「JUN、くんくんがはじまる時間だわ、急いでちょうだい」 
さっきまでおとなしく本を読んでいた真紅がJUNの膝の上に飛び乗る 
「リビングくらい自分で歩いていけよ」 
文句を言いながらも真紅を抱きかかえ、リビングへと向かうJUN 

「あれ?こんなとこに鏡?」 
廊下に落ちていた鏡を拾い上げ、覗き込んだその時 
ピカーーーッ 
鏡からあふれる光がJUNと真紅を包み込んだ 

「いらっしゃ〜い真紅、あらぁ、今日は情けないミーディアムも一緒なのぉ?」 
例によって水銀燈のワナであった 

「水銀燈、また貴方なのね、お茶の時間も・・・・・ハッ、くんくん!!」 
なぜかソワソワしだす真紅 
「真紅〜、今日こそは決着をつけましょう、お父様も痺れを切らしているわぁ」 
大きく羽を広げ臨戦態勢になる水銀燈 

「待って!!今は貴方と戦うつもりはないの!大事な用があるの!」 
「あらぁ、逃げるつもりかしらぁ?そこのミーディアムに笑われるわよぉ」 
真紅の言葉を自信の無さと受け取った水銀燈が勝利を確信した時 

「くんくんが!くんくんが終わるまで待って!!」 
「へ???」 
「このフィールドにJUNを置いていくわ、だから30分だけ待ってちょうだい!」 
「おバカな真紅、アリスゲームにふさわしくないわぁ」 
「私のホーリエも置いていくわ!だからお願い!」 
「・・・・・・あきれたわ、薔薇乙女の誇りはどうしたのかしらぁ?」 
あまりに必死な真紅に気圧されたのか、水銀燈も引き気味である 

「水銀燈!キミたち姉妹は何十年も闘ってきたんだろ?今さら30分も待てないのか?」 
JUNとて真紅と共に何度も戦いをくぐりぬけたミーディアムである 
(真紅、時間を稼いでる間に雛苺と翠星石を連れてくるつもりなんだね) 

これまでの真紅との闘いの思い出が水銀燈の胸を熱くさせた、最後に少しの情けくらいは・・・・・・ 
「いいわぁ、30分だけ待ってあげる、もし戻って来なかったら、あなたのミーディアムが死ぬだけのこと」 

水銀燈の返事を半分も聞かないうちに真紅はnのフィールドから姿を消していた 

「ハァハァ・・・・くんくんはまだ始ってないわね?」 
リビングにすごい勢いで飛び込む真紅 

「真紅〜、おそいよぅ〜はじめの歌が終わっちゃった〜」 
ソファの上に座る雛苺がTVを指差しながら答える 
「今週は解決編、見逃すわけにはいかないわ、ノリ!紅茶の用意を」 
真紅はソファの上に正座し、くんくん視聴の態勢を整える 

「真紅〜、今週はね、くんくん2時間スペシャルだって〜〜!雛もワクワクしてるの〜〜」 

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いつにもまして素晴らしいくんくんの名推理であった 
シャムネコ姉妹の入れ替わりトリックを見抜き、オオワシ伯爵を追い詰めるくんくん 
真紅と雛苺はTVの前で時間も忘れ応援を続けた 
「真紅、チビ人間はどこ行ったですか〜?せっかく翠星石が五平餅を作ったですのに」 
「静かに!今、大事なとこなのよ!ああ、くんくんがんばって!」 
「あいと!あいとなの〜」 

一方、水銀燈とJUNは待ち続けていた 
「おそい、おそいわぁ、もしかして見捨てられちゃったのかしらぁ、ウフフ」 
「真紅はきっと来る、僕たちには絆があるんだ!」 
「あらぁ、仲のよろしいこと、ちょっと妬けるわぁ」 

