さて、今日も今日とて我が家の呪い人形達と、僕の引きこもりライフは絶好調なわけで。 
「…紅茶が温いのだわ」 
「うにゅ〜、翠星石!ヒナの人形返すの〜!!」 
「何言ってるですかチビ苺。この人形はたった今翠星石に寝返ったですよ」 
「二人とも…僕にはその人形を使ったゲームのルールが把握できないよ…」 
 こんな感じだ。ああウルセ。まったく、とあるネタ絵サイトの種特集が楽しめないじゃないか。 
「ぷ…グゥレイト」 
 いけない。ついつい言葉に出てしまった。やっぱりエセ黒人ネタは最高だな。 
「ジュン…紅茶を淹れてきて。95℃でお願い」 
 つーかそれ熱湯じゃね? 
「ジュン!うにゅ〜が(以下略) 
「チビ人間、翠星石のためにスコ(以下略) 
 自分で行ってきなさい。僕はオカッパを笑うのに忙しいんだ。 
「ジュンくん、僕はほうじ茶。無かったら緑茶で」 
 蒼星石、お前もか。っていうか… 
「くんくん始まるぞ?」 
「…え?」 
「…うぃ?」 
「…は?」 
 お〜お、固まってる固まってる。まったく、なんで僕がくんくんの放送時間を教えなきゃいけないんだ。 
「………」 
「………」 
「………散ッ!」 
 真紅の指示の下、緑とピンクが部屋から飛び出していった。 
「ふぅ…これでやっと一人になれた」 
 あっはっは。これで爆笑できる。いや待て…。正直そろそろ溜ってるから抜いてしまうのも手か。 
「一人ではないと思うんだけど…」 
 蒼 星 石 !? 
「な…なぜココにいるんだ!くんくんを、くんくんを見にいきなさい!」 
 驚いたね。ベルトに左手が触れた瞬間に声をかけるんだから。 
「僕は別に、そこまでくんくんに興味ないよ。それより、一人きりじゃなきゃ何か都合が悪いの?」 
 ふ、踏み込んだ質問してくるじゃないか蒼星石よ。だが…こいつは仮にもレディーだ。レディーに思春期男子特有のアレを説明するのは恥ずかしい。 
「なんでもないさ。ただな、一人の方が集中できるだよ」 
 妄想に。 
「…手伝ってあげようか?」 
 残念だな蒼星石、 
「お前じゃ無理だよ。大体、何するか知らないだろ」 
「え、オナn(ry 
 僕は蒼星石の口を手で塞いだ。なぜこいつがそんな単語を!? 
「はなひへ…ふぅ。ジュンくんも中学生だからね。そういうこともするだろうなって」 
 そう言って、蒼星石は笑った。 
「さ、ベットに…」 
 獲物を狙うように妖しく、官能的に。 

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「さ、ベットに…」 
 蒼星石が僕の服を掴んだ。おいコラ、ちょっと待て。 
「おかしいぞ蒼星石…お前がこんなことするハズないだろ!」 
 ビクっと反応し、小さな手から力が抜ける。少し声を荒げすぎたかもしれない。 
「…どうかしたのか、蒼星石…」 
「…ぅ…っく…」 
 ん、泣いてる…?俯いているから表情は分からないけど、肩は小刻みに震えている。 
「…っ…ごめ…なさい…僕、僕…うぅっ…」 
 どうやらマジ泣きみたいだ。いかん…女の子を泣きやませる方法なんて、僕は知らないぞ?! 
 どうしようかと悩むこと数瞬。僕は、とりあえず抱きしめることにした。 
「ぅ…ヒック…ジュン、くぅん…えぐっ…」 
「よしよし…大丈夫だぞ。僕は別に怒ってるわけじゃないからな…」 
 膝の上に蒼星石の小さな体を乗せ、左手で背中を擦ってやった。 

 そうしている内に、蒼星石はゆっくり泣きやんだ。髪を撫でながら語りかける。 
「落ち着いたか?」 
「……ジュンくん、ありがとう…ごめんなさい」 
「いいよ別に。それにしても、なんで…?」 
 なんで蒼星石は、あんなことをしようとしたんだろう。突飛すぎる。 
「えと、その…」 
 蒼星石が口を開いたその時、 
「私が仕込んだのよぉ」 
 漆黒の羽根が僕の目の前を滑っていった。見覚えがある、というか忘れられない羽根。 
「…水銀、燈」 
「久しぶりねぇ…人間」 
 闇を切り取ったような黒。それを身に纏った堕天使…そんな表現がしっくりくる、銀髪の人形がそこにいた。 
「ふふ…ポカしたわねぇ、蒼星石…ホントおばかさぁん」 
「…くっ」 
「睨まないのぉ…人間のお膝の上じゃ迫力ないわぁ」 
 空気が重い。張り詰めている。一体水銀燈は蒼星石になにをしたんだ。 
「どうして教えた通りにしなかったのぉ…?そうすれば、その人間なんてイチコロだったのにぃ…」 
 …あれ?なんかちょっとヤな予感がしたぞ? 
「僕には…あんなことできない!」 
「意気地なしねぇ…でも、手段が欲しいと望んだのはあなたよぉ」 
「でも…僕は!」 
「既成事実さえあれば楽なのにぃ…」 
 …ヤな予感当たった? 
「蒼星石にああいうことを教えたのはお前か?」 
「そうよぉ」 
パタパタ 
「蒼星石はその時なんて…?」 
「僕はジュンくんが好き…だから、僕をジュンくんの物に…。だったかしらぁ?」 
パタパタ 
「……」 
パタパタ 
 沈黙。赤面。ニヤケ。羽音だけがやけに耳障りだった。 

つづく? 

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