「ふわぁ〜」 
いつもと変わらない桜田家、そんな家からは眠りを誘うあくびが一つ 
昼間の沢山遊んだせいで、ドール達の目はうとうと 
時刻はすっかり夜の9時を指していて、もういつもの眠る時間である。 
「おやすみなの〜」 
「おやすみなさい」 
「なさいですぅ〜」 
「あぁ、おやすみ」 
ドール達が順々に眠りの挨拶を済ませると、真紅と雛苺は鞄を閉じて、深い眠りに付いた 
ジュンはと言えば机に体を向けたまま教科書と睨めっこ 
そんな彼の背中を、鞄の中から眺めながら 
「こんな夜中にまで実らない勉学なんて、よくやるですねぇ」 
「う、うるさいな、お前には関係ないだろ」 
別に本心なんかではないのだけれど、このちび人間と一緒にいる時は 
何か小言を言わないと落ち着かない 
「いいから、お前も早く寝ろよ」 
「言われなくても寝るですー」 
いつもの言い合いを済ませた後、彼女も鞄を閉めた 
鞄の中で、翠星石は今日在った出来事を思い返していた 
雛苺や蒼星石、幼馴染のドール達と一緒に過ごした思い出、夕飯に食べた花丸ハンバーグの美味しさ 
そして、一際ジュンとの思い出が脳裏に強く思い浮かんだ 
自然と顔が赤くなる、誰に恥じるわけでもないのに、鞄の中で両手で顔を隠す 
彼を思い返す度、私の胸の中が熱くなる 
妄想に耽る翠星石だが睡魔は徐々に彼女を覆い、上瞼も次第に重くなっていく 
揺らいでいく意識の中で、彼女の心が囁く 
ずっと、ジュンと一緒に居れたらいいのに・・・ 
無意識の内に声に呟いたが、次にはもう寝息しか聞こえてこない 
胸いっぱいのまま、彼女も眠りに付いた。 

次に目を開けた翠星石は、辺りの光景に唖然とした 
今まで鞄の中に居たはずなのに、見渡せば四角い大きな広間が広がっている 
上を見上げると天井は三角に高く伸び、天井と天井とが先端で重なり合っている 
左右の壁には様々な色ガラスが散りばめられた大きな縦長の窓が片方に、二枚ずつ貼られていて 
目の前には赤い布が、一直線に敷かれている、その先には両開きの扉 
赤い布は、扉の先まで伸びている 
敷かれた布の両向かいには木で作られた椅子が左右に5、6席、横一列に並べられていて 
その椅子が後ろに等間隔で並んでいる 
左右のガラス窓からは柔らかな太陽の光が差込み、広間の中を光で包み込む 
光は色ガラスを介し、七色の光が彼女を照らす 
そんな光を浴びながら、翠星石は呆然としていた 
突然の事で、何がどうなっているのか訳が解らない 
なんですかここは、なんで鞄の中からこんな所にいるんですか? 
突如の世界の変わり様に、辺りをキョロキョロしながら困惑していると 
「おやおや、どうしたのですか?」 
聞き覚えのある声、横から問い掛けられ、弾かれた様に振り向いく 
そこには木で出来た机を境に、一寸高い台の上に男が一人立っている。白い毛並み、赤い目に鼻をヒクヒクとさせ、長い耳を立てた 
「ラプラスの魔!さてはお前の仕業ですか!」 
「はてさて、何を仰っているので?」 
表情一つ変えず、首を傾げるだけのラプラスの魔に 
熱い気持ちが次第に沸いてくる 
「とぼけるなですっ!この悪戯の」 
「悪戯?お嬢さん、こんな晴れ舞台でそんなに興奮しちゃいけませんよ、お気を沈めて」 
興奮冷め止まぬ中、兎の言葉に今度は翠星石が傾げる 
「・・・晴れ舞台?」 
「はい、せっかくのドレスも乱れてしまいます」 
淡々と答えるラプラスの魔に、釣られて着ている衣装に目線を落とす 
それにまた唖然とした 
「な、なんですかこれは・・・」 
着ている衣類は白で統一され、さっきまでの着慣れたドレスはどこへやら 
レースの生地で作られたドレスを纏っている 
見知らぬ場所に、今度は着換えた覚えのないドレス 
もう何が正しいのか解らない 
「あぁ〜、もう訳わかんないです〜」 
両手で頭を抱え、混乱を全身でアピールする翠星石に 
「おやおや、」すまし顔でラプラスの魔が眺めている 

