真夜中の病室に水銀燈が降り立つ。 
「この婆さんが新しいミーディアム?つまんない感じぃ」 
ベットに横たわる老婆の上でメイメイが飛び回る。 
「いいわ、メイメイを信用するわ」 

老婆がムクリと起き上がり、声を発する。 
「看護婦さん、ご飯はまだですかのう?」 
「あきれたおばかさぁん、こんな看護婦がいるわけないじゃない」 
突然、老婆がベットの上に正座し、水銀燈を拝み始める。 
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、ようやく私にもお迎えが・・・」 
「ちょっとぉ、何を勘違いしてるのぉ、命は貰うけど」 
「へぇ、もう思い残すことはありません、どうかあの世に連れて行ってくださいまし」 
「話が早くていいわぁ、何か言い残すことはある?」 
老婆は頭を擦り付けるように土下座し頼み始めた。 
「私の孫に『お父さん、お母さんの言うことをよく聞いて勉強しなさい』と伝えてやってくださいまし」 
老婆は息子夫婦と喧嘩してしまったため、孫が見舞いにこれなくなったことを嘆いた。 
「面倒だわぁ、ちょっと待ってなさい」 

水銀燈はnのフィールドを通り、老婆の孫の部屋へと向かう。 
「さっさと起きなさぁい、ちょっとお出かけするわよ」 
水銀燈は寝ている幼稚園児をゲシゲシと蹴りつけ叩き起こす。 
「ふぇぇ〜〜、なに〜〜?」 
「アンタのお婆さんに会わせてあげるから、さっさと起きなさい」 
幼稚園児には水銀燈の言葉も聞こえていないようだ、夜中に現れた闖入者の羽根を引っ張って遊び始める。 
「トリさ〜ん?カラスさ〜ん?」 
「トリでもカラスでもないわ!この糞ガキ!」 
水銀燈は孫を振り払い、強引に連れ出そうとする。 
「うわ〜〜ん!!」 
「ちょっと泣くんじゃないわよ!・・・・ほらほらトリさんよ〜〜」 
大声で泣き出した孫をあやすために水銀燈は羽をパタパタさせ慰める。 
「ふぇ〜〜?トリさんだーー!」 

「お婆ちゃーーん!!」 
「さなえ、元気だったかい?お友達と仲良くしてるかい?」 
病室では祖母と孫の感動の対面が行われていた。 
しばらくすると孫は話し疲れて祖母の膝の上で眠り込んだ。 
「もういいかしらぁ?」 
「へぇ、ありがとうございました。孫の顔が見れて安心してあの世にいけますです」 

「私と契約したらアンタみたいなお婆さんはすぐイッちゃうかもぉ・・・フフフ」 
「へぇ、あの世でお爺さんも待ってます、連れて行ってくだせえ」 

ぐううぅぅ〜〜きゅるる〜〜 

「・・・何の音かしらぁ?」 
「お腹が減っておりますが、あの世でおいしいものを食べるまで我慢いたします、早く連れていってくだせえ」 
「何が食べたいの!言ってごらんなさい!」 
「苺大福がなによりの好物でございます、一つ二つ食べて死ねたら何も言うことはありません」 
「ちょっと待ってなさい!」 
水銀燈は苺大福を求めて夜の空に飛び立つ。 

コンビニ一軒目 
「いらっしゃいませー」 
「苺大福はあるかしらぁ?」 
「豆大福ならありますが、苺大福はちょっと置いてないですねー」 

コンビニ二軒目 
「苺大福はあるかしらぁ?」 
「・・・そっちの棚さがしてみて、なかったらない」 
「態度の悪い店員ね、教育してあげるわぁ」 
ゲシゲシ・・・ドカドカ・・・バキッ 

コンビニ三軒目 
「苺大福はある?」 
「すいません、ちょうど売り切れになってまして、申し訳ありません」 

「困ったわぁ、どこにもないわぁ・・・」 
コンビニを数件まわったがどこにも売ってない、真夜中に開いている和菓子屋もない。 
「もしかして・・・あの家なら・・・」 
水銀燈は宿敵の住む家に向かった。 

「雛苺!起きなさい!」 
水銀燈は真紅たちを起こさないように雛苺のトランクを揺さぶる。 
「おはようなの〜〜・・・水銀燈!?」 
寝ぼけている雛苺の口を後ろから塞ぐ。 
「雛苺、苺大福のある場所に案内しなさぁい。声を出したら・・・わかってるわね?」 
雛苺は台所の棚に案内する、棚の中には苺大福が5個ほどあった。 
「苺大福あったわぁ、貰っていくわね」 
「う、うにゅ〜・・・」 
雛苺は泣きそうな目で水銀燈をにらむ。 
「し、仕方ないわね。代わりにこれをあげるわぁ」 
水銀燈は翼の中からヤクルトを取り出すと雛苺に押し付け、病院へと飛び去った。 

「ハァハァ・・・なんだか疲れたわぁ、ちょっと起きなさぁい」 
病院へ戻ると老婆はすでに眠りこけていた。 
「へ、へぇ、お迎えですか?」 
「食べたがってた苺大福持ってきたわよ!」 
老婆はおいしそうに苺大福をほおばる。 
「おいしい、おいしい・・・モグモグ・・・ウッー!!」 
老婆が苺大福をのどにつまらせる。 
「ほらほら、慌てないで味わって食べなさぁい」 
苺大福5個をペロリとたいらげると老婆は正座して水銀燈に向きなおる。 

「ありがとうごぜえますだ、あなた様は本物の菩薩様ですだ。南無阿弥陀仏・・・」 
「こんな真っ黒い菩薩がいるわけないじゃない、まあいいわこれを指に嵌めなさぁい」 
水銀燈は老婆に指輪を差し出す、老婆はおずおずと受け取る。 
急にメイメイが飛び込み、辺りを狂ったように飛び回る。 
「・・・なあに?メイメイどうしたの?人違い!?隣の病室の女の子ですって!?」 
水銀燈は慌てて老婆の手から指輪を奪い取る。 
「悪いけどアンタはミーディアムじゃなかったわ、せいぜい長生きしなさぁい」 
「へへぇ・・・南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」 
老婆は水銀燈が飛び去った方をいつまでも拝んでいた。 

翌日の桜田家 
「みんな〜おやつの時間よ〜」 
ノリが人形たちをリビングに集める。 
「わ〜い、おやつなの〜」 
「ノリ、紅茶の用意もおねがい」 
「チビ苺はチビだからおやつも半分でいいですぅ」 
ノリが台所の戸棚を開ける・・・が、何も無い。 
「あら〜おかしいわね、苺大福入れておいたのになくなってるわ」 
「あのねあのね、昨日の夜中に水銀燈が来てね、うにゅ〜を持っていったなの〜」 
みんなの視線が雛苺に集まる。 
「雛苺、ウソをつくならもっとましなウソをつきなさい」 
「チビ苺が食べてしまったに決まってるですぅ、水銀燈が苺大福を取りにくるわけがないですぅ」 
「ヒナちゃん、ダメよ〜お腹が空いたなら食べてもいいけど、ウソはダメ」 

「うわ〜〜〜〜ん!!!水銀燈のバカ〜〜〜!!」 

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