近くに幼稚園でもあるのか、子供連れの母親が目立つ路地だった。 
この日の山本少年は、あの黒尽くめの法衣ではなく、灰色のブレザーという学生服姿だった。 
と、いっても、1週間前の戦闘で負傷した両手はギプスと包帯で固定されており、 
ブレザーは羽織っただけの状態だ。人の手を借りて結んだのであろう黄色いネクタイは、 
初秋の風によれて曲がったままになっていた。 
彼は、表札に「桜田」とある二階建ての住宅の前で、呼び鈴とにらめっこをしていた。 
まさか、両手の負傷が原因で押せないというわけではあるまい。 
不審というより、やや滑稽な姿だったが、2時間もそんなことをしていれば、 
警察官に職務質問を要求しているようなものである。 
「君、そこでなにやってるのかな」 
「すみません!」 
小心者が脊髄反射的に謝りながら振り向くと、そこには彼が期待していた婦警さんではなく、 
黒衣のシスターが立っていた。右手に、革張りの大きな四角い鞄を提げて。 
「って、柿崎さんじゃないですか。変な声色使わないでくださいよぉ」 
「奇遇ね、山田君。というか、変なのは貴方よ。こんなの、こうしたって変わらないでしょ」 
と言って、柿崎は左の肘で呼び鈴を押した。ピンポーンと音が鳴ってから、山本は慌てふためいた。 
「わっ、そういう問題じゃなくて、それ失礼って言うか、待って下さい、心の準備がまだ!」 
「じゃ、帰って準備してきたら」 
柿崎が無体な提案をしたが、その猶予を与えず、住人は「はーい」と玄関ドアから姿を見せた。 
パステルオレンジのサマーセーターを着た、十代中頃の少女だった。 
やや大きめのボストンフレームに飾られた愛らしい容貌が、訪問者の少年を萎縮させた。 
一方、宗教団体の勧誘員にしか見えない柿崎の風体は、桜田家の少女を警戒させていた。 
「あの、どちら様でしょうか」 
「私、ジュン君のクラスメートの柿崎といいます。いま、ジュン君はご在宅ですか」 
「えっ、ジュン君の? ……ごめんなさいねぇ。いま、ジュン君、海外の両親の所に行ってて」 
少女は疑った様子も見せずそう答えた。なかなか大物なのかもしれない。 
山本は青白い顔で突っ立っているだけで何も言わなかった。柿崎は演技を続けた。 
「実は、私、彼に預かって貰ってたものがあって、それが明日の授業に必要だから……、あら、私ったら。 
ごめんなさい。お姉さんにこんなお話しちゃって」 
「えっ、えっ、そんなことないのよぅ、ごめんね柿崎さん、ジュン君ったら、借りたものはちゃんと返さなくっちゃ! 
ちょっと待っててねぇ!」 
少女は踵を返すとばたばたと家の中に戻り、数秒してから、また外に顔を覗かせた。 
「えっと、ジュン君は、なにを預かってたのかしらぁ?」 
まあ、ある意味、彼女が大物なのは間違いなかった。 

第2話 楽士 die Spielerin 

柿崎はリビング・ダイニングへ通され、ソファに向かい合って配されたアームチェアに腰を落ち着けた。 
邸内は掃除が行き届いており、留守を預かる少女の性格もあろうが、まず生活臭が感じ取れなかった。 
ただし、埃一つない玄関に、踵の潰れたスニーカーが出しっぱなしだったり、 
よく磨かれた深緑のアニリン革ソファに、薄汚いパーカーが掛かっていたりと、不自然な点も目立った。 
部屋着すら小綺麗なこの少女が、それらのようなものを身につけるだろうか。 
桜田姉弟の両親が不在というのはともかく、弟は本当に未だ帰宅していないのか。 
「ごめんね、散らかってて。片付けちゃうと、ジュン君がおうちに帰って来なくなる気がして」 
聞かれてもいないのに、ジュンの姉が言い訳した。それは弟が行方不明だと告白したも同然だったが、 
いや、それすら演技である可能性は否めなかった。あの異能者の姉なのだ。 
「大丈夫よ、のりさん。ジュン君は無事に帰って来れるわ。今時、海外旅行ぐらい当たり前でしょ?  
それでね、彼に預かって貰ってたのは人形なんだけど、のりさんは見た?」 
柿崎がジュンの姉、表札によれば"桜田のり"に尋ねた。のりはキッチンカウンターの向こう側から答えた。 
「お人形さん? ごめんねぇ。ジュン君、学校のことはあんまりお話ししてくれないから。 
家庭科の実習で作ったの?」 
どうやら、のりが連想したのは、縫い合わせた布に綿を詰めて作る、ぬいぐるみのようだった。 
一口に人形と言っても、その種類は多様である。 
「いいえ、美術で静物画のモデルに使うものよ。ビスクドール、だったかしら」 
「本格的なのねぇ。柿崎さんはお紅茶でいい?」 
「あなたに神のお恵みを。それじゃ、これとよく似たケースは?」 
と、柿崎はアームチェアの脇に立て置いた鞄の取っ手を持ち、軽く持ち上げてみせた。 
薔薇の彫金の施されたそれは、あの夜、水銀燈と呼ばれる生き人形が持っていた鞄と酷似していた。 
ただ、もしのりがそのことを知っているなら、玄関先で目撃した時点で何らかの反応を示していたはずだ。 
実際、彼女はポットを暖めながら、困ったように首を傾げるばかりだった。 
「お人形さんのケース? うーん、ジュン君のお部屋にはなかったと思うのよぅ……」 
そのとき、ピンポーンと呼び鈴が鳴り、のりが「あっ」と声をあげた。 
「いっけない、さっきもうひとりお客さんがいらしてたような気がするぅ!」 
「そういえば」 
山本を表に放置したままだった。彼女らにとって、あの少年はその程度の存在でしかないらしい。 
「ごめんね、柿崎さん、ちょっと待っててぇ」 
と、のりはスリッパをぱたぱた鳴らし、玄関へと駆けていった。柿崎は口元に手を当て、優雅に笑った。 
「ふふふ、いいのよ。お茶はみんなで楽しまなくちゃね」 
その薬指には、清楚な尼僧衣に似合うといえば似合う、薔薇の細工の指輪が、鈍く光っていた。 

