私は一度真紅との戦いに敗れた。 アリスになるための戦いに。 アリスとは一遍の穢れも無い完璧な少女・・・ 最近疑問に思うことがある。 本当にアリスになるためにはアリスゲームしか道は無いのかと。 アリスにはなりたい。お父様にも会いたい・・・がしかし―。 ・・・殺しあって、穢れの無い少女になる・・・か。 よくよく考えればおかしな話だ。 ・・・・ 薔薇「お姉さま?どうかしたのですか?」 銀「ん?なんでもないわ」 雪華「へんなの」 水銀燈は薔薇水晶、雪華碕晶達と暮らしている。 何を思ったか蒼星石も最近水銀燈側に身を置いている。 一緒に居る名目はもちろん 「打倒、憎き真紅その他残り」 だ。 今はメグの病室で真紅ら一味を奇襲するための作戦を立てているところだ。 メグは水銀燈達が居るだけでなんだか嬉しそうだ。だから極力ここに集まるようにしている。 看護婦達は最近のメグを見て「随分明るくなったわね」と言うらしい。 それをメグは「あなたのおかげ」と言うが私は何もした覚えは無い。 ホント、この子はよく分からない所のある子だ。 でもどうであろうと少しでも良くなったのなら嬉しい。 水銀燈は思考を一旦止め、作戦会議に頭を戻した。 薔薇「ではまず私が先頭に立って翠星石達、雑魚をやっつけるわ!」 雪華「それは私がやるわ。あなたみたいなニセものは暫く引っ込んでなさい」 が、いつものように話はなかなか前に進まない。 薔薇「はぁ?新入りのくせによくそんな生意気が言えるわね」 雪華「だってあなたみたいな偽者に気を使う必要なんてないもの」 薔薇「なんですって!!!」 薔薇水晶と雪華碕昌の喧嘩が始まった。いつものことだ。 銀「はぁ・・・また始まったわぁ・・・」 水銀燈はまるで、人間の親が自分の娘達のじゃれあいを見るような感じの面持ちで眺めている。 彼女はこの時間が別に嫌いではなかった。 こんな水銀燈を見るのは初めてだ・・・横で見ていた蒼石星は思った。 薔薇「痛ててて!やめてよ!もう!」 雪華「へへーだ!」 銀「はぁ。もういい加減にしなさいよ。」 こんなに幸せそうな水銀燈・・・ 昔の水銀燈は違った。 いや、水銀燈だけじゃない。今では真紅や翠星石、金糸雀、皆変わってしまった。 お父様に会う事より今の幸せを優先しているような気がする。本当にこれでいいのか。私たちの存在目的を忘れてしまったの? 銀「蒼星石?」 蒼「・・・」蒼星石は気づかない。 銀「ちょっと。蒼星石、どうしたのよぉ」 蒼「あ、いや、なんでもないよ。」 銀「あなた最近おかしいわよ。何かあったの?あ、真紅奇襲について、あなたの意見も聞きたいわぁ」 水銀燈・・・君は何故そんなにも幸せそうなんだい? 蒼「・・・ご、ごめん水銀燈。ちょっと休んできてもいいかい?」 銀「そうね。そのほうがいいかもしれないわ。いいわ。外の空気でもすってきなさい。」 雪華「お姉さま、そんなひ弱な奴ほっときましょうよ」 雪華碕昌が余所見した瞬間、薔薇水晶のパンチが飛んできた。 雪華「うぎゃあ!やったわね!」 薔薇「あなたが余所見してるからよ」 雪華「お姉さま〜!こいつまじムカつく」 薔薇「元々あなたが悪いんでしょ!」 また喧嘩が何分か続いた。いつもこれの似たような感じの繰り返しだ。 水銀燈はメグの方に目を移した。いつもこうして定期的に彼女の様子を伺う事にしている。 いや、意図的にそうしているのではなく無意識にそうしてしまうようだ。 どうやら彼女は寝てしまったみたいだ。 こんなに煩いのによく寝れるわね・・・水銀燈は思った。 でもメグの寝顔を見ると何故か落ち着く。 銀「はいはい、もう終わり。話し合いに戻るわよ」 水銀燈は薔薇水晶と雪華碕昌の間に割って入り、引き離した。 薔薇・雪華「うわぁっ」 銀「そうだ、その前にちょっと蒼星石の様子見てくるからその間おとなしくしてるのよ」 雪華「バラバラが大人しくしてたら静かに出来るのよ」 薔薇「はぁ!?それはこっちのセリフよ!ていうかバラバラってなに?気持ち悪い名前で呼ばないでよ!」 銀「いい加減にしなさい!ここは病室よ。」 薔薇水晶と雪華碕昌は水銀燈の声に驚き、しゅんとした。 銀「静かにしてるのよ!わかった?」 薔薇・雪華「でもぉ!」「なによ!」 水銀燈「もう!返事は?」 雪華・薔薇「はーい・・・」 水銀燈は蒼星石のいる屋上へと窓から飛んでいった。 水銀燈「本当にあの子達の世話は疲れるわぁ」 水銀燈本人は気づかないが、その顔には笑みがこぼれていた。 (雪華碕晶の「碕」ってこれで合ってたっけ?) 雪華「もう行った?」 雪華碕昌が小声で切り出した。 薔薇「ええ、行った・・・。」 雪華「あなた、ホント演技上手いのね。ちょっと怖い。」 薔薇「あなたも。」 雪華「水銀燈・・・変わったわね。」 薔薇「・・・あれ位・・・馬鹿な方が私たちには、やりやすい・・・」 雪華「・・・水銀燈・・・哀れね」 二人の顔は先ほどの無邪気な笑みから一変していた。 薔薇「計画通りです。」 雪華「そうね。」 二人の視線はメグの方を向いていた。 空は真っ赤に染まっていた。綺麗だ・・・ 最近は本当に気分がいい。昔は違った。何を見ても否定的・悲観的な発想しか浮かばなかった。 目線の先に蒼星石は居た。夕焼けを浴び、大変美しかった。姉の自分が見てもドキッとしてしまうほどだ。 銀「蒼星石?大丈夫?」 こうして二人だけで話すのは初めてかもしれない。 蒼「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」 銀「なっ、何よ////勘違いしないで。あなたがひ弱だからちょっと見に来てやっただけよ。」 蒼「同じじゃない?」 「ありがとう」 良い言葉だ。 私は過去に誰かからありがとうなんて言われた事もなかった。 別に言われたくも無かったし、言う事もなかった。 今更ながら改めて自分の変わり様に驚く。いや正確には「変わった」のではなく 正常に「戻った」のかもしれない。 もちろん、そうなるキッカケを作ったのはメグだ。 彼女は昔の私を認めてくれた、受け入れてくれた唯一の存在だった。 そして彼女も私と同じ様に「欠陥」を持っていた。 「他とは、違う・劣っている」という事の苦しみも、彼女はよく知っていた。 だから私は彼女を救いたかった。 しかし、結果的に救われたのは私の方だった。 彼女は、苦しみ・憎しみ・怒りのみに支配された地獄の底に光をさし入れてくれた。 そして時が立つにつれて徐々に変わる事が出来た。本来の自分を取り戻すことができた。 今は彼女に恩返しをしたいと思う。今度こそ私がメグを救う。 薔薇水晶はローザミスティカでメグを救えると言っていた。 自分は無力だ。医者でもなければ、彼女の心の支えになってやる事も出来ない。 彼女のために何もしてやれない。しかし唯一できる事といえば、薔薇水晶の言うそれだけであった。 しかし、ローザミスティカでメグを救えば、もうアリスになる事が出来なくなってしまう。 アリスになるためには全てのローザミスティカが必要だからだ。 大好きなお父様に会えなくなってしまう。 どちらにせよ・・・アリスゲームを始めなければならない・・・わかっている・・・いつかは始めるつもりだ。でも・・・。 いつものように頭の中がぐちゃぐちゃと螺旋思考におちいってしまう。 そしていつものようにそこで考える事をやめた。いや、止めたと言うより、逃げた。 それにしても・・・彼女が気づかせてくれた自分が、彼女を救う事を妨げているか・・・。 皮肉な話だ。 銀「もう!そんなに元気なら話し合いに戻るわよ」 水銀燈は薔薇水晶達がいる方へ戻ろうとした。 蒼「水銀燈」 銀「何よぉ」水銀燈は立ち止まった。なにか嫌な予感がする。 蒼「ちょっと聞いてもいいかい?水銀燈」 銀「だからなによ」 蒼「君は・・・お父様に会いたくないのかい?」 銀「は、はぁ?なによいきなり。会いたいわよ。会いたいに決まってるじゃない。馬鹿じゃないの」 水銀燈は動揺した。その事は考えたくないのに。平常心を、装う。 蒼「本当に?じゃあなぜ今すぐに真紅達をやっつけに行かないんだい?」 銀「だから、今そのために話し合いを―」 蒼「嘘だ!」 蒼石星は言い放った。 蒼「嘘だ。君は全然真紅達をやっつける気なんてない。君は今の生活を楽しんでいる。真紅達と同じだ。 僕はもうママゴトの様な生活はこりごりなんだ。今の時代に僕たち姉妹は集まった。 これはお父様がありスゲームを始めよという御意志しよるものだ。今すぐにアリスゲームを始めなきゃだめなんだ。」 銀「わかってるわよ!そんなこと・・・」 蒼「君はアリスになることを切望していた。思いは誰よりも強い。だから 時には冷酷になれた。 僕は君の様になりたかった。だからここへ来たんだ。 ここなら感情に左右されず、 邪魔が入ることなくアリスゲームに集中できると思った。 」 銀「・・・」 蒼星石が昔の私のようになりたいですって?何故?あんなに辛いのに。 蒼星石は続ける。 蒼「でも君は・・・もう変わってしまった。」 蒼「もう僕は一人で戦うよ。もう誰にも頼らない。元々ローゼンメイデンたちは皆敵同士。 そもそも誰かと協力する事自体間違ってるんだ」 いつもの蒼星石とは明らかに違う目をしている。 銀「あなた・・・今から真紅達と戦うと言うの?」 