では、以前リク貰った水銀燈と金糸雀が入れ替わる話しを投下。 
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前編
「第1楽章ぉぉっ、攻撃のワルツゥーッ!!」 
金糸雀のバイオリンが衝撃波を打つ。 
nのフィールド中の空気が水銀燈の攻撃を阻む。 
攻撃の性質上、金糸雀は接近戦を得意としない。特に格闘に至っては水銀燈にかなり遅れをとっている。 
それを知る水銀燈は、このゲームを自分の有利に進めるべく、何度となく接近を試みてはいるものの、 
音波の攻撃に阻まれて思うような戦いを仕掛けられないでいた。 
決定打に欠ける金糸雀は、攻防を繰り返しながら充分な距離を稼ぎつつ、既に退散の機会を伺っている。 
埒があかないと判断した水銀燈は、一時体制を整えるために、攻撃の手を緩め、上空高く舞い上がる。 
「しめた、その間にカナは逃っげるかしら〜」 
しかし、それは水銀燈の予想した行動であった。 
「ふっ、あなたの思考なんてお見通しよぉ!」 
そそくさと逃走に入る金糸雀を見計らったように水銀燈が攻勢をかける。 
いっきに勝負を決しようと、上空から金糸雀に急接近し一撃を加えようとする。 
「と、見せかけて…最終楽章!破壊のシンフォニィィィ!!」 
金糸雀もそれを読んでいた。きびすを返し楽章飛ばしの攻撃を仕掛けてきたのだ。 
「ああっ、ずるいわよ金糸雀!次は追撃のカノンとやらじゃない!!」 
その攻撃を避け切れないと判断した水銀燈は、衝撃波の中にモロに突っ込んだ。 
そのまま金糸雀を仕留めようとの魂胆だったが、思いのほか厚い金糸雀の放つ空気の壁に目測を誤り、 
また金糸雀も水銀燈が肉を切らせて骨を絶つような真似をするとはおもいもよらず、 
両者は急接近の末、激突して気を失った。 

水銀燈が目を覚ました時、静けさを取り戻したnのフィールド内にはもはや金糸雀の姿は無かった。 
「くっ、逃がしたか……」 
しかし、体を起こした水銀燈が上を見ると、ピチカートがくるくる回っている。 
「は?ピチカート??」 
水銀燈に緊張が走る。 
金糸雀がまだ近くに潜んでいる、そう考えた水銀燈は安全圏である上空に避難しようとしたが、飛ぶ事が出来ない。 
「あれ…?」 
ようやく体の変化に気付いた水銀燈は、自分の状況を客観的に理解して愕然とした。 
水銀燈は金糸雀の体と入れ替わっていたのだ。 
「な、何これぇぇぇぇ!!」 
右手で素早くピチカートを捕まえた水銀カナは、人工精霊を脅迫するかのように説明を求めた。 
「これはいったいどういう事よぉ!!」 

