今更ながらどうしてこんなことになっているのか、眼前の赤く微笑んでいる瞳は答えない。 
窓から差し込む月の光を反射する銀の髪に息を呑むと、水銀燈は僕の頬にその小さな手を伸ばした。 
「貴方って本当にお馬鹿さぁん。何をそんなに怯えているのかしらぁ」 
人形らしからぬ妖しげな笑みを顔に浮かべた水銀燈が、僕の顔に両手を添えた。 
動けなかった。 

もう寝ようと思っていた。 
いつものように遅くまで通販して、飽きてきたから寝ようと。 
だけどどうにも寝苦しくて窓を開けた。それだけの理由だ。 
誤算だった。想像だにしていなかった。 
翠星石のようにガラスを割らないだけマシなのかも知れないが、それでも疫病神なのは間違いない。 
ひらひらと風に乗るように舞い降りた黒い羽根。 
一枚、二枚、開けた窓からベッドの上へ。 
そこから連想されるものは一つだけだった。 
呆気にとられた僕を馬鹿にするような顔で、羽根の主、水銀燈は僕の部屋のベッドの上に現れた。 
たかだか数分前の出来事。 
何がどうなってこんな状況になってしまったのか、よくわからなかった。 
人の温度より少し低い、だけど熱を持った水銀燈の手の感触に衝撃を受ける間もなく、新たな衝 
撃が僕を襲う。 
ふわり、と一面が白く染まった。 
水銀燈の色素の薄い顔に浮かぶ、深い紅の色をした瞳が僕の目を至近距離で見つめる。 
唇に柔らかい感覚。水銀燈の唇だと気づくのに時間は要らなかった。 
どうしてこんなことを?という問いと、柔らかい気持ちいいという感情がせめぎあい、結果、思 
考と体は硬直を始めた。 
そんな僕を嘲笑うように彼女の瞳が歪む。 
背筋に冷たいものが走る間もなく、何か湿ったものが僕の唇を舐めた。 
舌だ。 
水銀燈の舌が僕の口内で舌を追い回す。 
彼女に対する恐怖からか、本能的に僕の舌は逃げ惑った。けれどそんな抵抗も虚しく、捕まえた、 
と言わんばかりにねっとりと彼女の舌が絡みつく。 
上手い人形だ、とぼんやりと彼女に流されそうな頭の片隅で思った。 

「・・・呆気ないわねぇ」 
ゆっくりと唇を離した水銀燈と僕の間には白い糸。 
僕の顔を見てくすくすと笑う。 
「いっつも真紅たちとこんなことしてるんでしょ?」 
「なっ、違・・・」 
「あらぁ図星?あははは、笑っちゃう」 
「そ、そんなこと・・・」 
「してるわけない?でも今私としちゃったじゃなぁい」 
「う、うるさい!」 
「うふふ、そんな大声出しちゃっていいのかしら?真紅たちが目をさまちゃうわよぉ」 
僕の胸に手を置いて水銀燈は耳元で吐息混じりに囁いた。 
濡れた息にぞくっとする。 
「それとも・・・、見せつけたいのかしら?」 
「ぅあっ・・・」 
ぎりっと胸の突起から快楽に似た痛みが走る。 
意思とは無関係に漏れた声に顔が熱くなった。 
「あらあら・・・素直ねぇ」 
「な・・・に言・・・て」 
「こんなに固くしちゃって。うふふふ、真紅にもこんなことされてるのぉ?」 
「!痛いっ・・・痛いっ」 
水銀燈がより一層きつく突起を潰す。 
耐え難い痛みが体を貫いた。 
「うあ・・・あ・・・」 
「うふふふ、痛いのね、その顔・・・かわいい」 
痛い、叫びたい、そう思った途端、水銀燈の指から力が抜けた。 
荒い呼吸に比例して、僕の胸にはまだ痛みの余韻が残っている。 
「ふふふ、だぁめ。まだ泣いちゃだめよ」 
睨みつける僕などまるで意に介さず、水銀燈は羽根のように僕の頭を引き寄せる。 
ふわりと何かが僕の目の下を舐めた。 
まるで僕の涙を掃うように、何度も何度も。 
先刻とは打って変わったように暖かいその仕草に、驚く。 
それは執拗に僕に絡みついた舌だった。 
「・・・ねぇ」 
そうして頭を抱えたまま、水銀燈は改まったように声を落とした。 

