良作投下のラッシュ、嬉しい悲鳴を上げながらこのスレを読んでます
ボクも微力ながら向こうを張る気持ちで、一本書き上げました
では、SS「されざる者たち」、投下します
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ある日
ニュースでもネットでも、不自然なほどの平穏が保たれた、とても平和なように思えた日
僕は真紅に呼ばれた、神妙で無表情な顔、僕は知っていた、真紅のその顔の意味、青く冷たい瞳の意味
とても辛く悲しい事を封じ込めた顔、ローゼン・メイデン達がその永い営みの中で数多く経験した悲しみ
どうにもならない別れ、忍従、諦念、無力感、そして怒り、それらを湛えた青い瞳が僕を見つめる
背を向けたまま何も話そうとしないまま歩く真紅の導きで、僕は階段の下、僕の家の玄関に降りていった
開け放された玄関には既に他のローゼン・メイデン達が集結していた、揃って無言で僕を見つめる
真紅を加えて7体、七人のドール達が黙って僕を見つめる、そして真紅がやっと重い口を開いた
「ジュン、私達、貴方に言わなきゃならないことがあるの」
それだけ言って口篭もる真紅に、何故か今日は大人しく他のドール達と一緒にいた水銀燈が割り込んだ
「人間・・・私達、あんたらとおさらばするって事よぉ・・・丁度いい厄介払いでしょお?」
水銀燈の瞳は微かに泣き腫らされていた、ここに来る前にあの病床のマスターに別れを告げて来たのか
「う・・・うぅ〜、ツライですぅ〜・・・・翠星石はせっかくチビ人間を真人間にしてやろうと・・・」
翠星石はいつもの意地っ張りが嘘のように泣きじゃくってる、僕らはいつだって、手遅れの繰り返し
「仕方ないんだよ・・・これが歴史の必然・・・もう僕たちは、明るいおもてを歩けないんだ・・・」
なぜか最も冷静を保っている蒼星石の姿から、一番大きい泣き声が聞こえた気がした・・・泣きたくなった
「ヒナはこんなのいやなのー!ヒナわかんないもん!なにもわるいことしてないのに!おわかれなんて!」
怒りと悲しみに地団駄を踏みながら涙を流す雛苺、それが彼女だけでなく皆の本当の姿なんだろう
「命は・・・大事なのよ・・・みんな自分の命が大事・・・・愛する者の命ならどうかしら?」
薔薇水晶の無感動な顔、彼女は目の前の僕じゃなく、もっと大きい物と戦っている、そして嘆いてる
「皆気づかないのかしら!誰の為にお別れしなきゃいけないの?私やマスターじゃない奴等の為かしら!」
みんな気づいてる、「奴等」の正体も意図も、それに何も出来ない僕らの無力さも・・・正義は、死んだ
僕は立ち尽くした、僕は無力、僕は正しくない、僕は異端、でも、奪われていいものなんて何もない
「そんな・・・そんな突然・・・何でだよ!何とかならないのか?何か方法が・・・せめてもう少し時間を・・・」
それでも、何もない僕には、言葉しか術は無い、僕は空に向け、絶対言いたくなかった言葉を叫んだ
「ローゼン・・・見てるんだろ!・・・・こんなこと許していいのか?・・・何とかしてくれよ・・・・頼むよ・・・」
僕は跪いて涙を零した、ロクでもない人形師のためじゃない、僕らを引き裂く「力」のためじゃない
その時・・・曇り空の間から光が射した、決して晴れないと思われた雲が、ほんの少しの光明を落とした
天空から「矢」が飛んできた、無数の黒い矢がドール達の顔面に降り注いだ
ドール達は強い電流に撃たれた、1千ボルトもあろうかという電圧、絶縁体強度検査のような過酷な電圧
彼女達は倒れない、矢の衝撃にも、確実に寿命を縮める高い電圧にも、彼女達は決して倒れない
矢はドールの顔面に刺さり、それは紋章となって焼き付けられた、3つのアルファベットの紋章
静かになった
顔面に矢を食らったドール達は、お互いの顔を見合わせた、真紅は右頬に、水銀燈は目の周りに、
ドールの顔のあちこちに刻みつけられた矢の紋章を見て、笑い出した、涙を出しながら笑いつづける
「奇跡よ・・・奇跡が起きたのだわ・・・・」
「あぁ・・・お父さま・・・ありがとうございます・・・こんな私の事も、認めて下さるんですね」
「あはは・・・しょーがねぇからこれからも居てやるです、でも・・・あと少しだけ・・・ですぅ・・・・」
「真紅・・・みんな・・・ソレは一体」
誇り高き薔薇乙女達は、顔に紋章をつけた物凄くみっともない姿で、高らかに声を合わせて謳った
「PSEマークよ!」
「ジュン・・・私は真紅、誇り高きローゼンメイデンの第五ドール、経済産業省認定のお人形」
パン!パン!パン!パン!