ところで、その呼び鈴を押したのは、山本少年ではなかった。 
置いてきぼりを食らった彼が、額に脂汗を浮かせて例のにらめっこを再開していたところ、 
横合いから小柄なセーラー服が手を伸ばしたのだ。少女特有の酸い体臭が、山本の鼻を突いた。 
「大丈夫ですか」 
おかっぱ頭がちらりと山本の両手を見やって、無愛想に気遣った。ジュンの同級生か。 
横顔の泣きぼくろと、大振りな竹刀袋を背負う細い肩が、アンバランスな存在感を放っていた。 
「あ、うん、ありがとう」 
「早く良くなるといいですね」 
本当にそう思っているのか疑いたくなる、ひどく冷めた声で少女は言った。 
程なくして、のりが「はーい!」と慌ただしく表に出てきた。竹刀の少女はおかっぱ頭をぺこりと下げた。 
「あっ、巴ちゃん!」 
「桜田君から連絡はありましたか」 
そう問われると、のりは顔を曇らせ、首を左右に振った。のりは弟が行方不明であることを、 
この巴という少女に隠していないようだった。が、巴は無関心そうに「そうですか」と返したのみで、 
手提げのスポーツバッグから何枚かのわら半紙を出し、「今日の分です」とのりに受け取らせた。 
学校で配られたプリントを、欠席したクラスメートのために届けに来たらしい。 
「ごめんね、遠いのにわざわざ……」 
「学級委員の仕事ですから。では失礼します」 
冷淡過ぎる挨拶をして踵を返そうとした巴を、のりは慌てて引き留めた。 
「えっ、お茶飲んでかない? 今、ジュン君と巴ちゃんのクラスの子も来てるのよぅ!?」 
「あっ!」 
と、声を上げたのは山本だった。当然、柿崎がジュンのクラスメートなどというのは偽称だから、 
本物のクラスメートの訪問は非常に都合が悪かった。 
「えーと、山本君? あっ、そうだ、みんなでお茶にしましょ。ね? ね?」 
ようやくのりに存在を認められ、茶に誘われるという栄誉まで浴した山本だったが、 
彼は真っ青な顔面を勢いよく振り下げ、腰を直角に折って謝罪した。 
「申し訳ありません、桜田さん!」 
「ええっ、山本君もだめなのぅ!?」 
「最後にジュン君と一緒にいたのはたぶん俺なんです!」 
「……それ、本当ですか」 
山本の口からジュンの名前が出た途端、半分背中を向けて傍観していた巴の態度が急変した。 
「巴ちゃん?」 
「教えてください。あの日、桜田君が入院した日、桜田君に何があったんですか!」 
巴は初対面の男に激しく迫った。ジュンの消息を気に掛けていないどころか、むしろ全く逆だった。 

