「……これは一体なんのつもりぃ?」 
 暗い協会に、嘲るように間延びした声がひびいた。 
 さらり、と流れるような銀髪が揺れる。 
 彼女の纏う漆黒のドレスは今や、白と紫で覆われている。 
「私が本気で怒る前に放した方がいいわよぉ」 
 彼女は今、明らかに劣勢。そして、怒りを含むその声は、虚勢。 
 けれど、決して屈しようとしないその姿は、実に美しく、気高い。 
 なんて面白い生き方なのだろう。 
 関心と共に、嗜虐心が湧きあがる。 
――見てみたい。いわゆる『贋作』の私に『オリジナル』の人形が屈する姿を。 
「いい? もう一度だけ言うわ。このうざったらしい水晶と茨を今すぐに解きなさい」 
 キッと眉をつり上げて睨む彼女に、もう先程のような余裕は見られない。 
 当然だろう。こちらは二人、あちらは独り。どちらが有利かなんて考えなくてもわかる。 
「安心してください、お姉さま。私達は貴女を傷つける為に来たのではない」 
 私より先に口を開いたのはオリジナルの人形。 
 その言葉の続きは私が受け継いだ。 
「そう……私達は、貴女を救いたい……」 
  
「……救う、ですってぇ?」 
 ようやく言葉を発した私達を見て、縛られた美しい人形はくすりと笑う。 
「何が、可笑しいの……?」 
 私の疑問に、更に鼻で笑うと水銀燈は答えた。 
「貴女の頭がよぉ、オカシなジャンク。何のつもりか知らないけれど、 
この水銀燈を拘束してただで戻れるとは思わないことね」 
 強気。 
 どんな立場でも消して折れない自信―― 
 けれど、そんなもの。 
「私が壊してあげましょう……」 
「さぁ、お姉さま。雑談はおしまいにして、パーティ――いいえ、ゲームを始めましょう」 
 呟く私の声を打ち消すように、凛とした声で雪華綺晶が言う。 
「ゲーム、ですってぇ?」 
「えぇ、ゲームです」 
 水銀燈の挑発するような言葉に雪華綺晶は穏やかに切り返す。 
 なるほど、彼女は煽るのが得意なようだ。 




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