薔薇乙女7体による壮絶なアリスゲーム。しかし、その戦いは意外な形で決着が付く事になる。 
『私の娘達よ、今まで良く頑張ったね。ご苦労様。』 
7体に向けられる謎の声。だが誰もがその声の主が誰であるかは直感していた。 
「お父様!」 
直後、空間に裂け目が生じ、一人の光り輝く少女が姿を現した。突然の事にあっけにとられる7体。 
『紹介しよう。彼女の名前はアリス。正真正銘のアリスだ。』 
「え!?」 
謎の声の言葉に7体は唖然とした。本来ならばあり得ない事である。7つのローザミスティカを 
一つにしなければアリスは誕生しないはず。この光り輝く少女が本当にアリスと言うならば、 
私達は一体何なのだと・・・。 
『私は君達の前から姿を消した後も、アリスを忘れる事は出来なかった。そして独自に研究を続け 
ついに完成した。彼女こそ真のアリス。正真正銘、唯一無二のアリスなのだ。』 
「そんな・・・じゃあ私達は・・・。」 
衝撃の事実に落胆する7体。しかし、真の衝撃はここからだった。 
『今までご苦労様。だからもうお休み・・・。』 
直後、アリスの右手から怪光線が放たれ、7体は一気に吹っ飛ばされた。 
「な・・・何をするの!?お父様!」 
『アリスが完成した以上、君達はもうアリスゲームを行う必要は無くなったんだ。だからお休み・・・。』 
「!!」 
謎の声の思惑を7体は同時に悟った。そう、アリスが完成した以上、薔薇乙女7体は用済み、 
もういらないのだと。だからアリスを持って処分しようとしていたのだ。 
「そ・・・そんな!酷いですぅ!」 
「雛まだ死にたくないのー!」 
薔薇乙女達は己の身を護る為に迎撃した。しかし、アリスの力は圧倒的だった。 
姉妹達のいかなる攻撃もアリスには効き目が無く、容易く弾かれた。それでも薔薇乙女達は 
立ち上がる。彼女達も死ぬのは嫌なのだ。だが、ただ一人その場に蹲る者がいた。水銀燈である。 
「うそ・・・うそでしょう・・・?お父様・・・嘘だと言って・・・。」 
水銀燈は姉妹の中で最もアリスになる事に固執していた。その為には手段を選ばず、 
様々な悪行にも手を染めてきた。それだけにショックが大きかったのだ。 
「水銀燈立ちなさい!貴女死にたいの!?」 
真紅が水銀燈の手を引っ張るが、逆に水銀燈が引っ張り返す。 
「もう終わりなのよ。お父様に捨てられた以上私達には何も残らないのよ。」 
その時、真紅の平手打ちが水銀燈の頬を叩いた。思わず硬直する水銀燈。 
「貴女は一人では無いのでしょう?例えお父様に捨てられても、全ての人に捨てられたワケじゃない。 
まだ私達の帰りを待っている人がいる。だからここで死んではならないのだわ!」 
直後、今度は水銀燈が真紅に平手打ちを返した。 
「腹が立つ。お馬鹿さんにこんな事言われるなんて・・・。でも、お馬鹿さんにこんな事言われては 
もう戦うしかないじゃない!ここで何も理解せずに蹲ったままだったら、私はそれ以上の 
大馬鹿になってしまうもの。」 
「水銀燈。」 
やる気を取戻した水銀燈は立ち上がり、真紅と共にアリスへ立ち向かった。 
姉妹の中でも特に犬猿の仲と言われ、幾度と無く戦い続けてきた本来の二人からすれば 
考えられない姿である。しかし、アリスゲームそのものが無意味になってしまった今、その事は 
何の意味も成さない。お父様の為ではない。ただ己と己の帰りを待つ者の為に戦っていたのだ。 