山本は頭を下げたまま、真正面から見据えてくる少女を上目遣いに見て、しどろもどろに答えた。 
「その、俺、ここ数日、意識不明になってて、あの日も途中から記憶がないんですけど、ええと、 
実はもう一人、友達が一緒にいて、その人がジュン君はその日からいなくなったって言ってたんで……。 
すみません、俺がジュン君を止めてれば、こんな大事にならなかったのに」 
ジュン君は悪魔人形を拾って悪魔払いに追われてました、などと話せるはずがなかった。 
「ねっ、二人とも、そういうお話は中でしましょ!」 
涙目ののりが強引に割って入って、玄関先での立ち話を止めさせた。隣近所というものがある。 
「ごめんなさい」 
「すみません、無神経でした」 
客人たちは潔く詫びて、のりの招きに預かり、件の「お友達」と同席する運びとなった。 
「あら、遅かったわね、委員長さん」 
さも顔見知りのように声を掛けてくる怪しい尼僧に、巴は無言の姿勢を示した。 
何のことはない。セーラー服の胸に付けた長方形のバッジには「委員長」と明確に記されていたのだ。 
よく観察すれば、スポーツバッグや竹刀袋にも、"柏葉巴"とマジック書きされているのが見て取れた。 
巴は不自然に隠す真似はせず、それらをソファの端に置き、いつでも手に取れる位置に座した。 
ちょうど、アームチェアに掛ける柿崎と、正面から向かい合う形だった。 
山本は突っ立ったまま失神寸前で、のりはキッチンスペースに逃げた。 
「ごめんね、柿崎さん。お待たせしちゃって。巴ちゃん、お紅茶でいいかしら」 
「お構いなく。すぐ帰りますから」 
巴がにべもなく断ると、室内にはカチャカチャとカップやポットが立てる音だけが残った。 
そんな気まずい沈黙を、ひとり笑顔の柿崎が破った。 
「巴ちゃんは、どうしてジュン君のウチに?」 
「プリントを届けに来ただけよ。そういう柿崎さんは?」 
巴は、のりに気を使ったのか、その場で柿崎の正体を暴こうとしなかった。 
柿崎は、傍らに立て置いた四角い鞄に手を伸ばした。 
「ほら、明日の美術で使う人形を、ジュン君が持って帰ってたじゃない。巴ちゃんは見てない?」 
唐突にそう聞かれたところで、巴は「知らないわ」とポーカーフェイスを守る他なかった。 
「ジュン君を最後に見た夜、彼はこれと同じ鞄を持ってたのよ。ね、山田君?」 
「貴女、桜田君が最後に会った、お友達?」 
巴は、山本の証言との繋がりを得て、そう理解した。いや、誤解か。柿崎は哄笑した。 
「そうよ。私ね、ジュン君ととっても仲が良いの。だから、神様からおそろいの鞄まで貰っちゃった! 
これって運命よね? 巴ちゃんやのりさんなら、鞄の中から手がかりを見付けられるかも」 
「中には、何が入ってたの?」 
「ふふふ……。じゃ、お茶でもしながら作戦を立てましょ。金糸雀」 

柿崎が不明な単語を口にしたと同時に、甲高い、何かが擦れる音が鳴り響いた。 
バイオリン──と、その音色を言い当てる者はいなかった。 
数秒の後、静寂に支配された室内は、柿崎を除く、全てが時間を止めていた。 
巴は鞄を注視しソファから身を乗り出したまま。のりはティーセットを載せたトレイを手にしたまま。 
柿崎は立て置かれた鞄の留め具を外し、無造作に取っ手を持ち上げた。 
すると、当然、重力に従って上蓋が開き、鞄の中身がフローリングの上に転がり落ちた。 
「いたぁっ! 何をするのかしら!」 
ぶつけた額を撫でながら可愛らしく抗議したのは、人工的な緑色の巻き髪を持つ少女人形だった。 
もう片方の手には、幼児向け1/16サイズの、淡いニスで彩られたバイオリン。 
金糸雀とは、この人形への呼び声であり、名前だったようだ。 
彼女のまとうハイウェストのベルスリーブ・チュニックは、いわゆるカナリーイエローという、 
カナリアの羽根の色だった。膝丈で毬形の古典的ブルマーによるマリーゴールド色と合わせ、 
柔らかな黄系色と丸みを帯びたシルエットが、彼女と同名の愛玩鳥を彷彿とさせた。 
「ふふふ、素晴らしい演奏だったわ。みんな感動のあまり声も出ないみたい」 
柿崎は人形の不平など意に介さず、悦に入った笑顔で道具を誉めた。 
柿崎が歌声で人々を操れるように、金糸雀もまたバイオリンで同様のことが出来るのか。 
誉められた方は嬉しそうな顔一つせず、ソファを踏み台にその後方のダイニングテーブルへと駆け上って、 
そこからバイオリンの弓で柿崎を指した。緑の瞳が、まっすぐ柿崎を睨んだ。 
「鞄の中で音がキンキン響いて、頭が割れるかと思ったわ。もう少しマシな作戦はなかったのかしら」 
「ふふふ……。あんまり生意気言うと、藪に埋めるわよ」 
なにやら両者は微妙な関係だった。そもそも、柿崎が生き人形を使役している事自体が奇妙だった。 
この尼僧は先日、水銀燈という別の人形を、悪魔と見なして滅ぼそうとしていたのだから。 
「……う、お茶しながら、作戦を立てるんじゃなかったかしら」 
「そうだったわね」 
主人との睨み合いに負けた金糸雀は、小刻みに震える顎と肩にバイオリンを挟んで、弓を弦に当てた。 
人形の楽器が可憐な旋律を紡ぎ出すと、硬直していたのりが、ぎこちなく歩みを再開した。 
お茶くみ人形は、トレイをコーヒーテーブルに運び、やはり硬い動作で、カップに琥珀色の液体を注いだ。 
湯気とダージリンの香りも、何故かたどたどしく、尼僧のベールを撫で上げた。 
「ありがとー、ピチカート」 
演奏を終えた金糸雀が謝辞を述べると、バイオリンの駒から黄色い燐光──人工精霊──が飛び出した。 
すると、次の瞬間、金糸雀が手にしていた楽器は、小さなパラソルへと変化していた。 
むしろ、このピチカートが、パラソルを精巧なバイオリンに変化させていたというべきか。 
金糸雀はダイニングテーブルからソファに下り、未だ固まっている巴の隣にちょこんと座った。 
「これで、手駒はバッチリなんだけど、もう少し、ジュン君とやらの弱みが欲しいところかしら」 

