なんか流れ悪いから投下。パクリだけど・・・ 
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《ターミネーター翠〜プロローグ〜》 

「……なぁ」 
「何ですか?ジュン」 
「嘘だろう……」 
「何度も言わせるんじゃねえですぅ。嘘なら翠星石はこんなところになんか来てないですぅ」 

「ありえねぇぇぇーーー!!」 
桜田家に絶叫が響き渡った。 

事の始まりは今朝のことだった。 
桜田家ドールズとのりは一昨日から二泊三日の温泉旅行だ。商店街の福引で当たったのである。 
しかし我らがジュンは風邪を引いており留守番。泣く泣く旅行を諦めたジュンだったが不幸にも翌日にはすっかり完治していた。余談だがジュンの枠には巴が入ったとのこと。 
家でおとなしくDVDを見ていたジュンはだらけていた。そこに響き渡るチャイム音。 
ピンポーンピンポーン。 
不機嫌なジュンはもちろん無視した。 
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。 
高橋名人もびっくりな見事な連打だった。ジュンも流石に腰を上げる。 
「はいはいどなた?」 
扉をけだるそうに開け……凍りついた。 
そこにはダンボールを体に巻いた女性が立っていた。 
「ど、どちらさまで!?」 
「ふ、服を貸してくれですぅ!!」 
悲壮な叫びだった。しかもその顔はジュンの良く知る顔だった。 
「翠星石?」 
「どうでもいいから早く中に入れやがれですぅ!!」 
温泉に行ったはずの翠星石がそこに立っていた。 

「助かったのですぅ……」 
のりの服を勝手に使うわけにもいかないのでジュンは自分の服を着せていた。ジーンズにワイシャツというなんともラフな服装だが致し方ない。 
ジュンはじろじろと翠星石を眺めた。なんか怪しい。髪の色、顔つき、左右の瞳の色、口癖、ぱっと見は翠星石だがドールの特徴とも言える球体関節が無かったような気がする。しかも目の前の翠星石は身長がどう見積もっても一八〇近くある。本物はこんなに大きいはずが無い。 
「お前は何者だ?」 
「翠星石ですぅ」 
(いや、そうなんだろうけどさ。こんな翠星石は存在しないって言うかなんと言うか) 
「えーと、正確には〔量産型翠星石試作機0001〕ですぅ」 
ジュンはなんかすごいことを聞いたような気がした。 
「手短に話すですぅ」 

「桜田ジュン。貴方は命を狙われているのですぅ。そして私は貴方を守るために未来からやってきた人造人間ですぅ」 

ジュンは開いた口が塞がらなかった。おもむろに電話帳を引っ張り出す。 
「えーと、この街の精神病院っと」 
「信じてないですね。チビ人間」 
「当たり前じゃ! なんだ人造人間って。お前は…本物の翠星石は人形だろ!」 
「人の話を聞かないチビ人間には論より証拠ですぅ。スィドリーム!」 
どこからか人工精霊がやってきて、四角い機械のようなものを出した。翠星石はおもむろにスイッチらしきものを入れる。半透明の映像が浮かび上がった。 
「ホログラムか?これ……」 

しばらくジュンは翠星石のナレーションを交えながら映し出される映像を見た。 
映し出されるのはどうやら未来の世界。だが廃墟と骨、使い捨てられた兵器ばかりだった。 
翠星石が言うには近い将来世界規模の戦争が起こるらしい。ロボット工学の進化と人工知能の開発、発達により体が機械ということ以外はほとんど人間と言えるロボット達が反乱を起こしたためだ。人間VS機械である。 

初めは人間側が優勢だったが次第に苦しくなってきた。そこで持ち上がった計画が人間側も人造人間を作って数で一気に押し返す計画である。 
その計画の中心にいたのがジュンの子孫だった。先祖が研究したという人形の資料をベースにしてついにローザミスティカの劣化版が完成した。 
劣化版といっても機能的にはほとんど同じである。ただし、半永久的には使ずnのフィールドにも入れないことが難点だが兵力としてはそれで十分な出来だった。特殊能力ドールズの活躍によって戦況は人間側に大きく傾いた。 
「ここからが問題なのですぅ」 

