「どうしたんだい?水銀燈」柔らかい光の差し込む部屋には水銀燈と1人の男がたたずんでいる。 「なんでもないわ、おじ様」本当は真紅の事についてかなり悩んではいたのだけれどできるだけ馬鹿の相手はしたくない。 この男と出会って間もない頃は契約なんてする気はまったく無かった。あまり認めたくは無いが死んだめぐの事が胸に痞え、 なによりこのアホ面の男───むしろこの男の手下の方がよっぽど切れ者そうだったが───などとは到底受け入れられそうにも無かった。 しかしこの男の力・・・それは魅力溢れるものだった。本当に幸運だったとも思える。自分の手で真紅を消し去る事ができないのは残念だが 人工精霊を失い、いつの間にやら復活していた蒼星石と真紅・翠星石を相手取るにはこの男──周りの人間は”偉大なる首領様”などと呼んでいたが 自分には”この男”で充分──の力が必要だった。プライドだけは高そうなので一応おじ様と呼んでやってはいるが水銀燈にはこの男に対して敬意 はまったく持っていない。するとそこへこの男の手下がやってきてなにやら報告した。 満足げにうなずいた男が胸をしゃちほこばって命令を下す。その様子は何かの喜劇の様にも見えたがその命令自体は悲劇を生み出すものでしかない。 日本への核攻撃・・・それがこの男の下した命令だった。「これで真紅も終わりね」水銀燈は小さく呟くと羽を拡げ、そうっと部屋から抜け出す。 目的がほぼ達せられた今、ここに留まる理由は何も無い。ぐいぐいと高度を上げる水銀燈の目に地上から駆け上る流星が見えてきた。 小さく笑う、「本当におバカさんなのね、首領様」自嘲気味に呟いたのはまだ真紅の事に心残りがあったのだろうか。 そんなはずは無い!間接的とは言え真紅はめぐを殺した。そこまで考えるとふと気付いた。自分がめぐの事をまるでかけがえの無い大切な存在の様に思っていることを。 その頃には流星は見えなくなっていたがそれでも水銀燈は高度を上げ続けた。まるでそうすればめぐの居る世界へ近づけるかというように・・・