。
「ジュンとけーやくするの。いっしょに翠星石たちとたたかうからけーやくしないとダメなのよ。」
しかし契約と言っても…
雛苺は以前の契約者である巴を助ける為に契約を破棄している。
その時に契約の媒介となる指輪は失われてしまった。
要するに雛苺はもう誰とも契約を交わす事は出来ない…はずなのだ。
「だからね、ゆびわじゃないけーやくをするのよ。」
指輪じゃない契約とは如何なる方法なのか…正直JUMはあまり知りたくはなかった。
「んとね、けーやくのゆびわはミーディアムと薔薇乙女をつなげるのよ。ヒナはゆびわを無くしたから、ゆびわ無しでもジュンとつながったら同じだと思うの。」
…真面目に聞いたJUMとその他大勢にはブタのケツが見えたかも知れない。
「つ、繋がるって?」
「うにゅ、じつはヒナにもよくわからないのよ。ジュンはべんきょうしてるのに知らないの?」
妄想全開でJUMが考えたのはもちろん保健体育の実践である。
しかしいいのだろうか?
オマケに相手はドールだぞ!?
コンマ数秒の内にJUMが導き出した結論はこうだ。
―据え膳食わぬは男の恥―
「し、知ってるさ。繋がる方法なら僕はよく知ってる。勉強してるからなぁ…」
「わぁ、さすがジュンなの。はやくけーやくするのよ。」
嬉しくてはしゃぐ雛苺を見るとさすがに罪悪感を覚えるが、引き返すつもりなど毛頭無いJUNはそれでも雛苺に最後の確認を取る。
「本当にいいのか?僕が知ってる繋がり方は契約とは関係ないかも知れないんだぞ。」
「ふゆ、いいのよ。ヒナは本当はもーけーやく出来ないから、かたちだけでもいーの。」
こいつ、分かってて……!?
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今日はここまで
ジャパン敗退で呆けつつ、夕方に思い立って勢いだけで買いた
今は反省している
もう少し頭がまともな状態の時に通して書いた奴を推敲を重ねてから投下するんだったよ