今日もジュンはネットに興じ、真紅は読書、雛苺は紙にクレヨンでお絵かき。 なんの事は無いいつもの光景である。しかし、その日は違った。 「あ〜! 遊びに来てくれたの〜!」 雛が立ち上がって窓の方に走った。雛苺と仲の良い近所の野良猫がジュンの部屋の 窓まで登って来ていたようである。 「キャァァァァァァァァ!!」 真紅が悲鳴を上げた。無理も無い。真紅は他の姉妹と違って猫が大の苦手なのだ。 普段のクールさは何処へ行ったのか、真紅は読んでいた本を捨て、なりふり構わず ジュンに抱き付いていた。 「嫌ぁぁぁぁ! 猫・・・猫嫌ぁぁぁぁ!」 「真紅〜そんな事無いのよ〜。猫さんはとっても優しいのよ〜。」 「何を言っているの!? 猫はこの世で最も野蛮な生き物なのよ!」 「そんな事無いったら〜。」 猫と仲の良い雛苺には何故真紅が猫を怖がるのかが理解出来なかった。 そしてあっさり窓を開けて部屋の中に猫を入れてしまうのだが、猫は真紅の方へ走って来たではないか。 「にゃ〜お〜。」 「キャァァァァァ!!」 真紅はまるでバケモノにでも襲われたかのように驚愕した表情で逃げ出した。 しかし、猫は逃げる真紅の後を追っていた。 「嫌ぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」 「ニャ〜ゴ、ニャ〜。」 真紅のドレスは目立つし、またツインテールヘアーが猫に対して猫じゃらしの効果を出しているようで 猫にとっては追わずにいられない様子だった。そして真紅が逃げれば逃げる程ツインテールヘアーは 激しく揺さぶられ、余計に猫を追わせてしまうのである。そしてついに猫に飛び付かれてしまった。 「嫌ぁぁぁ! 離して! 離してぇぇぇ!」 「ニャ〜ニャ〜。」 猫はもがく真紅のツインテールヘアーの動きに合わせて前足を動かしていた。 猫は真紅と遊びたいだけで悪意は全く無かったのだが、真紅にとっては恐怖以外の何者でも無かった。 「おいおいもうその辺にしとけよ。ってあら〜・・・気絶しちゃったか・・・。」 ジュンは真紅とじゃれあう猫を笑いながら見つめていたが、真紅はついに恐怖に耐え切れずに気絶してしまった。 そして・・・ついにそれは起こった。 ジュンは気絶した真紅を自分のベッドに寝かせていた。そして一時間くらいした頃、真紅は目を覚ました。 「やっと起きたか真紅・・・。もう猫は帰ったから安心しろ。」 「おとうたま・・・あたちじゅーすがのみたいの・・・。」 「え・・・。」 ジュンは硬直した。真紅の様子が可笑しい。いつもの真紅なら猫が来た時にどうして 助けてくれなかったとか問い詰めたりするはずである。だが気絶から目覚めて以来何かが変わった。 口調やセリフが違うだけじゃない。と言うかジュンに対しておとうたまと言っていたし、 紅茶じゃなくジュースを欲しがり、さらにはまるで赤ん坊のように指をしゃぶったりもしていた。 「お前・・・まさか・・・。」 そのまさかである。猫に対する恐怖心が限界を超えた結果、真紅の自我は崩壊し、幼児退行してしまった。 「真紅・・・。」 「おとうたま・・・あたちじゅーすがのみたいの・・・。」 「ああ幾らでも飲ましてやるよ・・・お前の大好きなジュースを・・・。」 ジュンは真紅を優しく抱いた。 幼児退行した真紅はそれまでのクールで女王様気質では無くなり、小さな女の子と言う感じに変貌した。 もうジュンを下僕とこき使う事は無くなったが、その代わりジュンを父親と認識しているらしく、 雛苺以上のわがままさで、今までとは違う意味でジュンを困らせていた。 また、この状況で水銀燈に襲われたらひとたまりも無いと思われたが、幼児退行してしまった真紅を見た 水銀燈はまるで可哀想な者を見るような目で見逃し、去っていった。 現在ドールズが皆で協力して幼児退行してしまった真紅を元に戻そうと頑張っているが、 ジュンは今の真紅がとても可愛らしく見え、このままでも良いかもと密かに考えてた。 「おとうたま・・・あたちじゅーすがのみたいの・・・。」 おしまい ――――――――――――――――――――――――― バキのドリアン編(特にラスト)を読んでて思い付いたネタだったりするんだけど・・・ 幼児退行の表現が難しいし、何かカオスっぽくなってスマソ