機械側も黙ってはいない。打開策としてドールズの発明を無かったことにしようとした。 
そう、時間軸への干渉である。すでに理論上完成はしているが何が起こるか分からないとして禁忌とされてきたがついに決行された。 
一方で人間側もスパイによってその情報を得ていたため、同時期に一体ずつ試験的に過去に送られた。対象は桜田ジュンである。 
「なんか某映画と同じシュチュエーションなんですが」 
「まさにそうなのですぅ。いい加減自分のおかれた状況を理解するのですぅ」 

桜田家に絶叫が響き渡った。 

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《ターミネーター翠〜第1部〜》 

「最近なんかすごい不幸だ…新学期シーズンで頻繁に梅岡は来るし…風邪ひくし…命狙われるし…」 
「激しく鬱モードに入ってないでシャキッとしやがれですぅ」 
一人と一体はテンションがまったく逆だった。 
「とにかく、翠星石が来たからには安心ですぅ。チビ人間をしっかり守ってやるですぅ」 
「どうだかなぁ」 
「でも、一応翠星石はお客さんですぅ。お茶くらい出しても…」 

ピーンポーン 

「お客だお客」 
「こらぁチビ人間!!逃げるんじゃねえですぅ!!」 
ジュンは一刻も早く扉を開けようとした。 
たとえ梅岡でもかまわない。現実味のある話がしたかった。正直、梅岡と世間話は嫌だがしかたない。あぁ、平穏な現実へのドアノブに今、手をかけて…… 
「待つですぅ」 
肩を掴まれ止められた。ジュンは恨めしそうに振り返る。 
「なんだよお前。僕はこれからめくるめく現実への第一歩を……」 
その先が言えなかった。一八〇の巨漢は険しい顔でショットガンを持っている。 
「なぁ、銃刀法って知ってるかな。ってゆーかお前どこからそんなもんもってきた!!」 
「静かにするですぅ。刺客かも知れないのですよ?」 
ジュンの血の気が引いた。 
「もしかして…もう来ちゃってたりするわけ?」 
「可能性は特大ですぅ」 
ジュンはゆっくりと慎重に覗き穴から様子を伺った。梅岡だ。 

「大丈夫だ。怪しいやつじゃない」 
「情報によると相手は液体金属で出来た化け物ですぅ。どんな形にでもなれるのですよー?」 
「じゃあどうやって調べろと……」 
「こうするですぅ。スィドリーム、アレを」 
翠星石が手をかざすと手の中には空き缶のようなものが現れた。 
そして、おもむろにドアを開けると梅岡に缶を放り投げた。梅岡の足元で落ちると一気に白いもやが缶から噴出する。 
「何投げたんだ?」 
「液体窒素ですぅ」 
翠星石はこともなげに答えた。 
「おい!あれが本物の梅岡だったらどうするんだ!!」 
「人体には無害ですぅ。多分!!」 
みるみる内にもやが晴れていく。ゆらりと人影が現れた。 
しかし、それは梅岡では無かった。水銀のような液体が人の形を作っており顔の部分だけがかろううじて元の梅岡の姿を保っている。しかも笑顔だ。 
『サァクラダ〜ァ〜』 
「……うわぁ」 
「さしずめ液体UMEOKAってところですぅ」 
あろうことに液体UMEOKAの第一声が自分の名前だったことにジュンは寒気がした。 
液体UMEOKAは笑顔を貼り付けたままゆっくりと動き出した。 
「どうするんだ?あいつ」 
「こういうときは逃げるのが鉄則ですぅ。スィドリーム!」 
人工精霊が大型のバイクをどこからともなく召喚(?)した。 
「何でもありだな。未来の人工精霊って」 
「おっと、今のうちに準備をしておくですぅ」 

翠星石はまた缶を出させ、UMEOKAに投げつける。 
動きが鈍っていたUMEOKAは白いもやに包まれると動きを止めた。 
「しばらく足止めできるですぅ。さてチビ人間、早いトコ旅の支度をするですぅ」 
「はいぃ?」 
「鈍いですねチビ人間!この家にとどまっている気ですか?」 
のり達を巻き込むわけには行かない。さすがのジュンにもすぐ理解できた。 
ジュンは大慌てで家に入った。 
「えーと、準備準備っと……」 
ふと目に入るのは旅行用のバッグ。荷造りしたままでほったらかされていた。 
「これでいいか。あとは…」 
帰ってきたのり達に自分がいないことをどう伝えるべきか。今世紀最大の難問だった。 
「まともに書いても普通信じないしな、かといってでたらめ書くのもマズイ」 
考える人となった。 
「チビ人げーん! 早くするですぅー!」 
「よし、これでいこう」 