「カナ―おかえりー!」 
金糸雀と入れ替わった水銀燈をみっちゃんが出迎える。 
ピチカートの話から状況を理解した水銀カナは、とりあえず金糸雀を見つけるために、金糸雀のミーディアムの家で網を張ることにしたのだ。 
とりあえず、他のドールが尋ねてこなかったかを聞くために、声のした方向に目をやると、みっちゃんはバスルームで粘土作業をしていた。 
「あんた、なにやってるのよ?」 
「見て、見てぇ!カナが一度入りたいって言った露天風呂みたいにしてみたのよ、どう?」 
それは昨日のTV番組の影響だった。温泉旅行に興味を示し、「一度行ってみたいかしら〜」 
などと言ったものだから、みっちゃんがバスルームを1日がかりで改造したのだった。 
壁一面に紅葉の風景写真を貼り、無骨な蛇口には石膏でライオンを模ったり、岩のオブジェが配置されていたりした。 
石膏は水に弱い事がたまに傷なのだが、そんな事は気にしない。金糸雀のためなら何でもやるのがみっちゃんスピリットである。 
「さー、私も汚れちゃった、カナ一、一緒に温泉しましょー」 
そう言ってみっちゃんは水銀カナの目の前で服を脱ぎはじめた。 
『なんなの?この人間…』 
唖然としながらみっちゃんの裸を見ていた水銀カナだったが、はっと一つの結論が脳裏をよぎった。 
『こ、このままじゃ、私、剥がされる!!』 
案の定、普段の着せ替えで鍛えたみっちゃんの早業に抵抗虚しく脱がされて行く水銀カナ。 
「ち…ちょっとぉ…」 
神業的な手捌きが水銀カナを襲い、気付いた時にはもう下着を残すのみ。しかも、みっちゃんは既にバスタオル姿。 
逃げるにしても攻撃するにしても、金糸雀のボディでは勝手が解らず、あたふたとするだけで好い様にあしらわれてしまう。 
「カナ〜、温泉の元は何がいいカナ〜なんちゃって……カナ?」 
恥ずかしさと憤りで水銀カナが切れた。 
「いいかげんにしなさいよー!」 
ガブリ!とみっちゃんの手をかじり、そのままぷらーんと垂れ下がり状態。 
事態が飲み込めずにしばらく固まっていたみっちゃんだったが、やがて手の痛さが彼女を現実にひき戻した。 
「イャ――――!カナが家庭内暴力を―――!!」 
パニック状態で手をブンブン振り回すが、そのままスッポンの様に放さない。 
ようやくみっちゃんの魔の手を逃れた水銀カナは、近くの窓のカーテンで自分の体を隠しながら、真っ赤になってみっちゃんを睨む。 
「あ、あんたばっかじゃないの、そんなブサイクなお風呂なんて聞いたことないわ!」 
打ちひしがれるみっちゃんを後に、そのままカーテンを引きちぎった水銀カナは外に飛び出したのだった。 
『こ…こんな所になんかいられないわよ!』 
みっちゃん轟沈。 

その頃、カナ水銀は上機嫌で夜空の散歩を楽しんでいた。 
「うっはぁ〜最高の気分かしら〜、一時はどうなっちゃうのかと思ったけど、これはこれで良いってことかしら。 
でもおなかがスースーする…なんでお父様はおなかを作らなかったのかしら…」 
月齢14.7の月が街を明るく照らし出している。月の光りを受けた夜間飛行はカナ水銀の一つの疑問を解決した。 
「そうよ、この体におなかが無いって事=軽量化ってことよ。飛ぶ事に特化した体には最適の設計だったのよ! 
さすがお父様…でもカナは遠慮したいかしら……」 
そんなこんなで暫く月光浴を楽しんだカナ水銀だったが、一人でいても楽しくない。 
そこでちょっとした妙案をおもいついた。 
「そうよ、この体で真紅たちをぎゃふんと言わせに行こうかしら。 
しかも何やっても水銀燈に責任をなすりつけられるじゃないかしら〜ふっふっふ!」 
これといってやる事もないので、とりあえず桜田家にちょっかいをだしにむかったのだった。 

「たーのーもー!」 
夕食を楽しんでいた桜田家のドールズは、その声を無視しておかずの争奪戦を繰り広げている。 
「あー!だめなの!これはヒナのソーセージなの!」 
「そんなの知らないですぅ!隙あらばいっただきですぅ!」 
「おまえら、いいかげんにしろよな!いっつもいっつもおかずの取り合いばっかしやがって!!」 
見事に無視を決め込まれたカナ水銀。怒りに任せてトイレの窓から室内に進入しドアを開けて食卓に乱入する。 
「って、あんた達!!こっち向きなさいよ!!」 
迷惑な奴が来た…という視線が一斉にカナ水銀に注がれる。 
「な、なにかしらその目は…」 
たじろぐカナ水銀に雛苺のソーセージをぱくつきながら、翠星石が食卓代表として質問する。 
「一体、何しにきやがったのです?」 
何しにきたのかと言われても、何しに来たわけではないのだが、何かしなくてはやっぱりいけないと考えたカナ水銀は、 
食卓にたまごやきを見つけて、つい、こう口走ってしまった。 
「たまごやき…おいしそ〜」 
瞬時におかずの皿を抱え、一目散に庭へ逃げ出すドールズ。 
「ああっ、ちょ、待っ、たまごやきぃー!」 
カナ水銀もドールズを追って外に出る。 
やれやれ…とばかりにのりとジュンは食事を済ませて後片付けを始め出す。 