蒼「うん。そのつもりだよ。」 銀「翠星石が相手になっても?」 蒼「言ったでしょ。もう僕は一人だって。誰とも関わらない。相手が誰であろうと構わないよ。もう、僕は、何処にも、逃げないし 頼らない」 銀「・・・」 嫌だ。失いたくない。誰も失いたくない。もう、一人になるのは嫌だ。 水銀燈は自分の中にこんなにも戦いを否定する明確な意思がある事に、不思議な事に今更ここで気づいた。 今までどんなに孤独が辛くても表に出した事はなかった。 時々、辛くて絶えられない時もあった。そかしそういう時はもう一人の強力な自分がその叫びを叩き潰し、封じ込めてしまうのだ。 そしてその強力なもう一人の自分が以後の感情を支配してしまう。 僅かながらその名残がいまだに付きまとっていたようだ。 蒼「もう行くよ。いろいろありがとう。今ここで君と戦う気はない。でもいつか必ず戦う日は来る。その時はよろしくね」 蒼星石は飛び立とうとした。 銀「あなた・・・」 蒼「ん?何?」 水銀燈は聞き取りにくい程小さな声で言った。 銀「あなた・・・孤独というものがいかに辛く・苦しいのか知らないでしょう」 蒼「そんな事わっかってるよ。でもお父様に会うためだ。どんなに辛い事でも乗り切れる自信はあるよ。」 銀「ふふ」 蒼「何がおかしいの?」 銀「ホント昔の私を見ているみたいだわ。」 銀「それにしても昔の私に憧れるなんて、あなたも変わり者ね」 銀「でも・・・」 水銀燈は微笑んだ。 銀「そんな強がり、一体何日続くかしらね。見物だわ」 明らかに作り笑いだった。 銀「いいわぁ。あなたがそこまで言うなら勝手にしなさい。別に私は元々あなたに 銀「期待なんかしていなかったから。ちょっと真紅達に接近しやすくなるかしらと思ったけど。」 行かないで欲しい。お願い。行かないで。 水銀燈は心の中で祈った。 蒼「ふふ・・・じゃあ。いろいろありがとう。姉さん」 蒼星石微笑んだ。 その瞬間ドキッとした。 水銀燈「あ、あなたが姉さんと言うとなんだか気持ち悪いわぁ。さっさと行って。」 姉さんと呼ばれた。嬉しかった。 そして彼女は背中を向けた。 行かないで欲しい。行かないで!ここに居て!お願い・・・ 水銀燈は心の中で蒼星石の背中に何度も叫び続けた。 声に出して叫びたいが・・・そんな事出来る筈ない。。 思いもむなしく蒼星石は飛び立っていった。 まるで、自分の大切な宝物を崖に落としてしまったかのような気がした。 銀「あなたが一人減ったくらい・・・」 目の奥が重くなってきた。 銀「ふん、馬鹿みたぁい。」 全く。強がっているのは私の方ね・・・ その直後、水銀燈は涙をこらえる事が出来なかった。そんなに嘆くほどの事では無い。 そうだ。たかが一人減っただけではないか。私にはまだ薔薇水晶や雪華碕昌がいる。メグもいる。まだ一人なんかじゃない。 それでも何かが目の奥にこみ上げてきて自分でも不思議なほど涙が出てくる。 水銀燈はその場で泣き崩れた。 なぜ、自分は素直になれないのか。何故あの時蒼星石を無理やりにでも止めなかったのか。 もう遅い。蒼星石は真紅達と戦うだろう。もうどうしようもない。 「待ってるから・・・」と水銀燈は言った。いや声には出ていないかもしれいない。 ただただ、蒼星石が戻ってくる事を願って。しばらく水銀燈はその場を動く事が出来なかった。 「・・・いよいよ・・・アリスゲームの・・・始まりです。」 屋上の給水タンクの上からその様子を見下ろしていた者がいた・・・ それは不気味にほくそ笑んでいた。 ・・・一体どれくらいそこにいただろう。数分と言われても数時間と言われても信用できる。 「・・・さぁて」 水銀燈は顔を上げた。もうその顔にはさっきまでの悲しみは微塵も残っていなかった。 苦難を乗り越えた経験のある彼女の心はやはり強かった。 「薔薇水晶と雪華碕昌は大人しくしてるかしら。メグを困らせていなければいいけど。」 もう彼女は屋上に来る前と同じ顔をしていた。 水銀燈は早速メグの病室の方へ向かっていった。 ・・・あと数秒後、本当の絶望を味わう事になるとも知らずに。 ――――――――――――――――――――――――― 雛「ジューン!ジュン!ジュン!ジュン!ジューン!」 J「あーもー、邪魔するなよ!それよりもう10時だぞ!早く寝ろ!」 雛苺はいつものようにジュンにまとわりついている。 そして真紅はベッドの上で本を読んでいる。 紅「静かになさい。雛苺。ジュン、本を持ってきてちょうだい。鏡の部屋にあるわ。」 これも何日も繰り返された、いつもの光景だ。 だがいつもの空気とは少し違った。 蒼星石が居なくなってからはずっとこの空気だ。 最初は落ち込んでいた翠星石だが、今はもう明るく振舞っている。 「もう一人で生きていける。心配しないで。」と言っているが、 皆に気を使っての振る舞いだということは目に見えてわかる。 彼女はやはり蒼星石無しでは生きていけない。 当然だ。 彼女達は庭師だ。姉の翠星石の如雨露、妹の蒼星石のハサミ、二つ揃って初めて庭師として成り立つ。 翠星石の如雨露で幾ら水をやっても、その水を回りにまとわりついた雑草が吸ってしまっては やはり花は育たない。ハサミで雑草を切ってやる必要がある。 二人で一人前なのだ。生まれつきの宿命。こればかりは努力では補えない。 J「ったく、何で俺が・・・」と言いつつ本を取りに行く。 ドアを開け、目の前の廊下を右に曲がり階段を下る。左に曲がり、廊下を直進だ。 すると玄関に翠星石が立っていた。 J「なんだ、来てたのか。」 翠「・・・きっ・・・きょ、今日も遊びに来てやったです!ちび人間が大馬鹿者だからです!感謝するです!」 こんな夜に遊びにくるのか。疑問を持つがそんな事いちいちつっこまない。一人が辛くなったのだろう。 J「そうか。真紅達は上に居るよ。お茶、持って行くから待ってろ。」 翠星石は疲れきった顔をしていた。散々悩んだのだろう。仕方がない。その事に気づかないふりをしてやる。 ジュンはリビングのドアノブに手をかけた。 翠「ち、ちょっと・・・待つ、です」 J「ん?」 翠「さっき、おじじとおばばにさよならしてきたです・・・」 翠星石は小声で言った。 J「そうか・・・・・・お前の好きなようにしろ。」 翠「・・・」 翠星石はジュンに抱きついた。 翠「蒼星石は帰ってくるですか?帰ってこなかったら・・・帰ってこなかったらぁ!!」 翠星石は泣きだした。我慢していた感情が溢れたのだろう。 翠「姉として・・・無理やり引き止めておけばよかったです!翠星石が・・・翠星石が全部悪いです!」 J「お前は悪くない。大丈夫だ。蒼星石ならちゃんとわかってくれる。そのうちひょっこり戻ってくるさ。姉のお前が信じてやらなきゃどうするんだ。」 翠星石は泣き続ける。 J「辛かったな。俺も悪かった。もういいよ。 我慢しなくていい。これはお前だけの問題じゃない。皆の問題だ。お前一人に背負わせやしない。」 翠星石の頭を撫でてやりながら言った。 翠「ジュン・・・」 翠星石は顔を耳まで真っ赤にし、涙でグチャグチャだ。 紅「そうよ、翠星石、私達は姉妹。妹の問題は皆の問題よ。」 真紅が階段から降りてきた。翠星石の声が聞こえたので降りてきたのだろう。 翠「真紅・・・」 翠星石は更にジュンに顔をうずめて泣いた。 J「よしよし、苦しかったな。もう無理するな。」 ジュンは頭を撫でてやった。 翠「うわぁ〜ん!」 翠星石はいっこうに泣く気配が無い。 翠星石の涙と鼻水がジュンの服に染みてきた。 J「・・・もう・・・いいか?」 首を横に振り翠星石は泣き続ける。 J「困ったな・・・」ジュンは真紅に苦笑した。 「たしかあの窓ね」 水銀燈はメグの病室目指して降下した。やはり空を飛ぶってきもちいい。光り輝く町の景色はとても美しい。 既に回りは真っ暗になっていた。月は出ていた。満月だ。高度は低い。高度が低い月は大きくて好きだ。 病室に近づくにつれ頭の中は薔薇水晶と雪華碕晶やメグの事でいっぱいになった。 「ここね」 水銀燈は窓に降り立った。病室は真っ暗だ。しかしいつもの事だ。彼女は明かりをつけることをしない。 銀「メグ!薔薇す・・・」 なにかおかしい。メグのベッドの辺りが、月の光を反射して艶めかしい光を放っている。本当に生々しい鈍い輝きだ。 なんだかよく分からない。目を凝らしてみてみる。 銀「ど、どうしたの・・・?」 そう言った瞬間目に映ったのは・・・文字通り「血の海」だった。 メグの体からは一本の水晶が突き出ていた。水晶は真っ赤になり、血が月の光を反射していたのだ。 銀「ぁ・・・へ?・・・」 一体何なのか、脳?内で処理するのに数秒かかった。 その光景を理解しかけた瞬間、頭の中が真っ白になった。 銀「あ・・・ぁ・・・嫌ああぁぁあぁーー!!!!」 水銀燈は絶叫した。 普通なら気を失うであろうが、不幸な事に彼女の意識は飛ばなかった。 水銀燈は狂ったように叫びながら、ついさっきまでメグであった死体へ飛んだ。 「メグ!メグ!メグ!メグーーー!メグーーー!メグーーーー!」 水銀燈は変わり果てたメグの体をゆすりながら名前を叫び続ける。もはやもとに戻るわけでもないのに。 ドレスはどんどん血まみれになり、自慢の羽はみるみる抜け落ちた。しかしそんな事には気づかない。 水銀燈はひたすら叫び続けた。