「トリビァル!見事な茶番でしたな、とりあえずあなた方には、ほんの少しの「飴」を与えましょう
販売はレンタル、猶予期間の延長、『消費者保護』は誰の保護?お神の為でない法があるでしょうか?」
「ウサギ」から与えられた時間はほんの少し、無力な僕らが足掻く様を彼らは笑う、でも、僕らは・・・
「私達が、必ず何とかしてみせるのだわ!」
真紅がウサギに、いつも雲の上から弱き者に痛みを強いるウサギに一歩も退かず、意思の声を上げた
「あんまりあざといマネで私ら零細な者をシメ上げると・・・何するかわかんないわよぉ」
水銀燈は本当に何するかわからない不気味な笑みを浮かべた、海の向こうの悪魔とさえ契るだろう
「そうですぅ!私達はゴマじゃないんだから、絞れるだけ絞ろうなんて奴等は痛い目に遭えです!」
翠星石はたくましくしたたかな、鳴かぬ者が鳴くまで待つタヌキのような食えない笑顔を浮かべた
「僕たちは生かさぬよう殺さぬように搾り取られてきた、それなら僕らにも考えがある」
蒼星石は努めて争わず決して退かない、しぶとく忍耐強い三河武士のような強い意思をみなぎらせる
「みなしレンタル、オブジェ扱い、偽装輸出、この私にかかればあいつらなんて穴だらけかしら!」
金糸雀の猿知恵、でも追い詰められた者の知恵は何よりも怖い、その知恵の結論は「法の無視」
「フランスはデモとかしてこわいのー!でもヒナは何もしない日本の若いひとの方が怖いの」
雛苺は見た・・・オイ!僕のことか?僕は何もしてない、何も生み出さない、それが何だってんだ
「何もしない事・・・それは最大の破壊、それは彼らが最も恐れる、富を還流するシステムの破壊」
薔薇水晶の言ってる事がわからなかった、僕は、ひきこもりの僕はずっと、わからないふりをしていた
確かに僕は限りある富を食い続けるだけで、何一つ世の中に富をもたらしていない、それはいけないと
思っていた、「彼ら」に富を返さなくちゃいけないと思ってた、でも、彼らが信用出来なくなった時
僕はそういう努力をやめてしまうだろう、ガッコ行って働いて、そういうのへの義務感は鈍るだろう
僕ひとりがそうなった所で何かが変わるとは思えないが、僕みたいなのがゴマンと出てきたら・・・
「彼ら」はその時、気づくんだろうか、愛さない者は愛されない、えげつない奴等は早暁に破滅する
破壊する者達、奪われざる者達、支配されざる者達、僕は・・・・・・・・・もう少しひきこもろうかな
誇り高き薔薇乙女、とても幸せな僕のお人形達は揃って見つめた、彼らを見つめた、そして、宣言した
「私達ローゼン・メイデンは電気用品安全法に反対します!」
されざる者たち(完)
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あとがき
先立って成立した「自動車リサイクル法」に涙を呑んだ者として、この話を書きました
家電の流通を許可するPSEマークを付与する為の検査は、1千ボルト近い電圧をかけるらしいです
旧い楽器を愛好する人達、家電板に居る「冷蔵庫や洗濯機を型番で呼ぶヤツラ」そんな熱い奴等に
願わくば試練よりも福音がもたらされることを祈ります、様々な物々の進化を創るのは彼らだから
では、また近いうちに
吝嗇