収集の付かない状況に、今度は後ろの方からも声が跳んできた 
「おめでとーなのー」 
「おめでとーかしらー」 
突然の歓声、振り返ると椅子にはいつの間にか巴やのり、蒼星石達が座っていて 
なぜかみんなして笑顔で見詰めている 
「ちょ、ちょっとー、なんなんですかー?」 
「おめでとう」 
「幸せになってねぇ」 
「姉さん、おめでとう」 
「だ、だからなんなんですかー・・」 
突然浴びせられる祝福の声に、ますます頭が混乱していく 
パチパチパチパチ! 
とどめとばかりに、客席からは拍手が鳴り響いた 
もう目まで回ってくる 
足もおぼつか無い、あぁ、もうダメ、倒れるです・・・ 
そう心の中で妥協を決意すると 
ふっと力が抜け、頭の圧迫感が消えると同時に意識が遠退いていく 
体が落ち葉の様に揺れる、ドレスもそれに合わせてレースのスカートをなびかせながら 
ついにバランスを崩し、棒立ちのまま足元の赤い布の地面に背中から倒れこんだ。 
ボフッ、 
下に落ちて背中に衝撃が走る、が、不思議と痛くない 
朦朧とする意識の中でゆっくりと瞼を開けると、体は地面に落ちる寸前に抱きかかえられていて 
顔のすぐ目の前にはなぜかジュンが・・・ 
「ハニー、大丈夫かい?」 
「ハ、ハハ・・・ハニー!?」 

「おい、あまり僕のフィアンセを苛めないでくれ」 
ジュンは見ていた兎に振り向き、忠告を告げる 
よく見ると、ジュンも服が少し違う、いつかの学校と言う所の制服を着込んでいた 
「はぁ、その様なつもりはなかったのですが」 
ジュンの忠告に対し、ラプラスの魔は私達に体を向け、謝罪の会釈を一つ 
それを見届けたあと、または私に顔を振り向いた 
もう顔と顔とがくっ付いてしまうのではと思うくらいの距離 
同時に胸が一回大きく高鳴る 
「大丈夫かい、痛い所は?」 
「へ、平気ですよ」 
お姫様だっこのまま、覚束ない口調で告げると 
その言葉に彼の表情が安堵の笑顔に変わり、次に別人の様な甘い言葉を綴り出してきた 
「そうか、良かった。もし君が痛みで悲しい想いをしたら、僕はどうしようかと」 
「え、えーと」 
「こんな小さな体で、そんなに頑張らなくてもいいんだよ?時間は沢山あるんだから、二人でゆっくり、頑張ろう・・ハニー」 
そう言ったかと思うと、突然翠星石を抱えていた左腕が反対側に回り込り、その腕が背筋まで伸びてくる 
背中でジュンの腕と腕とが交差し、お互いの体を抱き合わせてきた 
頬と頬とが密着し合い、突然の事に瞬時に恥ずかしさがマックスを越える 
「い、いきなりぃ!なんですかぁー!?」 
「ハニー・・・」 
お構いなしに耳元でその呼び名を囁かれ、ますます顔が赤くなる 
「だぁー、だからぁ!ハニーってぇー!」 
いきなり始まったラブラブ(一方的)な展開に、客席の観客達は 
「大胆なのー」 
「ジュン君ったら・・」 
小恥ずかしそうに、けれども微笑ましくその光景を眺めている 
そ、そんなのいきなり、色々と困るです!とりあえず離れるですー! 
くっ付いてるジュンは、引っ張っても取れる気配がない 
代わりにこの状況を何とか打開すべく、抱き付かれながらも部屋中を必死に見回す 
武器は、―――なさそうだ。 