「お待たせ。翠星石」 
「早くバイクに乗るですぅ。」 
もう既に翠星石はバイクに跨りエンジンをふかしている。ジュンは翠星石の後ろに跨った。 
「……おまえの服装を何とかしてから行ってもいいかも知れん」 
「そんなもの後回しですぅ。出発ですよ!」 
翠星石は思い出したように振り向き、持っていたショットガンの引き金を引いた。 
見事命中。UMEOKAの頭が吹き飛んだ。頭だった液体が地面に落ちてプルプルと震えている。 
「完全消音装置付きなのでご近所にばれて通報される恐れも無いですぅ。今なら二つセットで三十万円ですぅ」 
「色々と突っ込みたいところだがあえて我慢しよう」 

グォン!ガロロロ…… 
けたたましい音を立てて一人と一体を乗せたバイクは走り去った。 

しばらくして、固まっていたUMEOKAは動き出した。瞬く間に人間の姿に戻り抹殺対象の追跡を開始する。 
「桜田ァ〜待ってろよォ〜」 
やはり笑顔だった。 
周りに人がいたら通報されそうな怪しい雰囲気だが周囲には人の影はまったく無い。 

生死をかけた鬼ごっこが始まった。 

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《ターミネーター翠〜第二部〜》 

一人と一体を乗せたバイクは市街地を抜け、郊外に出ていた。 
遠くに山も見える。 

「おい、どこまで行くつもりなんだよ」 
「海外に高飛びするですぅ」 
「……マジ?」 
「冗談ですぅ」 
何時間走ったのだろうか。そろそろ日も暮れる。 
「いつまでに逃げ続ければいいんだ?」 
「大体七十二時間程。まぁ三日前後ですぅ」 
具体的なゴールが見えてきた。 
「やけにはっきりしてるな。理由は?」 
「極秘ですぅ。たった今翠星石がでたらめにでっちあげたなんて死んでも言えるかですぅ」 
ジュンは後ろから翠星石の首を絞めたくなる衝動に駆られた。しかし楽々とショットガンをぶっ放していたとはいえ運転している翠星石は細身の体だ。ハンドル操作を間違えて事故を起こされても困るので自重する。 
「もちろん冗談ですぅ」 
翠星石はケラケラと笑った。 
「あの手の化け物はエネルギーの消費が半端じゃないんですぅ。おまけにエネルギー源はこの時代には発明されてないはずなので補給不可。よっておよそ七十二時間程度でエネルギー切れになり、ただの液体になってしまうのですぅ」 
「UMEOKAのエネルギー源って何なんだ?」 
「詳しく聞いてきたわけじゃないからよく分からないですぅ。確か“ようりょくたい”なるものから精製されるエネルギー源とか言ってたような…」 
ジュンのこめかみがピクリと動いた。 
「ソレハ、「ハッパ」トカニフクマレテイルモノデスカ?」 
「それですぅ。あ、でもあいつには精製は無理ですぅ」 
「なぜに言い切れる」 
「大量の“ようりょくたい”と、時間が必要になるのですよ。チビ人間。まとまった量を精製するのに1週間はかかるはずですぅ」 
ジュンは安堵した。 
へたをすると一生逃げ回ってないといけないのかという不安が拭い去られたからだ。 
「…………桜田〜……………」 

ジュンのこめかみがまたピクリと動いた。 
「疲れてるのかな。幻聴が聞こえるや」 
翠星石は後ろを振り返った。 
「幻聴ではないのですぅ。ヤツが追いついてきました」 

