ローゼンメイデンの秘密 

 ジュンは復学に向けて図書館で勉強をしていた。 
「ふ〜・・・。一段落着いたし、ちょっと休むか」 
 そう言いながら立ち上がり、体を伸ばす。 
「そういえばこの図書館の奥の方って行ったこと無かったな・・・。少し覗いてみるか」 
 ジュンは彼のまだ見知らぬ処女地へと足を向けた。 

「・・・図書館の奥なんてみんなこんな感じか」 
 人気が感じられず、どこか暗い感じがする図書館の奥には、一度も触れられた事が無いような本が、本棚を隙間無く 
埋めていた。 
 世界には自分しかいないのではないか。そう錯覚しそうなほど辺りは静まり帰っていた。 
 そんななかジュンは、本棚と本棚に挟まれてできた通路を、本のタイトルを流し読みしながら歩いていた。 
暫く足を進めていると、ふとある本のタイトルに目を留め、次の瞬間、石のように固まった。 
 その本のタイトルは・・・ 

『ローゼンメイデンの秘密』 

 ジュンは硬直した。するしかなかった。 
 何だこれ?とか、何でこんな所にとか、誰よ書いたのとか、ありとあらゆる思考が彼の脳内を駆け巡り、それが飽和 
状態に達した時・・・。 
「は、はいーーーーーー!!!!???」 
 彼は絶叫した。 
 それはもう壁に貼ってある『館内ではお静かに』という壁紙に真正面から喧嘩売るような大声で。 
 その後ジュンは、館内の隅々まで響いた大声を聞いた職員が、駆けつけるまでその場で唖然としていた。 

 事務室まで連行されたジュンが、職員に大目玉を喰らったのはまた別の話。 
 その日以来、ジュンが図書館に入るたびに、ドライアイスよりも冷たい目で見られるようになったのも、やっぱり別 
の話。 

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図書館で日ごろ溜まった熱いパトスを開放したジュン(違 
その後あらゆる苦労をして、なんとか図書館の奥で見つけた本を借りることができた。が、その途中経過は本編と 
なんの関係もないし、書くのもたるいので省略(J ひどっ!!   
とにもかくにも、ジュンは本を家に持ち帰った。 
自分の部屋に上がる時、居間にいた真紅たちに「ただいま」と声をかけたが、誰一人としてジュンの方を見ず、上 
の空に「お帰り」というだけだった。全員『人形探偵くんくん』に夢中になっているからだ。「あんな子供騙しな番 
組のどこがいいんだ?」とぼやきつつも、この本を見られずにすんだので、少なからずほっとしていた。 
 ジュンは人形劇に夢中になる真紅たちを横目に階段を登っていった。テレビではくんくんが「犯人はあなたです! 
こうもり伯爵!!」と決め台詞を決めているところだった。 

「まず目次から見てみるか。えーと、なになに」 
 目次は次のようになっていた。 

P4〜P95   第一章 製作記   
P96〜P170  第二章 ローゼンメイデン   
P171〜P190 第三章 アリスゲーム   
P191〜P224 第五章 ローザミスティカ   
P225〜P256 こ  を  だ ー    へ 

「最後のところだけ字が消えかかって読めないな・・・。とりあえず『製作記』のところを・・・」 
パラパラと流し読みするジュン。 
「十二月二日 どんな宝石よりも輝かしい乙女、アリス。ああ、彼女のバラのような、いやそれ以上の微笑みを早く 
見たい。・・・製作記、ね。ようは性悪人形どもの製作日記ってとこか」 
 関心したように呟くジュン。 
「・・・ってそういえば何でこんな本、存在するんだ?」 
 かなり大きな謎だったが、今考えるべきではないと思い、とりあえず保留にしておくことにしたジュン。 

 しばらくの間ジュンは、ローゼンメイデン製作日記ともいえる物を読んでいった。 
最初の方はなにか重要なことが載っているかも、と思い、一日一日を丁寧に読んでいったが、案外どう 
でもいいと思われる事が書かれていることが多く、だんだんと流し読みしていた。 
 それでもこれを書いたと思われる人形師、ローゼンの薔薇乙女への、いやアリスへの執着を感じずに 
はいられなかった。 
 最初は「どんな宝石よりも輝かしい」とかそのくらいだったアリスの表現が、次第に「夜空に輝く満 
天の星々や、女神のように煌く月ですら、彼女に比べればガラス玉でしかないだろう・・・」というよ 
うにアリスを(ジュンからしてみれば)大げさ過ぎる美麗美句でかざっているのだ。 
 ジュンはさらに読み進めていった。本の右ページ、右下の数字がどんどんと増えていく。数字が74ま 
でいった時、ジュンの手が止まった。気になる単語と文章を幾つか読み取ったからだ。 
「一月二十三日 錬金術最高の奥義、『夜空のかけら』から作られし生命石『ローザミスティカ』。 
 私はこの奇跡の石をさまざまな文献や研究書を読みながら作ったが、できたこと自体、奇跡だろう。 
 ただでさえ製作するのが困難、いやほぼ無理といっていい『夜空のかけら』を作り、生命を創り出す 
 という神の所業を可能とする『ローザミスティカ』を作ったのだ。奇跡といわずなんといおう。 
 ・・・古来から『夜空のかけら』を求める者は後を絶たない。なにせこれがあるだけで、錬金術の夢 
 (例えば不老不死、銅を金に変える、等々)全てが叶うのだから。 
 ・・・『夜空のかけら』、ね。今度ネットで調べてみるか。怪しげなグッズに混じって、あるかも」 
 いや、ないだろ。 
 さらに数ページめくる。 
「一月二十七日 だめだ!だめだ!!だめだ!!!どうしてもだめだ!私の創った娘たちは誰一人とし 
 てアリスには程遠い。彼女たちには何かが足りない。それが埋まらない限り私の理想の乙女、アリスは 
 誕生しないのだろう。一体なにが足りない? その答えはまだ出ない。 
 ・・・あいつらはアリスを目指すためにアリスゲームをしている、っていってたよな。ということは、 
 アリスゲームの勝者はその『足りないもの』が埋まるといことなのか?」 
 疑問を口にするジュン。無論それに答える者はいない。 
 ジュンはまたページをめくり、ローゼンメイデンのさらなる謎を解き明かしてくれるだろう、正体不 
明の本を読み進めていった・・・。 

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