狂ったように叫び続けた。 水晶ということは薔薇水晶の仕業・・・ 考えたくない。あの子がやったなんて考えたくない。いや!嫌嫌嫌嫌!!!! 違う!違うわ!あの子じゃ・・・ でも実際メグは水晶に串刺しにされて眼前に横たわっている。 彼女の心は全く現実を受け入れようとしなかった。 心が崩壊していく。 すると後ろから薔薇水晶と雪華碕晶が表れた。 雪華「ふふ、哀れね」雪華碕晶は笑った。 薔薇「水銀燈・・・」薔薇水晶は水銀燈の名を呼ぶが、そんな事彼女には聞こえない。 雪華「もうジャンクね。あら、ごめんなさい。元々ジャンクよね〜」 しばらくして水銀燈は静かになった。 雪華碕晶は水銀燈の首に、「つた」を巻きつけ、そしてそのままを持ち上げこちらに向かせた。 薔薇「水銀燈・・・・・・」 水銀燈の目は既に死んでいた。 死んだ魚のような目だ。濁っている。 銀「あら、あなたたち・・・メグはどこにいったの?ここにはいないのよぉ。雪華碕晶、あなた知らなぁい?」 一体何処を見ているのか分からない。いや、見えていない。精神は完全に崩壊してしまったようだ。 雪華「ふふっふ!はははは!あっははははっ!愚かね!愚か!やっぱりあなたは所詮ジャ」 ドス! 鈍い音が轟いた。 銀「グッ!ケハッ・・・ヒッヒック・・・ヒッ・・・」 薔薇水晶は雪華碕晶が言い切る前に水銀燈を水晶で突き刺した。 薔薇「では・・・前定より水銀燈のローザミスティカは私がいただきます」 薔薇水晶は感情が表に出ない様、単調に言った。 雪華「はぁ?」 雪華碕晶は目を剥いて薔薇水晶の方を向いた。もはや少女の美しさなどと言う物は微塵も無い。 ミシミシ・・・グシャァ・・・ 腹部から、圧し折れた。 ――――――――――――――――――――――――― 雪華「ふふふ、あなた達ってホント馬鹿。薔薇水晶。力のみが強いとは限らないのよぉ。」 雪華碕晶は瞬時に「つた」で薔薇水晶の胴を分断した。 雪華「忠告したあげたじゃないのぉ・・・偽者は引っ込んでなさいってぇ」 雪華「それにしても、本当に人間を殺しちゃうなんて・・・最低ね。ふふふ。」 雪華碕晶は水銀燈のローザミスティカを譲ると約束した代わりに、手が汚れる事は薔薇水晶に全てやらせていた。 雪華「全て計画通りです。お父様。」 「美しい。美しい・・・雪華碕晶。流石は我が最高傑作。集大成として非の打ち所が無い・・・。」 「ふっ、エンジュの・・・か。こんな玩物で私に抗する気だったのか。なめられたものです。」 と言ったのはラプラスだ。いつの間にかその場に居た。 雪華「全くです。水銀燈も・・・やはり所詮はあの程度。他のドール達も似た様なものでしょう」 ラプ「ふん」兎は鼻で笑った。 ラプ「では」 それは病院の窓枠に、ひょいっと飛んだ。フィギュアスケート選手の様に動きは機敏で華麗だ。 そして腕を高く上げ、勢いよく下に振り下ろすと、空間が裂ける。 「次の舞台へと・・・・進むといたしましょうか。」 雪華「ええ、お父様」 金糸雀はその時何かを感じた。何か大変な事が今何処かで起きたと。 何の根拠もない。ただ、背中が少しソワッと、口では表せない感じがした。 でも何故か確信がもてた。何か起きていると。 その時テレビでは緊急ニュース速報をやっていた。 時計に目をやると、針はもう10時を指していた。 何故かニュースが気になる。いつもは全く興味が沸かないはずなのだが。 「・・・今日九時40分頃、東京都○○区○×□△の○○病院で、入院していた東京都、□△在住の ○○?メグさん1?歳の遺体が発見されました。 調べによると幅数センチの水晶の様なガラス体の物体がベッドから伸び、それが少女の腹を貫通し、 大量出血により死亡したとの事です。他に目だった外傷もなく部屋もあらされた形跡も無いため、 顔見知りによる犯行として捜査が進められています。」 金糸雀・・・・ 金「へ?何!?」 水銀燈が頭に浮かんだ。何故だか分からない。 しかし確信できた。水銀燈はその病院付近に居る。カナを呼んでいると。 金糸雀はメモ用紙に、少し出かける。明日には帰るという主旨をメモし置いておいた。 そして家で「お仕事」というモノをやっている途中で寝てしまったみっちゃんに毛布をかけてやった。 金「ちょっと出かけてくるかしら」 そう言うと金糸雀は窓から外に飛びたった。 何故か病院の方向が分かる。何故だか分からない。でも水銀燈が導いてくれている気がした。 水銀燈との付き合いは、実は姉妹の仲では金糸雀が一番長かった。 水銀燈は冷酷な心を持っている。でも本当の彼女はそのんなのじゃなかった。 姉妹の中で本当の水銀燈をよく知っているのは恐らく金糸雀だけだった。 金糸雀は水銀燈が大好きだった。とても優しい姉だった。頼りがいがあり、妹思いで 二人の生活はとても幸せだった。しかしそれは長くは続かなかった。 水銀燈と金子雀、二人姉妹だった時は良かった。 確かにその時から彼女には腹が無かった。しかし、金糸雀に羽が無いように、それも一つの特徴だと 解釈していた。劣等感など感じなかった。 しかし、時が経つにつれ、翠星石、蒼星石、真紅が生まれてくると、疑問を持つようになった。 何故水銀燈だけ・・・ そして、ある日、決定的な事実を突きつけられる事になる。それは真紅の何気ない一言からだった。 紅「あなたには何故おなかが無いの?それにローザミスティカは?」 銀「ローザ・・・ミス・・・ティカ?」 紅「そうよ。ローザミスティカよ。それが無ければ薔薇乙女とは言わないわ。」 銀「・・・」 紅「金糸雀、翠星石、蒼星石皆持ってるわ」 銀「そんなの・・・私・・・持ってない・・・」 紅「え!?お父様に貰わなかったの!?」 銀「・・・」 紅「可哀想・・・。これが無いと・・・薔薇乙女とは言わないのよ。」 哀れむ真紅。 真紅に悪気は無かった。しかし水銀燈の気持ちを察するには、この時の真紅の心には幼すぎた。 水銀燈にとっては自分そのものを否定されたようなものだった。存在を否定され、この子達と同じ空間に居る事すら 間違っているような気すらした。 腹が無いのもやはりこれはただの欠陥なのか・・・ 何故・・・何故だ・・・何故無い・・・何故私にだけローザミスティカが無い・・・ ・・・ 何故私だけ真紅ごときにあんな目で見られなければならない・・・ そうだ・・・無ければ奪えばいい・・・簡単な事だ・・・奪って自分の物にすればいいだけではないか・・・ その日を境に水銀燈は忽然と姿を消した。そして姉妹の記憶からも徐々に消えていった。 しかし金糸雀は違った。 金子雀は水銀燈を探した。あらゆる所を探し回った。なかなか見つからなかった。。。しかし 見つかった頃には彼女の心はもはや死んでいた。もう昔の水銀燈の面影は微塵も無かった。 その水銀燈はひたすら真紅を恨み、真紅を殺す事しか頭に無い、まるで冷酷な悪魔のようだった。 金子雀は怖かった。大好きな姉のあんな姿を見るのは耐えられなかったのだ。 それ以降金糸雀は水銀燈を避け続けた。 が― 今は違う。彼女は私を呼んでいる。必死に私を求めている。 金糸雀は急いだ。自分の飛行速度が遅くてもどかしい。 クゥッ!こういう時に限って速く飛べないかしら! 金糸雀はそう感じた。 病院に着いた。 瞬時に病院の建物の横の小さな林の中に居る水銀燈を発見した。 金「水銀燈!待ってて!今行くかしら!」 着地し、すぐさま彼女に駆け寄った。 しかしその瞬間、金糸雀は唖然とした。 水銀燈の胸から下が無いのだ。 金「お、お姉ちゃん!!」金糸雀は反射的にそう言った。 何時間ぶりだろう。こんな呼び方したのは。少なくとも最後にこう言ったのは彼女が姿を消す前だ。 金「何故・・・こんな・・・お姉ちゃん・・・」 金糸雀の目からは涙が溢れてくる。 水銀燈にはまだ意識が残っているようだ。 銀「か・・・カナ・・・来てくれた・・・のね」水銀燈は微笑んだ。もうその笑顔は昔の物に 近かった。しかし、しかしそれはあまりにも弱弱しかった。 ・・・ 銀「泣いてるの・・・?カナ・・・」 金糸雀は正座でうつむいている。声を出しては泣いていない。 目から沢山の涙が滴り落ちている。 銀「ごめんね・・・カナ・・・今まで一度も・・・お姉ちゃん・・・らしい事・・・して・・・あげられなか・・・ったね。」 水銀燈は力を振り絞り、金糸雀の頬に触れた。 金「そんな事無い!お姉ちゃんと過ごしてカナは楽しかったかしら!本当に・・・楽しかった・・・」 銀「ごめん・・・ね・・・最後に・・・あなたの・・・顔を・・・見た・・・か・・・った・・・の」 金「私だって!本当はお姉ちゃんの顔、ずっとずっと見たかったかしら!・・・でも・・・私は・・・今まで・・・お姉ちゃんを・・・ 避けてた・・・私・・・お姉ちゃんに何も・・・出来なかった・・・」 金「わかってたのに・・・お姉ちゃんが苦しんでいる事・・・わかってたのに・・・っ・・・本当に・・・ごめんなさい・・・」 金糸雀は歯を食いしばった。自分の手を、全力で握った。指の部品がミシミシ言っている。今にも折れそうだ。 しかし今までの後悔が自分への怒りに変換されそれがそうさせる。 銀「苦労かけて・・・ごめんね・・・」 金糸雀はブンブンと首を左右に振った。 どんどん生気はが薄れていく。 金「お姉ちゃん!?