ジュンは恐る恐る振り返る。 

UMEOKAが走っていた。笑顔で。 
なんというスピードだろうか。ジュンは生まれて初めて「走っている人の足元から煙が出ている」という現象を目の当たりにした。このままでは追いつかれる。 
「ついに天は我を見放したか……」 
ジュンは胸の前で十字を切った。 
「しつこいヤツですねぇ。そんなヤツにはこれをプレゼントですぅ」 
どこから取り出したかバナナの皮。中身はもちろん翠星石が頬張っていた。 
ぽいと後ろに放り投げる。完全にポイ捨てだ。 
「これでこけるはずですぅ。うしししし」 
ジュンはもう一度胸の前で十字を切った。もうだめかもしれない。 
ちらっと後ろを振り返ってみた。 
それは見事な宙返りだった。UMEOKAが宙を舞う。頭から舗装された道路に突っ込み、なんか卵を地面に思い切りたたきつけたような音がした。 
後に残るのは微妙に蠢く水溜りのみ。 
「楽してズルして迎撃ですぅ。おっとっと」 
翠星石は巧みなハンドル操作で後ろからきた大型トラックに道を空ける。 
「やっぱ世の中間違ってる」 
「桜田〜」 
また聞こえた。 
「もう追いついてきたのか」 
振り向いて確認する……が、道路が続いているだけで何も無い。 
「今度は前ですぅ」 
先程ジュン達を追い抜いたトラックの荷台の上にUMEOKAがいた。いつの間に。 
「かなりまずいですぅ。緊急事態ですぅ」 
翠星石が珍しく緊張した声をあげる。 
「あいつ、何のつもりか葉っぱを食べてるですぅ。意味の無いことはしないはずの化け物が何故…?」 
ジュンもUMEOKAを見てみた。しかしもう辺りは薄暗い。 
「よく見えないぞ」 
「まぁチビ人間には無理ですぅ。暗視オッドアイ完備の翠星石だから見えるのですぅ」 
さすが人造人間。 
「桜田〜死ねェ〜!」 
UMEOKAの腕が変化していく。鉤爪のような形だった。引っかかれたら痛いではすまないだろう。 
「スィドリーム!」 
現れたるはショットガン。 
翠星石は片手でショットガンをぶっ放した。しかしUMEOKAは鉤爪を振り銃弾を弾いた。あまりのスピードにジュンの目には爪の残像が見えた。 
「桜田ァァァァ!!」 
こちらに飛び移ってこようとUMEOKAは大きく身を屈めた。 

刹那、UMEOKAの姿が消えた。 
ジュンは自分の目を疑った。あまりの速さにまた視認できなかったのか? 
「どこに行ったんだ?」 
「トンネルに入ったんですぅ。小さめのトンネルなのであのトラックの車高ぎりぎりですぅ」 

その頃、UMEOKAはトンネルの入り口の天井部分に張り付いていた。 
「サ…クラ…ダ……ァ」 

しばらく走ると巨大な木があった。もうUMEOKAは追ってこないようだ。 
辺りはすっかり暗いが、月と星の光でやや明るい。 
「ここらで休むですぅ」 
ジュンは疲れてもう返事も言えない。休めることはありがたかった。 
ジュンは木に寄りかかって一息ついた。翠星石は火を起こそうとしている。 
「こういうときこそ文明の利器ですぅ」 
人工精霊がライターと小枝、紙までも出した。 
将来、重い荷物は全て人工精霊に持ってもらう時代が来るかもとジュンはぼんやりと考えながら 
翠星石の作業を眺めていた。 

無事に火がつき、だいぶ明るくなった。 
ふいに、ジュンの旅行バックから賑やかな音が流れてきた。 
「あー……そういや携帯持ってきてたんだっけ……」 
家の番号から着信ありだ。通話ボタンを押す。 
「もしもし」 
「ジュンくん!? ジュンくんなのね! 良かったぁ繋がって」 
のりの声だ。もう帰ってきていたのか。 
「今どこにいるの?なんなの“旅に出ますもう探さないでください。”って!」 
そういえば書置きにそんなことを書いたような気がする。 
「もしかして家出?今どこにいるの!!」 
「……」 
ジュンは電話を切り、電源をOFFにした。いちいちかまっているほど余裕が無い。 
「あんまり家族にそっけない態度を取るのもどうかと思うですぅ」 
「大きなお世話だ」 
「心配してくれる人がいるから出来ることですよ?はい、ご飯ですぅ」 

携帯食料のオンパレードだったがジュンは残さずたいらげた。 
「翠星石の手料理なんですからうまくて当然ですぅ!」 
いや、お前は暖めたりしただけだったような気がするが。 
満腹になったせいかジュンは急に眠くなった。 
「見張りは翠星石がしておくですぅ。おやすみなさいですぅチビ人間」 
そのままジュンは横になり寝てしまった。 