「じゃ、さっそく手駒に歌ってもらえばいいじゃない。貴女のバイオリンで」 
柿崎の示唆は、つまり、のりたちを音で操ってジュンの秘密を暴露させろということだ。 
「無理……じゃなくて、無駄かしら! 私だったら、自分の弱点は友達にだって絶対教えないし、 
もしも知られたら、姉妹だって野放しにしておかないもの」 
見かけによらず、なかなか冷徹な台詞を口にしたが、主人からは「はいはい」と一笑に付された。 
「姉妹と言えば、ジュン君が後生大事そうに抱えてた水銀燈ってお人形、貴女の姉妹なんでしょ? 
なにか、うまくおびき寄せられる餌はないかしら」 
柿崎は尋ねて、紅茶を一口啜った。水銀燈を人質に取るつもりらしい。 
金糸雀は角砂糖を鷲掴みにし、体のサイズに比べて大きなカップに遠慮無く投入した。 
「甘い、お砂糖よりも甘いかしら! 薔薇乙女をナメてかかると痛い目を見るんだから。 
……まぁ、独りぼっちのドールは大したことないかもだけど、力の媒介を得たドールは絶対無敵かしら!」 
「力の媒介……、契約者の事ね。じゃ、条件は五分じゃない?」 
柿崎は左手を掲げ、薬指にはめた指輪を見つめた。絶対無敵の金糸雀は、先程までの勢いはどこへやら、 
ティーカップで口元を隠して、緑色の目を泳がせていた。 
「あの、薔薇乙女同士の私闘はお父様に禁じられてるから、カナは見てるだけでいいかしら?」 
「遠慮しなくていいのに。それじゃこうしましょ。私は水銀燈をバラバラにして遊んでるから、 
その間に金糸雀はジュン君のお腹の中身を引きずり出して今夜はお鍋よ。アーメン」 
柿崎が双眸を輝かせ、訳の分からないことを言いだした。金糸雀は肩を震わせ、肯くしかなかった。 
「人間の男の子が相手なんて、この私、薔薇乙女一の頭脳派、金糸雀にとって役不足も甚だしいけど、 
どうしてもって言うなら、や、やっつけてあげないこともないかしら?」 
「はい、決定。それじゃ、案内して貰うわよ。nのフィールドとやらに」 
水銀燈を誘出する算段を取り決めないまま、柿崎はカップを置いて椅子から立った。 
この女はただ茶を飲みたかっただけで、真面目に作戦を準備する気などなかったようだ。 
金糸雀は砂糖でドロドロにした紅茶を体内に流し込み、彼女の所有する人工精霊に尋ねた。 
「ピチカート、この家の人たちの思いにつながる入り口はどこかしらー」 
そんな曖昧な問いに応え、黄色い燐光はまずふらふらとリビングを浮遊し、次に廊下に出た。 
そこからはまっしぐらにある扉の前に飛び、そこで金糸雀を呼ぶかのごとく、くるくる旋回していた。 
何の変哲もない樫の片開き帯ドアだったが、子供の目の高さに"????? ??????"と赤い塗料で記されていた。 
「なんの部屋かしら」 
金糸雀が、彼女の手の届かない位置にあるドアノブに、パラソルの柄を引っかけて器用に開けると、 
ひんやりとした空気が廊下側に流れ出た。そこは、窓がない真っ暗な部屋だった。 
ピチカートが自身の輝きで、布に包まれ乱雑に詰め込まれた、彫刻や絵画を浮かび上がらせた。物置か。 
「ぶはっ、ひどいホコリ!」 
部屋の広さは、物と闇のせいで判然としないが、長い期間、清掃されていないことは間違いなかった。 

