困ったことになってしまった…… その日、学校から帰ってきたばかりの柏葉巴はセーラー服から着替えるのも忘れ、どうこの 場を切り抜けようかと頭を悩ませていた。 ここは巴の部屋である。瓦の屋根を葺き古風な佇まいを見せる柏葉家らしく、巴の部屋にも 畳が敷き詰められている。壁に面して鏡台が一つ。その椅子の上にちょこんと座り、不安そう な目で見上げてくる「お人形」こそが、彼女の悩みの原因だった。 「ねーねー、トモエぇー、ひな、病気なのー?」 動く、喋る、よく食べる。元気印いっぱいのローゼン人形No.6・雛苺だが、今日ばかりは調 子が違っていた。何やらぐずぐず躊躇い、おやつの時間だということも忘れている様子。そこ で巴が心配したところ……この有様である。 「ううん、病気じゃないの」 切羽詰った調子に押され、巴は仕方なく答える。もちろん病気ではない。病気ではないのだ が…… 「そうなの? でもねでもね、ヒナの体、おかしいんだよー。胸のところがピリッと来てね、 それからそれからお股のところも変な感じがして……」 もちろんそんなことで雛苺が引き下がるはずもなく、両腕をぶんぶん振って訴えてくる。 ますます窮地だ。 雛苺の体の異変――その原因はすぐにわかった。巴とてもう中学生である。友達とおおっぴ らに話したことこそないが、この年になればそれなりに性の知識もついている。だが―― 『雛苺、それはね雛苺が感じちゃったからなの』 ……などと言えるはずもない。 「――と、とにかく! 病気じゃないから、大丈夫よ」 そう答えて、早々に切り上げようとする巴だったが、 「病気じゃないの? でも、ひなの体がおかしいのホントなのー……うーんと、じゃあドール の身体がおかしいなら、この前みたいにじゅんに聞いたらわかるかなぁ?」 「ダメ! それは絶対ダメーっ!」 思わず声を張り上げてしまう。別に桜田君のことを信頼していないわけではないが、そんな 女の子の大事な話題を男の子に話せるわけがないではないか。 「でもね、じゅん、凄い物知りだし、ヒナのこともうんとわかってくれているんだよ。『うに ゅー』だってちゃんと買ってきてくれたしぃ」 「とにかく絶対ダメ! いい、巴と約束よ! わかった?」 「うん、トモエ! ……でもでもトモエぇ、ヒナがトモエに内緒でじゅんに話してもトモエに は分からないよねぇ?」 「うっ!」 無邪気な笑顔でトンデモないことを言われ、思わず絶句するトモエ。誰が雛苺にこんな悪知 恵をつけさせたのか? 巴の頭の中に桜田家ドールズの面々が浮かんでは消える(特に緑色の 人形が)。 「それはそうだけど、でも約束というものは……」 「トモエこそズルいのー! トモエは何か隠してるでしょー? ヒナのことなのにヒナにも内 緒なんてズルいのー! だから、ジュンに聞くのー!」 椅子からぴょこんと飛び上がって雛苺は駄々をこね始める。こうなってしまっては、もはや 止めようがない。 「わかった、わかったから雛苺……お願いだから桜田君に聞くのだけは止めて」 半ば拝むようにして頼み込む巴。 「じゃあ、巴が教えてくれる?」 「う、うん……」 でも、教えるといってもどう言えば……? 「わーい! あのね、ヒナ名案があるのー!」 そう言うと、雛苺はぴょんと椅子から飛び降り、押入れの中を漁りだす。やがて、引っ張り 出したものは―― 「あ、それ……」 聴診器であった。看護婦をしている巴の従姉が仕事帰りに立ち寄った際、忘れていったもの である。次に来た時に返そうとしまっておいたのだが…… 「ヒナ知ってるの! 