「よし、これは買いだな…」 ぼくは桜田ジュン。この薄暗い部屋で引きこもって、ネットの通販を趣味にしている。 学校には行ってない。学校は楽しいと姉ちゃんはいっていた。 でも、僕は周りのみんなみたいに楽しめるような人生は送れそうに無い。 僕の『裁縫』という趣味をバカにされてから、僕は今までの人生や世界全てに劣等感を感じていた。 気にすることは無い、僕は僕のやりたいようにすればいい。 姉ちゃんは父さんや母さんの代わりに、そう言ってくれた。 だから、外に出てみよう…とも。 僕は頭では理解しているけど、同時に何で姉の言いなりにならなきゃいけないんだ、と思った。 それでもキツい言葉で反論した後に姉ちゃんが泣きそうな声だったときは誰が悪いかハッキリとわかった。 僕はいつか変われるんだろうか。僕はどうすればいいんだろうか… なんてことを考えていたら…もう朝の4時だ。 「そろそろ寝るか」 ひきこもるようになってから独り言が増えた。こうでもしないと口が回らなくなる。 ベッドの上に散らかした通販のチラシを取り払って体を横にすると、一枚のチラシが落ちてきた。 細かい文字が幾つか書いてあって、最後に『まきますか、まきませんか』の二択になっている。 とりあえずメガネを外して、手近にあったシャーペンで『まきます』に円をつけて目を閉じた。 ――これが、自分の人生を変える選択だった。 部屋のどこかで、何かが落ちる音が聞こえる。それからゴソゴソと動き回る音だ。 「(…珍しいな)」 姉ちゃんは朝が早い。朝練か日直か…僕に気を使ってるのか、いつもはなるべく静かに出て行く。 こんなに無遠慮な音は立てない。変に気になって眠れなくなってしまった。 ガッ 何かが足に当たる。ぬるぽした覚えは無い。というか小指をぶつけて猛烈に痛い。 「ッてェ〜……何だっけこれ」 足元には豪華なつくりの鞄が転がっていた。薔薇の装飾金具の繊細さと見事さは僕でもわかった。 通販で頼んだ品のうち一つだっただろうか?と記憶を探るが、寝起きの頭では思い出せない。 とにかく今すべきだと思ったのは中身の確認だ。もし壊れてたりしようものなら面倒なことになる。 手探りで鞄を開ける。中には、とても美しいドレスと、おまけに人形だ。 時計を見る。もうすぐ朝の7時。まだ2〜3時間しか寝て無いことを理解して、うんざりした。 ドレスの作りを調べる前にトイレに行き、お茶を飲んでいると姉がビックリして降りてきた。 制服姿なのを見ると、なぜか湧き上がってくる羨ましさと惨めさで直視できない。 「あ…お、おはよう…」 気まずいのはお互い様のようだ。朝食はいるかと聞かれたので、パンを焼いてもらった。 ほとんど会話は無い。テレビから流れるニュースと家具の音だけが家の中に響く。 「…それじゃ、お姉ちゃんいってくるね」 一瞥して、ん、と単音で返事をした。姉が背を向けるのを確認してから、その姿を目で追う。 こっちを振り返ることは無い。こっちが声をかけることも無い。そこには一枚の薄い膜がある。 適当にテレビ欄で通販の時間をチェックしたあと、眠気が戻ってこないうちに部屋に戻る。 人形の良し悪しはわからないが、ドレスの作りには関心するものがあった。 まるで動くことを考慮してあるかのように仕立て上げられた人を、素直に尊敬することが出来た。 これほど立派な完全オーダーメイドのドレスを目の当たりにする機会は、そう無いだろう。 「…これ、返すの惜しいな。でも高いんだろうし」 ついでに人形の方も見ると、どうもネジを巻くとからくりが動くらしい。 その穴も見つけたので何度か巻いてそっと置いてみる。 するとどうだろう、目がひらき、立ち上がり、ビンタしてきた。 目の前が真っ白になり、理不尽さと馬鹿馬鹿しさだけが残る…どうも僕は、この現実と戦えそうにない。 助けてドラ●もん。 「これは悪い夢なのか…」 「何をぶつくさいっているの。要するにあなたは私の下僕になればいいのだわ」 「なんでだよ!」 「あなた、円をつけたじゃない…ほら、御覧なさい。見苦しい真似はやめることね」 「く…立場がどんどん悪くなってく…」 …とんだ失敗だった。過去に戻れるなら自分を殴って止めたいところだ。 ―― ここまでです。案の定割り込んでたー…ageてるし…すいません。失礼します…