西洋鎧や刀剣、楽器、子供の玩具までもが所狭しと積まれ、それらに見下ろされる小さな人形は、 
所在なさそうに人工精霊の光を頼った。 
「へえ、面白い部屋を見付けたわね、金糸雀」 
突然出現した柿崎に金糸雀がぎょっとして振り返った。尼僧は勝手に骨董品を物色していた。 
「ヘルメスのエメラルド・タブレッド、ローゼンクロイツの『Mの書』、ユーグ・ド・パイヤンの髑髏、 
蜘蛛切丸にラスプーチンの性器。あらすごい、ブレゲの『マリー・アントワネット』まであるの? 
古今東西、伝説の秘宝博物館ってとこね。どうせ全部偽作だけど、この胡散臭さがたまらないわ。 
一家皆殺しにして、全部教会に寄付してもらわなくちゃ」 
柿崎の饒舌と、舞い上がる埃に辟易して、金糸雀はハンカチで口を覆い、鼻声で主人の注意を促した。 
「そんながらくたよりも、ピチカートがフィールドの入り口を見付けたようよ」 
ピチカートは、麻布を被った大人の背丈ほどの品物の前で、タンゴのリズムを取って揺れていた。 
柿崎は羽虫でも追い払うように、平手で人工精霊を退かせて、布の覆いを引きはがした。 
それは胡桃材の額に装飾された姿見だった。鏡の奥で、仏頂面のシスターが柿崎を睨み返していた。 
「なるほど、鏡ね」 
あの夜、水銀燈らは洗礼盤の水面に飛び込んでいた。鏡と水面、どちらも物を映し出すという性質がある。 
ピチカートが鏡面に接触すると、鏡の世界はまばゆい光に包まれた。入り口が開かれた合図だった。 
「なかなかの年代物かしら。入り口として使えるのは、命を持ったモノだけだもの」 
「ホントお馬鹿さんね。人間が作ったモノに命なんてないわ。命は神様が作った肉体にしか宿らないの。 
霊の本質は善、物体の本質は悪。モノなんて、機能して利用できればそれでいいじゃない?」 
柿崎に真っ向から否定された金糸雀は、しかし反論せず、ただ俯いて下唇を噛んだ。 
  《 Veni, Creator Spiritus, mentes tuorum visita, imple superna gratia quae tu creasti pectora. 》 
唐突に、柿崎が歌唱した。金糸雀が怪訝そうに見上げたが、その答えはすぐにやって来た。 
柿崎は歌声によって、目の虚ろな三人の少年少女を、ほの暗い物置に呼び寄せたのだ。 
「まだいたの、山田君」 
山本は本当に偶然居合わせただけらしい。まあ、彼がジュンに対する戦力や人質になるはずもないが。 
柿崎は山本のネクタイを掴んで引っ張り、鏡に向かって突き飛ばした。彼の体は鏡にぶつかることなく、 
そのまま光の中に飲まれてしまった。柿崎は現象を確認して、「へえ」と感心したように頷いた。 
金糸雀は、内心どうでもよさげな口調で、柿崎を責めた。 
「何て酷いことをするのかしら。人間が独りぼっちでnのフィールドに入ったら、間違いなく迷子になって、 
二度とこっちの世界には戻って来れないのよ。私だって、媒体なしじゃ1時間と持たないかしら」 
道具に咎められたところで、この柿崎が良心を痛めるはずもなく、尼僧は半笑いで十字を切った。 
「神よ、山田君の魂を救い給え」 
救いようのない性根を持った主人を尻目に、金糸雀はピチカートを追って入り口を潜った。 
無視された柿崎は不興を隠さず、のりと巴を入り口へ乱暴に放り込み、彼女自身も後に続いた。 

