薄暗い世界、空もなく、雲もなく、ただ殺風景な景色だけが広がる空虚な世界。 
そんな空っぽな世界には凡そ不似合いな轟音が鳴り響く・・・・ 

ビシュン!ガキィィン! 

nのフィールドと呼ばれる異次元空間で日夜繰り広げられる血で血を洗う戦い、 
アリスゲーム 

人形師ローゼンが作り上げし7体の薔薇乙女達によるローザミスティカを賭けた戦い。 

六つのローザミスティカを得た者だけがなれる完璧なる乙女、アリス。 
そのアリスになる為、この虚無の世界で今宵も2体の薔薇乙女が死闘を繰り広げていた・・・・・・・・ 

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翠星石「ハァ・・ハァ・・・・」 

息を切らす一体の人形、エメラルドとルビーの左右で色の違うオッドアイ、草原をイメージさせる様な緑のドレスに自身の背丈以上に長いブラウンの髪・・・・・・ 
 彼女の名は翠星石。人形師ローゼンが作り上げし第3ドール、人の夢の扉を開き、心を育て、癒す夢の庭師。 
彼女もまた、自身の宿命に従い、アリスを目指して戦う者の一人である。 

この日は自身の双子の妹である第4ドール・蒼星石に会いに行くため、nのフィールドを通って蒼星石が世話になっている家え迎う所だった。 

普段は鞄に乗って空を飛んで移動しているのだが、生憎この日は大雨で、空を飛んで行くの不可能だった。そのため、普段は戦いの時ぐらいしか入らないnのフィールドを通って向かおうと考えたのだ。だが・・・ 

それが全ての間違いだった 
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翠星石「ハァハァ・・・・・クッ!」 

ジャキィィン!ズオォォン! 

満身創痍の翠星石に水晶の巨槍が襲う。 

ヒュンッ! 

足元から不規則に出現する巨槍を紙一重で躱す翠星石。その表情からは余裕は感じられず、動くだけで精一杯だった。 

薔薇水晶「・・・・・・。」 

翠星石から数メートル先、金色の瞳、左目には薔薇のアイガード、紫電の髪を靡かせ、紫のドレスを纏うその姿はまさに悠然の二文字。 

自身の手掌から繰り出される攻撃を必死に回避する翠星石を無表情で見つめ、一切手加減する事なく、非情なまでに攻撃を加え続ける・・・・・ 

薔薇水晶――――― 

ローゼンメイデン第7ドールにして薔薇乙女最強の戦士。冷酷にして非情・・・・・勝つの為なら手段を選ばない戦いぶりに畏怖する者も多い。 

ドドドドッ!ガシュゥン! 

翠星石「クッ!」 

薔薇水晶の攻撃を躱し続ける翠星石。そしてそれを尚も冷徹な面持ちで見つめる薔薇水晶。 

翠星石「ハァ・・・ハァ・・・・何なんですかアイツは!?しつこい野郎ですぅ!」 

薔薇水晶の猛攻に曝され、満身創痍になりながらも自身の苛立ちを吐き捨てるように翠星石が叫んだ。 

事の発端は一時間前、蒼星石の元へ向かうべくnのフィールドを一人意気揚揚と歩いている所を突如薔薇水晶に強襲され、有無も言わさず戦闘になったのだ。 
 序盤こそ善戦していたが、その実力差故に徐々に押され始め、今では首を落とされる寸前にまで追い詰められている。 

翠星石「(こんな事なら黙って家に入れば良かったですぅ〜)」 

自分の愚行に対して今更ながらに後悔する翠星石。 
そもそもnのフィールドというのはドール達にとっては庭の様なものであり、自分の力を最大限まで引き出して戦える場所である。 

そんな世界に一歩でも足を踏み入れれば、それを自身に戦う意志があるという証明であり、例え襲われても文句は言えない。それはドールである翠星石自身もよく知っている筈だったが、桜田家での平穏な生活がそれを忘れさせていた・・・・ 

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ビシュン!ガシュゥン! 

翠星石「きゃあ!」 

尚も続く薔薇水晶の容赦無い攻撃。隙の無い攻撃に反撃する事すら出来ずに追い詰められる一方の翠星石。 

翠星石「もう!雨なんか降らなきゃこんな事にならなかったのに!っていうか蒼星石が一緒に暮らさないのが悪いんですぅ!」 

自らの軽率な行動を雨と蒼星石のせいにして逃げ惑う翠星石。 

薔薇水晶「・・・・・・・」 

薔薇水晶は依然として攻撃の手を緩める事無く、執拗に翠星石を追い詰めていく。相変わらずその表情からは一切の「情」は感じられない・・・ 

翠星石「この・・・・いつまでも調子に乗るんじゃねーですよ!スィドリーム!!」 

一か八か・・・薔薇水晶の容赦無い攻撃に手を拱いていた翠星石が人工精霊を呼び出し攻撃を仕掛ける。 

キィィィーーン! 

頭上から薔薇水晶の頭部目がけてスィドリームが高速で飛来する。しかし・・・ 

ガシィッ! 

スィドリームが頭部に命中する寸前、薔薇水晶の左手がスィドリームを素早く掴み取る。スィドリームが飛来する方向に視線を移す事もなく・・・・・ 

翠星石「スィドリーム!」 

完全に死角を突いたつもりが、簡単に防がれた事に驚きの色を隠せない翠星石。 
薔薇水晶「馬鹿正直・・・・こんなものを攻撃とは言わない・・・・・」 

薔薇水晶が無機質な声で呟く。 

翠星石「クッ!」 

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薔薇水晶「・・・・・」 

スィドリームを掴んだまま薔薇水晶はうろたえる翠星石を見据えていた。 

翠星石「コラァ!スィドリームを離しやがれですぅ!このデク人形!」 

虚無の世界に翠星石の怒号がこだまする。 

薔薇水晶「・・・・・」 

ググッ・・・ 

翠星石の言葉が勘に触ったのか、左手に力を込める薔薇水晶。 

翠星石「!?や、やめて!」 

一瞬で薔薇水晶がスィドリームを握り潰そうとしているのを悟る翠星石。スィドリームを取り返そうと踏み出したその瞬間・・・・ 

ザシュンッ! 

翠星石「!!」 

足元から二つの水晶の巨槍が翠星石を突き上げる様にして出現する。 

翠星石「しまった・・・!」 

翠星石の両腕は二つの巨槍によって拘束され、宙吊り状態で身動きが全く取れない。 

翠星石「何しやがるですか!離しやがれですぅ!」 

ジタバタと藻掻く翠星石。 

薔薇水晶「・・・・・」 

悪あがきを続ける翠星石にゆっくりと近づく薔薇水晶。 

翠星石「く、来るなですぅ!あっち行けですぅ!」 

薔薇水晶「・・・・・」 

翠星石の遠吠えなどまるで聞こえていないかのように一歩、また一歩と、翠星石へと近づいていく・・・ 

ザッ 

翠星石「ヒッ・・・・!」 

翠星石との距離僅かに数センチ、それでも尚、薔薇水晶の表情に変化は無い。 
 笑う訳でも、怒る訳でも無く、ただその冷徹な視線で翠星石を見つめるだけであった・・・・ 

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