上空からドールズめがけて黒い羽が降り注ぐ。 
3体のドール達はこれを巧みにかわしながら、カナ水銀の攻撃から逃げ回っている。 
「くう〜っ、おかず如きを本気になって横取りしようとは、薔薇乙女の風上にもおけねーです!!」 
おかずを死守しながら叫ぶ翠星石は、いつもの自分の行いを棚にあげておく。 
当のカナ水銀は、ドールズが自分の攻撃に手も足も出ない事に恍惚を感じていたのだった。 
「うはっ!これは良い気分かしらぁ〜!一度でいいから真紅たちをギャフンと言わせてやりたかったのよ!」 
恍に浸るカナ水銀に、真紅が訝しげに問う。 
「水銀燈…あなた、キャラ変わった?」 

カナ水銀はこの戦いに感動しまくっていた。勝利の気分に酔いながら、高らかに自分の強さを宣言する。 
「ふっふっふーあなたたちって、やーっぱりローゼンメイデン一の策士、金糸雀がいないと何にもできないのかしら〜!」 
「はぁ?金糸雀…?なんであんなのがローゼンメイデン一の策士って事になるのですぅ?」 
「金糸雀はヒナのお友達なのー」 
「まぁ、ドジっ子であることは確実なのだわ。雛苺といい勝負ね、本人の前では言えないけど」 
好き勝手言うものである。 
そんな言葉に、さっきまでの爽快感が一転し、金糸雀の自尊心が音を立てて崩れて行く。 
「あ、あなた達!私を何だと思ってるのかしら!!あームカムカするかしら!!」 
「何で水銀燈が反応するです?あなたには関係ない事です!」 
「水銀燈…もしかして金糸雀に遅れをとった事でもある訳?」 
「ヒナは金糸雀怖くないもん」 
ドールズの会話は、徐々に金糸雀にたいする暴露大会の様相を呈してゆく。 
「そう言えばこの前、nのフィールドからの帰りに、金糸雀ったらおしりが大きすぎてつまっちゃったのよね」 
「うわ!トロイですぅ。静岡県は丸子名物むぎとろろ汁ですぅ」 
「ヒナねー、かにみそが隣の家の屋根から落っこちる所を何度も見たのー」 
ドールズの会話を聞いていたカナ水銀は、恥ずかしさの余りぷるぷると体を痙攣さながら、 
顔を真っ赤にして3人の井戸端会議を力ずくで遮った。 
「ええいうるさーい、みんなこれでも喰らうかしらーっ、まっくろなビーム!!」 
カナ水銀の放つ漆黒の龍が襲い掛かる…が、何ともセンスの無いネーミングである。 
目からナントカと同じセンスが伺えるような気がするのは気のせいだろうか? 
「あなたたちなんか!あなたたちなんか――――!!!」 
半泣きでわめきながらめちゃくちゃに乱射する。 
土はほじくり返され、庭木は折れ、塀が半壊する。 
「わぁぁぁぁあ、止めるです水銀燈!ていうか、なぁんであんたが一々反応しやがるのです?!」 
逃げ回るドールズ。収拾が付かなくなって、もう家のそこら中が穴だらけである。 

ボロロン!! 
カナ水銀の後方から、弦を爪弾く音が夜空にひびきわたる。 
「いいかげんにしときなさいよ」 
静かな怒気を含んだその声に、カナ水銀が弾かれた様にふり返る。 
「誰!かしら?!」 
そこにはバイオリンをアコースティックギターの様に演奏しながら、満月をバックにした水銀カナが、 
電柱の上からドールズを見下ろして立っていた。羽織ったマントが月明かりに翻る。 
中は当然肌着だけ状態。ちょっと間違うとストリーキング。 
彼女の肩が怒りに震えていた。水銀カナはみっちゃんの所から逃走した後、めぐの病院に向かったのだが、 
そこで見た光景は悶え苦しみながら運ばれて行くめぐの姿だった。 
どうやら調子に乗って力を使いすぎ、金糸雀はミーディアムを疲弊させてしまったらしい。 
「あなたのせいで…あなたのせいで、めぐが集中治療室に入っちゃったじゃないのよぉ!!」 
しかし、そんな事言われても、金糸雀はめぐなんて誰なのか知らない。 
復讐の決意を胸に秘めて白いマントをなびかせながら、といってもみっちゃん家のカーテンなのだが、 
カルメンの第3幕への前奏曲を情熱的に掻き鳴らす。 
ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン! 
ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!!! 
薔薇が宙を舞い、ドールズたちは一斉に掛け声を上げる。 
「オ・レ!!」 
…マンボだったら「ウ!!」とでも返したに違いない。 
だがカナ水銀だけは、演奏の超絶技巧を見抜いて動揺していた。デキル!心の中でそう思ったけれど言葉には出さない。 
「おほ、おほほ、おほほほほほ、何かしらぁ?どっかの渡り鳥にでもなったつもりなのかしら〜ぁ?」 
そのネタは古いぞ、カナ水銀。 