白い虚無の世界。 
物体、熱量、重力、距離、時間、全てが存在しない世界。闇すらない世界。 
物体の本質に関する柿崎の言が正しければ「悪」のない世界は、彼女の出現によって変貌した。 
最初に光が生まれた。光は、モノトーンの僧衣を可視のものとした。 
「こんなところにジュン君がいるの?」 
その問いかけは、大気を生成し、大気は放射状に遍く拡散した。 
ある瞬間、白一色の背景に黄色い燐光が輝いた。人工精霊のピチカートだ。 
遅れて、金糸雀も現れた。鏡の入り口を潜った順番は、この世界に生じた時間軸と関係ないらしい。 
中空に浮かぶ人形は、逆しまの主人を発見し、ひどく狼狽した表情を見せた。 
「カナより早く自分を取り戻してるなんて、本当に人間かしら」 
金糸雀が疑問を呈すると、柿崎の唇が自嘲めいた形に歪んだ。 
「ふふ、そうね。普通の人とは、ちょっと違うかもね。……何もないけど、ここがnのフィールドなの?」 
「まだまだよ。ここは『9秒前の白』と呼ばれる所。nのフィールドはn個の世界の集合体なんだけど、 
ここはnが実数値を取らない、世界の隙間。いわゆるひとつの虚数空間かしら」 
得意げな金糸雀の説明を、柿崎は一言で片付けた。 
「私、数学は嫌いなの」 
「え、えっと、つまり、ここはジュンって子の居場所につながる、観念上の『扉』のある場所かしら。 
そこで、私たちの手駒の出番よ。彼に親しければ親しいほど、その『扉』を見つけやすいって寸法かしら!」 
金糸雀が指した先には、どこからともなく現れた、ゲル状の漂流物があった。 
よく観察すれば、それは徐々に、裾の長い法衣をまとった山本少年へと変化していくのが分かった。 
「何だか、おかしな格好ね。貴女のバイオリンのせいなの?」 
「関係ないんじゃないかしら。ここでの容姿は、えーと、深層心理の投影だもの」 
「ふうん。というか貴女、ここに来てから、ずいぶん小難しいコトをさえずるわね」 
「カ、カナは薔薇乙女一の碩学かしら!」 
山本に続いて、のりもまた、ゼリーのような物体として現れ、緩やかに輪郭を取り戻していった。 
黄色いポロシャツにタータンのミニスカートという出で立ちで、手にはクロスと呼ばれる、 
ラクロス球技で用いる先端にネットのついた棒を持っていた。意外とスポーツが得意なのか。 
こうして意志薄弱そうな二人が──感情のない傀儡にされたままとはいえ──姿を取り戻したにも関わらず、 
柿崎に正面から立ち向かってきた柏葉巴は、一向に姿を現さなかった。 
「まさか、もう迷子になったのかしら」 
「けど、お姉さんがいれば十分じゃない。意識を奪ったままでも『扉』は開けるの?」 
柿崎が素早く決断を下すと、金糸雀はただ静かに、人工精霊をパラソルに宿らせ、弦楽器を得た。 
「私たちは夢を見るとき、誰もが『扉』を開いてるのよ。……憂愁のノクターン」 
金糸雀の構えた小さなバイオリンが、緩やかに、繊細で儚げな旋律を奏でた。 

白い虚空に広がる、もの悲しい夜想曲。 
『9秒前の白』の彼方を映す桜田のりの肉眼に、この世界の変化の兆しが現れた。それは涙。 
丸い眼鏡の下から溢れたのりの雫が、重力の誕生によって頬から顎に伝い、彼女の足元に落ちた。 
水玉は飛び散り、そこから石造りの道路、石造りの街並みが爆発的に広がった。 
金糸雀が演奏の手を止めても、もうその変化は止まらなかった。 
黒い尖塔がそびえ立ち、夜の星明かりが天頂に上り詰め、白い虚無は完全に消え去った。 
三人と一体は、観念上の『扉』を通り抜け、冷たい微風が彷徨う、異国の街角に佇んでいた。 
人っ子一人いない月夜の景観を眺め、金糸雀が呟いた。 
「ビンゴかしら」 
「どこ。プラハって感じだけど、人の気配がなさすぎない?」 
「人間がいなくて当然かしら。だって、ここは第8128世界、水銀燈が支配するフィールドのひとつだもの。 
あの子昔から人間嫌いで……あ、でもでも、この精神世界に留まるために、力の媒介を連れてるはずかしら。 
私たちをここに導いたのは、水銀燈じゃなくてジュンって子を想う、お姉さんの潜在意識だから、 
つまり、あの子たちがここにいると見て……」 
「しーっ、静かに」 
柿崎が人差し指を唇に当て、金糸雀の解説を遮った。柿崎は目を閉ざし、異界の夜空を仰いだ。 
「ホント。近くにいるわね。水銀燈が歌ってるわ」 
「へ、水銀燈が、かしら?」 
金糸雀が優れた聴覚を発揮する前に、尼僧はカツカツと靴を鳴らし、鼻歌交じりに石畳の街道を歩み出した。 
鼻歌に釣られて、神父風の山本とラクロス選手姿ののりも、不安定な足取りで後に続いた。 
歩を進めるにつれ、確かに、柿崎のものではない少女のソプラノが、寂寥の中にはっきりとしてきた。 
遠くからも分かる、金糸雀の夜想曲よりも、さらに感傷的なメロディ。 
「ソルヴェイグの歌……。あの教会かしら」 
通りの突き当たりに構える、二本の尖塔を頂く教会は、正面門を開放して柿崎らを待っていた。 
エントランスの石段を登り切ると、堂内奥の聖壇の上に、一対の黒い翼が見えた。柿崎は鼻歌をやめた。 
「水銀燈……」 
十字架型のステンドグラスから差す月光に、輝く銀糸の髪。それが顔を隠していても、見間違えようがなかった。 
少女人形は、胸に黒っぽい何かを抱き、祈るような姿で歌っていた。 
音の魔力を自在に操る柿崎と金糸雀ですら、水銀燈が歌い終えるまで、微動だにせず聞き入っていた。 
  《 Gud styrke dig, hvor du i Verden gar, 》 
  《 Gud glade dig, hvis du for hans Fodskammel star. 》 
  《 Her skal jeg vente til du kommer igjen; 》 
  《 og venter du hist oppe, vi traffes der, min Ven... 》 
またしてもこのような建物を選ぶとは。水銀燈は見かけによらず、信仰心が篤いのかも知れなかった。 