どうして首を横に振らなかったのだろう。 
なぜ少しの抵抗もしなかったのだろう。 
涙を掃うその仕草を、少女のように優しいなどと感じてしまったことがいけなかったのかも 
知れない。 
「面白いコト、してあげましょうか」 
きっと、黒い天使が現れた時から僕は呑まれていたのだ。 
こくんと振った首の方向は、縦。 
すっと僕から離れた水銀燈は、綺麗に笑った。 
「・・・いい子」 
あまりの綺麗さに思わず息を呑む。 
そんな様子の僕を見て、水銀燈は可笑しそうに口元に手をあてた。 
「大丈夫よ。取って食べるわけじゃないんだから」 
両肩に手をかけると彼女は僕をベッドの上に押し倒した。 
そしてTシャツをゆっくりとたくし上げる。 
ふと肌に触れる水銀燈の手にすらびくりと反応してしまう。その度に、彼女は可笑しそうに 
笑った。 
「ふふっ、心配しないで」 
つ、と水銀燈の舌の感触が腹に降りた。 
何か筋をなぞるようにして舌が上へと移動する。先ほどの突起だった。 
「ひ・・・あ、はっ」 
ころころと転がしたかと思うと、きつく吸い付いて、舌で弾く。 
ざらざらとした微妙な感触の使いどころをわかっているかのように水銀燈の舌は甘く動いた。 
「ふふ、気持ちいいでしょ?」 
「す、い・・・ぎんと・・・」 
優しかった。 
普段の彼女からはかけ離れた優しさだった。そう思ったらどこか体の奥が溶けていくような 
気がした。 
ぴんと一つ弾かれ、下半身に熱が集まっていく。 
「覚えがあるでしょう?」 
けれど瞬間、がりっと音がしたかと思うほど強く水銀燈は歯を立てた。 
「うあぁっ」 
「うふふふ・・・ねぇ、思いださなぁい?」 
「な、な・・・にを」 
「あらぁ・・・わからないのかしら。鈍感ねぇ」 

水銀燈が顔を上げると、月明かりに照らされながら妖しげに微笑んだ。 
「真紅に教えたのは私よぉ」 
言葉の意味を理解する前に、水銀燈が唇で柔らかくつまんだ。 
「!っあっ・・・」 
「・・・真紅を思い出すでしょ?真紅とやっている気になるでしょう?だってあの子には、 
こういう風に教えてあげたもの」 
馬鹿みたいに驚いている僕を一つ笑うと、水銀燈の手が下に伸びる。 
ズボンの上からやんわりと僕自身をまさぐった。 
「あらあらぁ・・・こんなにしちゃって」 
「お、まえ・・・っ」 
「みっともなぁい。うふふふ」 
水銀燈は一気に僕のズボンを脱がせる。 
布が先端を擦り、声が漏れる。 
「あぁぁっ」 
「苦しそうねぇ」 
あの冷たい手の温度が纏わりつく。 
突然の感覚に電気にも似た衝撃が走る。 
僕と水銀燈の温度差がそのまま反映されているようだった。 
「・・・うくっ、っあっ」 
「触っただけよぉ、イッちゃだめぇ・・・」 
そして煽るような、真紅にも雛苺にも翠星石にも蒼星石にもない声。 
甘えてくるような、皮膚の裏側を引っ掻くような、そんな切ない声。 
他のドールズにはない、誰も持っていないものだ。 
「ほぉら・・・好きなだけなきなさぁい」 
「うあっあぁっ・・・くぅっ」 
水銀燈が僕自身を握りこみ、ゆっくりと手を動かす。 
始めは焦らすように、指でなぞるように、けれど時折きつく握り、徐々に速度を上げていく。 
僕は今までに感じたことのない快感に声を上げるしかなかった。 
「あっはははは!感じやすぅい・・・。人形に攻められちゃって・・・恥ずかしいわねぇ」 
脳髄を直接弄るような水銀燈の声がさらに僕を煽り立てる。 
けれど、それでも頭のどこかに真紅の顔がこびりついていた。 
真紅に教えたのは私。 
その言葉の意味する所。 
水銀燈の動きに思考は中断された。 

「うあぁっ、すいぎ・・・あっ、も・・・や、め・・・」 
「うふふふ、やめて欲しいのぉ?」 
「はぁっ、・・・ぅっ、あっ」 
「でもぉ・・・やめてあげなぁい。だって貴方、真紅のマスターだもの」 
「あぅ・・・し、んく・・・?」 
唐突に水銀燈が手の動きを止めた。 
快感だけが先走って、腰の動きが止まらない。 
水銀燈が馬鹿にするような声を上げる。 
「あの子に操なんて立てさせてあげなぁい。憎いあの子からぜぇんぶ奪ってあげる。壊してあげるわぁ」 
壊してあげる、という声に呼応するように、頭の中の真紅の顔にひびが入る。 
笑いながら水銀燈が手に力を込めた。 
だめだ。 
心臓が大きく脈打つ。 
「うふふ、さよならぁ・・・」 
粉々に真紅の顔が砕けたのと、水銀燈がぐしゃっと僕を握り潰したのはほぼ同時。 
焼け付くような熱が一瞬にして広がった。 
気持ちいいのか痛いのか、よくわからない感情も吐き出しながら僕は叫んだ。 
そんな僕が愉快でたまらない。そんな風に水銀燈の口元が歪む。 
「ふふふ・・・、あはははは、あっははははは!」 
ちかちかと目の前が白くなるなかで、水銀燈の黒い翼と残虐な笑みが目の奥に焼きつく。 
「おっかしー!おかしくってたまんなぁい!こんなに上手くいくなんて思わなかったわぁ!」 
頭の中でこだまする水銀燈の声が意識を揺さぶる。 
真紅。 
そう呟いた瞬間、ぷつんと頭の中で音がしたのだった。 

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