めぐが亡くなった。 
元々体が弱かった上、水銀燈と契約して力を送り続けた事がめぐの衰弱を加速させたのである。 
しかしめぐに後悔の念は無かった。彼女自身それを望んで契約したからである。 
だが、残された水銀燈にとってそれは終わりではなく始まりに過ぎなかった。 
めぐが亡くなった後、再び鞄の中で眠りに付く水銀燈。このまま誰かがネジを巻かなければ 
水銀燈は数十年、数百年と眠り続けるのであるが、数日と待たずして何者かにネジを巻かれ 
水銀燈は目覚める事となった。 

「まあ、動いたわぁ。」 
「あんたがネジを巻いたの?」 
水銀燈が目を覚ました時、最初に見た者は一人のメガネをかけた少女。 
その上少女はおっとりしていて、頭の回転もかなり鈍そうな雰囲気を持っていた。 
名前は桜田のりと言うそうだが、見て分かる程頼りになりそうに無い少女だった。 
だが、水銀燈にとってはむしろ都合が良かった。 
頭の悪い人間の方が水銀燈にとっても扱いやすいからである。こういうタイプは余計な事は 
考えない為、言う事を聞かせられれば素直に従ってくれるだろう。 
実際水銀燈が簡単な状況説明をしただけでのりはあっさりと契約して新たな媒介となった。 
まずこののりの家を拠点として力を蓄え、再びアリスゲームに挑もうと水銀燈は考えていたのだが 
ここから意外な事実を知る事となる。 
「まぁ素敵な指輪。ジュン君とお揃いね。もしかして水銀燈ちゃんって真紅ちゃんのお友達?」 
「!!」 
直後、水銀燈の顔は豹変した。そして物凄い形相でのりを睨み付ける。 
「どうしたの?水銀燈ちゃん。そんな怖い顔になって・・・。」 
「あんた・・・今さっき何て言った・・・?」 
「え?素敵な指輪ねって・・・。」 
「その後よぉ!あんた真紅の何なのよぉ!」 
水銀燈は背中の翼を一点に束ね、槍状にした物をのりの首下スレスレの所に付き付けた。 
「ちょっと水銀燈ちゃんどうしたの?そんな事したらダメよ〜。」 
やや困り顔になりながらも、笑顔のままおっとりとした口調ののり。それが余計に 
水銀燈の神経を逆なでした。 
「つべこべ言わずに答えなさい!あんた何で真紅の事を知ってるの!?素直に答えないと殺すわよ!」 
「そんな殺すなんてぇぶっそうな事言っちゃダメよ。」 
「いいから答えなさい!」 
相変わらずマイペースなのりに水銀燈はますます怒る。と、その時だった。 
「のり、騒がしいわ、静かにしてくれないかしら。落ち着いてお茶も飲めないわって・・・。」 
「あ・・・。」 
突然紅い服のドールがドアを開けて入ってきた。彼女こそ水銀燈宿命のライバルである真紅。 
「水銀燈!貴女が何故ここに!?のり!これは一体どういう事!?」 
「真紅こそ何故ここにいるのよぉ!」 
予想外の事態に二人とも半ば混乱する。しかし水銀燈は苦しいながらも余裕を装い翼を広げる。 
「まあ良いわ。ここで貴女を倒してローザミスティカを奪ってあげるぅ。」 
「のり!まさか貴女水銀燈と契約を!?何故そんな事を・・・。」 
「え!?え!?私何か悪い事したの!?」 
のりの指にはめられた薔薇の指輪に気付いた真紅は、少女に詰め寄る。だが、次の瞬間に 
水銀燈の翼が真紅に襲い掛かっていた。そして真紅はそれを素早くかわす。 
のりの部屋で水銀燈と真紅の壮絶な戦いが始まる・・・かに見えた。 

           『こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』 

大地を揺るがす超大音量が家中に響き渡った。そして、水銀燈と真紅はその場に正座させられ、 
その前でのりが物凄い形相で説教をしている光景が見られた。 
「喧嘩なんかしちゃダメよ!貴女達姉妹なんでしょ!?だったら仲良くしなさい!」 
「喧嘩じゃなくてアリスゲー・・・。」 
「つべこべ言わない!」 
「・・・。」 
先ほどまでのおっとりしていた彼女は一体何処へ行ってしまったのか、今ののりには 
有無を言わせぬ凄まじい迫力があった。そして二人は正座したまま動けなかった。 
真紅はおろか水銀燈さえも逆らえない、嫌、逆らってはいけない何かをのりに感じていたのだ。 
「水銀燈ちゃん!貴女が一番のお姉ちゃんなんでしょ!?なら貴女が一番しっかりしないと 
ダメじゃない!なのに一方的にあんな事するなんてみっともないったら無いわ!」 
「(うう・・・何故私が人間ごときに・・・。)」 
人間を糧としか思わない水銀燈にとって、人間であるのりに説教される事は屈辱だった。 
だが、それ以上にのりに逆らえない自分が何より許せなかった。 

その後、のりの説教は小一時間に及び続き、水銀燈と真紅は無理矢理仲直りさせられ、 
二度と喧嘩しないと言う内容の誓約書まで無理矢理に書かされた。 
そして水銀燈とのりが契約した件も今更どうにもならない故に、水銀燈も 
桜田家で真紅達と同じ屋根の下で生活する事になる。 
「(まあ良いわ・・・気に食わないけど今の内は大人しくしておいてあげる・・・。 
でもこのままじゃ済まさないわよ。何時の日かあんた達が安心して油断しきった所を 
一気に寝首をかいてあげる・・・。そして私はアリスになってお父様の所へ行くのよ。 
その日を覚悟しておきなさい・・・お馬鹿真紅にのり・・・フフフフフ・・・。)」 

そうして、当初は確かに違和感こそあったものの、水銀燈も次第に桜田家に打ち解けて行き、 
数日もすれば真紅と共にくんくん探偵を視聴する仲になっていた。 
挙句の果てにはどさくさに紛れて雪華綺晶まで一緒になってくんくんを見ている始末。 
だが、それも水銀燈の作戦に過ぎない。敵として戦い続けるのではなく、 
仲良くなったフリをして敵の内側に潜り込み、弱点を探りながら相手の隙を伺い、 
確実に勝てるタイミングを見計らった後で勝負を挑むと言う壮大な計画を立てていたのである。 

だが、ここで水銀燈にとって誤算が生じた。それは薔薇乙女とはまた異なる新勢力の台頭である。 
ローゼンのライバルを自称する人形師が薔薇乙女とは別の方法で命を持たせたドールで 
薔薇乙女に挑戦してきたり、最先端科学技術の粋を集めて作られたロボット軍団と戦う事になってしまったり、 
陰陽道の使い手が操る妖人形と戦わなければならなくなったり、 
呪いによって多くの人間の命を奪い、時の高僧によって世界各地の権威ある寺院や神殿などに 
厳重に封印されたものの、最近になって再び封印を破って脱走した世界の7大呪い人形の 
再封印作戦に協力しなければならなくなったり、薔薇乙女の起源を主張する某国が 
送り込んだ真・薔薇乙女(だがどう見ても劣化してる)と戦わなければならなくなるなど、 
それまで敵対しあっていた薔薇乙女7体が団結しなければならない程にまで 
強力な敵が次々に現れ、アリスゲームどころの話では無くなってしまう。 
その上、水銀燈自身にも様々な戦いを乗り越えていく内に真紅達との仲間意識が 
本格的に芽生え、敵対心が徐々に薄れていくのだが・・・それはまた別の話である。 
                     おわり 

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