最初はにらみ合っていた2人だったがポツリポツリとお互いのことを話し始めた 
真紅の事、メグの事、ドール達との生活、そしてメグの病気のことも 

ふと水銀燈は思った、友達が居ないと言っていたメグにこの人間を会わせたら・・・・・・ 
病院のベッドしか知らないメグに少しでも気晴らしをさせてあげられるなら・・・・・・ 

「ついてらっしゃい、私のミーディアムにも会わせてあげるわぁ」 
「お、おい、待てよ!真紅が戻ってきたらどうするんだ?」 
「待たせておけばいいのよぉ、私たちも待たされたんだし、早く行きましょぉ」 

退屈な入院生活に飽きていたメグは大喜びだった 
最初はぎこちなかったJUNだが、病気で先が短いと聞いたメグのために懸命に話し続けた 
引き篭もっていたJUN、入院生活を強いられたメグ、お互いにどこか通じるところがあったのだろう 
メグは目を輝かせてJUNの話に聞き入った 

「うらやましい・・・私も水銀燈と一緒に遊べたら・・・他の天使さんにも会ってみたい・・・」 
「だ、大丈夫だよ!病気が直ったら遊べるし、今度みんなでお見舞いにくるよ」 
JUNは真紅と水銀燈の闘いを隠してメグを励まし続けた 
水銀燈は窓辺に座り、外を見るフリをしながらそっと涙をぬぐった 

話しすぎて疲れたのだろう、メグは枕に寄りかかり目を閉じた 
「それじゃ、またお見舞いに来るよ、ゆっくり休んでね、お大事に・・・」 
病人を気遣いJUNが席を立とうとしたその時、ふいにメグがJUNの手を握り締めた 
「私・・・・・・もうすぐ死ぬの、最後のお願いがあるの・・・水銀燈を独りにしないで・・・」 
残された力を振り絞ってメグは言葉を続けた 
「お願い、水銀燈のマスターになってあげて・・・JUN君ならJUN君ならできるでしょ・・・」 
「メグ、この水銀燈のミーディアムは貴方一人で充分よ、私は独りでも生きていけるわ」 
JUNには水銀燈の強がりも耳に入らなかった、メグの命の残り火を宿した強い眼の光に惹きつけられた 

「わかった、わかったよ、僕が水銀燈のマスターになるよ、でもキミの病気はきっと治る、負けちゃダメだ」 
余命短い病人に嘘をつく罪悪感を隠しながらJUNは答えた 
「今すぐよ、今契約をして!できるでしょ!水銀燈!お願い・・・・・・わかるのよ、私が永くないことが・・・」 
涙を流しながらすがるメグの迫力にJUNと水銀燈も流された 

JUNと水銀燈の契約はすぐ終わった、見届けたメグは安心したように目を閉じた 

「水銀燈・・・」 
口を開きかけたJUNを水銀燈が遮った 
「JUNだったかしらぁ?アナタの名前・・・・・・わかっているわ、お前の力は使わない、私の力だけで真紅は倒す」 
目をそらしながら水銀燈は続けた 
「アナタ、真紅のこと好きなんでしょう?でも、手加減はしてあげられないからぁ、・・・・・・メグのことは礼を言っておくわ」 

二人はnのフィールドに戻った、が・・・・誰も居ない 
「30分はとっくに過ぎたわぁ、どういうことぉ?メイメイ!様子を見てらっしゃい」 
水銀燈の人口精霊が桜田家の偵察に向かう 

「ここまでだ!オオワシ伯爵!謎は解けた!」 
「ワシワシワシワシィィ」 
「くんくん、後ろよ!!後ろにナイフを持ったオオアリクイが!!危ないわ!!」 
「くんくん!逃げるのよ〜!あいと!あいと!」 
真紅は時間も忘れ、応援を続けていた 
「真紅たちはお子様ですぅ〜、それにしてもチビ人間はどこいきやがったですぅ、五平餅が冷めてしまったですぅ」 
翠星石は五平餅を温め直しながらJUNの身を気遣った 