訪問者達に気づいた様子のない水銀燈に、柿崎が乾いた拍手を送った。 
「素敵な声ね。ますます聞きたくなったわ、貴女の断末魔の叫び」 
水銀燈は、のろのろと顔を上げて、潤んだ赤い瞳で柿崎を見返した。人形でも泣くらしい。 
彼女が胸に抱えていたものが月明かりに晒され、それを目にした金糸雀が「ひっ」と短い悲鳴を上げた。 
何と、桜田ジュンの生首だった。眼鏡をつけてないにも関わらず、一目で彼だと判った人物がいた。 
「桜田君!?」 
柿崎らの背後から、『9秒前の白』で姿を消していた巴が叫んだ。呆気にとられる柿崎を押しのけ、 
竹刀を手にしたセーラー服は聖壇へと向かっていった。金糸雀の演奏による術は解けたのか、 
それとも術に掛かった振りをしていただけなのか。いずれにせよ、あの白い虚数空間から、 
完全に気配を消して尾行してきたのだ。この少女、やはりただ者ではなかった。 
「どうなっているのかしら!?」 
自称頭脳派が、腰を抜かしてへたり込んだ。さすがに柿崎は、苦笑いを浮かべるに留まった。 
「ホントに死んじゃうなんて。お姉さんにも見せて上げたい光景ね」 
巴は聖壇に上がり、超常的な生き人形に物怖じもせず、見下ろして問うた。 
「貴女が桜田君を?」 
水銀燈は巴に一瞥もくれず、青白いジュンの顔に目を落とし、独り言を呟いていた。 
「ジュンはね、悪夢にうなされてるの。悪夢が恐くて、こんなみっともない姿になっちゃったのに、 
まだ悪夢を見てるのよ。ほら、早く起きなさいよぉ」 
人形は小さな手で、ジュンの頬をぺちぺちと叩いた。巴は泥眼のごとき顔で要求した。 
「桜田君を返して」 
「やあよ」 
水銀燈は拒絶し、再びジュンの頭部を抱きしめた。巴の竹刀が、ゆっくりと持ち上がった。 
  《 O salutaris Hostia 》 
そのとき、柿崎が詠唱を始めた。水を差された巴が振り返ると、背後から異常な速度で突進してきた影──。 
巴が反射的に竹刀で受け止めたのは、猛然と振り下ろされた桜田のりのクロスだった。 
  《 Quae coeli pandis ostium 》 
柿崎の歌に操られ、のりが激しい勢いで攻撃を繰り出した。しかし、巴はそれを尽く受け流し、 
容赦なくのりの胴体を打ち払った。ジュンの姉が木っ端のように吹き飛んでも、巴は顔色一つ変えなかった。 
  《 Bella premunt hostilia 》 
立て続けに山本が飛びかかってきた。巴は歯牙にも掛けず、得物を水銀燈に構え直した。 
山本の回し蹴りを片手で受け止め、返す掌底でスータンの背中に触れた。 
  《 Da robur, fer auxilium 》 
山本の体が物理エネルギーを無視した方向に舞い、堂内のパイプオルガンに衝突した。 
ここが現実世界ではないとはいえ、巴の体術は尋常のものではなかった。 

