百身合体薔薇水晶と戦ったのは九月半ば。もう、雛苺も蒼星石も動かなくなってからである。 
 その日は翠星石がジジイの家で茶をシバいていて、のりは部活、痛い子の寿命が近いお陰で水銀燈 
も来そうに無いというので、ジュンと真紅は二人『大人のくんくんDVD』を観ていたら、庭に百体 
もの薔薇水晶の集団が押し寄せて来たのだ。 
「ばっ! 薔薇水晶!? しかも多いぞ……!」 
「ああ……くんくん、いけないわ! その娘は貴方の生き別れになった妹なのよ!」 
 突然の事態に驚くジュン。 
 しかし、真紅は『大人のくんくん』に夢中になっていた。 

『シンク…シンクシンク……シンクダ…ニクイローゼンメイデンノ第5ドール…バラオトメ…クヤシイ……ワタシハ勝ッテイタノニ…クヤシイ…クチオシイ 
 今度コソ…勝ツ…コンドコソー……オトウサマハローゼンヲコエラレル…イザヤライデカ…倒ス…破壊スル……ジャンクニシテヤル!!』 

 ざわめき立つ庭の様子にも、全然構おうとしない。 
「……もう、くんくんったら犬みたいに夢中になって……あ、犬だったわね」 
 端から無視。というか、認識すらされていない可能性すらある。 
「お、おい! マズイぞ真紅! あいつら、あんなに数が!」 
「ええ……あんなに沢山。さっき出したばかりなのに」 
「くんくんなんて見てる場合じゃないだろ! 庭を見ろ、庭を!!」 
「まあ! ベッドの上では飽き足りず、今度は庭でなんて!」 
「はぁ……」 
 ジュンはがっくりと肩を落とし、溜息を吐いた。 
 ダメだこりゃ。 
 再生怪人といっても百体。そもそも、今此処に七体の乙女が終結しても勝てる相手ではない。 
 しかしながら彼もミーディアム、このまま黙っている訳にもいかないのである。 
 リビングのサッシを開け、奮い立つ薔薇水晶の一群に、こう頼んでみた。 

「明日とかじゃダメか?」 

 一瞬の沈黙。 
 返事とばかりに飛んで来たのは、水晶の弾、弾、弾、百体一斉の弾幕! 
 窓ガラスの砕ける激しい音とともに、ジュンは頬や腕に焼け付くような痛みを感じた。 
 頬と腕には、微かに血が滲んでいた。 

『シンク! …シンク…シンク…サアハジメマショウ……壊シテアゲル…サア、キナサイ……サア! シンク!』 

 向こうはやる気満々、今にも第二波が来そうな勢いである。 
 もし、あんなものをまともに受けたら、ヒキコモリの肉体では一溜まりもない。 
 そして真紅のドールボディならば、待っているのは確実な、破壊――。 

「真紅ッ!!」 

 ジュンは真紅を振り返る。 
 しかし、ジュンの心配も他所に、真紅はソファから降り、優雅な立ち振る舞いで窓辺に歩み寄ると、 
こう静かに呟いた。 

「全く、数にモノを言わせるなんて……貴女も、貴女のお父様も堕ちたものね」 

『…………!!!』 
 軽蔑するかのような真紅の言葉に、一群は怒りの形相を浮かべる。 
 其処彼処から聞こえる、苦々しい呻きと、歯軋り。 
「だって、そうではなくて? 至高の乙女を巡る戦いに下らない茶々を入れたばかりか、相当の報い 
を受けたことを逆恨みして、多勢に無勢でこの真紅を討とうだなんて……不肖の弟子とはいえ、お父 
様の弟子なら、もっと賢明であるべきではないかしら?」 
『ナッ!? シ…シンクゥ!!! オトウサマヲ…オトウサマヲ……侮辱…ブジョクシタ…何テコトヲ……ナンテ!!』 
 全員が一斉に水晶の剣を構える。 
 片一方だけ外気に晒された金色の瞳が、怒りに燃えていた。 

