クリスマスも近くなったある日の桜田家
翠「ノリ、何してるです?」
ノリ「クリスマスが近くなったからクリスマスツリーの用意をしてるのよ」
カナ「私も手伝うかしら」
ノリ「ありがとう、カナちゃん」
本を読んでいた真紅が本を閉じて呟く
真紅「そう、もうそんな日なのね」
あの日から数ヶ月が経っていた、桜田家の年末。
ジュン「お前ら、紅茶できたぞ」
ノリ「ありがとう、ジュンくん」
カナ「サンタさんは私のところに来るかしら〜?」
翠「あんたみたいなワガママな人形には何も
プレゼントなんてないですぅ」
カナ「あんたみたいなツンツン女にも
サンタさんは来るわけないかしら」
翠「よくも言ったですね、この疑問か
断定かわからない口癖人形!」
カナ「言ってくれたかしら、この腹黒人形!」
ジュン「不毛な争いだな…」
そう、この二人は相変わらずだ。
真紅「馬鹿じゃない?私達は人形なのよ。
それに命だって神様から授かったものじゃないわ」
翠星石「相変わらず夢のない女です」
ノリ「せっかくのクリスマスだし、みんなで
楽しみましょう」
翠・カナ「さんせ〜い」
クリスマス…真紅はあることを思い浮かべた。
それから数日が過ぎて、クリスマスイブの日
カナ「わぁ〜なんて美味しそうなのかしら〜」
翠「私も手伝ったんですよ」
真紅「イチゴを載せただけだわ」
翠「真紅はいちいちうるさいですっ」
翠「それにしてもジュン、遅いです」
真紅「ジュンが気になるの?」
翠「べ、別に気にしてなんかないです!
もう腹ぺこだから始めるです!」
ノリ「そうね、もう始めましょうか」
今までにないようなご馳走がテーブルに並んでいる。
ケーキに、チキンの空揚げに、手巻き寿司、
スペシャル花丸ハンバーグ、そしてシャンパンと食後の紅茶。
「メリークリスマス!」
弾け飛ぶシャンパンと同時にバタンと開く扉
みっちゃん「はぁ〜いサンタクロースの登場ですよ〜」
ミニスカサンタクロース姿のみっちゃんだ。
翠「サンタクロースの雰囲気もなにも…」
真紅「ないわね」
カナ「………」
みっちゃん「そしてコレはプレゼントぉ〜」
何やら大きな袋をひとつ、小さめの袋をみっつ抱えている。
カナ「わぁ〜何かしら何かしら〜」
翠「イヤ〜な予感がするです…」
真紅「大体予測がつくわ」
ノリ「えっ?なになに?」
ミニスカサンタの衣装ドールサイズ。ノリの分まである。
ノリ「きゃあ〜かわい〜」
カナ「なんて可愛いのかしら〜」
真紅「言葉もないわ」
翠「…です」
その後はもうノリとみっちゃんはハイテンション。
シャッターの嵐だ。だけど、騒がしいなりに
楽しい時間が過ぎていった。
カナ「また来るかしら〜」
翠「どうせ明日も来るのわかってるです」
真紅「またね、カナ」
カナ・みっちゃん「バイバーイ」
ジュン「ただいま〜」
もう時計は10時半を回っている
ノリ「お帰りなさい、遅かったわね」
ジュン「ちょっとな。あ、お前たちまだ起きてたのか」
翠「こんな時間までどこほっつき歩いてたですか?
