ジュンが何時ものようにパソコンと向き合ってネット通販に浸っていた時だった。
突然ドタドタと音を立てて階段を駆け上がって来た真紅がジュンの部屋のドアに飛び込んで来た。
「ジュ・・・ジュン・・・!?」
「どうした?」
「最終回って・・・どういう意味かしら?」
「は?」
突然真紅の口から発せられた言葉にジュンは一瞬呆れた。しかし真紅の顔は真剣だった。
「最終回って言うのは、もうこのお話でお終いって意味だよ。」
「え・・・。」
真紅は青ざめた。まるで世界の終わりを見るかのような絶望的な顔をしていたのである。
「それじゃあ・・・くんくんは・・・嫌ぁぁぁぁぁぁ!! くんくぅぅぅぅぅぅん!!」
「おい! どうした!? どうしたんだ!? 真紅!?」
その場で頭を抱えてのた打ち回り始めた真紅にジュンは慌てて駆け寄った。
「嫌ぁぁぁぁ!! くんくんが・・・くんくんがぁぁぁぁぁ!!」
「おい! どうしたんだよ! 何があったんだよ真紅!?」
薔薇乙女の中でもクールな反面、くんくんが関わると一気に冷静さが失われる真紅であるが
今の真紅の狼狽する様は普通ではない。明らかに異常だった。そして真紅は泣きながらジュンに抱き付いた。
「ジュ・・・ジュン・・・聞いて頂戴? さっき・・・くんくんを見ていたら・・・来週・・・最終回って・・・。」
「え!?」

それ以来真紅はジュンの部屋に閉じこもってしまい、夕ご飯の時間になっても降りてこなかった。
「真紅ちゃんどうしちゃったの? 今日は花丸ハンバーグなのに・・・。」
「来週くんくんが最終回らしくてさ、それで落ち込んでるんだあいつ・・・。」
「まあ・・・。」
ジュンは夕食を食べ終わった後部屋に戻るが、真紅は明かりを付けていない真っ暗な部屋の中で
ジュンのベッドの上で体操座りした状態でいじけていた。
「おい真紅・・・。電気くらい付けろよ。それに今日は花丸ハンバーグだぞ。」
「いらない・・・。」
「おい・・・悲しいのは分かるけどせめて飯くらい食えよ・・・。」
「いらないわ・・・。くんくんのいない世界なんて私にとって何も無いも同然だもの・・・。
だから私は今度のくんくんの最終回が終わった後、私のローザミスティカを水銀燈に渡すつもりにしたわ・・・。」
「な・・・お前何血迷ってるんだよ!! 落ち着け!!」
真紅の爆弾発言にジュンは慌てて真紅の肩を掴んだ。その時の真紅の目からは大粒の涙が止め処なく流れていた。
「くんくんが終わってしまうと言う事はくんくんが死んでしまうも同然なのだわ!
だから私も一緒にくんくんの所に行くの!」
「おい! いい加減にしろよ! 確かに今度でくんくんは終わってしまうかもしれないけど
まだ今までビデオに撮った分が残ってるだろ!」
「一々うるさい下僕ね・・・。放って置いて頂戴・・・。」
「真紅・・・。」


その日を境に真紅は無気力状態となり、何をするにしても気が入らなくなってしまった。
そしてついにくんくん最終回の放送日がやって来た。
「うう・・・くんくん・・・。」
放送中真紅は延々泣き続けていた。確かに最終回だけあってかなり感動的な物語が展開されていたのだが、
それ以上にもうくんくんと会えないと言う悲しみもプラスされ、真紅の悲しみは想像を絶していた。
「くんくん・・・今までありがとうなのだわ・・・。」
感動的なラストシーンの後、エンディングのシーンで真紅の悲しみは絶頂に達した。
そして真紅は立ち上がった。
「ジュン・・・のり・・・今までありがとう・・・。私はこれから水銀燈の所に行くわ・・・。」
「ちょっと待て! お前まさかマジで・・・。」
「くんくんが終わった以上生きていても仕方が無いもの・・・。」
「待て行くな真紅!」
「真紅ちゃん待って!」
部屋から出ようとする真紅をジュンとのりが止めようとした時だった。
『くんくん新シリーズ! 世界征服を企む秘密結社バラバラ団にくんくんが名推理で立ち向かう!
次回! ”新名探偵犬くんくん”に・・・よろし〜くんくん!』
「え・・・。」
真紅は硬直した。
「なるほど・・・タイトルを変えて仕切りなおしと言うパターンか・・・。
にしても良かったな真紅・・・くんくんが終わらなくて・・・。」
「バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァイ!!」
「うわぁ! どうしたんだ真紅!?」
突然狂ったように万歳三唱を始めた真紅にジュンは真剣に焦った。
だが、良い意味で予想を裏切られた真紅の喜びは計り知れない。
そして真紅は嬉しさの余り大粒の涙はおろか鼻からも大量の鼻水を止め処なく流し、
挙句の果てにはジュンに抱き付いて皆の見ている前でどうどう口付けをするなどやりたい放題だった。
「バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァイ!!」
「と・・・とにかく・・・これで真紅もローザミスティカを渡さなくて済んだな。」
「そうは問屋が卸さないわぁ!」
皆の前に水銀燈が現れた。
「さあ真紅。約束通りローザミスティカを戴きにぃ・・・。」
その直後だった。水銀燈の顔面に真紅の拳がめり込まれたのは・・・。
「私とくんくんの愛の絆は何人たりとも切り離す事は出来ないのだわ!」
「そんな・・・話がちが・・・。」
水銀燈はそのままぴゅーんと吹っ飛んで行った。そしてまたも真紅の万歳三唱が始まった。
「バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァイ!!」

その日の晩、喜び疲れた真紅はすやすやと眠りに付いていた。
くんくんのぬいぐるみを抱きしめながら・・・
「くんくん・・・頑張るのだわ〜・・・。」
とても良い夢を見ていそうだった。
                    おわり






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