お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!!!」 金子雀は声を上げて叫び、泣いた。周りに聞こえようが知った事ではない。 金「そんなぁ!どうして・・・どうして!せっかくこうやって会えたのに・・・!どうして・・・お姉ちゃん・・・」 水銀燈の胸の辺りをよく見ると水晶の破片のようなものが付着している・・・ 水晶・・・ 金子雀の脳内に直ぐに薔薇水晶の像が結ばれた。 金「薔薇・・・水・・・晶・・・」 (注)マンガを読んでないので雪華碕晶が何者なのか、どんな感じなのか全く知りません・・・orz ガサッ・・・ 翠「ひっ!何か音がしたです!」やっと翠星石が泣き止んだ頃だった。 雛「ほよ?真紅、聞こえた?」 紅「ええ、何かしら。物置の方から聞こえたわ」 翠「はああぁ!蒼星石です!蒼星石が帰ってきたですぅ!!」 翠星石は満面の笑みを浮かべて言う。 物置へ向かった。 物置部屋の戸を勢いよく開けた。 すると鏡の前にポツンと蒼星石が立っている。 翠「あはぁ!やっぱりですぅ!蒼星石ぃー!」 翠星石は駆け寄った。 翠「どれだけ心配したと思ってるですか!とんだ馬鹿妹ですぅ!」 翠星石は嬉しくてまた泣き出した。 蒼「・・・」 翠「毎日毎日心配してたですよ!この馬鹿妹!ホント、本当に・・・よく戻ってきてくれたですぅ!」 今思えば僕はいつも翠星石を困らせてばかりだったな・・・蒼星石は思った。 ドン! 翠「きゃあ!」 蒼星石は翠星石を突き飛ばした。 蒼「真紅・翠星石、僕と戦え」 単調に・無感情に言う。それは昔の水銀燈を彷彿させる。 感情を押し殺した表情だ。 翠「蒼星石ぃ!まだお前はそんな馬鹿な事を言うですかぁ〜もー!蒼星石ぃー!!」 もう泣きすぎてうまく喋れていない。 真紅「あなた・・・水銀燈に何を吹き込まれたの・・・?」 蒼「これは僕の独断だ。真紅。」 蒼は鏡の中へ入っていった。 翠「蒼星石ぃー!待ちやがれですーっ!!」 翠星石も鏡の中へ飛び込んだ。 紅「翠星石!待ちなさい!」真紅は翠星石を追った。 J「おい待て!これはきっと水銀燈の罠だ!」 雛「あー真紅ー!待ってー!」 雛苺も後に続いた。 J「クソ!」ジュンも続く。 そこは蒼星石のnのフィールドに繋がっていた。 翠「蒼星石!何処に居るですー!蒼星石ぃー!」 もうずっと翠星石は泣いている。 ・・・・ 突然蒼星石は前に現れた。 蒼「ようこそ。僕のnのフィールドへ。さあ、始めよう。アリスゲームを。真紅、翠星石・・・勝負だ。」 翠「まだそんな事ほざいてるですか!いい加減目覚ませです!」 翠星石は蒼星石の下へ駆け寄り、抱きついた。 翠「もう離さないです!絶対に離さないですー!もうジュンの所に帰るです!お前が何をどう言おうが関係ないです!帰るです!帰るといったら帰るですー!」 ジャキン! 蒼星石はハサミをふりかざした。 紅「!!!翠星石!逃げなさい!」 ごめん・・・ 蒼星石はためらう事なく振り下ろした。 ザク!! ハサミは無情にも翠星石を貫通した。 紅・雛・J「翠星石!!!」 翠「・・・・」 翠星石は何が起きたか理解できない。 しかし直ぐに気づく。 翠「あ・・・きゃぁーーーー!」 翠星石は絶叫した。 蒼星石はハサミを翠星石の体から抜き、再度突き刺した。 紅・雛・J「翠星石!!!」 翠「えはぁ!!!・・・そ、そんなぁ・・・そ・・・うせい・・・せ・・・・きぃ・・・」 J「お前ー!」ジュンは蒼星石に飛び掛った。 紅「やめなさい!ジュン!」 が、触れることも出来ずに吹き飛ばされた。 直ぐに翠星石からローザミスティカが表れた。 蒼「これが・・・ローザミスティカ・・・」 蒼星石はそれを掴み、自分の胸に近づける。するとまるで熱湯に薄い氷を入れた時のようにスッと体内に溶けていった。 直ぐに力が沸いてくるのが分かる。それと同時に翠星石の記憶も入り込んできた。 蒼星石の目は虚ろだ。 蒼「翠星石・・・」 翠星石が訴えてくる。馬鹿な真似はやめろと。 彼女の説得に挫けそうになる。。 だが、もう負けない・・・! 蒼星石は翠星石のローザミスティカの中に潜在する翠星石の魂を打ち消した。 自分の弱い心も一緒に封じ込めた。 これでもう邪魔されない・・・ 紅「あなた・・・何故?何故なの?翠星石は戦おうとしなかった。ずっとあなたの事を心配していたのよ・・・ なのに・・・どうして・・・あなたは―」真紅も泣きそうだ。 蒼「うるさい!するさいうるさいうるさい!戦う気があるのか、無いのかハッキリしろ!それ以外なにも聞きたくない!」 蒼「戦う気が無いというなら僕は君のローザミスティカを奪うのみだ!」 J「お前ぇ・・・!」ジュンは叫んだ。「いい加減に―」ジュンは再度とびかかろうとした。 紅「ジュン!」真紅は叫んだ。 紅「下がってなさい。」 J「でも!・・・」 紅「ジュン!分かってるわね。」 J「クッ!・・・」 紅「いい子ね・・・」 真紅は蒼星石の方へ歩き出した。 紅「しかたがないわ。そこまで言うのなら・・・戦いましょう。」 蒼「ふふ、そうだ。それでいいんだ。真紅ぅ・・・」 蒼星石は薄ら笑いを浮かべた。 その瞬間、蒼星石はハサミで切りかかってきた。 真紅はステッキで対抗する。 紅「っくっ!」昔とは比較にならないほど力が強い。これがローザミスティカの力なのか。 必死に対抗する真紅に対して蒼星石は無言無表情だ。 真紅はなんとか蒼星石を跳ね返すことが出来た。 すぐに真紅は右手を斜めに振り上げた。 すると辺りに大量の花びらが舞い上がった。 その美しい花びらは瞬時に針のような物に形を変え、蒼星石めがけて飛んだ。 蒼星石は顔色一つ変えず、冷静に如雨露を出すとそれを乱暴に振り上げた。 辺りに水が飛び散る。すると巨大な植物が眼前に現れ真紅のそれを防いだ。 紅「やるわね・・・」 と言った直後、その巨大な植物が吹き飛び、間から蒼星石が現れ切りかかってきた。 真紅がそれに気づいた頃にはもう遅かった。無理だ。これは防げない。 J・雛「真紅ー!!」 蒼「これで・・・終わり」 ダメだ。真紅は目をつむった。 ドス! ――――――――――――――――――――――――― 鈍い音が響く。しかし何も感じない。もう地獄についたのか。 ・・・ 何かおかしい。目を開けてみる。 するとすぐに蒼星石の姿が見えた。やはり様子がおかしい。 よく見ると蒼星石の体につたがまとわりついているのがわかった。 蒼「っくっ・・・」 蒼星石は身動きが取れないようだった。 さらに蒼星石の後ろに誰かいる。だが、暗くてよく見えない。 真紅は何が起きているのか理解できないでいた。 「ふふふっ」 蒼「き、君は・・・っ」 「久しぶり♪蒼星石。でもぉ残念だけどー、もうお別れね。」聞きなれない声だ。 ブス! 蒼星石の額から植物のツタが飛び出した。 紅「きゃあ!」 一瞬何がおきたかわからなかった。 しかしすぐに、蒼星石の額をツタが貫通したことが分かった。 紅J「蒼星石!」 紅「誰!?誰なの!?姿を現しなさい」 「あらぁ〜見えない〜?ちょっと待っててね」 蒼星石の首にツタが纏わり付いた。 グキッ・・・ 蒼「ぐはぁ・・・」 紅「!?」 蒼星石の頭はお辞儀するように圧し折れた。 蒼星石の体はピクピクと痙攣している。 まだわずかに息があるようだ。 紅「なんということをっ・・・」 雪「大丈夫よぉ死なないようにわざと急所を外してあるからぁ」 惨い・・・惨すぎる・・・。 すると暗闇から一体のドールが現れた。 紅「!!!・・・あ、あなたはっ・・・第7ドール・・・雪華碕晶」 その直後 ドス! 紅「きゃあ!」 蒼星石にまとわりついていた細いツタが真紅の両肩を貫通した。 そしてそのツタはみるみる伸びて、真紅の体にまとわり付き、自由を奪った。 J「真紅!!!」 紅「っく!」 雪「ふふふ・・・馬鹿ねぇ〜敵は蒼星石だけじゃないことをお忘れかしらぁ〜?」 真紅は雪華綺晶を睨み付けた。 雪「あらぁそんな怖い顔しないでよ。やっと会えたのだから。」 真紅はツタから逃れようとするが思うように腕に力が入らない。 雪華綺晶は真紅のアゴを掴んだ。 そして雪華綺晶はグッと真紅に顔を近づけ、ムクっと目を見開いた。 雪「実は私、真紅お姉様にずっと会いたかったのぉ。何故だかわかる〜?あ、そうだぁ♪そのまえにいいもの見せてあげる〜」 雪華綺晶は剣を出した。 明らかに真紅には見覚えがある剣だ。 紅「それはっ!」 雪「ふふふふっ嬉しそうね。そうよ。あなたのだぁーいすきな「ゴミ」の剣よぉ。屑でも道具だけはいい物使ってたみたいね〜」 紅「そ・・・っそん・・・なっ・・・!」 真紅は絶句した。 雪「ふふふ、あなたのそういう顔見てるとなんだか興奮するぅ」 雪華綺晶は微笑み、真紅の頬から唇にかけてそっと撫でた。そして指で唇に触れたあと その手を舌でそっと舐めた。 雪「さぁて、やっとあなたに会えたの。私、ずぅっと真紅お姉さまと遊びたかったのぉ。ふふ、 何して遊ぶぅ〜?そうだ!人形遊びはいかがぁ〜♪」 雪華綺晶はツタを伸ばした。 何をする気なのか・・・ ツタの伸びていく方を見る・・・ 雛苺!!! 紅「逃げなさい!!!雛苺!!!」 雛「へ!?」 雛苺はすぐに気づき、逃げ出そうとした。 雪「だぁーめよ。