あ、蒼星石!助けてですー!このおかしくなったチビ人間をぉ〜〜 
・ 
・・ 
・・・フリフリ 

ちぃー、違うですぅー!なんで笑顔で手なんか振ってやがるですか!そうじゃないですー! 
このままじゃあーなってこーなって!あぁ、何想像してるですか翠星石はぁー! 
されるがままのパニック状態は続き 
そんな中、このピンチを救ってくれたのは意外にも兎だった 
「困りますねお二方、誓いの儀は私を通していただかないと」 
兎が忠告を促すと、我に返ったのかジュンの絡み付く腕がわずかに緩む 
それを逃すまいと翠星石が緩んだ腕を振り解き、勢い良く後ろに蹴り跳んだ 
ドレスが宙を舞い、レースのスカートが風で膨れ上がる 
そのまま腕を左右に伸ばしてポーズを取り綺麗に着地。心の中で、初めてラプラスの魔に感謝を告げる 
「ゆっくり過ごそうと言ったのは僕なのに、先に急がせてしまったね」 
「きぃぃーー!」 
態度を変えないジュンに、翠星石の気持ちが高ぶる 
次に溜まりに溜まったイライラを、目の前の変態ミーディアムに言い放った 
「や、やぁいチビ人間!いきなり抱きつくなですこの変態! 
変な台詞をごたごたと言いやがりやがってぇ、です! 
あ、あぁーと、さっきそこの兎にさりげなくフィアンセなんてぇ、ひゃ、100万年早いです!おととい来やがれですーぅ!」 
指をビシッと突き刺し、この変な世界のうやむや感もまとめて言ってやった 
ざまーみやがれですぅ、こぉーれでこのチビ人間も 
何て勝ち誇ろうとしたが 
事態は全く解決しなかった 
「あぁ、いきなり抱きついて悪かった 
けど、この愛は本当だ!お前は僕が幸せにする! 
100万年か、じゃあその100万年、ずっと傍に居てくれるんだね? 
僕はその君との時間の中で、フィアンセに相応しいミーディアムに、人間になるよ 
これから二人で、100万年間、ずっと一緒に居ようねハニー」 
愛たっぷりの返事が返ってきた 
ひゃ、100万年って、そう言う意味じゃ・・・ 
呆然としたまま、突き刺した指も垂れ下がってしまった 

「大胆なのー]] 
「桜田君・・・」 
場が静まった(?)所で 
「コホン」ラプラスの魔がわざとらしく咳を一つ、周りの注目を煽る 
辺りがしんと静まり、目の前のジュンも急に神妙な顔付きになる 
場の状況に、翠星石も慌てて上げた腕を後ろに回した 
「ではこれより、ローゼンメイデン第3ドール翠星石、桜田ジュンとの誓いの儀を執り行います」 
広間全体に響き渡る様、高らかに儀の始まりを告げる 
誓い?の儀?・・・なんです? 
頭の中で考えを巡らす中、その答えはすぐに、嫌でも知る事となった 
ラプラスの魔はジュンに首を傾け、一言一言間を置いて問い始めた 
「なんじ桜田ジュンは、翠星石を妻とし 
病める時も、健やかなる時も、共に支え合い、変わらぬ愛を誓いますか?」 
兎の頭上には、金属の黄色く大きな十字架が掲げられている 
こ、これって・・・ 
問い掛けられ、躊躇なくジュンが答える 
「誓います!」 
えぇー! 
でもこれって、つまり・・結こ 
考えが導き出される寸前、今度は私の方に問い掛けてきた 
「なんじローゼンメイデン、第3ドール翠星石は 
病める時も、健やかなる時も、共に」 
「ちょ、ちょーっと待つですぅ!」 
慌てて兎の口を制止させる 
「す、翠星石はぁ・・その・・・」 
「変わらぬ愛を、誓いますか?」 
制止を無視し、ほんの少し間を置いてから続きを朗読し、問い掛けた 
今彼女は、生まれてから一番に混乱している 
えと、えーと、 
翠星石とジュンはドールのミーディアムです!でも、別に嫌いってわけじゃ、ないですけど! 
でも、えーといきなり色々言われても!でも、でもジュンがそこまで言うなやら・・・ 
でも、色々、えーと・・・・ 
周りの注目が、一斉に白ドレスのドールに注がれる 
広間が静まってから数分、翠星石がついに決断を告げようと、口を開けたその時 
「す、翠星石は、ジュンを・・・」 
「ちょーっと待つのだわっ!」 