「ねぇ真紅。」 
「何?水銀燈。」 
「この戦い、生きて帰る事が出来たら、貴女達がおいしいって言う花丸ハンバーグって言うの、 
食べさせて頂戴。」 
「いいわ。今度のりに頼んであげるわ。ただし、生きて帰れればね・・・。」 
「約束よぉ。私もお返しにめぐの病院の最低にマズイの食べさせてあげるからぁ。」 
「・・・。」 
最後の一言が何か余計な気がしたが、二人はアリスへ向けて同時攻撃をかけた。 
しかし容易く跳ね返され、吹き飛ばされた。 
「やっぱり・・・ダメかも・・・。」 
やはりアリスの力は圧倒的だった。7体のドールズの攻撃が全く通用しないのだ。 
『さあアリス。早く彼女達に永遠の安らぎをプレゼントして差し上げなさい。』 
謎の声はやはり薔薇乙女達を処分するつもりだった。やはりアリスが完成した以上、 
失敗作には用は無いようである。しかし、それでも薔薇乙女達は立ち上がった。 
「もうジュンにもトモエにも会えなくなるのは嫌なのー!」 
「私もみっちゃんに会えなくなるのは嫌かしらー!」 
「ジュン・・・力を貸して・・・。」 
薔薇乙女達は絶望してはいなかった。例えお父様に捨てられようとも、帰りを待ってくれている人がいたからだ。 
「お父様が私達を見捨てても、私達は生きる!私達も生きているんだから!!」 
7体の心が一つになった時、奇跡が起きた。7体の薔薇乙女達が一斉に強く輝き出し、 
その輝きが一つとなると共に一人の薔薇乙女が誕生したのだ。 
「合体薔薇乙女!!」 
一人の薔薇乙女が自分以外の6つのローザミスティカを手に入れて誕生すると言われるアリスとは 
また異なる存在。しかし、それはアリスにも負けない程の輝きと美しさを持っていた。 
『そんな事をしても無駄だ。さあアリス、やっておしまい。』 
「ハイ、オトウサマ。」 
アリスは怪光線を放つ。しかし、合体薔薇乙女は片手で容易く弾き返した。 
「!?」 
「私は生きて帰る!待っている人達の為に!」 
合体薔薇乙女は強かった。7体がかりでかかっても歯が立たなかったアリスと互角に戦っていたからだ。 
両者の実力はほぼ互角。しかし、合体薔薇乙女にはアリスには無い物があった。それはマスターとの思い出。 
代々のマスターとの思い出の中での経験、それらは何らたわいも無い物が殆どだった。 
しかし、世の中いつ何が役に立つか分からない物である。今がまさにそれだった。 
「それぇ!ハイキック!マウントパンチ!!」 
合体薔薇乙女のハイキックがアリスの顔面に命中し、さらに倒れたアリスに対しマウントポジションを 
取って連続でパンチを入れだしたのだ。およそ薔薇乙女らしくない戦い方である。だが・・・ 
実は翠石星は総合格闘技のTV中継にハマり、その試合中に出た技の数々を面白半分でジュンに掛けていた。 
たわいも無い遊びである。しかし、その時の経験が今大いに役に立っていた。それだけではない。 
他にも様々な思い出から培った経験がアリスを翻弄した。そして追い詰められ、 
フラフラになったアリスに対し合体薔薇乙女が最後の攻撃を仕掛け、大きく右腕を振り上げた。 
「これが絆だと言うのよ!!」 
最後のトドメは真紅の絆パンチだった。そしてアリスは完全に倒れ、起き上がる事は無かった。 
『素晴らしい!君こそが真のアリスだ。おめでとう。』 
「調子のいい事ね。これが私達がお父様と呼んだ者の姿と言うの?」 
『!?』 

合体薔薇乙女は合体を解き、元の7体に戻ると共に一斉に睨み付けた。 
「お父様はもう私達が必要では無いのでしょう?さあ、このアリスと共に何処へでも行けば良いわ。」 
真紅が倒れているアリスを抱え上げ、ぽいと投げ捨てた。そして7人は去って行く。 
「私達は帰るわ。私達には帰る場所があるもの。」 
『まて!お前達!』 
「もう二度と翠石星達の前に姿を現すなですぅ!」 
「めっなのー!」 
『待て!待つんだ!』 

翌日、何時ものように桜田家でお茶を飲む真紅の姿が見られた。 
「ジュン、お茶がぬるいわ。入れなおして頂戴。」 
「うるさいよ!そんなに文句があるなら自分で入れれば良いだろ!?」 
「嫌よ、面倒くさいもの。」 
「何だとぉ!?」 
「それはそうと、ジュン、そろそろ学校に行ってはどう?」 
「余計なお世話だ!!と言うかお前はどうするんだよこれから!結局何時ものように紅茶飲んで・・・。」 
「さあ・・・。これからの事はゆっくり考えるのだわ・・・。」 
いつもと変わらないごく平凡な光景。しかし、彼女等の表情はどこか明るい。 
アリスゲームと決別し、殺し合いをする必要は無くなった彼女達は今いるマスターとの時と言う 
名の新たな道を進み始めた。アリスゲームと言う目標がなくなった以上、何をすれば良いのか? 
と言う悩みもあったが、それはこれから時間をかけて考えて行けばいい。 
この瞬間から薔薇乙女達の新たな生活が始まるのである。 
                     おわり 

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