各々外野がエールになっていないエールを飛ばす。 
「カナガワーがんばるですぅ!」 
「かにみそーがんばるのー!」 
「将軍さまーまんせーなのだわー!」 
顔を真っ赤にしたカナ水銀のヒステリーじみた声が響き渡る。 
「そこっ!!今喋ったの誰かしら!!?」 
全員です。 
「だから、なーんで水銀燈が反応するです?」 
カナ水銀が気をとられたその一瞬を衝いて、水銀カナが素早く攻撃を仕掛けた。 
「いっくわよぉ、序曲!背徳の不協和音!!!」 
遅れをとったカナ水銀の顔に緊張が走る。 
『わわっ!一体どんな演奏が奏でられるって言うのかしら!?』 
しかし、思わず身構えたカナ水銀の予想とは裏腹に、バイオリンの弓を空中に投げ捨てた水銀カナは、 
爪で弦を直につまんでそのままゆっくりと上下にしごきだした。 
ギャキキキィィィイイ!!!! 
そこから放たれる音は黒板を引っ掻く様な強烈に不快な音。 
桜田家の窓が粉々に割れて吹き飛ぶ。屋根がビリビリと共鳴しだす。 
「わあぁぁぁぁ!!これはたまらないですぅぅぅ!!!」 
「くぅぅぅ、金糸雀、止めるのだわ!!」 
この攻撃にはカナ水銀も耐え切れずに、失速して地面に突っ伏しのたうち回る。 
「ひいいいいぃ、何てハイレベルの演奏なのかしらー!!ジョン・ケージも真っ青かしらぁ!!」 
いや、これを演奏とは言わないぞ。 
予想外の攻撃にカナ水銀は這いずりながら逃げに入る。逃げ足だけはローゼンメイデン一。 
「ちょっと、待ちなさい!」 
水銀カナが追撃に移行する。だが、金糸雀の体では水銀燈に追いつく筈が無い。 
遠く逃げゆくカナ水銀を見ながら、水銀カナは攻撃の手段を変えることにした。 
「…金糸雀、めぐの仕返しはあなたのミーディアムにさせてもらうわよぉ」 

2体が去った後、ドールズは穴だらけの庭に呆然と佇んでいた。 
「金糸雀…おそるべき嫌がらせ攻撃ですぅ…」 
「…水銀燈の攻撃の名前って『まっくろなビーム』って言うのね…」 
「ダッサイ名前ですぅ」 
「ほんと、最低のセンスだわ」 
「うにゅー、たまごやきがじゃりじゃりなのー」 
こうして水銀燈の黒龍波は、まっくろなビームと呼ばれることになった。 

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後編

一方みっちゃんは…バスルームに一人全裸で壊れ気味。 
「カナに…カナに嫌われたぁ…くすん」 
とか言いながら、心ここに在らずという感じで大量の石膏をこねくり回していた。 
心も体も真っ白である。 
悲しみの余り珍妙な巨大石膏オブジェが完成されようとしている。 
それは、『ミとッとキーとマとウとス』が付く危険な記号を秘めたオブジェであった。 

そこに水銀カナが戻ってきた。 
無表情の奥に復讐の念を秘め、金糸雀のミーディアムに襲い掛からんとする水銀カナ。 
「さっきはごめんなさぁーい、一緒に楽しい事しましょぉねぇ」 
優しいような、甘いような声がみっちゃんを誘う。 
「カナ?」 
瞬時に反応するみっちゃんの見えない尻尾がピンと立つ。 
バスタオル姿のまま喜び勇んでバスルームの外に出ると、鏡台の傍らで金糸雀が待っている。 
「ああっカナァ!帰ってきてくれたのねぇぇぇ!」 
犬の様に駆け寄るみっちゃんの顔は、喜びの涙と鼻水で緩みっ放し。しかも両手は石膏で真っ白状態。 
バスタオルで谷間の強調された少し大きめな胸が、ぷりんぷりんに揺れている。 
*お見せできなくてすみません。 
その狂喜の顔にこもるみっちゃんの気迫に、水銀カナはびびり気味。 
この状態で抱きつかれたら、きっと胸に押し潰されて身動きも取れず、 
みっちゃんの成すがままくしゃくしゃにされてしまうであろう。堪った物ではない。 
水銀カナの背筋に寒いものが走る。 
『抱きつかれる前に決めてやるわよぉ、覚悟しなさぁい』 
冷や汗を流しながら気合を入れなおすのだった。 