いまから真紅お姉さまと遊ぶの」 雪華綺晶は走り出した雛苺の首につたを巻きつけた。 雛「きゃあ!」 J「雛苺!!!」 以下、ちょっとグロ注(汗 雪華綺晶は雛苺を持ち上げこちらにもってきた。 雪「ほぉーらぁ♪」 雛「真紅ー!」 紅「雛苺!!」 雪「ふふ♪」雪華綺晶はニッコリと不気味に笑った。 紅「お願い・・・やめて・・・雛苺は関系ないわ!」 雪「関係?何の話かしら?いまからお人形さん遊びするのよぉ」 雪華綺晶は雛苺の手首を強引に掴んだ。 雛「きゃあ!」 雪「ほーらぁ♪」雪華綺晶は雛苺の腕を上下にうごかしはじめた。 雛「真紅ー!」 紅「やめなさい!雪華綺晶!」 雪「・・・」 雪華綺晶は動きを止めた。 バキッ! 雪華綺晶は何のためらいも無く雛苺の腕を引きちぎった。 まるでオモチャを壊すように。 感情のかけらも無い、冷血そのものだ。 紅J「雛苺!! 」 雛「きゃぁーーーー!!!」 雪「なんだかつまんなーい」そう言いながら・・・ ブチン、ブチン、ブチン・・・ 右手、左手、右足、左足、雪華綺晶は笑みを浮かべながら順々に引きちぎっていく。まるで花びらをちぎるように。 雛苺は絶叫した。 紅「やめてぇーーー!!!」真紅は叫んだ。 雪「これが、最後ー♪」 ブツン・・・ 雪華綺晶は微笑みながら頭をもぎ取った。 すると雪華綺晶の口が大きく裂けた。そこから体の中が見える程だ。そこに雛苺の頭を入れると大きくむしゃむしゃと噛み砕き始めた。 雪「んー?全然おいしくなぁーい」そういうとドバァっと口の中身を外に吐き出した。 もう何がなんだかわからないほどグチャグチャになっていた。 紅「・・・」真紅は言葉も出なかった。 J「・・・・・・お前ー!!」 紅「ジュン!」 真紅は体力的・精神的に力を振り絞って言った。 J「真紅!でもこんな酷いこと見てられるか!!」 ジュンは雪華綺晶に向かって走り出した。 すると、床が裂けた。 J「うわっ」 ジュンは裂けた空間にすべり落ちた。 真紅「ジュン!雪華綺晶!ジュンは人間よ!彼は本当に関係無いわ!」 ラ「安心しなさい、真紅ぅ。」 紅「!?」 この独特の、抑揚のある言い方だ。 ラプラスが雪華綺晶の後方の闇から現れた。 ラ「覚えてるかい?真紅。ローゼンメイデンは・・・人間を・・・苦しめたり・・・傷つけたりする存在では無いと・・・言ったのを」 一語一語かみしめるように言う。 紅「!?」 雪「お父様ぁ」 紅「そ・・・」 ラ「久しぶり。真紅」 ラプラスはみるみる変化していく。そしてローゼンへと姿を変えた。 紅「そっ・・・そんな・・・っ!!」 信じられなかった。頭が真っ白になった。しかし、さっきまでウサギだった男の姿は、今はまぎれもなくローゼン、 自分の中に記憶として僅かに残るお父様の姿そのものだった。 雪「ふふふ、驚いたぁ〜♪真紅ぅ」 真紅の頭は混乱した。しかし、しだいに一つの疑問が生まれた。 そう、私たちの全て、アリスゲームについてだ。何故、私たちは互いに壊しあわなければならないのか。 何故姉妹達がこんな酷い目に会わなくてはいけないのか。驚き、混乱するなか、あたまのなかはそれでいっぱいになった。 それほどこの疑問は真紅にとって強いものだったのだ。 紅「お父様・・・」 ロ「なんだ」 紅「私たちは・・・何故、何故壊し合わなければならないのでしょうか。アリスになること、それは 私たちの全てであり、お父様の望みでもあります。しかし、そのアリスになるための方法が 何故「戦い」なのでしょうか。なぜ姉妹で傷つけあわなければならないのでしょうか」 どんどん言葉が出てくる。何百年も前から考え続けていた疑問・・・その答えが今分かるかもしれない。 無意識で言葉が口から溢れ出る。 ローゼンは静かに言い出した。 ロ「真紅。私は、ドールはアリスを目指して作ったと言った。第1ドール水銀燈、第2ドール金糸雀、 第3ドール翠星石、第4ドール蒼星石、第5ドール真紅、第6ドール雛苺・・・ 多少固体ごとの違いや能力の差はあれ、全て私の傑作だった。優劣など自ら付けるつもりも無かった。 しかし、時が経つにつれ、不満が生まれ始めた。何かが足りないと。その時はそれが何なのか私には分からなかった。ただ、 漠然とした不足が君たちローゼンメイデン第1ドールから第6ドールにはあった。 私はこのまま満足することが出来なくなった。何かが足りない。そうして我慢ならなくなった私は 部屋にこもり、何が足りないのか、どうやったら完全に自分の欲求を満たしてくれる完全なドールが出来るのか、 研究を重ねつつ、第7ドールの製作に取り掛かった。 そして完成したのだ。私の全てを満たしてくれる完璧なドールが。これこそ私の技術・経験・全てを注ぎ込んだ最高傑作だった。 そして私はこの第7ドール雪華綺晶がどれほどの力を持ち、どれほど素晴らしい人形なのか、 自分で知りたくなった。自分で作ったものだがまだこの子の能力は未知数だったのだ。」 ローゼンは雪華碕晶の頭を撫でた。 真紅の頭には疑問が溢れてきた。 紅「そんな・・・でもおとうさ―」 ロ「しかし」 ローゼンは続ける。 ロ「しかしお前達も決して失敗作というわけではない。同じ様に全力で作ったドールだ。私はそれなりに自信がある。 だが私にはアリス、雪華綺晶一体がいればそれで満足だった。 そして思いついたのだ。雪華綺晶の能力を試すと同時に、お前達、過去の駄作も始末してしまおうとおもっ―」 それを聞いた瞬間、気が飛びそうになった。言葉も出ない。死刑宣告を受けたような気分だった。いやそれ以上だ。 馬鹿な。そんな馬鹿な。そんなことがあっていいのか。そんな・・・ 私たちローゼンメイデンはひたすらお父様に会うため、ただそれだけのために生き、そして争ってきた。 それが私たちの唯一の存在意義だった。私たちの全てだった。ただ、お父様の「アリスを誕生させよ」という命令に従うため・・・ ただそれだけのために、私たちは目覚め、戦い、悩み、そしてこうして何百年もそれを繰り返してきた。 それが、ただ「雪華綺晶の能力を確かめるため」だと!?そんな馬鹿な。私たちは、たかがそんな目的のため・・・そんなくだらない事のためにっ・・・ じゃあ水銀燈・・・翠星石・・・蒼星石・・・雛苺・・・彼女達の死は全く無意味の犬死にだったの? そんな・・・酷すぎる。そんなの酷すぎる。そんな・・・そんな― 真紅は絶望した。 雪「ふふふ、やっと本当の事を知ったのね。本当に愚かね。誇り高きローゼンメイデンですって?馬鹿じゃないの さぁて、蒼星石も死んだも同然、あなたもそろそろ死ぬ頃合ね。お父様、もう始末してもよろしいですか?」 ローゼンは一度コクリとうなづいた。 雪「ふふふふ・・・」 雪華綺晶の手から大量のツタがにょきにょきと伸びてきた。そして勢いよく真紅と蒼星石につきささった。 ドスッ! もはや悲鳴も出ない。 しかし、 紅「ふふふはっ」 真紅が笑いだした。 紅「ふはははははっ」 雪「ふふ、あなたも気が狂ったの?水銀燈みたいに。別にこういうの見るの嫌いじゃなぁいけど。でももう、死んでね」 ドス! 雪華綺晶はとどめをさした。するとすぐに蒼星石と真紅からローザミスティカが表れた。 雪「ふふふっ」 雪華綺晶は手を伸ばした。もう目は二つのローザミスティカに釘付けだ。 ・・・・その・・・直後・・・ 雪華綺晶は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。 雪「何!?誰なの!?」 雪華綺晶の目線の先にはバイオリンを持った小さな黄色のドールがいる。それはさっき手に入れようとしたローザミスティカを 取ろうとしていた。 雪「やめなさい!!!」 ロ「ふっ」ローゼンは小さく鼻で笑う。 雪「やめてぇー!」 雪華綺晶は叫び、直ぐに凄まじいスピードでそれを取り返しに向かった。 しかし僅かに遅かった。 ローザミスティカはその黄色のドールに吸い込まれていった。 その直後、雪華綺晶に凄まじい衝撃が加わり、さらに吹き飛ばされた。 雪「きゃあぁぁぁぁ!!!!!」 ――――――――――――――――――――――――― 雪華綺晶は壁に叩きつけられた。 壁が割れ、表面がボロボロと崩れ落ちるほどの衝撃だ。 雪華綺晶は起き上がろうとするが上手くいかない。がくりと膝をおって倒れこんだ。 だがまた直ぐに起き上がろうとする。体をミシミシと言わせながらむくむくと姿勢を立て直していった。 首の角度がおかしい。 雪華綺晶は首をパキンと言わせ、元に戻した。普通の人間が見ればそれはまるでゾンビのような動きだ。 そして金糸雀の方へと歩み寄っていく。 雪「よこどりぃ?ひどぉい」 雪華綺晶は目を見開いて言う。 金「薔薇水晶・・・」 金糸雀は雪華綺晶と薔薇水晶とを勘違いしていた。 しかし彼女にとってそんな事問題ではなかった。 今目の前に、大好きな唯一のお姉さまを殺したドールがいる。その事しか頭に無かった。 雪「返して・・・私のローザミスティカ・・・返して・・・」 雪華綺晶はこっちに向かってくる。 金「・・・」 金は雪華碕晶を睨みつけた。 雪「返しなさい!!!」 雪華綺晶は絶叫した。 その瞬間、彼女の背中から真っ黒で巨大な羽が伸び、それは巨大な龍へと形を変え、金糸雀に襲い掛かった。 金糸雀はバイオリンを鋏に持ち替え、飛び上がった。そして龍の攻撃をかわし、首を叩ききった。 