「……さてっと」 
焚き火の火をつつきながら翠星石は一人思案する。 
「どうにも不可解ですぅ。なぜにあの化け物は葉っぱを食べていたんでしょうか?」 
翠星石は自分なりの答えが出ていた。しかしそれは最悪の部類の結末だ。 
火の粉がパチパチと飛んでいる。 
「あくまで仮説ですが……」 
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。 
「自分でエネルギーを作りだせるように進化しているのかもしれないですぅ」 
そうなると三日間逃げ切ればよいなどという悠長なことは言ってられない。永遠に鬼ごっこは続いてしまう。 
「なにか手を打っておいた方がいいかもしれないですぅ……」 
翠星石はちらと出しっ放しにされているジュンの携帯を見た。 

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ジュンが目を覚ましたときにはもうお昼頃だった。 
「おはようですぅ。寝ぼすけチビ人間」 

朝食を兼ねた昼食を食べて、今日も始まるバイクの旅。 
ジュンは唐突にとある文庫のことを思い出し、 
(旅って大変だなぁ) 
と、いまいち覚醒してない頭で悟ったのはまた別の話。 
「今日はどこまで行くんだ」 
「とりあえず元の町まで戻るですぅ。うまくすれば入れ違いになって化け物を撒けるですぅ」 
……あれ? 
「もーしもーし翠星石さーん。姉ちゃんらを巻き込まないために町を出たんじゃなかったっけ?」 
「そんなこと一言も言った覚えはねぇですぅ。未来から来た存在が過去に干渉したら何が起こるかわからんから極力「標的」のみに危害を加えるはずですぅ」 
「今までの苦労は一体……」 
「不特定多数とは接触、会話、物をあげる等もってのほかですぅ。殺害なんて論外ですぅ」 
「僕を普通に殺そうとしてるじゃないか」 
「ほんとはNGですけどね。平たく言えば“殺した後の歴史が変化するなら利益があるかも”と思われるから狙われるのですぅ」 
「かもって……なんともいいかげんだなオイ」 
「まだはっきりしないのですぅ。たとえ何か重要な発明をする過去の人間を殺しても別の人間が発明するだけで歴史は絶対に変わらないという説もあるのですぅ」 
「ある意味僕はモニターだな」 
「モニターと言うよりはモルモットと言ったほうがしっくりくるですぅ」 
ジュンはとりあえず翠星石の髪を引っ張った。 

しばらくすると町が見えた。 
「なんかすごい早く付いたような気がするのは気のせい?」 
「行きは遠回りに回り道に行っては帰っての連続だったのですぅ。直線距離で見ればそんなに進んでいないのですぅ。気が付かなかったのですか?」 
まったく分かりませんでいた。はい。 
「人がたくさんいそうなところで身を隠すですぅ。人を隠すには人の中ですぅ」 
「そんなとこあるか?」 
「市街地なら人がいるはずですぅ!」 

今日は月曜日の真っ昼間。人通りなど無いに等しい状態だった。 
「そうか……世間では今の時間帯は学校なのか」 
ジュンはしみじみと思った。 
「まぁ僕には関係ないけど」 
「チビ人間。携帯を貸すのですぅ」 
「何に使うんだ?」 
「チビ人間は知らなくてもいいのですぅ」 
ジュンの額に一瞬「怒りマーク」が浮かんだがすぐに消える。 
護衛してもらっている手前、携帯ぐらい貸すべきだろう……ジュンはそう考えた。 
「ほら」 
「どーもですぅ」 
「携帯使えるのか?」 
「愚問ですね。翠星石をなめるんじゃねぇですぅ」 
翠星石は携帯を受け取るやいなやすごい速さでキー操作をしている。さすが未来のロボット。 
「もしもし?」 
電話のようだ。自分の携帯を使われているので何を話しているか聞きたいところだがそんなことをするのは野暮だろう。 
ジュンは手持ち無沙汰に周りを見回していると見知った顔を見つけた。 
向こうもこちらへ気が付いたようで手を振って近づいてくる。 
蒼星石だ。 