2時間後・・・ 
「はぁ〜〜すばらしかったわ!くんくん!、冷静な観察!精密な分析!まさに天才ですわ」 
「ひなもかんどうしたのよ〜」 
真紅たちが感動の余韻に浸っていた時 
「みんな〜ただいま〜今日の夕御飯はミートボールカレーよ〜、それから真紅ちゃんにおみやげ、ハイ」 
買い物から帰ってきたノリが手渡したのは 
「こ、これは映画館に観にいけなかった『探偵くんくんと謎の奇岩城』DVD!!よくやったわ、ノリ!」 
「夕飯の準備が終わるまで、みんなで仲良くDVD見ててね〜」 
「わかったわ」 
「はいなの〜〜」 
「はいですぅ」 

戻ってきたメイメイが桜田家の様子を映し出す 
「・・・あきれたわぁ、気分が乗らないから今日は出直しねぇ、サヨナラ、JUNクン」 
待ち過ぎて気勢を削がれた水銀燈がJUNに話しかけた 
「メグに優しくしてくれたお礼に今日のところは見逃してあげるわぁ」 
「待てよ!水銀燈!真紅の指輪を契約解除してくれ!」 
怒りにプルプル震えながらJUNが水銀燈に指輪のはまった手を突き出す 
「あらぁ、いいのぉ?私なら契約解除も容易いことだけど、真紅との絆はどうしたのぉ?」 
「いいから!解除!それからついて来てくれ!」 

3人のドール達は桜田家のソファでTVに見入っていた 
真紅は体の力が抜けていくのを感じた 
「ノリ、夕御飯の準備はまだかしら?集中力を使うとエネルギーの消費も多くなるようね」 
「おなかすいたのよ〜、ひなのおなかもペッコペッコなのよ〜」 
「翠星石は五平餅食べたから平気ですぅ〜、でもカレーもちゃんと食べるですぅ」 
突然、TVの画面が黒く変わり大きく盛り上がり、水銀燈を抱いたJUNが現れ、床に降り立った 

「真紅、あなたのミーディアム貰っちゃったわぁ・・・ね、JUNクン」 
JUNの首に抱きつきながら水銀燈が話しかけた 

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しばらく呆然としていた真紅であったが数秒で自分を取り戻した。 
「まったく使えない下僕ね、誰が主人か忘れてしまうなんて。早く紅茶の準備をしなさい」 
「真紅、僕を見捨てるなんて見損なったよ。契約は解除させて貰った、代わりに水銀燈のマスターになることにしたんだ」 
真紅との契約の指輪がなくなった手を見せながら冷酷に通知する。 
「ま、待って!違うのよ!誤解よ!JUNは水銀燈にだまされているのよ!早く目を覚ましなさい!」 
真紅の足から力が抜け座り込んでしまったのはミーディアムを失ったためか、水銀燈に大切な人を奪われたせいか 

「チビ人間!なにしてるですか!水銀燈は蒼星石の仇ですぅ!こうしてやるですぅ!」 
翠星石が如雨露を構え飛び掛ろうとする。 
「あらぁ?蒼星石のローザミスティカいらないのぉ?せっかく返してあげようかと思ってたのにぃ」 
JUNの腕の中で水銀燈が微笑む。 
「な、なに言うですか!だまされないですよ!」 
「翠星石、水銀燈は心を入れ替えたんだ。少し様子を見てくれないか」 
JUNにここまで言われては翠星石も引き下がるしかない。 

「雛苺ちゃんにはこれをあげるわぁ、ハイ」 
水銀燈の翼の中からヤクルトがドサドサッと雛苺の目の前に山積みになる。 
「わ〜〜い、じゅーすがいっぱいなの〜〜」 
ヤクルトを両手に抱えて雛苺が踊りだす。 
「雛苺、だまされないで!それは毒にきまっているわ」 
真紅の必死の叫びも届かない。 