雪「っく!」 その勢いのまま今度は鋏から如雨露に持ち替え水を撒き散らした。一瞬にして植物が伸び、 それは雪華綺晶に絡み付き、自由を奪った。 雪「きゃあ!っく」 雪華綺晶はもがく。金糸雀はさらに鋏に持ち替え、至近距離からそのまま植物ごと雪華綺晶をたたき切ろうとした。 雪「ふふっ」一瞬、雪華綺晶は不気味に笑った。 !!!! 雪華綺晶の手から伸びた針のように細く硬い蔓は金糸雀の両目を突き刺した。 雪「ばぁーかぁ」 グサァッ!! ・・・・ 雪華綺晶の腹は引き裂かれた。 ドサッ!金糸雀はそのまま力尽きたかのように地面に落下した。 雪華綺晶は恐る恐る腹部を見る。完全にえぐれていた。 雪「そ、そんな・・・」 雪華碕晶の体はミシミシ言って二つに分かれ、上半分が、植物がまとわり付いたまま落下、そして壊れた。 すると雪華綺晶の体から二つのローザミスティカが表れた。 ・・・・ 金糸雀は動かない・・・ ・・・・闇からローゼンが表れた。 そして彼は雪華綺晶から出たローザミスティカを取ると金糸雀の方へと向かって行った。 ローゼンは足でコツンと金糸雀の頭を小突いた。しかし彼女は動かない。全く微動だにしなかった。 ロ「ふん・・・」ローゼンはそう言うと金糸雀の頭を足で叩き潰した。 すると彼女の体から三つのローザミスティカが表れた。 ローゼンはそれを握ると、静かに歩いていった。 ローゼンメイデン・・・彼女達にとってローゼンとは「全て」であった。 天才人形師ローゼン・・・彼にとって、ローゼンメイデンとはただの「作品の一部」でしかなかった。 コッ・・・・・コッ・・・・・ コッ・・・・・コッ・・・・・ コツ・・・コツ・・・ 向こうから誰かが歩いてきた・・・ コツ、コツ・・・ ゆっくりと、ゆっくりと・・・歩き方はローゼンと、うり二つだ。 コツ、コツ・・・ 「彼」の手には見覚えのある人形が二体、抱えられている。 コツ・・・コツ・・・ コツッ・・・「彼」は金糸雀の前に立ち止まった。そしてガクリと膝をついた。 目には涙が浮かんでいた。 すると、ゆっくりと、優しく頭の無い金糸雀を抱きかかえた。 「可哀想に・・・」ただ「彼」はそう言った。 さらに「彼」は他のドール達も回収してまわった。 そしてnのフィールドを後にした。 ・・・何故か体が痺れる。何故だかわからない。 私は一体何処にいるのか。何も分からない。 しばらく暗闇の空間で彼女は放心していた。 なんだか心地よい。。。 何もしないでこうしている事は、疲れきった真紅にとってとても気持ちよかった。 と、その時真紅は、ふと思い出した。ドールたちが死んだ事・お父様に裏切られたこと・・・ しかしどうでもよい・・・私はもう死んだのだ。もうそんなことどうでもよい。 真紅は考える事を止めた。 しばらくして・・・ 真紅は何かを感じた。何かわからない。しかし何故か非常に懐かしい感じがした。 何だ・・・この感覚・・・ 急に頭に生気が吹き込まれ、夢の中から起こされた感じがした。 しだいに両手・両足・頭・・・感覚が戻っていく。 体に何か大きな力のようなものが与えられ、それが全身に行き渡り、体の各部か活動を始めたことがわかる。 もうまぶたを開けることが可能かもしれない。 しかし真紅は怖かった。一体なにがおきたのか全く分からなかったからだ。 でももうどうでも良いではないか。既に自分は死んだのだから。地獄に着いたのだろう。ふっきれた真紅は目を開けた。 まぶしい・・・ 光が真紅の目を強く刺激した。 しだいに目がなれてゆく。 眼前に一人の人間がいる。 よく見えない。 真紅はまばたきを繰り返した。しだいにピントが合ってきた。 そこには見覚えのある男が居た。金髪で、非常に背の高い男だ。 その男は言った。 ――――――――――――――――――――――――― 槐「真紅・・・私だ・・・ローゼンの弟子、槐だ。」 槐・・・確かに聞き覚えのある名だ。誰だったか・・・真紅は思い出せない。 真紅は左右を見た・・・ 紅「!??」真紅は驚いた。 右には水銀燈、金糸雀、蒼星石、翠星石が 左には雛苺、雪華綺晶、薔薇水晶がいるではないか。皆、真紅と同じ様に、かわいらしい椅子に座らせられていた。 すると槐は立ち上がった。 槐「すまなかった・・・」 いきなり槐は謝った。心からの謝罪だと言う事は見れば分かる。 槐「君たちに全てを打ち明けようと思う。・・・」槐は話し始めた。 槐「私はローゼンの唯一の弟子だ。そして唯一の実の弟だ。 兄、ローゼンは天才人形師であり、私はその兄を心から尊敬し、どんな時も服従してきた。 彼の言う事はどんな時も正しいと信じてきた。 そして同時に人形師としての技術も教わった。彼は私を一流の人形師に育て上げてくれた。 彼のお陰で今の私があると言っても過言ではない。本当に兄には感謝している。 その兄から教わった私の技術の結晶が、お前だ。薔薇水晶。お前は私の最高傑作だ。 しかしある日― 槐「兄さんどうしたんだい?」 最近落ち着きの無いローゼンに槐は尋ねた。 ロ「・・・足りない。足りないんだ。何が足りないんだ。」 ローゼンはドール達を眺めながら呟いた。 槐「ん?」 するとローゼンは思い立ったように人形の材料を一式持ち、自分の人形部屋に篭った。 槐は何なのかよく分からなかった。気になるが、兄に部屋に入ることは強く止められていたので 詳しい事は聞けなかった。でも人形を作り始めたということはわかる。 彼は製作を始めると数年間、部屋に篭りっきりになる。 さらに決まって不機嫌になる。槐はそっとしておいた。 そして― 十数年の年月が過ぎたある日、突然、ローゼンの部屋のドアが開く音が聞こえた。 槐「兄さん!」槐は急いで兄の人形部屋へと向かった。 するとローゼンは一体の人形を抱えていた。 槐「新しい人形だね?」槐が尋ねた。 ロ「ついに出来た・・・ついに出来たぞ・・・出来たのだ・・・ついに・・・できた・・・できた―」 様子がおかしい。ローゼンはニヤつき、できた、できたとひたすら繰り返した。槐は寒気を覚えた。 ロ「出来たんだ・・・槐!!!」 ローゼンは叫んだ。 ロ「今からローゼンメイデンと貴様の人形を連れて来い。いい物を見せてやろう」 悪い予感がする・・・ 槐「何をするので―」 ロ「いいから持って来い!!!」ローゼンは叫んだ。 槐は急いで取りに行った。ローゼンメイデン達は基本的にnのフィールドでドール達だけで暮らしている。 彼女達を一旦眠らせ鞄の中に入れ、そしてそれを持ってローゼンの元へ戻った。 するとローゼンはなにやらその新しいドールに話をしていた。 槐はローゼンにもう一度、何をするのかと尋ねてみた。しかしローゼンは無視した。 ロ「ふふ、ついに完成したのだ。槐、完璧なドールが。」 完璧なドール!?それを聞いた瞬間、槐は興奮した。ついにアリスが出来たのか。槐もローゼンと同じ人形師、師匠が 完璧なドールを作ったと言うのだから、嬉しくないわけがない。 槐「本当か!!一体どん―」 ロ「槐・・・」 ローゼンは槐の話を全く聞いていないようだった。 ロ「今からこのドール達に殺し合いを命じることにした。」 槐「は?」 槐は、聞き違いかと思った。 ロ「その人形をよこせ。今から殺し合いを命じる」 何だって!? わけがわからなかった。槐はドール達の入ったかばんを後ろに隠すと、すぐに言い返した。 槐「殺し合いだって!?馬鹿な!一体何をかんが―」 ロ「槐!貴様の人形と私の人形をよこすんだ。何度も言わせるな・・・さあ早く」 槐は躊躇った。ここで渡したらこの子達は・・・ ロ「槐!早くよこせ!」 そういうとローゼンは槐を突き飛ばした。 そしてドール達を鞄から起こすと、すぐに表情を変え、優しく言った。 ロ「いいかい、お前達はアリスを目指しなさい・・・アリスとは一遍の穢れも無い、完璧な少女。互いのローザミスティカを 奪い合い、アリスになるのだ。わかったね―」 そう言うとローゼンは直ぐにドール達を眠らせた。そして、野に放った。 後ろで見ているしかなかった槐は耐えられなかった。手足が震えてきた。しかし情けない事に何も出来なかった― 槐「私は止めようと思えば出来たかもしれない。しかし出来なかった。兄には逆らえなかった―」 その後槐は非常に後悔した。あの時、やろうと思えば兄を止められたかもしれない。 後ろから兄の頭を叩き割って殺す事が出来たかもしれない。 しかし、出来なかった。。。そんなこと・・・出来ない・・・ ・・・は槐は真紅達を治した。 一度分解してみると、やはり基本的な内部構造は薔薇水晶と全く同じだった。 しかし全てが違った。部品一つ一つの精度・細かい形状がまるで違う。 槐は唖然とした。研究に研究を重ねた結果だろう。ローゼンの人形は美しい。が、中身も外観に全く劣らないほど美しかった。 自分のドールも完璧に作ったつもりだった。しかし 槐はローゼンと自分の技術の差を痛感した。やはり兄は天才だ。 槐はとにかく必死で直した。それが彼女達への唯一自分が出来るせめてもの罪滅ぼしだと信じて。 槐は全てを打ち明けたあと、いきなり真紅達の前で土下座をした。 槐「すまなかった。私が・・・私が止めていれば、君たちがこんな辛い思いをする事も無かっただろう。 すまない。