ジュンのご飯もケーキも食べてしまうところだったです」
真紅「カナが全部食べようとしたイチゴをしっかり守ってたわよね」
翠「ばばばかなに言ってるですか!あとで私が
食べようと思ってただけです!」
ジュン「へえ、珍しくうまそうだな。いただきます」
ノリ「どうぞ召し上がれ」
ジュン「あ、これなに?」
ノリ「シャンパンよ」
ジュン「あ、口あいてる」
翠「さっきちょっと飲んだです(いっひっひ…
さっきみっちゃんが飲んでたワインをサイダーで
割ったものと変えたですよ。とっとと飲んで
酔っ払うですチビ人間)」
ジュン「変わったシャンパンだな…でも美味しいかも」
そしてお約束通り顔が赤くなったジュン。
真紅「あなた、まさか…」
翠「ほんとにだらしないですわ。シャンパンで酔う
チビ人間はアルコール耐性までミニサイズです」
ノリ「ジュンちゃんはお酒にとても弱いのねぇ。
どれどれ、私も飲んでみようかな」
翠「…あっ」
わかってないのがいた。
ノリはあっという間に爆睡。激弱。
真紅「人のこと言えてないわね」
ジュン「なあ、真紅」
顔は赤いがいつになく真顔のジュン。
真紅「な、なによ?」
そんなジュンの表情に戸惑う真紅。
しゃがみ、ソファーにいる真紅の頭をそっと撫でる。
ジュン「真紅ってさ、すごく綺麗だよな」
真紅の瞳をじっと見つめてそう言った。
真紅「……ッ////」
翠「はぁ!?何酔って調子こいてるですかチビ人間!」
ジュン「初めてのときは生意気だったけど、ほんとに
優しくなったよな。オレにもねえちゃんにも」
真紅「…………」
うつむいてるため表情はよくわからないが、耳を赤くしてる。
ジュン「翠星石は素直じゃないけど、実はみんなに優しいし
可愛いところがある。お前たちの中で一番お姉ちゃんしてるもんな」
翠星石の頭にポンと手のひらを乗せる。
翠「えっ……」
ジュン「カナはやかましいけれど、この家を明るくしてくれてる。
雛苺もそうだったよな。そして蒼星石はいつもみんなのまとめ役だった」
ジュン「お前たち言ったよな、完璧な少女アリスになりたいって。
でも全然完璧じゃない。やかましいし自分勝手。泣くし、怒るし
笑いもする。悩んで他人を思いやって涙したりする優しさがある」
静かにジュンの言葉を聞く真紅と翠星石。
ジュン「オレが個人的に思ってること
だけどさ、お前たちは立派な女の子だよ」
真紅「ジュン…」
ジュン「また悲しいことがあるかもしれない。いつまで
一緒にいられるか、次があるかもわからないけど…
もし、あるなら今度はみんなでクリスマスしような」
真紅「…ありがとう…」
翠「ジュン…ありがとうです…」
ジュン「だから…激励と愛を込めて口づけを…まずは翠星石から」
スッと翠星石を抱き上げた。
翠「そんな…私は…人形…」
ジュン「ううん、今は1人の女の子だY(ryバシバシッガッ
髪の毛とエルボーがSMAAAASH!
真紅「何雰囲気に飲まれてるの!」
翠「だ、だって…ジュンが…」
真紅「まったく…呆れたものだわ」
翠「真紅も顔まっ赤です」
真紅「うるさい!寝るわよ!」
翠「は、はいですっ」
そんなバタバタした桜田家から変わってここは静かな教会。
クリスマスイブだというのに人の気配のない寂しい教会。
けれどメグはそれを気に入っていた。
何回目だろう、この日にここへ来るのは。
メグが扉を開けいつものように祈りを捧げようとしたとき
祭壇の上に何かあるのに気がついた。袋だろうか。
メグ「何かしら…これメリークリスマス…メグ&水銀燈」
袋の中身を開けてみた。
メグ「わぁ…」
水銀燈「病人が真夜中に何してるのよ」
メグ「…これ、見て?」
袋の中から取り出して水銀燈に見せた。
出てきたのは水銀燈とクンクンのぬいぐるみ。
メグ「これ、ふたつとも手作りだよ。かわいい…」
水銀燈「………」
メグ「あれ、天使さんのぬいぐるみの背中、ネジ巻きがついてる」
メグはネジを回した。
するとぬいぐるみからオルゴールの音がする。
オルゴールがぬいぐるみの中に組み込まれているのだろう。
教会にオルゴールの音が響く。
メグ「とても優しい曲ね」
水銀燈「…そうね…」
ここは真紅の夢の部屋。
真紅「やっぱり来たのね」
水銀燈「なんであんなふざけたマネをしたの?」
真紅「マネなんかじゃないわ」
水銀燈「私には神なんていらない!いない!
