「今日はトランプで勝負かしら!」
家に遊びに来た金糸雀がババ抜きで遊ぶことを提案する。
僕も人形たちに混じって参加することにした。
「う〜〜ん、ババはこれかしら?これかしら?・・・良かったのかしら〜!」
何度やっても金糸雀はババを引かないし、いつも良いカードを持っていく。
「ほ〜ほっほっほ、薔薇乙女一の策士、金糸雀がババ抜きで負けるはずがないかしら〜」
5〜6回ほど負けが続いた僕の脇腹を隣の真紅がつつく、視線の先を見ると・・・ピチカートだ!
僕の背後をカーテンの陰に隠れながらピチカートがフヨフヨと飛んでいた。
どうやらピチカートが僕の持ち札をみて金糸雀に教えていたらしい。
「金糸雀!!イカサマしたな!!ずるいぞ!」
「きゃ〜〜ばれてしまったのかしら〜!」
僕はピチカートを掴むと金糸雀に向かって投げつけた。
パチン!!バチバチバチ!!!バチバチバチ!!!シュ〜〜〜〜!
予想外に人工精霊が軽かったので狙いがそれて天井から下がっていた電子虫取り機の中に入ってしまった。
「ピ、ピチカート!?大丈夫かしら〜!!」
ピチカートは線香花火のように激しく輝いて虫取り機の中で撥ね回り、真っ黒な灰の塊になって落ちてきた。
「ピチカート!!ピチカート!」
床に転がる灰の塊がピクリと動いて、そのまま崩れてしまった。
「どうやら貴方の人工精霊は壊れてしまったようね」
真紅が冷静に告知する。
「ご、ごめん。金糸雀、こんなことになってしまうなんて・・・」
「だ、大丈夫かしら〜!ピチカートが壊れるはずがないのかしら〜!」
金糸雀は真っ青になりながらも強がりを言う。
「ピチカートは隠れて遊んでるのかしら〜!探すのかしら〜!」
「ピチカート・・・どこにいったのかしら・・・ブツブツ」
あの日以来、金糸雀は家の中を独り言をつぶやきながら歩き回るようになった。
「金糸雀、あきらめなさい。ピチカートは死んでしまったのよ」
「そんなはずないかしら・・・きっとどこかに隠れているに決まってるのかしら・・・」
うつむきながら一日中探し回る金糸雀はすっかりやつれてしまい、かつての元気さは無くなってしまった。
ピチカートが壊れてから1ヶ月が経ったが、まだ金糸雀は家の中を探し続けていた。
「あ〜〜!金糸雀の頭にハゲがあるのよ〜!ピカピカ光ってるの〜!」
雛苺が歩きまわる金糸雀の頭を指差しながら声をあげる。
金糸雀はストレスのあまり円形脱毛症になってしまったのだ。
「ひ〜〜!!わ、私の髪の毛が抜けてしまったのかしら〜!ツルピカになってしまうのかしら〜!」
真紅に聞いたのだが、金糸雀お得意の策略も本当はピチカートが全部考えていたそうだ。
ピチカートが壊れたのは金糸雀にとっては体の一部を失ったことに等しいだろう。
「ジュン、貴方にはマイスターの才能があるわ。貴方自身のやり方でピチカートを作ってみるのだわ」
「わかったよ、真紅。僕が壊してしまったんだ、代わりの物は僕が作ってみせる」
その日から僕は人工精霊の研究に取り掛かった。
LEDと音声スイッチを組み合わせ声に反応して点滅するようにする。
ボタン電池とLEDを透明プラスチックのカプセルに納める。
カプセルの周りにオレンジに着色したフェイクファーを植えつける。
竹さおを40cmほどにカットしL字型に曲げてLEDカプセルをテグスでぶら下げる。
竹さおを金糸雀の背中に括り付けると・・・
ピチカートの完成だ!!
24時間、頭上についてまわる人工精霊に金糸雀も満足したようだ。
「ピチカート!ケーキが焼けたか見てきてちょうだい」
もちろんピチカートは頭上でフラフラしているだけだ。
「もう、ピチカートったら甘えんぼうかしら、私のそばを離れたくないのかしら〜」