「もう一度言うわ。桜田君を返して」 
「誰よ貴女。今すぐ私のフィールドから出て行きなさいよ」 
ようやく、水銀燈が周囲の騒動に反応した。一方、無視された柿崎は、双眸を輝かせて微笑んでいた。 
「ふふふ……。あの子、魔女よ。決定。立ちなさい金糸雀。悪魔は全部殺さなくっちゃ」 
「かしら……」 
よろめきながら立ち上がった金糸雀を、水銀燈が汚物を見るような目で睨んできた。 
「ふぅん。貴女が人間たちを連れてきたの。そこのイカれたシスターと契約を結んだってわけ? 
信じられなぁい、ありえなぁい」 
「かっ、カナは水銀燈と争うつもりなんてないんだけど、貴女のマスターが悪いのかしら!」 
「相変わらずムカつく子だわぁ」 
会話がかみ合わず、金糸雀はしぶしぶバイオリンを構えた。柿崎の左手の指輪が、黄金の輝きを放った。 
「24のカプリッチオ、第1番ホ長調!」 
弦の上を走り出す弓は、瞬時に目視不能の領域に達し、超高速のスタッカートを連射した。 
音波による直接攻撃──。 
教会の全てのステンドグラスが粉砕し、水銀燈と巴の体が見えない何かに、ぐいっと持ち上げられた。 
金糸雀は小刻みな振動の中に長音を織り交ぜ、その音は真空の刃となって巴達を襲った。 
石の床を裂きながら迫るそれを、水銀燈は翼による運動で辛うじて避け、巴は竹刀の放つ衝撃波で相殺した。 
「嘘かしら!?」 
巴は中空に浮かんだ説教壇を蹴り、その反動で金糸雀に突撃した。 
「邪魔しないで!」 
飛び込む巴の前に、薔薇の指輪を掲げた柿崎が立ちはだかった。 
「せっかく一緒に連れてきてあげたのに、恩を仇で返すつもり?」 
巴は構わず竹刀を振るったが、その一閃を、柿崎の前面に生じた黄金の障壁が弾いた。 
「世迷い言を!」 
二撃目も、その光の壁を打ち破ることはできなかった。柿崎は冗談っぽく、半笑いで宣言した。 
「判決、被告人は死刑」 
狂った尼僧に気を取られた巴は、背後から迫るのりと山本に気がつかず、彼らに両脇から組み付かれ、 
たちまち動きを封じられてしまった。柿崎が金糸雀に命じた。 
「まずは、巴ちゃんの解体ショーよ。手足をバラバラにしちゃいなさい」 
「う……。わ、悪く思わないで欲しいかしら」 
主人のような残虐性を持ち合わせていない金糸雀の躊躇が、巴を救った。突然、のりと山本の輪郭が崩れ、 
幻のように姿を消してしまったのだ。偶然に解放された巴は間髪を入れず、油断した柿崎を打ち払い、 
金糸雀もろとも瓦礫の中に吹っ飛ばした。荒い息をつきながら巴が振り返ると、水銀燈の影はなかった。 
「一生やってなさい、おバカさぁん」 

捨て台詞を吐いて、水銀燈がステンドグラスの失われた窓から飛び去っていった。 
持ち去られたジュンを追おうと巴が駆けだしたが、彼女の体もまた、のりたちと同様にその輪郭が崩壊した。 
「そんな、どうして……!?」 
「タイムリミットかしら。心の迷子になって、nのフィールドを永遠に彷徨い続けるのよ」 
金糸雀が説明してやるよりも早く、巴は第8128世界から排除されていた。 
カシャン、と最後のガラス片が落下した後には、耳が痛くなるような静けさだけが残った。 
柿崎は身を起こし、荒れ果てた教会を出た。そして水銀燈の歌に耳を澄ませたときのように、夜空を仰いだ。 
「いい月ね、金糸雀」 
「かしら」 
金糸雀も、バイオリンを抱いて、月光浴をした。埃まみれの柿崎の表情は、何故か穏やかだった。 
「巴ちゃんたちは消えちゃったけど、水銀燈はずっとnのフィールドに留まってたのよね」 
「それじゃ、水銀燈の媒体はまだ……」 
「ふふふ……。みんな、私がキッチリ、殺してあげなくちゃね」 

山本少年が意識を取り戻したのは、異界の大樹の木陰だった。 
草と土の匂いと、明滅する幾千もの木漏れ日が、彼の感覚をより曖昧にしていた。 
「あれ。俺、桜田さんの家に謝りに行って、それで……」 
「鏡の世界に閉じこめられたんです」 
傍らから、山本に話しかける声があった。彼が恐る恐る視線を平行移動させると、 
おかっぱ頭に泣きぼくろの少女が、感情のない目で、横たわる山本を見下ろしていた。 
ややあって、そのセーラー服の少女とはまた別の、脳天気な声が聞こえてきた。 
「ああ〜ん、鏡の世界なんて、ちょっとロマンチックかもぅ〜」 
「俺もそう思います!」 
山本は一秒で立ち上がったのだった。 

(続く) 

次回予告: 
「酷いですよ、柿崎さん! 鏡の世界にほっぽり出して、後は知らん顔なんて」 
「よかったじゃないですか。この世界だと両手のケガが治ってて」 
「あ、巴ちゃんだっけ。いやいや、それ、ちっともよくないっすよ」 
「両手にケガをされてる間、何かいいことでもあったんですか」 
「いや、そういうことじゃなくてね」 
「不潔」 
「そんな目で見ないで〜! てゆうか、どうしてそうゆう発想になるの!?」 
「ええっ? 山本君、手にケガしてたのぅ?」 
「「………………」」 

第3話 庭師 die Gartnerinnen 

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