娘の入学のために久しぶりに訪れた母校。
卒業式も終わり、春休みの中学校には生徒の喧騒もなく、たおやかな時間が流れている。
古い学び舎だ。僕が中学生として通い、引きこもりながらも卒業し、やがて結婚して生まれた娘が同じ中学校に今、入学する。
校舎だけが今でも変わらない。
あの頃の思い出が蘇る。
懐かしくて切ない思い出がある。
もう20年以上も昔、僕とローゼンメイデンというドール達の物語が始まった。
そして、突然その物語は終焉を迎えた。
自由意志を持つアンティークドール…そんな御伽話を信じる人はいないだろう。
だけど、僕と僕の妻はその御伽噺を現実に体現したのだ。
妻とは幼馴染だった。特別に仲良しと言う訳では無かったが、ドール達との触れ合いの中で、僕達の絆は徐々に深まっていった。
そんな御伽噺の時間は夢の様に終わり、ドール達は突然僕の前から姿を消した。
理由は今でも解らない。
僕達は彼女達を必死に探したが、とうとう見つける事は出来なかった。
そして、そんな現実を直視する事を拒否した僕は、それが無駄だと分かっていても、
ドール達が帰って来ることを信じ、彼女達を待ち続け、いつしか自暴自棄の生活を送っていた。
そんな僕の心の支えになってくれたのが妻だった。彼女のお陰で僕は立ち直る事ができたといっても過言ではない。
現実は容赦なく流れて行く。
その流れに溶け込みながら、1年が過ぎ、5年が過ぎ、美化された思い出を共有する僕等はやがて結婚し、娘を授かることとなった。
そういえば、娘の容姿はあの人形達と同じ位になっているのだろうか…彼女達はどんな思いを持ってここから去っていったのだろう。
帰り際、校舎にチャイムが流れる。
ふり返った夕焼けの差し込む教室で、あの時どこかに置いてきた子供の心と、
人形達の思い出が一同に介して同窓会を開いているような…そんな気がした。
夕食後、久しぶりに娘と3人で星を見た。
冬の大三角形は、訪れた春の星座に押し流されて、大空に季節の変わり目を告げている。
ドール達もどこか遠い世界で、この星の輝きを眺めているのだろうか。
僕は今でも彼女達の帰りを待っている。
人形達の物語…そんなおとぎ話は、もう、娘には通用しない…。
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卒業と入学のシーズンですねぇ。
そんなシーズンにのせて、オイラなりにその後を書いてみました。