 惨殺必死のこの状態。 
 真紅とジュンに明日は無い、と思われたその時――。 

『真紅ッ! ……ウッ!?』 

 先頭の一体が、まず、その場に崩れ落ちる。 
 一瞬で群まで踏み込んだ真紅のステッキによる一撃が、胴体にめり込んだのだ。 
 間髪入れず、二体三体と神速の突きを見舞う。 
『クッ! 真紅ゥゥゥゥ!!!』 
 突然の真紅の攻撃に掻き乱されるものの、すぐさま薔薇水晶達も反撃に転ずる。 
 水晶の刃が振り下ろされ、薙ぎ払われ、あるいは突き出された。 
 しかし、その悉くは真紅を捉えることなく、虚しく宙に閃くのみであった。 
『ナッ!? アッ-! ハ…速イ!! !!』 
 驚愕する薔薇水晶。 
 この間にも一体、また一体と真紅に撃突され、地に伏してゆく。 
 只の一撃も浴びせることなく倒されてゆく状況が、徐々に剣先と足元が乱し、その戦い方を粗雑な 
ものに変えていった。それは死角を増やし、連携を乱すという悪循環へと繋がる。 
「凄い。あんな数を相手に、互角以上に戦っている……!!!」 
 ジュンは真紅の見事な立ち回りに舌を巻いていた。 
「けど……そうか! この戦法! 真紅にも利はあった!」 
 しかしそこはミーディアム。真紅必勝の可能性を見通すだけの感性を備えていた。 
 真紅必勝の可能性――。 
 一つは身のこなし。手打ちで斬撃を繰り出す薔薇水晶と違って、真紅は体捌きを用いて相手を突く。 
攻防一体にして一拍子の動きで足る戦法。 
 一つは乙女の能力。宙に舞わせた薔薇の花弁によって対手の死角を奪い、地に這わせた苺わだちに 
よって対手の足を止め、また腕に絡ませ攻撃を封ず、力。 

 一つは地の利。そもそも、ジュンの家の庭で百体が存分に戦える訳がなかったのだ。密集している 
所で巨大な水晶柱など生やせば大勢の仲間を巻き込み、かといって水晶の弾丸も、居着かない動きの 
真紅に放てば、流れ弾での同士討ちは免れ得ない。そればかりか、真紅にとっては熟知している場所 
であり、ミーディアムが傍らにいる、ベターな環境……というか薔薇水晶の大失策。 
 そして最後の一つ。これは真紅の『くんくんタイム』を邪魔したこと。これは地獄への片道切符。 
 薔薇水晶の勝機は案外乏しかった。 
「さあ、貴女で最後よ」 
 電光石火の打突が残り一体の喉元に吸い込まれると同時に、百体全ての薔薇水晶は、たった一体の 
薔薇乙女第五ドールに敗北を喫したのだった(上の文で勝てないと書いたけど勝っちゃった)。 

「やったな! 真紅ッ!!」 
 ジュンは真紅の元へと歩み寄り、興奮気味に声を掛ける。 
「当然なのだわ」と真紅は得意げに答えると、ジュンに体を預ける「疲れたわ、抱っこして頂戴」 
 ジュンの腕の中から、庭じゅうに倒れた薔薇水晶の姿がよく見えた。 

『クウゥゥ…マ・マダ……マダヨ…マダ…マダヤレル……シンクゥ……ワタシハマダタタカエル』 

 皆、口々に己の戦意が萎えていないことを告げるが、既にどの一体も戦うことはおろか、立つこと 
すら出来ず、地を這うばかりであった。 
「無様ね……」 
『ナッ!? ヨクモ…マダ、私ハ敗レテハイナイ……』 
「勝負あったのだわ。有象無象に成り下がった貴女じゃ私には勝てない」 
 真紅は敗者の弁を冷たくあしらい、更にこう続けた。 
「今回だけは見逃してあげるわ。早く帰ってお父様にでも慰めて貰ったら?」 

『ふざけないでッ!!』無理矢理体を起こした一体が、叫んだ。 

『ローゼンクリスタル・フォーメーション!』 

 雄叫びとともに、百体が一斉に飛び上がり、空高く昇りつつ編隊を組み、そこから何故か一体一体 
が姿形を変え、次々にお互いがくっ付き出した。 
 一体、また一体と集合するに従って、次第に何かを形成していく。 
「何なの、あれは!?」 
「分からない! ただ、ああいうシチュエーションは見たことがある」 

 正に急展開。 
 だが、驚く一人と一体を尻目に、形成されていたものの姿が明らかになる。 

 脚。 
 太股。 
 尻。 
 腹。 
 胸。 
 腕。 
 頭。 

 ドールに必要な部位が、形作られていた……。 

『百身合体、巨大薔薇水晶!!!』 

本日は以上です。 
すんません、エロパートはなるべく早く書きますんで。 

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