「ジュン、お茶を淹れて頂戴。」 
「ハイハイ分かったよ。」 
「ハイは一度までと何度も言ったでしょう、まったくいつまでも学習しない下僕ね。」 
今日も真紅はジュンの淹れた紅茶を召し上がっていた。何でもない何時もの風景。 
もはや真紅とジュンが一緒にいると言うのは当たり前になっていた。 
一見真紅が無理矢理ジュンを下僕として従わせている様に見えても 
ジュンもジュンでそれを不満に思っている様な風には思えない。 
本当に仲が良いのだ、二人とも。しかし、それが気に入らない者がいた。 
「また二人ともイチャイチャしやがってるです。むかつくですぅ・・・。」 
少し開いたドアの隙間から真紅とジュンを恨めしそうに覗く一人の影。 
それは薔薇乙女第三ドールの翠星石だった。 

数時間後、真紅は翠星石に呼び出された。しかもnのフィールドに・・・ 
「翠星石、nのフィールドに呼び出して一体何の用なの?」 
「真紅・・・私は真紅が許せないですぅ・・・。」 
「え?」 
「私は真紅が許せねえですぅ!」 
翠星石は如雨露を持ち構え、真紅へ向けて跳んだ。そして中の水を振り掛けると共に 
急成長した植物が真紅を襲う。 
「ちょっと!翠星石!どうしたと言うの?」 
襲い掛かる植物をかわすも、真紅はワケが分からなかった。しかし、翠星石の顔は 
真紅に対する憎悪に狂っていた。だが、同時に何処か悲しみも混じったような雰囲気もあった。 
「態々言わないと分からないですかぁ!?アリスゲームですぅ!」 
「何故!?何故今になってそんな事を!?」 
如雨露で殴りかかってくる翠星石の攻撃を真紅はなんとかかわしていくが、 
真紅には翠星石の豹変っぷりの理由が全く分からなかった。 
「何故なの翠星石!私達は媒介を同じくする者なのに何故戦わなければならないと言うの!?」 
「媒介が同じだからですよぉ!」 
なりふりかまわず翠星石は如雨露を振り回した。こんな必死で死に物狂いな翠星石を 
真紅は見た事が無かった。と、その時だった。真紅の顔に一滴の水滴が付着した。 
「え!?これは・・・。」 
それは水滴。だが、それは翠星石の如雨露から出た水では無かった。そして真紅は気付く。 
翠星石が涙目になっている事に・・・。 
「翠星石貴女まさか泣いて・・・!」 
直後、翠星石の如雨露が真紅の脳天を直撃し、真紅は地面に倒された。しかしそれで終わらない。 
「死ね死ね死ねですぅ!!」 
翠星石は無情にも倒れた真紅を何度も如雨露で殴り付け、ついに真紅は動かなくなった。 
翠星石は勝利した。しかし、その悲しげな表情は変わらなかった。 
「真紅が悪いんですよ。真紅ばっかりジュンと一緒にいて・・・。ジュンは翠星石のマスターでも 
あるですよ・・・。翠星石がジュンと一緒にいても良いはずですぅ・・・。なのに翠星石をのけ者にして 
真紅ばっかりジュンとベタベタベタベタ・・・。」 
「それが理由なのね、よく分かったわ・・・。」 
「え!?」 

完全に倒されたと思われた真紅が突如立ち上がった。しかし・・・ 
「まだ生きてやがるですかぁ!さっさと死ねですぅ!!」 
また翠星石は如雨露で真紅の脳天を殴り付けた。しかし、今度は倒れ無い。それどころか 
再度殴りかかろうとする翠星石の如雨露を逆に真紅は掴んで止めていた。 
「何故ですか!?何故あれだけ痛め付けてもまだ立ち上がるですかぁ!?」 
「確かにジュンは貴女のマスター、けどそれは私にとっても同じ事。そう簡単には譲れないのだわ・・・。」 
次の瞬間・・・真紅の右拳が翠星石の下腹部にめり込んでいた・・・ 

「翠星石の負けですぅ!さっさと一思いに止めを刺しやがれですぅ!そして勝手に 
ジュンと幸せに暮らしやがれですぅ!うっうっうっ・・・。」 
あれだけ真紅を一方的に攻め立てながら、一撃で倒されてしまった翠星石は 
ショックで自暴自棄かつやけくそになってしまっていた。だが、真紅はそんな翠星石の 
肩を抱え立ち上がらせた。 
「帰りましょう・・・。お互い疲れたわ。」 
「な・・・なんでトドメをさしやがらねぇですか!?翠星石は真紅を殺そうとしたですよ!なのに何で・・・。」 
「そんな事したらジュンが悲しむわ。ジュンは私のマスターであるだけでなく、 
翠星石のマスターでもあるのだわ。ジュンは翠星石の事をのけ者になんかしてないわ。 
だからそんなコソコソする事無く堂々としていればジュンと一緒にいられるのではなくて?」 
「・・・。」 
翠星石は言葉が出なかった。あれだけ痛め付けたと言うのに、真紅からは怨みの念が 
一切感じられなかった。そう感じると共に翠星石はその場で泣き出した。 
「うっうっうっ・・・。私は何てちいせぇ奴なんですかぁ・・・。本当のチビは私じゃないですかぁ。」 
「翠星石・・・。」 

それから、翠星石はジュンの前にいた。 
「ちょっと・・・話があるですぅ・・・。」 
「何だ?」 
翠星石は勇気を出してジュンと一緒にいたいと言いたかった。しかし・・・ 
「やっぱ言えねぇですぅ!!」 
「痛ぁ!」 
と、ジュンの脛を蹴り付けて走り去ってしまった。それには真紅も呆れていた。 
「翠星石・・・それじゃあ意味無いのだわ・・・。」 
確かに翠星石はジュンと一緒にいたいと考えている。しかし、彼女のどうしても 
素直になれない所がそれを邪魔してしまっていた。翠星石の戦いはまだまだ続きそうである。 
                 おしまい 

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