その時、消えていたはずのTVにノイズが走った。その現象に気づいてみっちゃんは立ち止まる。 
ザザザザザザザザ―――という雑音の後に 
ブラウン管から銀色の髪を振り乱した人間?がずるずると這い出してくる。 
みっちゃんの脳裏に甦る、とある恐怖映画の一場面。 
「ひいいいいえぇ―――――!貞子っ!?」 
腰を抜かしてひっくり返るみっちゃん。それは、水銀燈の意図を察知して戻ってきたカナ水銀だった。 
まさに間一髪のタイミング。 
「危ないみっちゃん!!そのカナはみっちゃんの命を狙っているかしら!!」 
しかし、みっちゃんから見ればこの場合、『あんたの方が怖いわよ!』と突っ込みを入れたくなるのが必定。 
気が動転し、あたふたと慌てふためきながら屋外に逃げようとする。 
もちろん全裸で。 
「みっちゃん、ちょっと落ち着くかしら、何もしないから!」 
水銀カナが口元に笑みを浮かべながら二人の会話に割って入る。 
「あらあら、その子は危険よぉ、見ず知らずのドールなんか信用しちゃダメよぉ」 
「みっちゃんだまされちゃダメ!!そいつはカナであってカナではないのかしら!!」 
カナ水銀は、みっちゃんの側に駆け寄ると、挑発する水銀カナを睨み返す。 
事態がさっぱり飲み込めないみっちゃんは、カナと水銀燈を交互に見ては、目をしばたかせている。 
「何を言ってるのかしらぁ、私はミーディアムと遊びたいだけよぉ〜」 
「水銀燈!あなたの考えなんて、お見通しなんだから!」 
「ふふん、だったら止めてみなさいよおばかさん、できるものならね」 
水銀カナは二人の方向に歩み始める。だが、ミーディアムを守ろうとする金糸雀の決意は何よりも強い。 

「みっちゃんに何かしたら承知しないんだから!力を使い果たして壊れてやるんだから!!」 
毅然としたその言葉に水銀カナの足がぴたりと止まる。先程までの不敵な笑みが困惑の色へとみるみる変わる。 
「な!?あなた何を言ってるのか解っている訳?」 
今の金糸雀なら本当にやりかねない、攻撃の手段を封じられた水銀カナには、それ以上なすすべが無い。 
自分の体とめぐを人質に捕られた様なものである。 
「カナはみっちゃんを守る為だったら何だってするんだから――っ!!!」 
みっちゃんの為なら壊れることなど覚悟の上である。金糸雀の言葉には、ミーディアムを思う気持ちが強く溢れていた。 
思う気持ちは勇気と力を生み、対峙する相手の心にも何かしらの変化を与えるものである。 
が、その言葉に劇的に変化したのは、当の水銀燈ではなく、みっちゃんの方だった。 
もはや、みっちゃんのハートは完全に撃ち抜かれていた。 
カナ水銀をガバッと抱きしめ、みっちゃん必殺のまさちゅーせっちゅで攻撃開始。 
「うわぁぁぁぁぁ!!なんて健気な子なのっ!カナも素敵なんだけどこの子も好いわっ!! 
ね、ね、一緒にここで暮らさない?というか、うちの子におなりっ!ね、ねっ?」 
水銀カナのほっぺたを、ものすごい勢いですりすりし続けるみっちゃん。 
こうなったらもう、嫌と言おうが何と言おうが放さないだろう。 
「も、ちろん当然かしらぁ…って摩擦、摩擦ぅっ!」 
「ああっ、かあいいわぁっ!さだこ(仮)ちゃーん!!」 
勝手に名前まで付けられ、2人の世界は桃色に染まる。 
みっちゃんのバスタオルは床にはらりと落ち、もはやあられもない姿で仁王立ちである。 
*本当にお見せできなくてすみません。 
そんな中、いつの間にか忘れ去られている水銀カナは、2人の世界について行けずにボーゼンと成り行きを眺めている。 
「こいつらって…いつもこんな事やってるの…」 