お父様だけしか必要じゃないもの!」
真紅「初案は私だけど中身までは知らないわ。ただあなたと
ミーディアムのことをほんの少し聞かせただけ」
水銀燈「…あのミーディアムが?」
真紅「頼りないけど…とても心の優しいサンタクロースよ。
あなたも、蒼星石もあなたのミーディアムのことも
とても心配してる。馬鹿みたいよね、私達人形の
ことにまでこんなに親身になって」
水銀燈は真紅に背を向けた。
真紅「水銀燈」
水銀燈「……帰るわ。頼りないサンタさんによろしくね」
そう言うと水銀燈は姿を消した。
そして…
ジュン「あいてて…なんでこんなに腹が痛いんだ…
頭もガンガンするし…うう…水でも飲むか」
時計をちらりと確認した
「…5時20分か」
蛇口をひねり水を飲む。
(あっ、そうだ忘れるとこだった!ヤバいヤバい…)
すぐさま両親の使っていた部屋に向かう。
ここはほとんど使われてない為、無警戒で中でいろいろできた。
「みんなにバレたらまずいからな…静かに…」
いろいろあったクリスマスイブが明けて朝になった。
カチャリとカバンがふたつ開く。
翠「ふぁ〜…夜更かししたせいで寝不足ですぅ
…ん?これはなんですかね…メリークリスマス
翠星石、メリークリスマス真紅」
真紅「何かしらね」
翠星石「私のは妙にスカスカですね…」
翠星石の袋は翠星石と蒼星石の名前が彫られた
二枚の銀のプレートをペンダントにしたもの。
そして真紅の袋はクンクンの手作り抱き枕だった。
翠星石「…ほんとに…バカやろうです…」
涙目になる翠星石。
真紅「カバンにこんなものを入れろって言うの?…まったく…」
そう呟く真紅の頬は少し赤い。
時間は過ぎてお昼前
ジュン「う〜ん…まだなんかまだ
ぼんやりする…あれ?姉ちゃんは?」
真紅「朝ご飯作ってまた寝てるわよ。それにひきかえ
あなたはいつまで寝てるつもりかしら。酷いものだわ」
翠星石「ほんとです。太陽はもう真上にあるですよ」
ジュン「……!…翠星石!お前、昨日
シャンパンを酒とごまかしただろっ!」
翠星石「酷いです!そんなことしてないですぅ!」
どうやらジュンは酒の一件は全く覚えてないらしい。
真紅はそう分かるとすぐさま一手を放った。
真紅「あら、そんなこと言っていいのかしら?
昨日はあんな酷いことしたくせに」
みるみるうちに顔を真っ赤にしてうつむく翠星石。
ジュン「う…嘘だよな?」
真紅「酷いわ。覚えてないのね。ねえ、翠星石?」
翠星石は真紅の意図を読み取った。
翠「あ…あう…そうです、エッチなことも
言ったです。そして私達にキスを…」
ジュン「してないしてないしてない!嘘だよな!?なっ?」
翠「ひどいです…私達の唇を奪っておいて…」
真紅「真紅は綺麗だ。翠星石は可愛いとも言ってたわ」
これはほんと。
ジュン「うわぁぁぁ嘘だーっ!」
真紅「ジュン…楽しいクリスマスをありがとう」
ジュン「えっ?」
翠「だから、キスの件はなかったことにするです。
心優しい私たちに感謝するですよ、チビ人間」
真紅「それはそうと喉が乾いたわ。ジュン、紅茶を入れなさい」
ジュン「わ、わかったよ…」
そんな桜田家のクリスマスの1日。
真紅と翠星石はいつものようにジュンの紅茶を待っている。
FIN.
ークリスマスの次の日あたりー
ノリ「翠星石〜お届け物が来たわよ。」
翠「おじじからですぅ。なにかしら?」
小さな箱の中にはクォーツ式の懐中時計が入っていた。
表を見る限りは普通の時計だが裏を見ると
ーMerry X'mas SUISEISEKI From SOUSEISEKIー
…と彫られていた。
翠「……蒼星石…………っ!」
時計を固く握って涙が止まらなかった。