本当に可哀想なことをしてしまった・・・どうか・・・どうか私を許しておくれ・・・」 槐は何度も何度も謝り続けた。 薔薇「お父様!もうおやめください!もういい・・・もういいのです・・・」薔薇水晶は泣きながら言った。 真紅「そうです。あなたは、私たちをこうして生き返らせてくれた・・・私たちはあなたのことを恨んでなどいません。」 しばらく頭を下げて沈黙していた槐だが、顔を上げた。そして言った。 槐「・・・一つお前達に頼みがある・・・聞いてくれるか?― J「・・・」ジュンはベッドに座っていた。あの時からずっと放心状態だった。 正面には鏡がある。鏡の部屋から持ち込んだのだ。何日もこうして真紅達の帰りを待っていた。 ゲッソリと痩せ、元気を失っていた。 すると、急に鏡が光った。 ジュンは弾かれたように立ち上がった。 紅「真紅・・・!?」 すると鏡から雛苺が出てきた。 雛「ジューン!ジュンジューン!」雛苺はジュンに抱き着いてきた。 J「あはぁ!雛苺!!」 ジュンは笑顔を見せた。 続いて真紅が出てきた。 J「真紅!お前達!無事だったのか!」 紅「ええ。心配かけたわね」真紅は微笑んだ。 J「よかった・・・本当に・・・」ジュンはその場に泣き崩れた。 紅「本当に心配かけたわね。ごめんなさい・・・もうずっと一緒よ」 真紅はジュンの頭を撫でた。 翠「ただいまぁーですぅ!!!おじじー!おばばー!帰ってきてやったですよー!早く出迎えやがれです〜!!」 蒼「翠星石〜そんな言い方・・・」二人は満面の笑みだ。 ダダダダダダ!!!!物凄い勢いで階段を上がってくる音が聞こえる。 すると爺が表れた。驚いて言葉も出ないようだ。はっと気づくと急いで婆を呼ぶ。 爺「おお!ばあさん!ばあさんや!翠星石と蒼星石が帰ってきおったぞ!ばあさん!」 すると直ぐに婆がやってきた。 婆「あら!翠ちゃん!蒼ちゃん!」 爺と婆を見た瞬間。翠星石は涙が溢れてきた。そして走り出した。 翠「おばばぁ〜会いたかったですぅー!」 翠星石は爺と婆に抱き着いた。 蒼星石はそれを見ている。すると婆が優しく言った。 婆「おいで、蒼星石」 蒼「お婆さん・・・」蒼星石は我慢できなくなって同じ様に婆と爺に抱き着いた。 婆「よしよし、よく戻ってきてくれたねぇ」婆と爺は二人の頭を撫でた。 ・・・・ その病室は閑散としていた。 しばらく人が出入りした形跡は無い。当たり前だ。あんな事件があったのだから。 水銀燈は病室を眺めた。 後ろには雪華綺晶と薔薇水晶がいる。二人はうしろで黙って水銀燈の様子を見ていた。 銀「さて」水銀燈は言った。そして後ろに振り向くと、 銀「そろそろ新しい人間を探しましょ。」水銀燈は微笑んだ。 雪・薔薇「・・・」 雪華綺晶と薔薇水晶は何も言い出せなかった。 銀「まだそんな事気にしてるの?もういいって言ってるでしょ?私はあなた達にことを許したの。 姉の言う事が聞けないの?」 雪「でも・・・お姉さま・・・」 銀「何度も同じ事言わせないの。さっ行くわよ。」水銀燈は飛び立った。 雪「・・・お姉さま・・・」 雪「はいっ!わかりました!」雪華綺晶は笑った。始めての心からの笑みだった。 薔薇「・・・」しかし、薔薇水晶はまだ気まずそうだ。 雪「ほらぁ!薔薇水晶も!行くわよ!」 雪は薔薇水晶の手を引っ張って水銀燈の後を追った。 金「みっちゃん!」金糸雀は鏡からひょっこりあたまを出した。 み「あぁぁぁ!!!カナーーーー!!!」 金糸雀に気づいたみっちゃんは直ぐにカナの頭を引っ張って鏡から引きずり出した。 金「あ痛たたたたたたぁ!みっちゃんいきなり何するかしらー!」 み「私もよ!あいたかったぁーーーー!」みっちゃんは「いたい」と「あいたい」を聞き間違えた。 そして激しく頬ずりした。煙も出てきた。 金「ああああ熱いかしらぁ〜!!!みっちゃん!!煙が出てるかしら〜!!!!」 ・・・槐は言った。 「これからはもうアリスゲームの事は忘れて欲しい。お願いだ。今までそれが全てだった君たちには酷な話だという事は 重々承知だ。数百年の苦労を忘れろと言うのは確かに難しい話だ。しかし、忘れて欲しい。 それともう一つ。それは、 人形師の事を「お父様」と呼ぶのはお止めなさい。 人形はもともと、人形師のものではないんだ。人形師は作るだけ。そこで役目は全て終わる。それ以降に 関わるべきではないんだ。 普通、完成したら君たち人形は主に引き取られる。その主が君たちの本当の親になるんだ。 人形とは本来、主を喜ばせるものだ。持ち主を幸せにして、そこで初めて人形の本当の価値というものは生まれる。 しかし人形自体が幸せでなかったら持ち主を幸せにすることなど出来ない。 だから私は君たちに幸せになって欲しいんだ。 ローゼンは例外として、人形師は普通、何を思って人形を作っていると思う? それは、主と人形が本当に幸せそうに遊んでくれている様子だ。 我々人形師の最大の願いはそこにある。 だから君たちは仲良く平和に暮らして欲しいんだ。 そして、ミーディアムの人を幸せにしてやってくれ。わかってくれるかい?」 金糸雀は思った。 ・・・これからも真紅や雛苺、翠星石や蒼星石達にちょっかいを出しに行こう。 そして水銀燈・雪華綺晶・薔薇水晶にも会いに行こう。 たまには皆を招くのも良い。 それが 多分唯一わたしが出来る みっちゃんを 幸せにする方法なのだから。 ――――――――――――――――――――――――― 終わりです。・・・かなり疲れました^^; 終わり方は・・・どうかな?うーん微妙かな・・・ 本当はもっともっと早くに完結させる予定だったのですが、 話が浮かんだので、ここまで長引きました。 最後まで読んでいただいた方々には本当に感謝です^^ それにしても、あらためて読み直してみると、どんどん後半になるにつれ、疲れが出てきて、話が 雑になっていってる気がしますw ほんとうはもっと時間が有れば、面白い事できたかなと思いますが、学校が色々忙しく、物理的に無理でしたw あと、正直、もっと水銀燈を登場させたかったですね。薔薇水晶も。 この二つのドールが自分ではお気に入りなのですwwwwww ちなみに、これは生まれて初めて書いたお話なのですが、皆さん、読んでいると、文章的にも 内容的に変な部分(話の前後が合ってないとか・・・)がいっぱいあったと思います^^; それにしても、文章を書くことってこんなに面白い事だとは初めて知りました。 また、機会があれば書きたいと思います。 その時はもっとローゼンメイデンや小説について勉強しますね^^; ――――――――――――――――――――――――― 今頃という感じですが、 >>393さんの期待にこたえて、ローゼンのその後、書きますねw 需要無いと思うので、一瞬で終わらせます・・・ ――――――――――――――――――――――――― とうとう完成したと思った雪華碕晶だが、やはり彼女はアリスには成り得なかった。 数あるローゼンの一連の作品のなかで、「ローゼンメイデン」は 傑作の部類に入った。 しかし、自らの名前を冠したシリーズでさえ、彼の目指す「完璧」には とどかなかった。 しかし、しかしだ。究極の人形を作るためには欠かせない人工魂、ローザミスティカは 彼の手中に戻ってきた。これさえあればいつでも人形を作り続ける事が出来るのだ。 事実、彼は遥か昔からこれを繰り返してきた。 人形を作り、ローザミスティカを入れる。しかしその人形が自分が求める人形に 成り得ないと分かったらそれを壊し、ローザミスティカを抜き取り、 新しい人形の糧とする。何度も何度も大昔から繰り返してきた。 彼は作り続ける。見えないゴール、「完璧」をめざして。 深き森は迷いの森・・・ 彼の言葉だ。皮肉にも、自らが「迷いの森」に迷い込み、出れなくなって しまった事にはたして彼は気づいているだろうか。 彼は今も時空の何処かでドールを作り続けているだろう。 そして何処かの時代で彼はドール達を放つだろう。 永遠に。「完璧」を手に入れるまで。 ――――――――――――――――――――――――― あれからもうすぐ20年か。 今頃彼女達はどうしているだろうか。 ふと水銀燈は思った。 この地域は開発が進み、驚異的な発展を続けてた。 銀「汚い。なんて醜い町・・・」 水銀燈はここ最近、滅多に空を飛ぶ事は無くなった。 しかし、ふと今日は例外的に飛びたくなった。 久しぶりに真紅達と戦ったあの町へ行ってみようと思ったのだ。 しかし、人間の力とは恐ろしいもので、 もう既にあの時の面影など微塵も残っていなかった。メグが入院していた病院などもちろん無い。 水銀燈は注意深く町を観察してみた。少しは何かあるかもしれない。 鉄とガラスとコンクリートで出来た樹海の隙間を縫うように、まるで動脈の様に太くて 長い道が地上を這い回っている。 さらにそれは毛細血管のように四方八方に分岐し、その血管を、黒い排泄物を撒き散らしながら 自動車という血液が循環している。 ビルの室外機やガラスの光の反射、コンクリートの焼けるような熱さで外気は蒸しあがっている。吐き気がしそうだ。 そんな中、人間達は汗をふきだしながら、働きアリのようにセッセと歩き回っている。 空から見ると、今飛んでる所から右手に電車というものが止まっている。 無数の細菌のように増殖した人間が次々とそれに乗り込んでいく。 