もわーんとしたラブな世界がしばらく演じられた後、更なるラブへのステップが始まろうとしていた。お風呂タイムである。 
「うふふ…ちょっと汚れちゃったわね、お風呂にはいって綺麗にしましょうね〜」 
二人の世界は夢の中。みっちゃんの涙や鼻水や石膏まみれの手でくしゃくしゃにされたので 
ちょっとどころの汚れでは無いのだが、確かめ合った二人の絆の前ではそんなことは些細なことなのである。 
思考が停止していた水銀カナが我に返る。もはや第三者扱い。 
何でお風呂?という突っ込みを入れる間もなく、カナ水銀は早くも服を脱ぎ始めていた。 
温泉ぽくて面白そうなバスルームに、ルンルン気分でもう入る気満々。 
自分の体が人前に晒される、もとより自分の体にコンプレックスを感じている水銀燈にとって、それは屈辱にも等しい行為だった。 
「やめてよぉぉぉ!私の体を弄ばないで!!」 
咄嗟に駆け出して止めようとしたものの、足がもつれて勢い良く2人に体当たりした水銀カナは 
そのままみんなを巻き込んで『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』に突っ込んだ。 
バスルームに大轟音が響き渡る。 
『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』がクッションとなり、大事には至らなかったものの、 
2体のドールは下着姿のまま、つぶれたカエルの様にそのボディににめり込むのだった。 
ど根性なんとか風。 
「やったわねぇ!」 
めり込んだ顔を引きはがし、金糸雀は水銀燈に掴みかかる。 
水銀燈も感情を抑えられずにこれに応じ、 
あらん限りの罵詈雑言の応酬の果てに、髪を引っ張ったり噛み付いたり引っ掻いたりと、 
両者ともに半裸状態のままで、取っ組み合いの喧嘩が始まった。 

みっちゃんは、倒れた瞬間に頭をシャワー水栓にしこたまぶっつけて気を失ってしまい、 
『デンジャラスキャラクターの首』は、あらぬ方向にねじ曲がってひしゃげ、 
その歪んだ顔には、みっちゃんの大きなお尻がスタンプされて、鼻がくっきりとへこんでいた。 
あらゆる方面で危険なオブジェの完成である。 
全裸でのびるみっちゃんを放ったらかしにして、低レベルな戦いは夜半まで続く。 
いつの間にか元の体に人格が戻っていた事にも気付かずに、半泣きになりながら不毛な猫の喧嘩は白熱してゆくのだった。 

水銀燈はフカフカなソファーに座って、みっちゃんに髪を梳かれている。 
水銀燈の服はみっちゃんが手洗いして現在乾燥中なので、代わりに真っ白なビクトリア調のドレスを着せられていた。 
水銀燈は部屋一杯に香るリンスの匂いの中で、清楚な白いレースドレスの裾を持て余しながら、 
鏡台に写る自分の顔をみては少々赤くなったりしている。 
みっちゃんの趣味により、一連の着せ替えを笑顔で強要され、水銀燈は今だけ黒から白へと変身を遂げている。 
「ほらほら、銀色の髪こんなに綺麗よ、ああん、サラサラの長い髪って良いわぁ〜」 
その言葉にふと振り向いた瞬間、ニコニコ顔のみっちゃんと目が合った水銀燈は、慌てて目をそらし前を向く。 
勢いに乗ったみっちゃんが水銀燈の髪を編み編みしはじめた。 
良い様にいじくられる中で、水銀燈は黙ってうつむきながら小さな声で自問自答するのだった。 
「なんで私、あんな事したんだろう…」 
おとなしく座る水銀燈を良い事に、みっちゃんの髪いじりは徐々にエスカレートしてゆく。 
おさげ、おだんご、ポニーテールにツインテールと、パトスのままにやりたい放題。 