「あらあら〜お人形さんの新しいお友達ね〜一緒に夕御飯にしましょ〜」 
ノリの脳天気な声とカレーのいい匂いが人形たちを現実に引き戻した。 

「おいしいわぁ、おいしいわぁ、世の中にこんなおいしいものがあるなんて知らなかったわぁ」 
メグの病院食の残りが主食であった水銀燈には至福の時であった。 
「水銀燈ちゃん、苦労してきたのね、いっぱい食べてね」 
ノリが涙ぐみながらカレーのおかわりを差し出す。 
「ガツガツとあさましいわね、育ちの悪さが知れるというものだわ」 
真紅が独り言のようにつぶやくと水銀燈も負けじと言い返す。 
「ねぇ、JUNクン、はっきり言ってやってくれないかしらぁ。誰が野良乙女になったのか、ウフフ」 
「だ、だれが野良乙女ですって!!この泥棒ネコ!!キーーー!」 
気の強い女性は浮気されると彼氏よりも浮気相手に当たると言う、今の真紅はまさにそれであった。 
「二人とも止めないか!これから一緒に暮らすんだから!」 
「一緒に暮らすですって!!??ウーーーーン」 
あまりのショックに真紅は寝込んでしまった。 

ミーディアムを失った真紅が水銀燈と戦っても勝ち目は無い、それでもJUNの近くに居たい。 
JUNは水銀燈と毎日仲良くメグのお見舞いに行く、時には他の人形たちも一緒に。 
以前と同じように真紅にやさしく接してくれるJUNだが、もはやミーディアムではない。 
真紅はプライドを守るために平静を装い続けたが、JUNに甘える水銀燈を見るたびに心が締め付けられた。 

3ヵ月後、メグの命は燃え尽きた。 

葬儀にはJUNとノリに抱かれて人形たちも参列した、JUNたち以外は家族しかいない淋しい葬儀であった。 
帰り道にメグが入院していた病院の屋上で最後のお別れをすることにした。 
「JUNクン、メグは最後に言ってくれたわ、『幸せだった、楽しかった』って・・・ありがとう」 
水銀燈が涙をこぼしながらJUNにお礼を言った。 
「JUNクンがあの時、一時休戦してメグの幸せだけを考えようって言ってくれたから、私はアリスゲームを忘れることができた」 
「こんな僕でもメグちゃんのために何かしてあげたかった、真紅には悪いことをしたけどね」 
「JUN、水銀燈!どういうことかしら?説明するのだわ!」 

JUNは真紅に説明した、余命短いメグに水銀燈が姉妹と仲良くできるところを見せるために 
そしてメグを安心させるために水銀燈のマスターになったことを 
「それなら最初から言ってくれれば良いのだわ!いくらでも協力するのだわ」 
JUNは笑いながら遮った。 
「下僕を忘れちゃう御主人様にお仕置きもしたかったしね」 
泣き笑いながら水銀燈も言った。 
「真紅の困った顔が見られるって言われなきゃ休戦なんかOKしないわぁ」 

「演技にしてはJUNになれなれしかったわね、水銀燈」 
「あらぁ、焼いてるのぉ?」 
何か思いついたのか、不意に水銀燈がJUNに抱きついた。 
「たった3ヶ月だけどミーディアムご苦労様、ご褒美あげるわぁ」 
驚く暇もなくJUNの唇にキスをする水銀燈。 
「アリスゲーム再開!そして1ポイント先取かしらぁ、ウフフ」 
「な、なんて不埒な!!私でさえまだなのに!」 
「なんてことするですぅ!許されないですぅ!」 
「ひなも〜〜ひなもちゅ〜するの〜」 

水銀燈は黒い翼を広げ上空に舞い上がる。 
「約束だったわね、蒼星石のローザミスティカは返しておくわぁ」 
ローザミスティカが水銀燈の手から零れ落ち、翠星石が慌てて追いかける。 
「真紅、次に会うときは本気よぉ、手加減なんかしたらJUNクン貰っちゃうからぁ、ウフフ」 
水銀燈は高笑いしながら飛び去った。 

「JUN!再契約よ!今度は契約解除なんて許さないのだわ!」 

完 

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