バターン!突然の衝撃音、聞き慣れた声、足元の赤い布を目で辿った先の両開きの扉が勢い良く開き 
そこから差し込んだ光が、突如現れた黄色い髪の少女を眩しく照らしつける 
「わ、し、真紅ー!?」 
「はぁはぁ・・・翠星石!ジュンは渡さないわ!」 
差し込んだ光が弱まり、真紅も同じ白のドレスを着込んでいる 
走ってでも来たのだろうか、やや息を切らしている 
「真紅!」 
「えぇー・・・」 
先ほどまでのジュンが、突然迷いだし表情を曇らせる 
目の前のミーディアムの一変した態度に、翠星石も呆気に取られる 
そこでラプラスの魔が動き出した 
「今は誓いの儀の最中、例えお知り合いのドールであろうとも 
その儀に割って入る事は神もお許しにはなりません、しばしのご退席を願いましょう!おのおの方!」 
さっと兎が手を扉に差し向ける 
すると、それまで椅子に座っていた蒼星石や巴達が一斉に席を立ち始めた 
参列客らが、駆け足で間の赤い布に序列の陣形を組んで行く 
突然の事態に真紅がわずかにたじろぎ 
目の前の陣形が組み上がり、足踏みも止まる 
「3、2、1・・・ファイア!」 
指し示すラプラスの魔が一声を上げると 
それを合図に、一斉に参列客らが人の波と化し、一直線に真紅にぶち当たった 
「「「わ〜〜!!!」」」 
「ジュン!ジューン!」 
人波にもみくちゃになりながら、それでも懸命に振り抜けようとする 
だが次第にドレスは埋もれ、真紅は人の塊に沈んで行く 
あぁ、真紅、す、すまないですぅ・・・ 
「さぁ、今のうちに、誓いの口付けを」 
ラプラスの魔が首を傾け、翠星石にそれを促す 
えぇー!?、あの、えと 
「ハニー、二人で幸せになろう」 
ジュンが両手を広げ、腰を屈めて待っている 
え、えーと!真紅!のり!それからぁ・・・、色々とすまんです! 
よく解らない事だらけですけど、翠星石は今から一人の女になるです! 
誰も恨むんじゃねーですよーー! 
意を決して、ジュンに跳び付き口と口とを重ね合わせ、た 

鞄の上板に顔面から突っ込み、ドスンと音を発てて拍子に鞄が打ち開いた 
真っ赤になった顔を両手で覆い懸命に痛みに耐える 
「く、うぅ〜〜、ゆ、夢?」 
「ん、おい、大丈夫か?」 
見渡せばすぐ横にパソコン、申し訳ない程度の棚、いつもの狭い部屋である 
「はぁ・・・元に戻ったです」 
痛みもやっと引き、ベッドから持たれて自分を窺っているジュンがいる 
寝ていたジュンは突然の衝撃音に起こされて、中からはもがく翠星石が出てきたものだから 
事態がわからず、とりあえず訊いてみる 
「おい、どうしたんだ?」 
「・・・・」 
返事が返ってこない、どこか悪いのか 
すこし心配に 
「おい、どうしたん」 
「・・・チビ」 
いきなり嫌味の一声が跳んでくる、この分だと大丈夫そうだ 
「なんだよ、人がせっかく気遣ってやってるってのに 
こんな夜中にいきなり起こされて、それでチビってどう言う事だよ!おい、聞いてるのか性悪人形」 
「・・・・」 
また黙ってしまった 
今度はぼーっと翠星石が目を見詰めている。嫌味が返って来ないのでわずかにたじろぐ 
何か企んでるのか? 
「な、なんだよ」 
「やっぱり、そっちの方がいいです」 
「え?」 
「おやすみです」 
バタン 
小言の一つも言わずに、また鞄を閉じてしまった 
「・・・なんだあいつ」 
鞄の中で、翠星石は寝ずにいた 
外は夜明けを告げる太陽が顔を出し、ジュンの部屋の窓を通して 
鞄の隙間からは淡い光が差し込んでくる 
いつもの起きる時間には、まだ少し早い 
瞼を閉じ、差し込む暖かな光の中で 
少女はあと少しだけ、眠る事にした。 

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