あの後、意識を取り戻したみっちゃんの仲裁で、その場は何とかとりなしたものの、 
結局3人でお風呂に入り、体を洗ったり、シャンプーしたり、仲良くバスタブに浸かったりしてしまったのだ。 
髪もくしゃくしゃだったし、体もかなり汚れていたので仕方なく付き合ったのだけど 
その事を思い出すと、恥ずかしさの余り湯気がでる程に顔が火照ってしまう。 
こうなると普段の強がりもどこかに消えうせて、ずいぶんしおらしくなってしまうものである。 

金糸雀は何事も無かったかのように、湯上りの牛乳を飲んでいる。 
「あ〜、やっぱりお風呂上がりに牛乳は欠かせないかしら〜」 
すかさず金糸雀をくすぐり笑わせ始めるみっちゃん。 
「カ〜ナァ〜、コチョコチョコチョコチョ」 
「ぶふっ、むははははははは、やめてみっちゃん〜」 
思いっきりみっちゃんの顔に牛乳を噴出す金糸雀。みっちゃん自業自得。 
そんな光景をぼんやり眺めながら、今の笑顔の裏にある、あの時の金糸雀の決死の表情を思い出し、 
きっと自分と違う大事なものを見つけたのだろう。と、そう感じるのだった。 

「さー、今日はみんなで一緒に寝るわよ――!」 
夜中にもかかわらず、妙にハイテンションのみっちゃんが、唐突に 
「え?…ええーっ!!」 
「ふふふっ、さだこちゃん、お泊り会は友達の第一歩よ!」 
シドロモドロの水銀燈に、根拠の無い自信を持ってきっぱりと言い切るみっちゃん。 
「……」 
すっかりペースに呑まれて威勢を削がれた水銀燈には、もう名前の訂正も反論する気力も残っていない。 
終始「みっちゃん(攻)×水銀燈(受)」の状態で、夜は更けて行くのであった。 

やがて金糸雀とみっちゃんは眠りに付く。初めての経験になかなか寝付けない水銀燈は、 
寝返りを打ったみっちゃんに抱きつかれ、お風呂で見たみっちゃんの裸を思い出して真っ赤になる。 
静かな夜の奇妙な安らぎの中、ふと病院に残しためぐを思い出し、水銀燈はみっちゃんの部屋から抜け出した。 
二人の寝顔を少し見つめた後、煌々と照る月明かりの中に飛び去っていった。 

こうして不思議な縁が交差して、一日がかりで紡ぎあげられたパッチワークは終わりを告げた。 

「やっぱり帰っちゃったのね…」 
いつもの様に爽やかな朝が到来した。 
みっちゃんと金糸雀は一緒に歯磨きをしながら、水銀燈の事を話し合っていた。 
「んーでも、壊したみっちゃんの作品を直していくなんて、ちょっと見直したかしら」 
金糸雀は、昨日壊れたはずの危険なオブジェが、ちゃんと直されてるのを見つけて感心していた。 
へこんだ所を新たに石膏で埋め、曲がったところを直しただけの、完璧な修理ではなかったけれど、 
それでも、気持ちというものは伝わるものである。 
「…ねぇみっちゃん、それでこの像って一体何なのかしら?」 
みっちゃんにしてみれば、単に妄想で作っただけの産物に過ぎず、意味なんて全く無い。 
楽しい事を想像してワクワクする金糸雀の瞳に見つめられて、みっちゃんはしばし言葉に窮する。 
本当に禁句を言わせたいのかよ、金糸雀? 
「えー、あの、その…アレよ、アレ!」 
「アレ???」 
「そう、アレよ…こんど一緒にその遊園地にでも行きましょうか」 
そんな風にみっちゃんが誤魔化していると、ピシピシ…と言う音と共に『アレ』の補修跡にヒビが入りはじめ、 
水銀燈が直した石膏がポロポロ剥れ落ち、バランスを失った『アレ』は倒壊して粉々に砕けてしまった。 
その残骸の中からは、半裸状態で乱闘していた時にめり込んだ金糸雀と水銀燈の石膏型と、 
みっちゃんが尻餅を付いた時のお尻の型が、二人の前にきれいにぽろりと転がったのだった。 
歯ブラシを咥えて呆然とする二人の前で、出来たばかりの金糸雀と水銀燈の石膏型は、 
一夜の心の交流を確かめ合うかのように、みっちゃんの大きなお尻の石膏型を 
仲良くお触りしていたのだった。 

隣人に愛を、人類に平和を、ラブ&ピース。 
もう収拾つかないので強引におわり。 
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