「探したよジュン君。いきなり失踪なんてどういう事だい?」 
――ちとやばい。未来の翠星石と蒼星石が出会ったらとんでもないことになるかも知れん。 
「こんにちは。小さなお嬢さん」 
「なッ!?」 
何話しかけてんだ翠星石ぃーーー……ありゃ? 
そこにいたのは翠星石では無かった。レースの付いたスカーフは何処へやら、髪はゴムで無造作に縛り、瞳の色は両方とも澄み渡るような青に変わっていた。心なしか声も違う気がする。 
「……変装?」 
ジュンは小声で呟いた。 
「この子の知り合い?私、警察官でね」 
翠星石は何処からか警察手帳らしきものを取り出し、蒼星石に見せた。お前それ、偽造だろ。 
「パトロール中に駅前で浮浪少年見つけたから保護してたのよ」 
「あぁ、これはどうもありがとうございました」 
「いえいえ〜」 
なんかとんでもない設定を組まれてジュンは憤った。 
その時、ジュンの五感に何かが走った。得体の知れない嫌なヨカンにジュンは戦慄する。またUMEOKAが近くにいるのだろうか? 
「じゃあ連れて帰ってね。もう家出なんてさせちゃダメよ?」 
翠星石はジュンの背中を押した。そっと囁く。 
――向こうにUMEOKAがいたですぅ。撃退するのでこの子と共にいてください―― 
勘も当たるようになってきたか。 
「さて、お別れよぅ。浮浪少年!」 
さっと踵を返して翠星石は通りの角に姿を消した。 
「いい人もいるんだね。さ、帰ろうか」 
「……そうだな」 
ジュンはいまいち釈然としないものを感じながらも蒼星石に手を引かれていった。そういえば携帯持ってかれたじゃないか。 
「会いたかったよ……ジュン君」 

「待つですぅ!!」 
一方で翠星石はUMEOKAと交戦中だった。 
入り組んだ市街地で屋根から屋根へ、路地から路地へとUMEOKAは移動を繰り返しつつ時折鉤爪で攻撃してくる。ヒット・アンド・アウェーだ。 
――昨夜襲撃してこなかったのは地理を確かめておくためか……行動を読まれていたことに翠星石は舌打ちした。 
「なめるんじゃねぇですぅ!!」 
隙を見てショットガンで銃撃する。避けられた。弾かれた。なかなか当たらない。 
「こんな戦い方が出来るなんて……やっぱり進化してやがるのですぅ!」 
ジュンの方も気がかりだった。かなり離れてしまった。早めに合流しないと何が起こるかわからない。 
しばらくして、翠星石はUMEOKAを狭い路地に追い詰めた。 
「もう逃げ場は無いですぅ」 
ショットガンを構える。 
唐突に対峙していたUMEOKAが溶けた。 
「なっ!?」 
そのままUMEOKAは再生することなく液状化した。 
「…………やられたですぅ」 
完全に出し抜かれた。UMEOKAの目的はジュンと翠星石を離すことだったのだ。 
「すると本体は何処に……あ……大ピンチですぅ!!」 

やっぱり悪寒がする。ジュンはいまだに抜けない悪寒に首をかしげていた。 
「寄りたいところがあるんだ。一緒に来て?」 
「ん。わかったよ」 
のろのろと歩いていくとそこは図書館までの道。 
「図書館に行きたいのか?」 
「……そうだよ」 
エンジュのドールショップの脇を通ると、白崎がいた。 
「あれ、こんな時間に通りかがるとは珍しいじゃないか?」 
「あぁ、どーも」 
蒼星石ともども、足を止める。 
世間話でもして行こうかと思ったら白崎の眉根に一瞬しわが寄った。見間違いだろうか。 
すると一転して玩具を見つけた子供のような目でこちらを見てくる。 
「なにか僕の顔に付いてますか?」 
「いやいや……ジュン君」 
もったいぶるような口調で告げる。早く言えよ。 
「とりあえず鏡を見てみたらどうだい?」 
一言だけ告げると店の中に引っ込んでいった。 