人間のお医者さんはね、これをちょこちょこっと当てただけでどんな病 気でもすぐにわかっちゃうのー! だから、トモエがお医者さんになってヒナのことを診て くれればいいのー!」 そう言って、ニコニコ顔で聴診器を差し出す雛苺。何か色々と勘違いをしている様子だが、 巴には突っ込めない。 (まあ、形だけもやってみせれば雛苺も満足するよね……) 手渡されたそれを受け取りながら、内心ため息をつく巴であった。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「それじゃあ雛苺、そこに横になって」 「はーい、なの!」 すっかり患者役になりきった雛苺が、目を輝かせながら布団の上に横たわる。この新しい 「遊び」にワクワクしているらしい。さっきまでの不安げな様子が嘘のようだ。 (まあ、いいんだけどね……) とりあえず雛苺を服だけ脱がせると、巴は下着の上からちょいちょいっと聴診器を当てる。 当然、何が聞こえるわけでもなく、ただ服のこすれるがさがさした音が響くだけだ。 「はい雛苺、何でもありませんでしたよー」 「もうトモエぇ、真面目にやるのー!」 ぷーっとふくれた雛苺が、自分から下着をめくった。その下から、ぺったんこな胸とお腹が 現れる。 「ほらー、トモエぇ、早く早くぅ」 雛苺がトモエの手を取って、自分のお腹に当てる。 (うわぁ……この子の肌、すべすべ……) まるで赤ちゃんのように滑らかな感触がほんのりとした暖かさとともに巴の掌に伝わってく る。それをゆっくりとさすりながら、巴は聴診器を雛苺の胸に滑らせる。 (本当に人形とは思えないよね……ひょっとして心臓もちゃんと動いているのかな?) そんな好奇心が湧き上がり、巴は聴診器の先を雛苺の左胸の辺りに当ててみる。とは言え本 職ではない彼女にとって、どこに器具を当てたら鼓動が聞こえるかなどわかるはずもない。 (あっちかな……それともこっち……?) 「ひゃあっ!」 と、不意に雛苺が小さな悲鳴を上げた。どうやら我を忘れてあちらこちらと聴診器を動かし ているうちに、わずかばかりの膨らみの上にある小豆ほどの突起に触れてしまったらしい。 「ご、ごめんね雛苺」 「ううん、いいの。ちょっとびっくりしただけ。トモエは診察しているんでしょ。ヒナ、もし 痛くても我慢する」 健気にもそう言うと、潤んだ瞳で見上げてくる雛苺。その様子は―― (か、可愛い……) そう、某金のドールのマスターなら思わず力の限りに抱きしめて頬摺りをしたくなるほど 愛らしいものだった。 だが同時に―― (雛苺は本当に可愛いよね…………「私」と違って) そんな思いがふと巴の脳裏をよぎる。 『クラスの優等生』――それが巴に貼られたレッテルだ。もちろん、友達も多いし先生方に も可愛がられているそんな自分を恥じる気はさらさらない。さらさらないが、一部の男子生徒 たちから「可愛げがない」だの「思い上がっている」と言われているのは知っている。そうい う陰口を叩く連中と仲良くしたいとは思わない。だが、自分に愛想がないのは事実だと自覚し ているし、それが自分の性分なのだろう、と巴は諦めている。 雛苺は――年齢のせいもあるだろうが――天真爛漫だ。喜怒哀楽をあからさまに表現する無 邪気さは、とうてい巴には真似できないものである。だが――いや、だからこそ巴は雛苺が心 から大好きなのであり――そしてちょっぴり妬ましいのだ。 (……もう少し、アソんであげてもいいかな……) そんな巴がちょっとだけ、ほんのちょっとだけ意地悪な気持ちになったとしても、誰が責め られようか。 「ふーん……じゃあ、続けようか雛苺」 「うん、なのー!」 巴の内心に湧き上がりつつあるそんな思いなど露も知らない雛苺が、満面の笑みを浮かべて 答えた。 