18世紀頃だったか。記憶は定かでないが水銀燈はこれと同じ様な状況に出会ったことがあった。 白い肌をした人間が、何処からか船で黒い肌の人間を大量に連れてきた。 その船の様子が、正に今目の前の電車の様子にそっくりだと思った。 町の「見た目」は変わっても、やはり何も変わっていなかった。 空気も汚い。 一時期「環境問題」とやらをテレビが盛んに宣伝していたのを思い出した。 しかし何も変わっていない。人間はいつも口だけだ。 銀「くだらなぁい」 気づけばどうでもいいことばかり考えていた。そろそろ戻ろう。こんな所飛んでいたら ストレスがたまってくる。 遠出しすぎたせいで辺りは暗くなり始めていた。 いや、正確には「空が暗くなり始めた」だ。地上は昼間のように明るい。 銀「うっとおしい・・・」 非常に不快な光だ。水銀燈は町の人工的な光が嫌いで仕方なかった。 騒々しい。町は視覚的にも聴覚的にも騒々しかった。明るすぎて星ひとつすら見当たらない。 そういえば、昔は星がよく見えたものだ。 広い広い畑で仰向けになると無数の星が見えた。 数千数億光年も離れてるとは到底思えず、よく空に手をかざし、星を掴もうとしてみたものだ。 星は誰にでも同じ輝きを見せてくれる。そう誰にでもだ。どんな人間・生物・物にも全く同じ、 平等な光を届けてくれた。この忌々しい地球から脱出できたような感覚になり 見ているだけで何もかもを忘れる事が出来た。何もかも・・・ 唯一、心が心底休まる時だった。私の居場所だった。 今はその安らぎの時間も人間に奪われた。イライラしてくる。 やはり空を飛ぶとストレスがたまって仕方がない。 銀「ふふっ」 急に笑えてきた。思えば暗い事ばかり考えている。まるで昔の私のようだ。 今は女性のミーディアムと暮らしている。 もちろん、まだ薔薇水晶・雪華碕晶とも一緒だ。 時々、金糸雀が遊びに来ていた。 また、真紅達も極たまにではあるが、遊びに来る。 水銀燈は顔には出さない(出していないつもり)が姉妹達が遊びに来る事が 毎回とても楽しみだった。 もうすぐ家に着く。 今頃薔薇水晶達が私の帰りを待っているだろう。急ごう。 とその時。 町の大きな時計台の、文字盤の5と6の数字の辺りが光った気がした。何だろう。 水銀燈は吸い寄せられるようにそちらへ向かっていった。 時計台は、遠くから見ると大変綺麗だが、近くから見ると薄黒く煤のようなものが付着していて 大変汚かった。 時計台にはやはりだれも居なかった。当たり前だ。こんな時間にこんな所に人間がいるわけない。 水銀燈が帰ろうとして、体の向きを変えた瞬間、あるものが視界に入った。 銀「何・・・?」 よく見ると時計台の点検扉が開いている。 銀「何かしら」 「虫の知らせ」というものを昔、メグから聞いたのを思い出した。 根拠も無いのに、何か悪い事が起こりそうだと感じる事だそうだ。 水銀燈は全くそのようなものには興味が無かったが、何故か今 不気味な予感をその扉から感じた。 中は真っ暗だった。しかし、次第に目が慣れてきた。 意外と中は広い。点検扉なので、計器類やスイッチ類が並ぶ小部屋かと思いきや、 小さな子供部屋ほどのスペースがある。 部屋の壁を棚がずらりと覆っている。長方形の部屋の端に位置する入り口から対角線上に机がある。デスクライトが付いていた。 作業台のようだ。机の上には工具などが散乱していた。 入り口から左を見ると小型冷蔵庫のような四角い装置が二機、据えられていた。 さらに入り口の右手にはカゴがたくさんあり、そこには色々な形をした物が 綺麗に並べられている。何だかよくわからない。 水銀燈はそれを手にとってみた。 銀「え・・・なによ・・・これ・・・」水銀燈は言葉を失った。 それは作りかけの人形の腕だったのである。そして部屋に置いてある装置や工具などは全て 人形作りに必要なものだったのだ。 そうだ。よく見るとここは、昔私を作ったローゼンという男が居た部屋にそっくりなのだ。 銀「そ・・・そん・・・な・・・」 また・・・またあの男が・・・ 水銀燈は怖くなった。すると バン!! 急に扉が閉まった。 銀「誰!?誰なの!?」水銀燈は叫んだ。 しかし部屋には誰も居ない。ただ、デスクライトが辺りを薄暗く照らしていた。 ?「こんにちは・・・水銀燈・・・」何処からか声が聞こえる。大変美しい声だ。 いや、よく集中してみると声を「感じる」。耳から聞こえるのではない。 銀「誰なの!?姿を現しなさい!」すこし声がうわずった。 ?「ふふ」 いきなり耳元で声が聞こえた。驚いた水銀燈は振り返ろうとするが 体が言う事を聞かない。 銀「っく、何!?誰なの!?」 すると目の前がスーッと明るくなる。 次第に輪郭が見えてきた 何かが出てきた。ドールだ。しかし水銀燈には見覚えが無い。 ?「こんにちは」そのドールは言った。 銀「っく、あなた・・・誰なの?名乗りなさい」 ロ「その子はわたしのドールだよ。水銀燈。君には第8ドール、とでも言っておけば十分だろう。」 銀「ロ、ローゼン!!!」 闇からローゼンが姿を現した。 ロ「久しぶり、水銀燈。」 淡「私はFehlerlos Rozen Maiden、第一ドール、淡雪花・・・」【(注)勝手に新キャラ作りました(汗)】 ロ「完璧な薔薇乙女・・・だ。水銀燈」 どうでもいい。水銀燈とって、ローゼンが何をしたとかドールが完璧だとか、もうそんな事どうでも良かった。 今の生活が続いてくれればそれでいいのだ。水銀燈だけでない。それはローゼンメイデン皆の願いでもあった。 銀「で、その完璧なドールさんが私に何か用なの?」 ロ「自ら蒔いた種は・・・自ら刈らねばならない。よく言いったものです。」 銀「・・・な、何が言いたいのよ」 ロ「ふん、率直に言ってやろう。私は君たちドールを処分しに来たのだよ。水銀燈。」 銀「なんですって?」 水銀燈は絶句した。またこの男は私たちをズタズタに引き裂きに来たのか。 ロ「しかしだ。普通に処分しても面白くない。そこでだ。私たちを少し楽しませては くれないかい?」 水銀燈は意味が分からなかった。 銀「はぁ?私にですって?馬鹿じゃないの?私は今の生活が楽し―」 ロ「柿崎メグ」ローゼンは遮るように言った。 ロ「という少女をご存知かな?」 銀「なんですって?」水銀燈は動揺した。 ロ「おっと、失礼。知らないわけがないか。君のミーディ―」 銀「今頃メグが何だって言うの!?彼女はもう・・・死んだ・・・」 ロ「そう、死んだ。彼女はもう死んでしまった。何故だったかな?何故彼女は 死んでしまったのか。」 銀「あれは事故よ!仕方・・・なかった・・・」 ロ「ほう・・・そうか。」 ローゼンは水銀燈の心を抉るように続ける。 ロ「しかしだ、もしも君と柿崎めぐが出会わなかったとしたら・・・」 うるさい・・・黙れ・・・ ロ「今頃どうしていただろうか。もちろん、生前から彼女の命は長くは無かった。 しかし、少なくともあそこで死ぬ事は無かった。」 銀「・・・黙りなさい・・・」 ロ「医療の発展とは目覚しいものだ。彼女の容態は快方に向かっていたと聞く。 もしかすると今も生きていたかもしれない」 銀「うるさい!うるさいわ!確かに私が悪かった!あなたの言うとおり私は彼女を死に追いやった 原因の一つよ!だから何なの!?あなたにそんな事関係ないわ」 ロ「彼女を生き返らせる事が可能だとしたら?」 銀「何ですって?」 ロ「君次第で彼女、柿崎めぐを生き返らせてやろうと言っているのだ。」 銀「そ、そんな事出来るわけ無いじゃない・・・」 ロ「錬金術というものをご存知かな?」 銀「レン キン ジュツ?」 ロ「中世から行われてきた、卑金属から金を生成する実験だ。 しかしそれらは歴史上失敗に終わったとされている。事実、それは物理的に不可能だ。しかし私は錬金術を応用して、 魂を生成する事に成功したのだよ。それがローザミスティカだ。 そして私は人間に使えるほど大きな力を持つローザミスティカの生成に成功したのだよ。」(注一部Wikipediaより) 銀「・・・」 ローゼンは床に何かを見つけた。 ロ「いい物をみせてやろう」 ローゼンは床を指差した。ネズミが一匹いる。 ロ「よーく見てるんだ。」 ローゼンは床に居たネズミを履いている靴で押さえた。徐々に力を加えながら踏んでいく。 ミシミシとネズミの骨が砕ける音が聞こえる。そしてついに骨が重圧に耐え切れなくなり、 はらわたを撒き散らして潰れた。水銀燈は顔を逸らした。 するとローゼンがしゃがみこんだ。 ネズミの死体に手を当てる。 数秒も経たない内に手を離し、シッポを持ち、ネズミを持ち上げた。 さっきの出来事が嘘のようにネズミは元気に暴れている。 水銀燈は驚いて声も出ない。 するとローゼンはその元気なネズミに再度手を当てた。 するとネズミはピクリとも動かなくなった。 ロ「もう一度言ってやろう。水銀燈、私がメグを生き返らせてやろう。」 銀「ホント・・・に?」 本当にこれでメグが生き返るのか。 だったらこれでメグに恩返しが出来るかもしれない。 これで・・・メグに・・・ ロ「ああ、本当だ。しかし交換条件がある。」 銀「・・・なによ・・・」 ロ「君なら簡単な事だ。ローゼンメイデンをジャンクにするんだ。」 銀「な、何ですって!?」