「鏡なんて……これで見てみるか」 
店のショウウィンドウを覗き込んでみた。別に何もおかしいところは―― 
冷や汗が出た。脇にいる蒼星石のオッドアイがおかしい。 
振り返ってしっかり見てみる。左右逆だった。 
「ジュン君……どうしたの?……」 
(冷静になれ冷静になれ冷麺になれ桜田ジュン!! 落ち着いていつも通りしていれば…っ!) 
蒼星石がショウウィンドウを覗き込んだ。そのときの驚愕した表情はジュンのトラウマ確定だろう。 
偽蒼星石が溶けて瞬時にUMEOKAの姿に戻った。ジュンは一目散に逃げようとしたが一足遅い。気が付いたら地面に組み伏せられていた。 
「現地時間で現在時刻十五:四十二分。これより桜田ジュンの抹殺を決行」 
笑顔で死刑宣告が下った。 
ジュンは抵抗してみたが全く動けない。もう諦めてこれまでの人生をざっと回想してみた。 
――死んでも死にきれん。 
ジュンはまた暴れまくった。 
「離せ変態液体教師!! この×××××な×××! ××××!! ×××××!!」 
放送禁止用語の雨あられを浴びせたが全く効果が無いようだ。 
「抹殺」 
鉤爪が振り下ろされた。ジュンは思わず目をつぶる。 
鋭い金属音がした。 
ジュンは恐る恐る目を開けた。首はまだ繋がっている。 
首だけ何とか動かして様子を見た。鋏が脇から鉤爪を受け止めている。 

「蒼星石ぃ!!」 
UMEOKAは面食らったようだったが、もう片方の手も鉤爪にしてジュンを殺そうとする。 
今度は脇からステッキが鉤爪を受け止めている。 
「真紅ぅ!!」 
「翠星石、雛苺! 今よ!!」 
店のショウウィンドウのガラスの表面がぐにゃりと歪んだ。 
瞬時に無数の蔓がUMEOKAをガラスの中に引きずり込む。 
「桜田ぁぁぁ……――     」 
UMEOKAはガラスの中に完全に引きずりこまれ、かわりに二体の人形が出てきた。 
「翠星石……雛苺……た、たすかったぁ〜〜〜」 
「で、何が起こっていたのか説明してもらおうかしら、ジュン」 
「昨日の夜電話があってね。ジュンの声で“殺人鬼に追われているぅ!!”とかかかってきたんだよ」 
電話をかけたのは未来版翠星石だろう。変声機かなにか使ったようだ。 
「ジュンが家出した挙句壊れちゃったかと皆心配したんですよぅ」 
「そしたらさっきまた電話がかかってきたのー。今度は“ドールショップ・エンジュの前でジュンが襲われている”っていってたのー」 
「「「「説明しなさい」」」」 
異口同音に問い詰められた。 
「実はな……」 
「はいーみなさんちょっとお待ちくださいー」 

四体の人形が声の主を見ようと顔を上げた途端、カメラのフラッシュのような光が辺りを包み込んだ。一瞬遅れてジュンも顔を上げる。 
サングラスをした未来版翠星石が立っていた。 
「良いですか?」 
頭の奥に響く不思議な声色だった。ドールズは虚ろな目つきで首を縦に振る。 
「貴方達は殺人鬼のこと等全く分かりません。電話の内容は全て忘れます。これより一週間はnのフィールドは立ち入り禁止です。そして貴方達はこれから真っ直ぐ家に帰ります。良いですか?」 
ドールズがまた首を振ると未来版翠星石がパチンと指を鳴らした。 
ドールズはぞろぞろと桜田低に向かって歩いていく。 
「簡単な暗示ですぅ。これで事後処理は完璧ですぅ」 
「襲われそうになった時どうして店の前だって分かったんだ?」 
「?そんな電話かけてないですよう?」 

「え?」 
「何はともあれ、ミッションコンプリートですぅ」 
ジュンはようやく肩の荷が下りたような気がした。 
「お別れですぅ桜田ジュン。もし、次会うときには兵器としてではなく……いや、なんでもないですぅ」 
「短い間だったけど、ありがとな」 
ジュンは恥ずかしさから顔を伏せた。 
「縁があったらまた会いましょう。貴方の人生が良いものでありますように……」 

     ふいに、ジュンの目の前が閃光で満ちた。 

「……くん……ジュンくん……」 
「んあ?」 
「ジュン! いつまで寝てるつもりなの!!」 
真紅のツインテールが唸りを上げる。 
「いってぇーーーー!!」 
気が付いたらリビングで寝ていた。DVDが付けっぱなしになっている。 
タイトルは「ターミネーター」 
――夢、だったのかな―― 
「ジュン。さっそく仕事よ。お茶を沸かして頂戴」 
「いきなりかよ」 

擦り切れたジーンズにワイシャツが玄関に置いてあったのだがのりが片付けてしまっていた。 
ジュンの記憶からこの二日間の出来事がおぼろげな思い出となる日まではそう遠くないだろう。 

          おわり 

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