「どうやら胸が原因みたいね。ここを重点的に調べてみようかな?」 「わ、わかったのー……ヒナ、ちょっぴり変な感じになっても我慢するのー」 そう言ってぎゅっと目をつぶる雛苺。 「いい子ね、雛苺」 猫撫で声で囁いた巴の手が雛苺の小さな膨らみの上に置かれる。片方の手がまだ乳房とも言 えない薄い胸をゆっくりと揉み回し、もう一方の手が反対側の丘の上にある桜色の突起に触れ る。 「ひゃ…んっ…んくっ…」 巴の指先が小さな突起を撫で上げるたびに、雛苺が押し殺したしゃくり声を上げる。口元を 手で押さえて「診察」の邪魔をしないようにと雛苺なりに耐えてはいるようだが、吐き出す息 は次第に荒くなっていた。 (ふふ、おマセさんなんだから……あ、もう乳首まで立ってきちゃった……) 巴は舌を伸ばして胸の先端をペロッと舐め上げる。途端―― 「ひゃふんっ! ……ト、トモエぇ、舐めちゃダメぇ……」 「どうして? これも診察の一種よ。嫌なら止めるけど?」 「うっ……ヒ、ヒナ、我慢するもん! 続けてトモエ……ひゃあんっ!」 元より巴に止めるつもりなどない。雛苺の言葉も終わらぬうちから、巴は桜色の突起を口に 含み、舌先で転がす。 「ひぁ…んっぅ…うくぅ…」 雛苺の口から漏れる喘ぎ声をBGMに聞きながら、今度は反対側の胸にちゅっとキスをする 。左から右へ、右から左へ。巴は丹念に雛苺の胸を責め立てる。 「ふわぁ…くぅん…はぁっ…」 (そろそろ、こっちもかな?) 巴の手がするすると雛苺の下半身へと伸びていく。そして、スカートの中へと潜り込んだ瞬 間、 「だ、だめなの、トモエー!」 雛苺がぎゅっと太股を閉じようとするがもう遅い。 ぬちゅっ 内股の隙間を縫って下着に到達した巴の指先に濡れた感触が伝わってくる。 「濡れてるわ、雛苺」 「ち、違うのー! ヒナ、お漏らししたんじゃないもん! トモエに診察してもらっていたら 、体が勝手に……」 「雛苺、私のせいにするの?」 「えっ? う、ううん、ヒナ、そんなつもりじゃないのー……」 言葉に窮し、泣きそうな目で見上げてくる雛苺。 (これ以上いじめたら可愛そうかな……) そんな雛苺の表情に、巴は厳しい顔を崩すとにこりと微笑む。 「嘘よ。ここが濡れているというのは雛苺が女の子だって証よ。お漏らししたなんて誰も思っ てないわ」 「ホントに? ヒナの言うこと信じてくれる?」 「もちろんよ――さあ雛苺、濡れちゃったものは脱ぎ脱ぎしましょうね」 「ひゃああっ!」 巴の手が雛苺の両足を持ち上げ、ぐっと体を折り曲げるようにして、彼女の肩まで持ってく る。ちょうど後転が途中で止まったような格好で、二人がまだ知らない俗な言葉で言えば「ま んぐり返し」という体勢だ。 その格好で巴が素早く雛苺の下着を抜き取ると、彼女の目の前に産毛すらないつるりとした 割れ目が露わになる。 「トモエー、ヒ、ヒナ、恥ずかしいのぉ! 足を降ろさせてぇー」 「だーめ、これも診察なんだからね」 そう意地悪く微笑みながら、巴が指先を無毛のスリットに当てる。 くちゅっ! 「あっ……」 巴の二本の指が、潤みを帯びた少女の割れ目を開く。サーモンピンクの肉襞が外気に晒され、 透明な液体がつぅーとお腹の方に滴り落ちていく。 (うわぁ……こんなところまで女の子なんだ……) 少女の女性自身は年齢相応に慎ましいものではあったが、それでも異性を誘うには十分なほ ど淫靡であった。同性である巴もまた、何の躊躇いを感じる間もなく、気がつけばその可憐な 花弁に口づけをしていた。 ぴちゃっ… 「ひうっ!…ト、トモエェ……ダメなの…! そんなトコ舐めちゃ、汚いのぉ…あうぅっ…!」 