コンセプトは『14行縛り』。 
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「ねぇ水銀燈。あなたの姉妹にも、羽はあるの?」 
 不意に、めぐが尋ねてきた。姉妹と聞いて、思い出したくもないあの子の顔が、私の 
頭の中をよぎった。 
「――ないわ。私だけよ」 
「そう……あなたは『お父様』から愛されているのね。羨ましいな」 
 そう言うと、めぐは寂しそうに笑った。愛されている? 私が? 
「他の子にはないものを、あなたは持っているのよ? 愛されている証拠だと思うよ?」 
「私は愛されてなんかいない。愛されようとも愛そうとも思わないわ」 
 私にだけ羽をくれたお父様は大好き。白い羽をくれなかったお父様なんか大嫌い。 
 でもお父様に会いたい。会って、どうして黒い羽なのかを確かめたい。 
 フフッと、めぐが悪戯っぽく笑った。私の胸の内を見透かしたように。 
「……二度と馬鹿な質問をしないで頂戴」 
「水銀燈って、ホント屈折してるよね♪」 
 あなたほどじゃないわ。めぐの言葉を聞いて、私は心の中でそう反論した。 

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「おはようです、蒼星石お姉ちゃん♪ 朝ご飯の準備が出来たですよ♪」 
 いささか唐突な翠星石の言葉に、蒼星石は目が点になった。 
「後から生まれた方が双子の兄、または姉なのです。だから、蒼星石は翠星石のお姉ちゃ 
んですぅ♪」 
 その日、翠星石は蒼星石の事を「お姉ちゃん」と呼び続けた。蒼星石の当惑なぞどこ吹 
く風といった具合に。その夜、翠星石が寝付いたのを見計らって、蒼星石はジュンに事の 
子細を説明した。 
「――という訳なんだよ。すっかり調子が狂っちゃった」 
「あ、ごめん。それを教えたのは僕」 
「……頼むから、翠星石に余計な事を吹き込まないでよ」 
「あくまでも、人間の場合として教えたんだけどなぁ……」 
 蒼星石が刺した釘の穴を、少しでも広げるようにジュンは呟いた。蒼星石はキレた。 
「それが余計な事なの! 被害を受けた僕の身にもなってよ!」 
 それからしばらくの間、蒼星石がジュンと口を利かなかったのは言うまでも無い。 

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「馬、好きなのかい?」 
 ドイツ軍・馬術教練場。外埒沿いにいた水銀燈に、軍服姿の東洋人の男が、馬上から屈 
託の無い笑顔で話しかけてきた。突然の事で戸惑う水銀燈を馬が銜え上げた。 
「ちょ、ちょっとぉ! 離しなさいよぉ!」 
 男はもがく水銀燈を自分の前に座らせ、馬を外埒沿いに走らせる。そして、加速がつい 
たところで、巨大な生垣障害へと馬の進路を変えた。悲鳴を上げる水銀燈をよそに、男が 
裂帛の気合を発する。同時に浮遊感。馬は見事に障害を飛越し着地した。 
「お、下ろしなさいよぉ!」 
 泣きべそをかく水銀燈に、男は「すまんすまん」と、悪びれた様子も無く快活に笑った。 
そして先ほど同様、馬に水銀燈を銜えさせると、埒の外に解放した。 
「こ、こんな目に遭わせて……お、覚えておきなさいよぉ!」 
「またウラヌスに乗りたくなったらここに来なさい」 
 背中ごしに男の声が聞こえたが、水銀燈は涙を拭き拭き、後をも見ずにその場を去った。 
 その男――『バロン西』こと西竹一が、その後戦死した事を、水銀燈は知るよしも無い。 

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