ぴちゃっ、くちゅっ、ぺちょっ… 「汚くなんかないよ、雛苺。それに、これも診察なの」 トモエの舌がスリットを上下になぞるたびに、さらさらした花蜜が湧き出しては淫らな水音 を立てていく。雛苺が身体をむずからせてその舌先から逃れようとするが、逆さにされた上に 太股をがっちり押さえられていてはそれもかなわない。 「ダメなのぉ! んくっ……ト、トモエ、ヤなのー……あっ、あーっ、はぁー!」 (わ、私もなんだか……) 明らかに甘い響きを帯び始めた雛苺の嬌声を聞きながら、巴は片方の手を自らのスカートの 中へと潜らせる。下着の隙間から自らの秘裂に触れると案の定、そこは恥ずかしい蜜で濡れそ ぼっていた。 (私、興奮してる……) 熱に浮かされたようにそんなことを思いつつ、巴は自らの指を割れ目の中へと侵入させてい く。片手で雛苺の脚を抑え、口で少女の秘唇を責めながら、巴の指もまた慣れた動きで秘所を 出入りして、彼女を追いつめていく。 「ト、トモ……エェ……んんっ…あはっ……はくぅぅ!」 巴の舌先が包皮に包まれてわずかに顔をのぞかせた真珠に触れた途端、雛苺の身体がびくり と跳ねる。 「やぁ、なのぉ…んはぁ!…はぁっ! …あああっ!」 包皮を割ってその舌先が真珠をなぞり上げる度に、雛苺の声音がいっそう甲高く、より切羽 詰ったものになっていく。 「ダメなのー! …んあっ! ヒ、ヒナ変なのー! 何か来るのー!」 (雛苺苺、イッちゃいそうなんだ……待ってて、私も一緒に) 巴もまた自らの秘所に割り込ませた指の動きを一層速める。 ぬちょ、びちゃ、にちゅ…… ちゅく、ぶちゅ、びちゅ…… 少女たちの秘裂から流れるはしたない水音が混じりあい、部屋中に響いていく。 やがて―― 「トモエ、トモエぇ、トモエーーー!」 (雛苺……んんんっっっーーーーー!) ほぼ同時に身体を震わせ、二人の少女たちは絶頂を迎えていた。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * しばらく後―― 「むー、トモエ、ひどいのー。ヒナ、何度も止めてって言ったのー!」 「ごめん、雛苺。謝るから……この通り」 柏葉家の二階では、鏡台の椅子に座ってぷいと横を向く人形とその人形に向かって両手を合 わせてペコペコ謝るセーラー服姿の少女、というあまり他所では見られない光景が展開されて いた。どうもいつもとは立場が逆転してしまったようだが、今回の場合、非は全面的に巴の側 にあるのだからそれも致し方ない。 「謝っても許してあげないのー。もう巴とは口を聞いてあげない!」 「だから、ごめんってば……」 なかなか許してくれそうにない雛苺に弱ってしまう巴。だが、ふと名案を思いつく。 「そうだ、雛苺、駅前のケーキ屋さんでショートケーキ買ってきたんだけど食べる?」 「巴が買ってきてくれたのー! わーい! 食べるのー!」 たまたま割引き券をもらったので学校帰りに寄ってきたのだ。まさかこんな形で役に立つと は思ってもいなかったが、すっかり機嫌を直して目を輝かせる雛苺を見て巴はほっと安堵する。 「じゃ、それで仲直り。ね?」 「うん!」 「ケーキは食堂のテーブルの上に置いてあるから先に行ってて。私も着替えてから行くから」 「はーい!」 雛苺がとてとてと駆け出していく――が、障子の桟に手を当てたところで、急にくるりと振 り返った。 「ねえ、トモエ」 「ん、何?」 もじもじと指を組み合わせ、かすかに顔を赤らめた巴の愛らしい人形は、しばらく上目遣い に彼女をじっと見つめた後でようやく口を開いた。 「あのね、次にヒナが変になっても……また診てくれる?」